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第12話 大誤算

「何なんじゃ、これはー!!!」


 グエン平原に幼女?の悲痛な叫び声が響く―


 アスモデウスが行使した究極魔法「能力同調レゾナンス・アサイメント」の発動により光に包まれた中心部に一人の幼女が座り込んでいた。


 金色の瞳に風に揺れてなびく深紅の美しく長い髪、黒曜石の様に美しい小さな(・・・)2本の角、背中から生える小さな悪魔の翼(・・・・・・・)に、悪魔の尻尾、そして宝石や宝珠がはめ込まれた妖しい輝きを放つ漆黒の鎧はぶかぶか(・・・・)で今にもずれ落ちそうだ。身長は120センチ強ぐらいだろうか…

 まるで人形のように可愛らしい年齢7,8歳くらいの美少女がそこに座り込んでいた。


 その美少女は「魔神王デヴィルロード」魔王アスモデウスであった―


 ▼

「何じゃこれは?何じゃこれは?何じゃこれは?一体どういう事なのじゃ?」

 精神異常魔法は無効化できるアスモデウスだが、理解出来無いこの状況を前にパニックを起こしている。


 錯乱しながらも現状を把握するように確認を行う。そして両手を使い全身を確認する。

「無い!無い!無い!!」


 どういう事じゃ?圧倒的な能力ステータスも、強大な魔力も感じられず、美しく均整のとれた完璧なプロポーションを持つ肉体もちんちくりんな子供のような体形になっているじゃと?馬鹿な!あり得ない!何故にこうなったのじゃ!今の妾はどんな状態なのじゃ?


「「魔法の鏡(マジックミラー)」!」

 アスモデウスは魔法で鏡を召喚し、己の姿をまじまじと見る。

「うーん。流石は妾じゃ。小さくなってもこの気品と美しさ。まさに可憐な美少女とは妾の為にある言葉じゃな♪」


 違う、違う、自画自賛しとる場合ではないぞ!この状態は魔力が枯渇した為に身体が成人の状態を保てなくなったのじゃ。ではどれほど弱くなっているのじゃ?

 そうじゃ、すぐに能力ステータスを確認せねば―


 アスモデウスは即座に能力ステータスの確認をする。


 名前 アスモデウス

 種族 魔神デヴィル  

 階級 下位魔神(デヴィル)

 レベル 68

 職能スキル色欲ザ・ラスト」 「???」

 借入職能レンタルスキル 「狂戦士バーサーカー


「―階級は下位魔神(デヴィル)にレベル‥68じゃと…馬鹿な!?」

 アスモデウスは自分の能力ステータスを見て愕然とした。


 確かに種族は魔神デヴィルだが魔王の象徴たる階級が「魔神王デヴィルロード」ではなく「下位魔神(デヴィル)」になっている。レベルも魔神デヴィルではありえない低さ。魔神デヴィルの最低レベルは150以上なのだ。これでは史上最弱の魔神デヴィルと言う事になる。


「そんな、そんな筈はないじゃろ!!これは何かの間違いじゃ!!―っそうかレベルの魔法刻印ルーンを確認すれば―」

 アスモデウスは胸の辺りに刻まれているレベルの魔法刻印ルーンを発現させ確認した。

「…何じゃ、この見た事も無いような小さな魔法刻印ルーンは!妾の大きく煌びやかな魔法刻印ルーンは何処じゃ!!」

 そこにはアスモデウスの圧倒的な4桁のレベルを表す立派な魔法刻印ルーンが無く、小さな魔法刻印ルーンが小さな体の胸辺りに浮き上がっていた。


「これは夢か?夢なのか?」

 アスモデウスの思考が現実に追いつかない。頭を抱え考え込む―

 そして、はっと気付いた。自分の犯した失敗‥大誤算に―


 ▼

 アスモデウスが発動した究極魔法「能力同調レゾナンス・アサイメント」は互いの能力ステータスを同調する事によりレベル、職能スキルを共有化し、主人マスターにレベルを合わせて上昇させる事や職能(スキル)の貸与も出来るという魔法だ。


 ここにアスモデウスにとって最大の誤算があった。


 アスモデウスは生まれてから一度も誰の下についた事も従った事も無いのだ。確かにゾディアック連合に序列はあるが「魔神王デヴィルロード」の他の11人とは対等な立場で連合を組んでいる。故に常に己自身が主人マスターと言う立場にあった。

 今回の人間界への召喚でも召喚者であるゼフォンの命令にも従う事は必要無い位のレベルの格差があった。だから今回も主導権は自分にあると思い込んでいた(・・・・・・・)

 だが、それはアスモデウスの勘違いであって実際は主人マスター=召喚者自身であるゼフォンなのである。

 更に同調する主人マスターに合わせてレベルを向上する事も下げる事(・・・・・・・・・・)も出来るのだ。


 結果、発動した「能力同調レゾナンス・アサイメント」はゼフォンの能力ステータスに合わせて実行されたのである。


 唯一の救いと言えば、ミューテーションを除けば召喚時における最大のレベル+15で能力ステータスが同調された事であろうか。但し、アスモデウス本人には慰めにもならないであろうが‥


 ▼

「何と言う事じゃ!やってしもうた!!」

 アスモデウスが叫ぶ。そして

「そうじゃ!主殿ぬしどのは?」

 即座にゼフォンの確認をする。

 ゼフォンはすぐ側にいた。彼自身は何も異常が無いようだ。ただ座り込む幼女アスモデウスを見下ろし呆然としていた。


「おい、お前は魔王なのか?」

 ゼフォンが訝しげに話しかける。アスモデウスのように思考が回らず目の前の状況を理解出来ていない様だ。

「そうじゃ、主殿ぬしどのは大丈夫そうじゃの?」


「え?あ、ああ。俺は何ともないが‥お前は一体―」


「どうやら妾の勘違いにより「能力同調レゾナンス・アサイメント」によってこうなってしまったようじゃ。」

 アスモデウスの発言にゼフォンが何かを思い出した。

「そうだ「能力同調レゾナンス・アサイメント」だったな!お前、止めろと言ったのに無理やり魔法を発動させやがって!!」

 ゼフォンの体が怒りに震えているようだ―


 これはいかん。以前の状態ならともかく今の状態では主殿ぬしどのの命令に背く事が難しいかもしれん。どうする?

 確か「色欲ザ・ラスト」は健在じゃったな。では主殿ぬしどのには悪いが記憶の改ざんをさせてもらうか?


「待て、主殿ぬしどの。妾の話を聞いてほしいのじゃ。まずは落ち着いてくれんか。」


「話だと?」

 ゼフォンがアスモデウスの顔を見て話す。その瞬間―

「「記憶操作マニピレーション・メモリーズ」」

 ゼフォンの顔の辺りが少し光った。ゼフォンに向け手をかざし高位の精神操作魔法を発動したのだ。

「スマンの主殿ぬしどの。少し記憶の操作をさせてもらう。」

 ゼフォンの方を見る。が―

「何だ?今の光は?」

 何故だかゼフォンはぴんぴんしている。

「あれ?ん?」

 アスモデウスは何で?と言う顔をしてゼフォンの顔を見る。

「ん?」

 ゼフォンもアスモデウスの顔を見る。そして互いに首をかしげる。


「まさか!」

 アスモデウスは即座にゼフォンの能力ステータスを確認した。


 名前 ゼフォン・グレイヴ

 種族 人間

 職業ジョブ ロマリア公国兵士 階級少尉

 レベル 53

 職能スキル 「狂戦士バーサーカー

 借入職能レンタルスキル 「色欲ザ・ラスト」 「簒奪者ユーサーペイション


 おい、本当か?確かに「記憶操作マニピレーション・メモリーズ」が通用しないのが分かった。「色欲ザ・ラスト」により精神、操作、能力ステータス異常も無効化できるようになっとるぞ。

 それどころかもう一つの「簒奪者ユーサーペイション」まで使用できるじゃと?

 いや、「簒奪者ユーサーペイション」の状態だったと言う事は妾の最強の職能スキルは使えんようじゃな。


「おい、一体これは何だ?それにその姿は何なんだ?」

 ゼフォンがアスモデウスに話しかける。どうやら自分の能力ステータスを確認したようだ。

「わかった。正直に話そう。「能力同調レゾナンス・アサイメント」によって同調したが妾では無く、主殿ぬしどのに合わせてレベルの調整が行われた様じゃ。力の共有を行う事によって妾の職能スキルを使用できる様になっておる。主殿ぬしどのは強くなったが、妾はこの様じゃ。魔力がほとんど無くなった為に身体の維持が出来なくなって、こんなちんちくりんの状態になってしもうたのじゃ。」

 アスモデウスが状況を説明し、落胆している。

「俺に合わせて同調しただと?ではお前の状況は―」

 ゼフォンはアスモデウスの能力ステータスを確認する。


 レベル68?階級が下位魔神(デヴィル)だと?何かの間違いでは…いや、確かに全く脅威を感じない。では先程の話は本当だったのか。

 ん?今まで「???」だったスキルが分かるぞ。多分「簒奪者ユーサーペイション」と言うやつか。

 いや、これは―


「おい、何なんだ!この職能スキルは?」

 ゼフォンが、慌てて質問する。

職能スキル?ああ、「色欲ザ・ラスト」か?それとも「簒奪者ユーサーペイション」の事か?」


「違う。お前が隠していた職能スキルだ。こんな無茶苦茶な職能スキルがあるのか?」


「何故それを!―いや「色欲ザ・ラスト」が使えたはずじゃの。妾の「能力隠蔽ステータス・ハイド」を無効化されたか。妾以外には破ることは不可能じゃが、妾と同じ「色欲ザ・ラスト」が使えるなら無意味じゃな。」


「一人で納得されても困るぞ。質問の答えになっていない。」


「わかっておる。今更隠し事も出来まい。だが、この職能スキルに関しては絶対に他言無用じゃ。妾達2人以外には知る者はいない。絶対に約束は守れるか?」

 アスモデウスは真剣にゼフォンを見つめる。

「ああ、約束は必ず守る。」

 ゼフォンも真剣な顔で即答した。

「よかろう。さてと隠蔽しておった職能スキルの事じゃな。間違いなく主殿ぬしどのの見た通りの職能スキルじゃ。自分で言うのも何じゃが最強の職能スキルと言っても良い。だが主殿ぬしどのには使えない。どうやら共有したのは「簒奪者ユーサーペイション」の方だったからな。」


「「簒奪者ユーサーペイション」と言うのは一体?」


「「簒奪者ユーサーペイション」は相手の職能スキルを奪う事が出来る職能スキルじゃ。そして妾の最強の職能スキルは「簒奪者ユーサーペイション」により奪った職能スキルじゃ。」


「相手の職能スキルを奪うだと!」


「そうじゃ、倒した相手の職能スキルを魂から奪う。但しストックは「1個のみ」。他の職能スキルを奪う場合は現在の職能スキルを破棄する必要がある。それでも十分過ぎる職能スキルじゃろ?」


「ではお前のこの職能スキルは奪ったものなのか?しかし、こんなふざけた職能スキルよく使用する相手から奪えたな。相手の魂から奪うと言う事は倒す必要があったんだろ?しかも運よく捜し出せたものだ。」


「ああ、まずはその職能スキルは妾がずっと探していた職能スキルじゃった。3万6千年以上生きとるが手に入れたのは2千年前位じゃな。それから所持していたのは下位の魔神デヴィル職能スキル自体も現在のものより遥かに劣る状態じゃった。そ奴から奪って妾が今の職能スキルに進化させたのじゃ。凄いじゃろ?」

 アスモデウスが自慢げに笑う。

「凄い、と言うか反則としか言いようが無いな。」


「正直に話したのじゃ。他言は無用じゃぞ。主殿ぬしどのが喋らぬ限り誰にも漏れる事は無いからな。「色欲ザ・ラスト」がある限り精神、操作も無効じゃからな。それから「色欲ザ・ラスト」や「簒奪者ユーサーペイション」の事も黙っておった方が良いな。ばれると厄介な事になる。妾にも主殿ぬしどのにもな。」


「そうだな。だが、能力ステータスを確認されたら、確実にばれてしまうぞ。」

 ゼフォンは納得したようだが不安も隠せないようだ。

「それは問題ない。妾が「能力隠蔽ステータス・ハイド」を使って2人の能力ステータス表示を変更させる。さてとどういった能力ステータスに改ざんするかの?」

 アスモデウスが考えている。その様子を見てゼフォンが話しかける。

「俺でさえ、かなり動揺している状況なんだが、お前はどうしてそこまで冷静でいられる?お前にとっては最悪の事態だろ?」


「最悪?確かに最初は気が動転した。計算外の出来事じゃったからな。レベル68というのは魔界・・ではゴミの様なレベルじゃからな。しかし人間界では中級位の実力と言えるじゃろ?それを考えると今の状況は妾にとってある意味面白い状況になったとも言える。」


「それのどこが面白い状況だと言うんだ?」


「魔界では制限もあったが妾は本気で闘う事が出来なかった。魔神王デヴィルロードクラスが本気で暴れたら国なんか簡単に消し飛ぶからな。だが今の状況ならば妾と同じぐらいの実力者や強い相手と本気で闘ったとしても地形が変わるような被害はまずないじゃろ?つまり問題なく本気で闘える状況になったというわけじゃ。」


「本気で闘うって言ったが、まさかお前まだ世界征服とか言うつもりじゃないだろうな?」

ゼフォンが強い口調で質問する。

「世界征服?主殿ぬしどのよ。今の(・・)状態でそんな事が出来ると思うのか?どう考えても無理じゃろ?妾は本気で闘える事が出来ればそこら辺の怪物モンスターや帝国兵が相手でも構わんのじゃ。それに人間界にも興味がある。観光とかもしたいのじゃ。主殿ぬしどのは妾の主なのじゃから、しっかり養ってもらわんとな♪」

アスモデウスがそう言って微笑む。

「…わかった。確かにお前を放置しておく訳には行かないからな。但し、派手な行動は慎んでもらうぞ。その代りお前の望みだが、怪物モンスターの討伐の仕事とかがあれば手伝って貰う。それで構わないな?」


「勿論じゃ。それで構わぬ。頼んだぞ主殿ぬしどの♪」


これで良い。上手くいったの。主殿ぬしどのは信じた様じゃ。世界征服はこの状況を対処してから考えれば良い。今は(・・)人間界で楽しい暇潰し生活を満喫する事を考えれば良いのじゃ♪


アスモデウスが心の中で密かにほくそ笑む―


ゴチンッ!


「痛い!何をするのじゃ主殿ぬしどの!」

ゼフォンがアスモデウスに軽い拳骨を喰らわせた。

「この状況に混乱していて忘れていたが、お前さっき俺の記憶を改ざんしようとしたよな?」


「…そんな事あったかのう?…まあ、その、何じゃ、お互い何も無かったんじゃから問題無いではないか?それに子供のした事に大人が本気で怒ってはいかんぞ主殿ぬしどの。」

アスモデウスがペロリと舌を出して微笑みかける。

「…何処の世界に3万6千年生きてる子供が居るんだ?」


「…まあそんな下らない話はここまでにして、これからの事を話し合おうではないか。お互い秘密を共有したパートナー同士ではないか?これから一緒にやって行くのじゃ。仲良くやらんとな。な?な?主殿ぬしどの?」


「…」


本当にこの元魔王アスモデウスと上手くやって行けるのだろうか?

ゼフォンはそう考え、頭を抱えた―


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