サプライズも何回も続いたらサプライズではなくなる~河美子さんへの誕生日ギフト~
今日、11月28日は僕のお気に入りさんでもある河美子さんの誕生日です。これは彼女に贈るギフト小説です。
サプライズも何回も続いたらサプライズではなくなる。
毎年、誕生日に色々と驚かせてくれる彼は今年どんな計画を立てているのだろう…。
朝から友達や知人からお祝いのメールが届く。
いつもなら日付が変わると同時にメールをしてくれる彼からは未だに何の連絡もない。
「きっと、また何か企んでいるのね」
そう思いながらも、心ここにあらずと言った感じでなんだか落ち着かない。
ランチタイム。
「今日はみんなでご馳走するから、街道沿いのイタリアンへ行きましょう」
同僚たちから誘われた。そのイタリアンレストランは美味しいと評判のお店なのだけれど、お値段もそれなりで、行ってみたいとは思っていたものの、なかなか尋ねる勇気が無かったところ。そこへみんなが招待してくれるという。やっぱり持つべきものは友達だわ。
レディース限定のランチコースをみんなと一緒に食べることにした。誕生日の人にはケーキのサービスがあるという。
「この誕生日ケーキが美味しいのよ」
「そう! 私たまたま誕生日の時に彼と一緒に来たらそのケーキを出してもらって。食べたらすごく美味しくて」
「だから、誕生日の人を探してはここに誘っているのよね」
同僚たちはそんな会話で盛り上がっている。なんだ…。私はケーキの付録か! とは言え、料理はとても美味しかった。これをごちそうして貰ったのだから、ケーキくらいみんなにくれてやってもいい。そう思いながら、みんなが楽しみにしているケーキが出て来るのを待った。
「えっ! なにあれ?」
なにって、みなさんお待ちかねのケーキでしょう? でも、変なの。ケーキを運んで来たのはこの店のパテシエさんなのだろうけれど、覆面なんかつけちゃって。テレビ番組かなんかのドッキリかなにかかしら?
「お誕生日おめでとうございます」
そう言ってパテシエさんの男性がワゴンに乗せて来たバースデーケーキをテーブルの真ん中に置いた。
「けっこう大きいサイズなのね。これじゃあ、一人では食べられないわね」
みんなはそう言った私の言葉など耳に入っていない様で、口をあんぐりと開けている。あら、いつものケーキとは違うのかしら。
「ねえ、どうして今日のケーキはこんなに素敵なの?」
同僚の一人がパテシエさんに尋ねた。
「それはね…」
「それは?」
同僚たちが一斉にパテシエさんに注目する。
「それは美子さんが僕の最愛の人だから」
そう言って覆面を取ったパテシエさん。
「あら!」
パテシエさんはなんと私の彼だった。それにしてもなんでこんなところに…。驚いたというより、呆れてしまった。
「なんか、反応イマイチだったね」
同僚の一人がそう言う。さてはみんなグルだったな!
「だから言ったじゃないですか。こういうの、美子さんにはウケないって」
いや、いや、そんなことはないわよ。みんなの気持ちはとても嬉しいわ。だから、さあ、このケーキをみんなで召し上がってくださいな。
とんだサプライズ…。いいえ、サプライズというよりアクシデントね。まあ、でも、それなりに嬉しかったわ。
仕事を終えて帰宅すると、部屋の前に彼が居た。
「今日はごめんね」
「どういたしまして。ケーキはとても美味しかったわよ…」
私が感想を言い終えるか終えないかのうちに彼は私の手を取って歩き出した。
「あれは、みんなからのお祝いだから、本番はこれからなんだ」
「本番って…」
彼に連れられてきたのは市民の憩いの場でもある公園。そのシンボルである大きなモミの下。
「僕からのプレゼントを受け取って」
そう言ってニヤッと笑う彼。すると、モミの木がまばゆく光り輝いた。
「まあ! 素敵」
「徹夜で飾り付けたんだ。メールできなくてごめん。気に入って貰えたかな?」
「あなたにしては上出来ね。でも、公園の木に勝手にこんなことして大丈夫なの?」
「大丈夫。役所の許可も貰っているから」
「それは大変だったわね」
「おかげで今日はもう眠くなっちゃったよ」
そう言った彼がチラッと見やった視線の先には…。
「なるほど! 結局、そういうことなのね」
ホテルの部屋からは彼が飾り付けたクリスマスツリーが見える。それを眺めてから、私は隣で寝息を立てている彼の頬に口付けをした。
美子さん、誕生日おめでとうございます。