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第14話 いざ王都へ!

 グエン平原に対峙する小さな魔人アスモと巨大な竜種パイロヒドラ


「グルルルルルルル」

 パイロヒドラはゆっくりとアスモに近づいてくる。

「どうした?早う来るがよい!」

 そう言い放ちアスモは高位魔法の二重合成魔法ダブル・マジックを発動する為に右手に風属性、左手に土属性魔法を発動させる。

「行くぞ。二重合成魔法ダブル・マジック破砕嵐撃波グラヴァル・ストーム」!  ―っ!」

 魔法を発動しよとした瞬間、パイロヒドラの行動に違和感を感じたアスモは咄嗟に発動した魔法の向きを変えた―


破砕嵐撃波グラヴァル・ストーム」はパイロヒドラを掠め凄まじい勢いで大地を抉り、砂塵を吹き飛ばす。



 ▼

「何故攻撃してこないのじゃ貴様?」

 アスモは訝しげにパイロヒドラを見る。

「グルルルルルルル」

 パイロヒドラはその場から動かずアスモをじっと見つめている。攻撃の意思も無く、どう見ても敵意は全く無いと思われる。

「まさかとは思うが‥ ―おい、こっちへ来い。」

 アスモがパイロヒドラに向かって手を招く。

「グルルルルルルルル」

 パイロヒドラがアスモに近づきアスモに3つの頭を近づけた―


「危ない!逃げろ!」

 そう叫び、短剣を抜いたゼフォンがパイロヒドラに向かって突撃する。

「キシャアアアアアアァァァァ!!!」

 パイロヒドラがゼフォンを睨み迎撃体制を取る。


「止めんか!!」

 アスモが大声で制止する。

 ピタリとパイロヒドラが即座に動きを止める。その様子を見てゼフォンも突撃を解除し、歩いてアスモに近づく。

「これは一体、どういう事だ?」

 ゼフォンはこの状況を理解する事が出来ない。何故2人より圧倒的な戦闘能力を誇るパイロヒドラがアスモの命令に従っているのか。不思議で仕方がないのだ。

「妾の考えてることが正しければじゃが、多分こ奴は妾の従僕ペットになりたいようなのじゃ。」


「は?従僕ペットだと。ありえないだろ、俺たちより遥かにレベルが上だぞ!」


「確かに信じられんじゃろうが、たぶん間違いでは無い。では主殿ぬしどのよちょっと見ておいてくれ。おい、こっちへ来い。」

 アスモがパイロヒドラを呼ぶ。

「グルルルルルルルル」

 パイロヒドラはその言葉に従う様に3つの頭をアスモに近づける。

「危な―」

「問題ない!」

 ゼフォンの制止をアスモが即座に遮る。そしてパイロヒドラは近づけた頭をお辞儀をするように器用に下げ服従のポーズをとる。

「よしよし。貴様は妾に服従を誓うと言う事で構わぬな?」

 パイロヒドラの喉元をなでる。

「グルルルルルルルル」

 先程から唸っているこの声は威嚇などでは無く、主人に対する服従を表すために猫のように喉をゴロゴロと鳴らしているだけだった。器用な事だ。


 その光景をゼフォンはいまだに理解できず呆然と見ている。


「な?主殿ぬしどの。間違いでは無かったであろう?」


「…しかし何故だ?魔神王デヴィルロードであったお前にならわかるが今のお前は明らかにコイツより格下だろ。従う理由が分からないぞ。」


「それはこ奴がこの状態でも妾が魔神王デヴィルロードであると理解しているからじゃ。今考えれば先程のアジ・ダハーカとの戦いの時から妾に対して同じような目をしとったからな。既に妾に服従を誓っておったのじゃ。」

 アスモがパイロヒドラの喉元をなでながら説明する。パロヒドラは相変わらずゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らす。

「さてと、おい貴様。今日から貴様を人間界での妾の従僕ペットにしてやろう。ありがたく光栄に思うのじゃ。」


「ギャウ!」

 パイロヒドラが器用に返事をする。どうやら承知したようだ。

「では、契約を結ぶか。傷口を見せよ。」

 パイロヒドラがアスモに向かってぶくぶくと泡を立てて再生中の胴体の傷口を見せる。

完全なる治癒パーフェクト・リカバリー!」

 傷口に手を当て高位回復魔法を発動させた。パイロヒドラの傷が一瞬にして回復した。そして―


 シュ!


 アスモが爪で指に傷をつけ、パイロヒドラの体に向けて血を数滴たらす。すると血のかかった位置からパイロヒドラの体に魔法刻印ルーンの様な文字が広がって消えた―

「これで主従の契約は成立じゃ。妾に永遠の忠誠を誓えよ。」


「ギャウ♪グルルルルルル」

 パイロヒドラは嬉しそうに鳴き、喉を鳴らす。


「おい、ちょっと待て。何でレベル差が26もあるのに契約できるんだ?確か召喚獣はミューテーションを除けば使役できるのはレベル+15までじゃなかったのか?」


「それはあくまで召喚獣の事だけで主従の誓いは当人の意思によって血の契約を結ぶ事で成立される。こ奴が完全服従を妾に誓ったから成立したと言う事じゃ。まあ他にも魂の契約とかもあるしな。これは一人だけしか・・・・・・結んでおらんが。」


「そんな事が出来るのか?聞いた事も無いな。」


「まあ、普通は自分よりも弱い相手に服従しようなど誰も思わんからな。竜種ドラゴンなんかは特にプライドが高いからのう。こ奴は妾の正体を知っておるからこそ服従したと言う訳じゃ。」


「確かに。お前の正体を知っていたら誰も仕掛けようとは思わないな。‥でもお前の今の状態を知っていて従ってるわけか?大した忠誠心だな。」


「いや。こ奴は多分知らん筈じゃ。」


「何?じゃあコイツにお前の今の状態がばれたら大変な事になるんじゃないのか?」


「それも心配ない。もう契約は済んだ。妾の血で契約の魔法刻印ルーンを刻んだからな。妾の許可が無い限り解消は出来ん。妾の命令には絶対服従じゃ。それにしても呼び名がこ奴とかコイツではいかんのう。名前を付けてやるか。」

 アスモは少し考えポンッと手を叩いた。どうやらいい名前が浮かんだようだ。

「よし!お前の名前は今日から「ポチ」じゃ!良いな。」


 コイツ、俺が名前を考えた時は犬猫の名前ではないとかネーミングセンスが無いとか言ったくせに「ポチ」って…どう考えても犬の名前じゃないか。ネーミングセンスの欠片も無いぞ。とゼフォンは思ったが先程の話をぶり返されてもいけないと思ったので心の中で文句を言った。

 しかし、当のパイロヒドラも流石に嫌がるんじゃ…


「ギュア♪ギュア♪」

 パイロヒドラ改め「ポチ」は嬉しそうにはしゃいでいる。

「そうかそうか気に入ったか。流石は妾じゃ良い名を付けてやったものじゃ♪」」

 アスモが自慢げに頷く。


「…マジか。気に入りやがった。」

 ゼフォンは絶句した。



 ▼

「それでは主殿ぬしどの主殿ぬしどのの自宅のある公国の街に行こうではないか。」


「ああ。そうだな。いつまでもここに居る訳にはいかないな。お前の事も含めて今回の件は誰にも話す事は出来ない。なんせ問題が大きすぎるからな。平原を覆っている砂塵が晴れたら確実に目立つから早く移動しなくては」

 ゼフォンが急かす様に移動を薦める。

「あっそうじゃ!」

 アスモは何かを思い出したようだ。

「やり残しておった事をすっかり忘れておった。その前に主殿ぬしどのよおぬしの剣は見つからなかったのか?その短剣は元々腰に所持していたものじゃろ?」


「…探していた時気付いたが、お前が辺り一面吹き飛ばして全て塵に変えたのを忘れていた。折角、手に入れた銀魔鋼ミスリル製の剣だったんだがな。まあ仕方がない。命には代えられん。」


 銀魔鋼ミスリル

 鉄や鋼を凌ぐ強度を持ち、質量も鉄や鋼より軽い希少金属レアメタルである。


「そうか。それは済まんかったの。では新しい剣を用意せねばな。」


「もしかして「魔装」って奴の応用で武器を作る気か?しかし、今のお前ではその服ぐらいしか作れないって言ってなかったか?」


「その通り「魔装」の応用で主殿ぬしどのの武器を今から作る。質問の答えじゃが、確かに今の・・妾は武器や防具を魔力だけで作り出すことは不可能じゃ。但し、触媒があれば別じゃ。ポチよ。お前の鱗を数枚くれんか?」


「ギュオ!」

 アスモの言葉に従い、ポチが即座に数枚の鱗を器用に口で剥がし、アスモの足元に置いた。

「ではやるか。「魔装創作エレメンタルギア・クリエイト」!」


 アスモの手から魔力の塊が発生し、足元の竜燐が空中に浮き上がり魔力の塊と融合していく―

 空中で混ざり合った黒い塊が徐々に剣の形になって行く。そしてカッと光った後ゆっくりとアスモの手元まで下りてきた。アスモは片手でそれを掴み、指で刀身に魔法刻印ルーンを刻んでいく。

 そしてゼフォンに手渡した。

「どうじゃ。良い出来であろう?主殿ぬしどのの記憶で見た大剣と同じ様なデザインにしておいた。但し強度は銀魔鋼ミスリル如きとは比べものにならんぞ。なんせ妾の魔力とポチの竜燐を使っておるからの。しかも前の剣より軽量化されておる。おまけに魔法刻印ルーンも刻んでおいた。今の魔力では使えんが上達すればその剣の特性も使用できるようになるのじゃ。使い方は魔力の腕が上達した時に教えてやろう。凄いじゃろ?感謝するとよい。」


 ゼフォンは剣を手に取りその場で素振りをする。剣により発生した風圧が周りの砂塵を吹き飛ばす。


 確かに軽い、だが以前の剣よりも遥かに上質なのが分かる。飛竜種ワイバーンではなく竜種ドラゴンの鱗。普通なら竜燐の剣なんて加工も難しく希少で高価な物なのだ。

 王族や上級貴族ならば手に入れる事は出来るかもしれない。それぐらいの品である。絶対に自分には手が出せない代物だ。

 しかも魔力の通っていた状態の新鮮な竜燐で作られた剣は非常に希少なのだ。その上、魔法刻印ルーンまで刻んである。アスモの言う様に何かしらの特殊効果があるのだろう。

 これは間違いなく物語の英雄が使うような伝説級レジェンダリーの武器だと言っても過言ではない。

 こんな剣が俺の物に―


「で、主殿ぬしどのよ銘はどうする?」


「銘?」


「そうじゃ。その剣に名前を付けんとな。名前と言うのは付けるだけで魔力を与える事が出来る。良い名を決めて妾が剣に名を刻んでやろう。」


 名前か。確かにこの伝説級レジェンダリーの武器には名前を付ける必要があるな。どうしようか?

 あっいかん。ゼフォンは危険を察知した―


「何なら妾が銘を―」

「俺が付ける!!」

 ゼフォンがアスモの提案を遮った。

「何じゃ主殿ぬしどのが付けるのか?しかし主殿ぬしどののネーミングセンスではどうかと思うがな。」


 お前にだけは言われたくない。心の中でゼフォンが突っ込む。


「いや、お前が俺の為に作ってくれた素晴らしい剣だから名前を俺が決めてお互いの信頼の証としてこの最高の剣を大事にしたいなと思ってな。」


「そうかそうか♪主殿ぬしどのめ、なかなか愛い奴じゃのう♪」

 ゼフォンの口から出まかせにアスモは嬉しそうに反応した。その様子を見てゼフォンはほっとした。


「名前か、これだけの剣だ恥じぬ名を付けないといけないな…」

 ゼフォンは少し考え思いついた。ある伝説の物語の英雄の名を―


「決めた!この剣の名はベオウルフにする。」


「ベオウルフ?変わった名じゃな。何か意味がある名前なのか?」


「ああ。この名前は大昔の伝説なのだが―」

 ゼフォンはアスモに説明した。


 ベオウルフ―

 北の大陸アルガルズで語り継がれる男の子ならば一度は聞いた事がある英雄譚である。

 今から2000年以上前、地獄から現れた巨人ティターンの脅威に怯えていた北の国の人々を救った男が居た。その男は魔力は大して使えないが人知を超えた膂力と大きな大剣を持ってたった一人で巨人ティターンを一刀両断のもとに叩き伏せ、人々を救った。その英雄の名がベオウルフなのだ。


 ゼフォンもこの話を聞いて子供心に夢を膨らませた。何故ならばその英雄譚は魔力は大して使えないが力さえあれば巨人ティターンをも倒す事が出来る。そんな物語だった。その話に「持たざる者」であった彼は幼少時とは言え確実に救われたのだ。ベオウルフはゼフォンにとってずっと憧れてきた英雄であった。


巨人ティターンを一刀両断ね‥そんなにすごい事なのか?妾なら巨人ティターンどころかへカトンケイルでも一撃で倒せるぞ。しかも素手でいけるぞ。」

 お前と一緒にするなとゼフォンは心の中で叫んだ。


「では剣の銘は「巨人殺しの剣 ベオウルフ」で良いな?」


「ああ。それで良い。」

 ゼフォンはゆっくりと頷いた。

「では剣に銘を刻もう。」

 アスモが剣の刀身に名前の魔力刻印ルーンを刻んだ。その直後、剣が輝きを増した。

「これで完成じゃ。これよりこの剣の銘は「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」となった。良かったの主殿ぬしどの。」

 アスモは「巨人の殺しの剣(ベオウルフ)」をゼフォンに手渡した。

「ありがとう!本当に感謝する!」

 ゼフォンは興奮しながらアスモに礼をする。本当に嬉しそうだ。

「そうか。気に入ってくれて良かったの。主殿ぬしどのにはもう一つプレゼントをやろう。少し待っておれ。」


「もう一つ?」


「そうじゃ。さてと「強欲の鎧(ケイオス・グリード)」よ、この地に迷いし魂を喰らえ!「魂喰いソウル・イーター!」」

 アスモはそう叫び左手の漆黒の珠を天に掲げる―


 漆黒の珠からギョロリと一つの大きな目が浮き上がり、その眼から光りの輪が発生し、その光はグエン平原どころかトルキア山脈まで広がって消えた。そして―


 光りの輪が通り過ぎた場所から凄まじい数の小さな赤い光の珠の様なものが浮き上がってきた。そしてその全てが漆黒の珠に吸い込まれていく。その数は数千どころではない確実に万を軽く超えている。


 ゼフォンはこの光景に驚愕した。そして薄々気づいていた。この小さな赤い珠は今回の戦争で死んだ者やアスモが吹き飛ばしたグエン山脈の怪物モンスター達の「魂」だと。


 ▼

 漆黒の珠「強欲の鎧(ケイオス・グリード)」に全ての魂が吸い込まれた。

「ふむ、軽く15万近くはあるな。質は悪くとも数が多い。良いが出来そうじゃ♪そうじゃ、主殿ぬしどのよもう一つのプレゼントじゃ。どの職能スキルが欲しい?」

 アスモが漆黒の珠をゼフォンに近づけそう言った。

「…何だって?職能スキル?」

 アスモの不可解な質問に首をかしげる。

「何じゃ。もう忘れたのか?主殿ぬしどのは妾の職能スキル簒奪者ユーサーペイション」が使えるじゃろ。まだ何もストックしていない状況じゃ。何も無いよりはストックしておいたほうが良いじゃろ?ストックした所で気に入った職能スキルが手に入ればいつでも交換出来るしな。魔力さえあれば覚えられる一般的なものより固有職能レアスキルを薦めておく。となると…おっ!あったぞ「再生者リジェネーター」があるぞ。これでどうじゃ?」


「「再生者リジェネーター」?たしか自動回復能力がある職能スキルだったな。だが「高位魔導師ハイウィザード」とか「鑑定士アプレイザー」とかのほうが良くないか?こっちの方が有用だろ?」


「何を言っておる主殿ぬしどのよ。「高位魔導師ハイウィザード」、「鑑定士アプレイザー」などの一般的な職能スキルは魔力の使い方さえ覚えればすぐに習得可能じゃ。妾と魔法も共有しているのを忘れたのか?」


「そういえば魔力不足で使用できないがリストには確かにあったな。本当に魔力の使い方さえ上達すれば「高位魔導師ハイウィザード」、「鑑定士アプレイザー」は習得できるんだな?」


「そういう事じゃ。じゃから固有職能レアスキルである「再生者リジェネーター」を薦めておく。技能アビリティレベルさえ上がれば人間でも獣人や竜種ドラゴン以上の再生能力を手に入れる事が出来るのじゃ。剣での戦闘がメインの主殿ぬしどのにはピッタリじゃと思うが。」


「そうだな。確かに俺の戦法は剣による接近戦しか出来ないしな。しかし…」

 ゼフォンは悩んでいるようだ。

「しかしとは何じゃ?「再生者リジェネーター」は気に入らんのか?」


「いや違うんだ。‥犠牲者の魂を利用すると言うのがどうかと思ってな。」


「何を言っておる。そんな甘い事を言っておっては強くなる事も出来ない上、主殿ぬしどのにとっての大切なものも守れなくなるぞ。それにこの「再生者リジェネーター」は帝国兵の職能スキルじゃぞ。」


「ゼフォンにとって大切なもの」その言葉には弱い。確かに大事な家族の為なら己の倫理観など気にしている必要は無い。しかも帝国兵・・・職能スキルを奪うだけだ。

 ゼフォンはそう心に言い聞かせた。


「わかった。では「再生者リジェネーター」を希望したい。でどうやればいいのだ?」

 ゼフォンは覚悟を決めてアスモに質問する。

「うむ。了解した。簡単な事じゃ「簒奪者ユーサーペイション」を発動させて希望する能力を奪う事を念じればよい。魂はここにあるのじゃ。ただ心に念じれば勝手に取得してくれるはずじゃ。」


「わかった。やってみる。」

 ゼフォンは心の中で念じる。

簒奪者ユーサーペイション」よ。「再生者リジェネーター」の職能スキルを奪い俺の力に―


 漆黒の珠から魂が一つ出て来てゼフォンの体に入って行く。


 ドクン


 ゼフォンの全身に熱が伝わる―

 即座に能力ステータスを確認した。そこには確かに「再生者リジェネーター技能アビリティLV1と刻まれていた。


「問題無く取得した様じゃな。ではこちらもを作っておくか「強欲の鎧(ケイオス・グリード)」よ魔石を生成せよ。」

 漆黒の珠が光りだし蠢き出した。そして数分後漆黒の珠からパッカッと口が開き舌が出てきた。その舌の上には妖しい光を放つ直径5センチ程はある真紅の宝石のような石があった―


「何だ‥それは?もしかしてさっき集めた魂を使ったのか?」


「そうじゃ。これは「魂の魔石ソウルストーン」じゃ。しかも雑魚とは言え15万以上の魂が凝縮された極上品じゃ。普通の物とは輝きが違うじゃろ?」

 右手で掴んだ宝石を観察し笑いながらとんでも無い事をサラリと言う。ゼフォンは少し顔を引きつらせた。

 アスモにとっては当たり前、しかしゼフォンにとっては信じられない光景なのだ。

「さてと、あーん」

 アスモは「魂の魔石ソウルストーン」をゴクリと飲み込んだ。

「っ!おい何をしている!」


「何って腹の中に保管しておくのじゃ。ここなら盗まれる事もあるまい。なんせ切り札・・・に使える貴重品じゃからな。ここなら絶対に大丈夫じゃ。」

 ポンッとお腹を叩き自慢げに笑っている。

「そ、そうか…本当に大丈夫なんだな?」

 ゼフォンが心配そうにアスモを見ている。

「大丈夫じゃと言っておろう。別に消化したりせんから心配するでない。まあ吐き出す時が少し面倒じゃがな♪」

 そう言って無邪気に笑うアスモを見てゼフォンは納得するしかなかった。

「そうじゃ。いつまでもこの状態では邪魔になるな。「強欲の鎧(ケイオス・グリード)」よ腕輪になり妾の左手へ。」

 その言葉と同時に漆黒の珠が形を変えアスモの左手に漆黒の腕輪として収まる。

「あまり目立つといかんと言うから豪華な意匠はやめてシンプルにしておいたぞ。主殿ぬしどのよこれで良いな?」


「ああ。そうだなあまり目立ちすぎるのはいけないからな。それにしても便利な魔神器だ。」

 ゼフォンは感心している。

「良いじゃろ♪親友ともからの大事な贈り物じゃからな♪」

 アスモが満面の笑みで自慢する―



 ▼

「これでやり残していた事は全て終わったな。」

 ゼフォンがアスモに聞く。

「うむ。妾の用事は終わったぞ。では人間界の街まで行こうかの♪」

 アスモは楽しそうにはしゃいでいる。

「ああ。じゃあ行くぞ。砂塵が平原を覆っている今なら素早く行動すれば目立つ事無く移動できるだろう。こっちだ行くぞ。」


「わかったのじゃ。行くぞポチ!」


「ギャウ!」

 アスモの呼びかけに応じ、ポチが追従する―

「ちょ、ちょっと、待てーい!!!」

 ゼフォンが慌てて制止する。

「そんなに慌てて、どうした主殿ぬしどの?忘れ物か?」

 アスモが何事かと首をかしげる。

「阿保かお前は。その竜種ドラゴンは絶対に連れて行く訳には行かないぞ。」


「何故じゃ?」

 ゼフォンの言葉にアスモは納得いかないようだ。

「そいつは今回の戦争で公国兵を殺している。しかも百や千では聞かない数をな。正直、今そいつが王都で暴れたら王都が滅ぶ。」


「それならば問題ない。妾の命令を従順に聞くからそのような事はさせぬ。」


「そういう事ではない。帝国兵はお前たちが全滅させたが、お前がこっちに来る前に戦場から逃げ出した公国兵はいるのだ。逃げ出した理由がその竜種ドラゴンに原因がある。そいつの情報は王都に報告されている筈だ。そいつが王都に近づくだけで大パニックになる。だから一緒に居るだけで俺たちも疑われる事になる。王都に行くどころか国を追われる事になるぞ。」

 ゼフォンが状況を説明しアスモを諭す。

「しかしのう…」


「絶対にダメだ!!!」

 ゼフォンが語気を強め再度注意する。

「キシャアアアア!!!」

 ポチがゼフォンに向けて威嚇をし臨戦体制を取った。どうやらポチにはゼフォンが主人アスモに危害を加えているように見えたらしい。

「ちっ!」

 ゼフォンも剣を構える。

「ポチよ止めい!」

 アスモがポチを制止する。ポチは即座に臨戦態勢を解く。

「ポチよ良く聞け。そこに居る主殿ぬしどのは妾の主じゃ。と言う事はお前の主でもある。逆らう事や危害を加える事は絶対に許さん。この命令が聞けないならばお前には死を与える事になる。良いな?」

「ギャウ…」

 ポチは忠誠を誓った主人アスモからの命令には従うしかなかった。

主殿ぬしどのよポチも反省しているようじゃ。許してくれんか?」


「ああ。構わない。多分俺がお前を恫喝しているように見えたのだろうな。だが‥」


「わかっておる。ポチは連れてはいかんし王都の近くにも待機はさせん。ポチよ良く聞け!」


「ギャウ!」

 アスモの言葉に即座に返事をする。

「お前は王都には連れて行かん事にした。だがいずれはお前には妾の従僕ペットとして働いてもらう時が必ず来る。よってお前はあそこのトルキア山脈に居を構え、日々精進し己の牙を研いでおくようにせよ。この魔人メイガスアスモの従僕ペットとして恥ずかしくないようにな。わかったか?」

「ギャウ!!!」

 その言葉を理解したのかポチはアスモの前に頭を垂れ、地に伏し服従のポーズをとった。

 巨大なパイロヒドラが幼女アスモにひれ伏している。ゼフォンは傍から見れば不思議でしかないその光景を静かに見ていた。


「うむ。では貴様の忠誠に期待しておくぞ。それまでは達者でな。では主殿ぬしどの王都へ行こうか。」


「ああ。わかった。ではこっちの道から行くぞ。平原を抜けたら少し山道になるが目立たないように王都まで行くには最適な道だ。走って行く事になるが問題無いな?」


「何を言っておるんだ主殿ぬしどのは。妾の方が身体能力が上に決まっておろうが。見た目が子供だからと言って侮るでないぞ。」

 アスモは少し拗ねたように言い返す。

「そう言えばそうだったな。では行くぞ。こっちだ!」

 ゼフォンが王都に向けて凄まじいスピードで移動を開始した。

「承知した!ではポチよさらばじゃ!!」

 アスモがゼフォンを追従しながらポチに向かって手を振った。

「ギャオオオオオオオ!!」

 アスモの言葉に応じるようにポチが吼える。まるで別れを惜しいんでいるかのように。

 アスモ達が見えなくなってもしばらくその方角を見つめていた―


 凄まじいスピードで移動するゼフォンにアスモは余裕で追従している。流石は下位でも魔神デヴィルである。アスモはゼフォンの後ろで楽しそうに笑っている。


 今回はポチとの戦闘は不発だったが、これから妾の人間界での楽しい生活が始まるのじゃ。戦闘の機会はまだまだある。実に楽しみじゃ♪楽しみで仕方がないわ♪


「いざ!王都へじゃ!!!」


 アスモは走りながら嬉しそうに微笑んだ-


この話で1章は終わりです。ブックマーク登録をして頂いてる皆様読んでいただきありがとうございます。

第2章からはアスモの人間界での冒険を執筆していきたいと思いますのでよろしくお願いします。

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