約束
いい点取りきったら、何か買って!
御褒美の催促。
そのために頑張ったら…。
全ての科目の試験範囲が発表された期末考査二週間前。
この日から部活は原則休み。
六時限目が終了し、ホームルームが終われば下校となる。
各自、教室で居残りしたり、図書館や友達の家で集まったりして試験対策を始める。
真琴はというと。
ホームルームが終了するなり、
「誠人ぉ~。勉強教えて~。」
最初の科目の範囲が発表された日から毎日こんな感じで声をかけてくる。
今回の試験、相当マジなようで、いつもつるんでいる友達とは別行動。
誠人の隣に机をくっつけ、黙々と勉強しているのである。
居残りを始めて一週間が過ぎようとした頃。
おもむろに顔を上げ、
「ねぇ、誠人?」
「な~ん?」
「あんね、今度ね、ウチね、もしもいい点取りきったら、何か買ってよ!」
満面の笑顔で御褒美をねだってきたのである。
「は?」
モテない誠人は初めての展開にフリーズ。
「もしも万が一、いい点数取りきったら、何か買って!」
「え?オレ、長谷部さん喜ぶような立派なモン買えるほどお金持ってないよ?」
なんとか立ち直り、ビミョーに声を裏返らせながら、懐事情を白状すると、
「いやいやいや。あんたウチのコト、どげな目で見よるんねっちゃ?高いもん買ってっち言いよんやないんやが。なんかちょっとしたモン。そーね…たとえば百均レベルのヤツでいーき。誠人からのなんかが欲しいん。」
(どんな目で見てんの?高いもの買ってとか言ってるんじゃないよ。)
とのこと。
しかしまあ…。
こんなことキラキラの笑顔を向けられ言われてしまうと、女耐性皆無の誠人は勘違い必至なわけで。
参考までに。
一話目でも少し触れたが、真琴はかなり可愛い。
見た目はヤンキーだが、恐らく校内でもトップレベル。
そんな女子とツーショットでこんなシチュエーション。
イヤでも意識してしまい、妙に体温が上がる。頬は紅潮し、変な汗が出てくる。
それはともかく。
百均レベルであれば、期待には応えられる。
「わ、わかった。でも自分、女ん子にプレゼントやらしたコトやらないき、何買ったらいーか分からん。買うとき一緒に来てもらえたら…助かるっちゃけど。」
グダグダになりつつも、なんとかOKした。
ここで。
完全に舞い上がっている誠人は、無自覚でデートに誘っていることにすら、気付いていない。というか気付けない。
この言葉を聞いて真琴は
やった!デートやし!しかも誠人の初めてをGET!
リア充グループに属しているため、これまでにデートは何度もしたことがある。
が、恋愛対象ではない男達ばかりで、思ったよりときめかなかったというのが正直な話。
しかし、今回ばかりは意味合いが全く違う。
強く意識してしまっている男子が相手なのだ。
しかも、その本人が提案を飲んでくれて、なおかつ買い物に誘ってくれたという事実がなんとも嬉しい。
大喜びなのである。
だから、
「行く!テスト終ったら絶対ね!」
即答。
この言葉で
げっ!オレ…今、何ちゆった?
我に返る。
脳内リピートし、サーッと青ざめるものの、顔を見ると喜んでくれているから結果オーライ。
「約束!」
小指を立てて、指きりの催促。
「う…うん。」
「指切りげんまんウソついたら針千本飲~ます!指切った!」
交渉成立である。
時は過ぎ、期末考査も無事終了。
あとは夏休みを待つばかり。
そんな浮かれた気分の中、採点された答案用紙が返却される。
只今理科の時間。
誠人からおしえてもらった中でも一番自信のある教科である。
果たして結果は?
「長谷部。」
名前が呼ばれ、
「はい!」
元気な声で返事をし、先生の前へ。
答案用紙を見ながら
「お前、どげしたんか?カンニングでもしたんやねーんか?」
散々な言われよう。
前回の結果が悲惨過ぎたので、あからさまに怪しまれているのだ。
でも、
「何言いよんっちゃ!するワケないやん!ウチ、でったん頑張ったし!」
言い訳する顔は見るからに嬉しそう。
その顔を見て信じたらしく、
「ホントか?ま、いーや。」
先生は思いの外、すんなりと引き下がる。
答案用紙を受け取ると、真っ先に向かったのは自分の席ではなく誠人の席。
バーンと目の前に突き出して
「どーよ?すごい?」
点数を見ると…なんと97点!
「マジで?すっげー!」
僅かだが、誠人の点数を上回っていた。
「約束よろしく!」
「わかった。」
放課後デートが決定した瞬間だ。
その日の帰り道。
途中にあるホームセンター内の百均コーナーにて。
しばらく見てまわった後、
「これ買って!」
選んだのは、花の飾りがついたヘアピン(白とピンク二個入り)。
「わかった。」
レジでお金を払い、真琴にわたす。
「はい。」
「ありがと!頑張った甲斐があった!」
安いモノなのに大喜び。
この様子を見て、誠人も幸せな気分になる。
早速その場で開封し装着。
そして、
「似合う?」
はにかみながら視線を合わせ、感想を聞いてくる。
この表情や仕草がもう…。
見た目はモロヤンキー(金髪ロング、化粧&香水のオプション付き)のため、普段はちょいちょい威圧感を感じるのだが、今はそれが全くない。
元々きれいな顔立ちをしているから、そんな表情をされてしまうとギャップがハンパない。
その破壊力たるや…。
絡みが多くなりだした中間考査後から何度目だろう。
もうホント、笑顔を向けられるたび好きになってしまいそうなレベルである。
やべ…好きになってしまいそ。オレげなんとやら釣り合うワケないんやき、好きになっても困らせるだけなのに。
脈なんか無いと思っているから、こんなふうに思ってないと「好き」が暴走してしまいそうになる。
で、似合っているかというと。
オシャレに疎い誠人から見ても、なんかいい感じ。
だから、
「…うん。いーね。」
素直に肯定。
「やった!大事にすんね!」
さらに距離が縮まった!
互いにそう思えた。
真琴は、次の日から必ずそのヘアピンを着けてくるようになった。
花粉症が酷いです。