隠しルートはトリップルート
連載執筆してたらデータが吹っ飛んで開き直った。後悔はしてない。
「は?待ってよ!これ、え?バッドエンド?なんでよ!王太子の好感度50以上どうやって上げるのよ!接点皆無だったんだけど⁉︎」
「いやいやいやいや!70まであげたのに側妃?第一官女のイジメは見て見ぬフリか!つーか、第一官女が正妃ってそりゃないだろ!」
「もういいわ、とりあえず王太子は最低だわ。もういい、第一王子行くわ。……わぁー!第一王子、マジ儚い!」
「え?待って。待って待って!私、第一王子の攻略してるよね?なんで王太子の好感度上がってんの?え?王太子の官女になれ?え?ちょっと待ってよ!あ?王太子の正妃⁉︎ちょっと待てぇえええ!」
「なんで第一王子の攻略が王太子妃なるのよ。もしかして、第二王子の攻略してたら第一王子の攻略になるとか?あー……あー、いや普通だ。カッコイイ!きゃー!将軍様ぁー!あ、でも、第一王子がなにかと邪魔してくるし。でも、終わった。かっこよかったー」
「第三王子可愛いー!なんでこんなに可愛いの、この子!ウザい、第一王子!あんたは、王太子の政敵でしょうが!なんで弟たちの攻略に一々でてくるのよ!」
「ふぅー、楽しかった!王太子エンドがいっぱいあってビックリだったけど、これはあれか。第一王子と一緒に好感度あげたらよかったのか。
ん?あれ?じゃあ、第一王子の攻略はどうすんの?」
※※※※
乙女ゲームに「官女の鑑」というゲームがあった。あったというか、ある、というか。
内容は、現代日本から時空の歪みに落ちて異世界にトリップした少女が王太子に拾われて王太子や王子達と恋愛し、妃になるという普通の乙女ゲームである。
普通の乙女ゲームなのになぜあんなに人気がーーうん、発売直後は確かにそこそこ売れてはいたのだけど、当然そのプレーヤーっていうのは乙女ゲームの廃人たちくらいだった。それが、口コミやらパッケージに描かれてるイラストとか、そう!イラストレーターは……って話しをしだしたらキリがない。
とにかく、この「官女の鑑」っていう乙女ゲームは、和風ファンタジーでバトルあり、ステータス上げあり、ノベルタイプ分岐ありのゲームだった。ファンタジーと言っても魔法があるわけじゃない。いや、あるのか。魔法というか気というか。しかし、ある割には使い道が皆無で飛ぶとか、小刀に気を纏わせて戦うとか、そんなことしか使い道がない。ふざけんな、なんでそんなステータス作った。おかげで最初の方、そのステータスあげるのにかなり時間くって王太子の好感度上げれなかったわ!
いらなかったことに気づいた私の失望感!返せ、私の時間。
いけないいけない、また話しが逸れてしまった。
とにかく、人気が出たこの「官女の鑑」。アニメ化や映画化の話しが出ていたはずなのに製作サイドは「ゲームでやりたいことは全てやった。伏線も全部回収した。アニメ化しても楽しくないからやらない」と言って一切ゲームから出ることはなかった。当然、ファンディスクなんてものもない。攻略本さえなかった。
伏線全部回収したって?待てよおい、第一王子攻略させてくれよ。なんで第一王子攻略なかったんだよ。王太子も第二王子も第三王子もかっこよかった!けど、第一王子が好きだったんだ!あの儚系病弱王子が好きだったんだ!それなのにことごとく、当て馬で出やがって!なんで攻略できないんだよ!あの第一王子の好感度は何のためにあったんだよ!
ってなんで支離滅裂にそんなこと考えているのかって言うと、単に現実逃避しまくってるからだ。
なんでか今、私の目の前でその「官女の鑑」のオープニングが始まった気がするので現実からさようならをしています。
学校の帰り道に鞄を持ったまま、電柱と塀の隙間がなんか変だなーと近づいて手を入れたのが悪かった。つーか、ゲームもそんな始まりだった。その上で、頭の中に「官女の鑑」って題名が出て聞き覚えのある音楽が流れてきた意味を激しく知りたい。いや知りたくない。そして目の前には、見覚えのある顔。
「おい、大丈夫か?」
お……王太子様じゃありませんかー!
生で見る王太子様は本当に麗しく!
呆然と王太子の顔を見ていると、王太子はもう一度大丈夫か?と聞いてきた。大丈夫ですとも!
「大丈夫ですとも!さようなら!」
このまま拾われるのは避けたい。私は王太子を避けるようにくるっと回転して走った。官女になんてなりたくない。王太子も王子達とも恋愛なんてしたくない。いや、カッコイイあの人達見てるのはいい。いいけど、神経すり減らしてあの人達の中にはいりたくはない。
踵を返して私は走り出した。逃げよう。とにかく逃げよう。
あれ?そういえば。あの場面は確かに選択肢があったはずだ。
『1、「ここは、どこですか?」
2、「大丈夫です」
3、逃げる』
1は宮に連れて帰り第一王子に引き渡し官女になり、2は近くの貴族に引き渡し礼儀作法を学び官女になる。3は。
3は、足を滑らせて崖から落ちる、始まって一発目に起こるデッドエンド。
とか思いついたのは良いとしよう。瞬間に私は足を踏み外した。そうですね。なんてバカなんでしょう。気がついてから一度も周りを見てないとか。ここが崖のある森だなんて今、気付きましたよ。
「デッドエンドかぁぁあ!ふざけんなあぁぁぁ!」
乙女ゲームの世界に入り込むなんて真っ平ごめん。あんなのは、ゲームだからいいんだよ。自分の身に起こるとかマジ勘弁してほしい。
けどね、始まってすぐにデッドエンドはどうかと思うんだ。
※※※※
「何をやっているんだキヨ」
この世界に飛ばされたときのことを思い出していたら、後ろから声がかかった。その前からこの方が近づいてくるのはわかっていたから驚きはしなかった。
「精神統一を兼ねて薪割りを」
「うん、見たらわかるんだけどね。わたくしはお前にこの離宮の管理を頼まなかったか?官女として」
薪割りは仕事に入ってないから止めなさいと言われたので斧をそこにおいて振り返り跪いた。
「お戻りなさいませ、殿下。御用向きがございますか」
「ない。戻ったらお前がいなかったから探しただけです……ゴホ」
目の前にいる第一王子は軽く咳き込んでお立ち、と私に声をかけた。
第一王子。そう第一王子だ。崖から落ちた私は丁度崖の下にいた第一王子に受け止められて一命を取りとめた。そもそも、この隠された離宮の近くに突っ立ってた私の存在を危うんだ王太子は、兄の危険を忌避して私に声をかけたらしい。そうしたら、逆に第一王子の腕にダイブしたと。私は王太子に殺されかけ、第一王子に庇われた。
「だからお前に気づかれないように処理したかったんだよ!」という王太子の悲痛の叫びは、私も表にだしてその通りだと頷いた。第一王子、死ぬぞ?いつか。
ここは、第一王子の離宮。ここの存在は、王と王太子、同母弟の第二王子しか知らない。第一王子の直属の配下と第一王子が偶に滞在するこの離宮、隠密である彼らの拠点になっていた。
知らなかったぞ、儚系病弱王子が隠密とか、政敵である第一王子と王太子が仲の良い兄弟でブラコンだとか、虐めの元凶第一官女が実は王太子に嫁ぎたくなくてワザと正妃候補たちを虐めまくってるとか。そのワザとっぷりとツンデレっぷりが王太子のツボで見て見ぬふりしてるとか。王太子最低だな!一度刺されてこいよお前。
そういえば、噂では聞いたことがあった。なにかをクリアしたら隠しストーリーが解禁されるとか。隠しルートって王様攻略か?って思ってゴメンなさい。多分このストーリーですよね。私は現実で解禁されましたが。
「殿下、お身体に障ります。お戻りくださいませ」
「そうだね、戻ろうか、ゴホ……キヨ、白湯を。あと、王太子も共に戻ってるからあれにも茶を」
「かしこまりました」
一礼をして第一王子が中に入るのを待っていたらふわりと私になにかが被さった。
「そなたが望めば、王宮の官女にしてあげよう。お前ならば、王太子の官女にも、好きな王子の官女にでも好きにおし」
柔らかく抱き締められていた。第一王子の香が私の鼻腔をくすぐった。香で隠してあるけれど、その奥にある薬の匂いはきっとゲームでは分からなかっただろう。
この人の命は長くない。
この選択肢の何を望んだとしても、第一王子は快く受け入れてくれるだろう。だからこそ、第一王子ルートの最後は主人公が幸せになるために王太子の正妃に彼は推したのだ。なぜならゲームの主人公は第一王子に「本当に愛するなら、その人とその子供と共に在りたいと願うのが普通でしょう」と言ってしまうからだ。
第一王子は、病がちであるがために子を成すことができないのだ。それは、王太子から聞いた。王太子はちょくちょくここに入り浸っているのだ。
王太子はロクデナシだが、第一王子はとても優しい方だ。だから、私の幸せを、とこの方が願ってくれたなら答えはもう決めていた。
「殿下、私はこの離宮で殿下のお戻りをお待ちしております。ずっと」
「キヨ、希代子。わたくしは……」
私を抱きしめる第一王子の手に少し力がこもった。
「わたくしの側にいてほしい」
「もちろんでございます」
私も第一王子の背に手を回して彼を抱きしめた。
隠しルートは、第一王子ルート。第一王子と王太子しか出ない、裏から王子達を見るためのルート。なるほどな。
『隠しルート第一王子ルートクリアです。この世界から出ますか?
→ YES
NO』
私は迷わずNOを選んだ。
こんなの書いてるうちに連載を書き直したらよかった……(後悔)