痩せこけたニワトリ
「なあ、なんで俺は飛べないんだ」
「太っているから」
ニワトリがそう訊ねた途端、ハトは即答した。お前だって鳩胸で太っているだろと言おうとしたが、彼が飛べるという憎たらしい事実が邪魔をした。
古来より、ニワトリは飛べないことを悩んできた。他の鳥は自由に大空を飛ぶことができる。なのに、なぜ自分は飛べないのか。
その理由は鳥にしてはぽっちゃりとした体型にあるというのか。思えば、優雅に空を舞う鷲とか鷹は、みんなスリムである。
ならば、痩せれば飛べるのではないか。そんな考えに至ったニワトリはダイエットをすることを決意した。
徹底した食事制限と適度な運動。人間のそれとやっていることは変わらないが、それでも効果はあるようだった。
そして長い年月をかけ、ようやく肉体改造に成功した。
「お前誰だよ」
見違えたニワトリを前にしたハトの第一声がそれであった。たっぷたぷの胸肉を絞り、極限まで痩せ細ったその姿は、もはやニワトリではない別の何かという印象を与えた。
さっそくニワトリは大空へと羽ばたいてみることにした。すると、今までどれだけ翼をはためかせても浮き上がることさえできなかったのに、すんなりと空中散歩へと繰り出すことができたのだ。
「やった。ついに、空へと旅立つことができたぞ」
ニワトリは空中で狂喜乱舞した。
ニワトリは痩せれば飛べるという説が流布していき、大空を夢見るニワトリは次々とダイエットしていった。その結果、痩せ細ったニワトリっぽいものが量産されることになった。
ニワトリはこれで満足だったかもしれない。だが、これで思わぬ悲劇が起きた。
痩せ細ったニワトリからは、十分な鶏肉や卵を得ることができなかった。人間の食生活の中心を担う二大食材が不足し、困った人間はその代替品を探るようになった。
しかし、ニワトリの代わりになる鳥を見つけられなかった人間は、やむなく強固な手段に出ることにした。
なんと、痩せ細ったニワトリに強制的に栄養を摂取させ、どんどん太らせていったのだ。
これにはニワトリは反感した。しかし、ハトを始め他の鳥は「人間の犠牲にならなくても済む」と安どするばかりであった。
こうして、痩せこけたニワトリは消滅したが、彼らはまだダイエットの夢をあきらめたわけではない。が、他の生物はそうは思っていない。不憫な話である。
適材適所というやつです。