誠人と真琴
二年生最初の中間考査は悲惨な点数だった。
これではまずいと思い、後の席の、同じ名前の男子に勉強をおしえてもらうコトに。
二年生最初の中間考査が終わって一週間。
採点を終えた答案用紙が戻ってきはじめる。
「ねぇっちゃ!真琴!何点やった?」
「言えるか!」
先生が解説しているにもかかわらず、「真琴」と呼ばれる女子の元には数名の女子が集まり、遠慮することなくデカい声で喋っている。
再度、答案用紙を見て
「うっわ~…記号のトコしか合っちょらんき。最悪…。」
(記号のトコしか合ってないし)
絶句。
あまりにも無残な結果に絶賛落ち込み中。
遠慮無しのボリュームでの会話はなおも続く。
「ウチも似たようなもんっちゃ。なし、理科っち、こげわからんっちゃろか?」
(自分も似たようなものだし。なんで、理科って、こんなにわかんないんだろ?)
「でも、お前のがなんぼかいーやん。言葉で書かないかんトコ正解しちょーし。」
(でも、お前の方がいいじゃん。言葉で書くトコ正解してるし)
「あ~。たまたまこれだけ覚えちょったんよ。」
「それだけでもスゲーっちゃ!」
「何言いよーんかっちゃ!」
大騒ぎ。
先生から、
「こら!そこ!大概で黙らんか!ちゃんと席に戻れ!」
怒られてしまう。
「やべ。怒っちょー怒っちょー。」
(怒ってる怒ってる)
彼女たちは渋々会話を中断し、反省することもなく席に着く。
とりあえず、説明を聞いてみるものの…。
これまでずっとこんな授業態度だったため、わかるはずもない。
二年生になれば、一年生よりも具体的な受験の話しが授業の中でも出てきだす。
高校行けんかも。
不安が頭をよぎる。
このまんまやったら確実に高校行けんよね?っちゆーことは、卒業して就職?
思いつく限りの情報から、今後のことを予想してみる。
特に、これといってやりたいことがあるわけでもないし、こだわりもない。
選択肢は確実に少ないはず。
初任給は安いし、昇給の率も低い。
よっぽどなりたいものがハッキリしてない限り、就職という選択肢は考えない方がよさそうだ。
んじゃ、あと思いつくのは…結婚?
彼氏はいない。好きな人がいるわけでもない。
それこそ、全く現実味がない。
そもそも家庭に入り、子供を育てるという覚悟が無い。
ということは、やはり高校に進学するしか道は残ってなさそうだ。
どう考えても、今の状況じゃちょっとマズイよね?
ジワリと不安が湧きあがる。
同時に、後の席の男子が頭よかったコトを思い出す。
たしか、ちょいちょい実施される小テストでは、いい点数を取っていた。
教えてもらえばいーのでは?
振り返り、
「ねぇ~誠人ぉ~。何点やった?ちょー(=ちょっと)見してん?」
馴れ馴れしく声をかける。
二年生になって、初めて同じクラスになった早瀬誠人。
名前が同じ読みというコトもあり、早い段階から勝手に親近感を持っている。
「ん?」
机の上には答案用紙。
振り返りざまに点数が見えてしまった。
「げっ!自分、でたん(=超)頭いいね!なんで理科やらわかるん?」
頭いいのは知っていたが、ここまでとは!
「わかるっちワケやないけど…今回はね。自分のわかるツボに嵌っちょっただけっちゆーか…勉強したとこ、そのまんま出たし。」
「へ~。でもわかるって?」
「うん、まぁ。歴史とか英語に比べたら、なんぼかね。」
このやり取りで、さらに危機感が増す。
反射的に、
「んじゃ、期末ん時は教えちゃってん!」
(期末の時は教えてよ!)
頼んでしまっていた。
「あ…うん。」
ビミョーな返事。
ここで一つ。
実を言うと、誠人は真琴のコトがかなり苦手。
何故苦手かというと。
ワルソ(ヤンキー)だし、授業中うるさいし、カッコイイ男子グループと仲が良くて、思いっきしリア充側の人間だからだ。
そういう誠人のキャラはというと、とにかく地味。
真琴とは正反対で、クラス内でもあまり目立たない。
ガッツリ文化系なので、当然リア充グループとは話なんか合うわけもなく、自然と避けてしまう。
そんな誠人の気持ちなんか知るはずもなく、尚もガンガン話しかけてくる。
「っちゆーか、今からやっちょかんと期末も厳しいよね?」
「そやね。まぁ、やっちょくに越したことはないやろーけど。」
当たり障りのない答えで流していると、
「んじゃ、今日ヒマやき、放課後教えちゃってん!」
急展開。
はい?なんですと?
今日、教えろと?
なんだか、とんでもないことになってきた。
イヤばい!
はよ帰ってゆっくりしたいのに、なんでこげなヤツに付き合わないかんの?
カンベンしてよ。
心の中では、強く思っている。
なのに、肝心なトコロで優柔不断炸裂。
「あ…うん。」
OKしてしまっていた。
「ありがと!じゃ、放課後よろしく!」
ぱあっと嬉しそうな顔になる。
「え…と…あの…。」
断れない。
関わりたくない人間から強引に押し切られてしまい、超絶ブルーになった。
その日の放課後。
ホームルームが終わるなり、振り返り、
「わりーね。ウチやらに付き合わせて。」
(悪いね。自分なんかに付き合わせて)
開口一番、手を合わせ謝ってきた。
続けて、
「んじゃ、始めよ?」
イスを反対向けて、指示される前から教科書とノートを用意。
勉強する体勢に。
先程とは雰囲気がまるで違う。
いつもの五月蠅さが、どこにもない。
のっけから調子が狂いっ放し。
どうせアタマ悪いやろうし、話も真面目に聞かんやろ。テキトーにやっつけて、さっさと帰ろう。
最初は、そんなことを考えていた。
でも。
その表情は、今まで見たことがないほどに真剣だった。
「教科書でおさらいして、もっかい試験の問題解いてみる!」
既にどうやって進めていくかも決めていた。
中間考査の問題用紙を摘まみあげ、ピラピラしている。
ちゃんと教えないと!
考えを改め、本気モードに切り替える。
個人授業開始。
物質のなんたるかと、いくつかの約束事を教えると、急速に理解しだし、あっという間に応用できるレベルにまで到達。
まずは試験範囲の復習を教科書でやって、演習問題を解く。
最後にもう一度、中間考査の問題を解くと…なんと満点!
これには誠人も驚いた。
「なんで、こげな簡単なことがわからんやったっちゃろ?勿体ねぇよね。これなら中間100点も夢やなかったね。」
そう言って、嬉しそうに笑う。
中間100点…マジで現実味があると思えた。
「ホント勿体なかったね。」
「うん。それにしても自分、教えるのでったん(=超)上手いね。先生から教えてもらうよか、よぉわかる(よくわかる)。」
「そんなことないと思うけど…。」
「ううん。そんなことあるある。ありがと!理科、得意科目になれそうな気がしてきた。期末も頑張るきね!」
「りょーかい。それにしても、ちょっと教えただけで満点とか…長谷部さんっち頭いいんやね。」
「なんいーよーん?そげなことねぇっちゃ。ウチ、パーチクリンやもん。」
(何言ってんの?そんなことないよ。)
頬を赤くしながら少し下を向いて照れ笑い。
元々キレイな顔立ちをしているため、その仕草が滅茶苦茶可愛い。
「そげなことないよ。次はいい点とれたらいいね。」
「うん!ホントありがと!」
「どーいたしまして。」
「あ!そうそう。ウチ、サボりまくってノート書いてないき、貸してもらえん?明日までに写してゼッテー返すき。」
「あー。いーよ。はい。」
「ありがと!じゃ、バイバイ!」
元気よく礼を言うと、荷物を片付け、手を振って去って行く。
なんとも充実した放課後となった。
このあと真琴は遊びにも行かず、家に帰る。
せっかく教えてもらったっちゃき、期末で変な点取ったら誠人に申し訳ないもんね。
教えてもらい、わかるようになったことが純粋に嬉しかった。
早速、復習。
もしかして、一年の時のわからんやったところも、今なら分かるんじゃないやか?
教科書を引っ張り出し、ざっと目を通し、問題を解いてみると…やっぱし!
まあまあできた。
わからなかったトコロは、再度教科書を読む。
すぐに解決した。
なんか嬉しい!これっち、他の教科にも応用できるかも!
そんな考えにまで辿り着くことができた。
試しに、同じくらい苦手な数学を解いてみる。
すると、同じやり方でできるようになった。
わからない問題は、わかるところまであと戻って解く。
それでもダメなら、小学校の教科書まで戻る。
このやり方で、ある程度はイケるはず。
誠人の顔が浮ぶ。
今日聞かなかったら、この喜びは味わえなかった。
誠人には本当に感謝!
さてさて。
どーなりますことやら。