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ある夏の日のこと

作者: J_K

ある気持ちいい夏の昼下がりの出来事だった。

私が、部屋の壁に背中をぴったりとくっつけて、ソファーに横たわっていたときのことである。

そのソファーは元々、私の大きな体を収めるには心もとないものであり、まごまごとした窮屈さにほとほと嫌気がさしてきた頃、窓の外から耳障りな音が聞こえてきた。

その音は、寝ていた私の耳の非常に近くで聞こえてくるものだったし、なにより、ヴヴヴという低い重低音で何かが羽ばたいているような音であったので、どうせ虫か何かの音だろうと気にもとめていなかった。

しかし、音は一向に消える気配がなく、流石に気持ちのいいものではなかったので、非常に億劫ながらも追い払うことにした。

普段はものぐさな私も、何をするでもなく自由な自分だけの時間を邪魔されるのは少しばかり惜しいと思ったからである。

「やい、この虫め。私のくつろぎの時間を邪魔しやがって。」

そんなふうに考えながら、ソファーから上体を起こした。

起き上がってすぐのところにある窓の網戸に手をかけて、それをパッと開けてやろうというところで、ハタと気がついた。

こんな所に蜘蛛の巣がある。

はて、開けたときには無かったはずだが、そこには小さな小さな、米粒2つ分くらいの小さな蜘蛛が巣を作っていたのである。

そしてそこには蜘蛛以外にももう一匹の虫がいた。

アブである。しかも、蜘蛛に対して何倍もの大きさのアブである。

ああ、こいつが出していた羽音かと私は納得した。あの羽音はこいつの必死の叫びだったのかと。

それならばと、私は、他にやることもなし、私のくつろぎの時間を邪魔した対価として、この二匹の行く末を見物させてもらうことにした。

なに、こちとら自由の時間を邪魔されたのだ、少しくらい見ていたって罰は当たるまい。

そんなことを考えていると、蜘蛛が奇妙な動きを始めた。

自身の前足(後ろかもしれない)を上下にクルクルと動かし始めたのである。

なにやらおかしな動きをしているな、と思ったのもつかの間、みるみるうちにアブの足がひとところに集められ、アブの体は蜘蛛の糸によって固定されてしまったのだった。

一瞬の出来事であったので、呆気にとられてしまったが、次にアブがどうでるかを見ることにした。

糸によってがんじがらめにされ、絶体絶命の状況であるアブだが、まだ生きることを諦めてはいないようであり、足がなくとも羽があるとは言わんばかりに、豪快な音をたてて羽をはためかせ始めた。

窓を開けて顔を近づけて直接見ている分、さっきよりもより迫力がある音だった。

が、そこは蜘蛛の巣。うまく出来ているもので、全く問題にしていないどころか先程よりもアブの体の自由が奪われていくのである。

懸命に動いているアブは、蜘蛛の巣はおろか、蜘蛛からも逃げることはできないのであった。

アブはそれから、何度かもがいてはいたものの、蜘蛛も負けじと足をクルクル動かして、完全にアブを固定してしまっていた。

アブは観念したのかピクリとも動かくなってしまった。

おお、アブめ。ついに諦めたか。と思い、蜘蛛の方に目を向けると、蜘蛛も動きを止めているではないか。

「ははん、蜘蛛め。お前は何といやらしく強かなやつなんだ」と、私は舌を巻くばかりであった。

一部始終を見た私は、網戸に手をかけ勢い良くスライドさせた。そして、件の蜘蛛の巣を手で振り払った。

パンパンと手を打ち払って、もう一度ソファーに横たわった。

ある気持ちのいい夏の昼下がりの出来事である。






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