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第1章 魔王様人間界へ  第1話 戦火の公国

 トルキア山脈麓のグエン平原―

 平原中に広がる怒号、叫喚、怨嗟の声…そして独特な血生臭い鉄の臭いに鼻をつく焼け焦げた肉の香り――死臭が充満し鮮血が平原を真っ赤に染め上げる。

 今日、この戦場が魔神王デヴィルロードアスモデウス降臨の舞台となる。


 トルキア山脈を国境に挟むヴェノア帝国とロマリア公国の戦い―

 戦闘開始から3日が経過し、今は戦いでは無く、ヴェノア帝国の一方的な蹂躙、殺戮の場となっていた。




 ▼

 時は魔王アスモデウス召喚から遡ること数日前――


 事の発端は領土拡大を目論むヴェノア帝国の降伏勧告にロマリア公国が応じなかった為に起こった戦争である。

 勧告に応じていればこの一方的な虐殺は行われなかったかも知れない。しかしロマリア公国の国王フィリップ4世はそれに応じる訳にはいかなかった。

 何故ならばヴェノア帝国は獣人、オーガ、オーク、コボルト、ゴブリン等非人間種の亜人を主体とする連合国家であり、帝国内での人間種は強大な魔力、戦闘能力のある者以外は奴隷のような扱いを受ける事になるからであった。

 ロマリア公国は人間が主体であり非人間種は全体の1%以下、帝国から逃げてきた難民のエルフやドワーフ、妖精フェアリー族達や召喚された魔族や怪物モンスターしか居ないのである。

 つまりは敗北すれば一部の人間以外は「家畜同然の扱いを受ける事」になるのである。それだけは絶対に許されなかった。



 過去にも帝国の侵攻は何度もあった。だが、帝国が公国に侵攻する際にはトルキア山脈を越える必要がある。しかし軍隊が十分な道も無く、険しいトルキア山脈を越えて進行して来る事は出来無かった。

 何故ならばトルキア山脈は北のアルガルズ大陸最大の山脈にして標高は最大1万2千メートルの高さを誇り、山脈に生息するモンスターの数は十万を軽く超えると言われている。

 中には狂暴な飛竜種(ワイバーン)竜種(ドラゴン)、そして山頂付近には竜王(ドラゴンロード)が居るという伝説が言い伝えられていたからでもある。

 その為、軍隊が山脈を通って侵攻する事は不可能と言われているのだ。

 唯一、通行できるのは標高300メートルほどの位置にある両脇が断崖絶壁の「ウルラ関」のみ。

 幅は狭く最大で50メートル程しか無く、その断崖の高さは最低でも1,000メートルはあるので上から侵入する事は不可能であった。例えグリフォンや飛竜ワイバーンを使ったとしてもウルラ関の上空は山岳波により非常に強い乱気流が発生している為、飛竜ワイバーン等を使って上空から進撃する事も不可能なのである。上位の飛竜種(ワイバーン)竜種(ドラゴン)であれば飛行可能だが、常識としてまず人がそれらを飼いならす事は出来ない。

 その地にロマリア公国は堅牢な要塞を建造し、帝国の侵攻を何度も防いで来た。故に進軍する帝国軍にとってはこのウルラ要塞が最大の難所となっていたのであった。

 しかし今回、難攻不落のウルラ要塞が突破されてしまった。

 今まで何度も帝国の進行を防いできた難攻不落と言われた要塞が1日も持たなかったのである。

 確かに今回の帝国の兵力は今までとは桁が違う12万の大軍…しかし幅が狭く、空から攻める事が出来ないウルラ要塞は簡単に落とす事が出来ない筈であった。まして1日も持たなかったなどあり得ない事だったのだ…


 原因は今回、要塞防衛にあたっていた将軍が帝国内での同等の地位を約束された事で直属の部隊と画策し、ウルラ要塞攻防戦の最中に門を内側より開けてしまった事であった。


 一度開けられた門は閉じる事無く、帝国軍の侵入を許すとそのまま大軍がなだれ込んだ。――そしてウルラ要塞の防衛隊総数一万五千の将兵は為す術も無く皆殺しにされたのである。…そう皆殺し(・・・)

 ――「裏切り者の上に無能な人間は帝国に必要ない」という理由で裏切った将軍とその直属の部下達もその場で処刑されてしまったのだ。

 相手は凶暴で残忍な帝国の亜人種、蛮族なのだ。約束など守る筈など無かった。


 今までの防衛にあたっていた責任者はその事が理解出来ていたので誘いに乗る事など無かったのだが、(将軍)は浅はかだったようだ…まさに自業自得としか言いようが無い。


 ウルラ関攻防戦での帝国軍の損害は1万弱。1万といえば多く感じるが、それでもまだ11万もいるのだ。


 そして帝国軍はトルキア山脈を越え、グエン平原に布陣した。グエン平原に迎撃にあたったロマリア公国軍将兵は正規兵3万と平民4万の計7万。

 ここで食い止めなければ80万の国民のほぼ全てが虐殺、蹂躙され、例え生き残ったとしても奴隷のように扱われるのだ。そしてここを抜かれたら王都アルアスの防衛にあたる正規兵は残り2万しか居ない――だからこそ絶対にここで負けるわけにはいかなかった。




 ▼

 グエン平原で対峙するロマリア公国軍7万とヴェノア帝国軍11万――



 先ずは公国軍の白馬に跨り銀色に輝く豪華な意匠を凝らした全身鎧フルプレートを身に纏った司令官と思しき屈強そうな老人が先頭に立ち演説を始めた――

「よく聞け、勇敢なるロマリア公国の戦士達よ!我らはここで死ぬ事になるだろう。だが無駄死には許さん!!ここで食い止めなければ国が終わる…蛮族に祖国の蹂躙を許すわけにはいかんのだ!国の為、陛下の為、家族や友、愛する者達の為に絶対に負けるわけにはいかない!――ロマリアの勇者達よ、守るべき者の為にここで死ねい!!!」

 ロマリア公国軍を統べる総司令官にして大将軍ドミトリ・ブルス・ザウエルは声高に叫び、将兵を奮い立たせ、鼓舞する。

 沈黙が流れる………そして―――

「うぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」

 軍勢が鬨の声を上げ、士気は最高潮に達した。

「全軍、突撃いいぃぃぃ!!!」

 大将軍ドミトリの声と共にロマリア公国軍は整然と陣形を組み、突撃を開始した――




 対して帝国軍にとって戦争は版図拡大以外にも目的があった。

 弱者、人間を蹂躙する…本能の赴くままに奪い、犯し、殺す――只、自らの快楽の為に…その行為が帝国軍の将兵には楽しくてしょうがないのだ。

 負ける訳にはいかないのでは無く、戦争を楽しむのみ。

 兵士を殺せば民間人、特に女、子供を蹂躙する楽しみが待っている。だから目の前の障害を早く殺して楽しみたい――それだけで血が沸騰し興奮してくる…故に難しい演説で鼓舞する必要など無かった。


 ヴェノア帝国、第3軍の大将軍であり今回の戦争における総司令官の竜人族ドラゴニュートグアルドは帝国兵達に向け、こう告げた。

「さあ、目の前のゴミ共を始末したらお楽しみの始まりだぞ!!殺して、犯して、奪い尽くせ!!」

 沈黙も無く、直後に

「ォォォォォオオオオオオ!!!」

 獣達の咆哮が平原に響き渡る。

「突撃!!!」

 そして血に飢えた獣の群れ(帝国軍)が進軍を開始した…そしてロマリア公国の運命をかけた戦争が今、始まる―


平成28年2月9日一部改善しました。

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