表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

最終話

演習開始の合図が鳴った後、俺たちはすぐに集まった


「チーム戦だよな、指揮官とか決めたほうがいいのか?」

「こういう作戦考えるのはお前が適任だよな」

「頑張れよリーダー!」


チームメイトから投げやり気味に指名される。おおう、ついに俺にあだ名のようなものが

と思ったけど姉山さんから巾着って呼ばれていたのを思い出す


「オホン、それじゃ最終確認をしてから作戦会議をしよう」


地図を広げて早速作戦会議を始める


「キャンプ演習や昨日までの準備で、演習場の大まかな感じは分かったと思う

 そして俺たちが白組で向こうが赤組、ここまではOK?」


チームメイトを見回すと皆頷く、これは大丈夫みたいだ


「相手の拠点が分からない以上偵察は非常に大切になる。当然敵も拠点が分からないように

 防衛ラインを作り偵察部隊をつぶしにくるはずだ」


地図の上に石を置いて動かし、なるべく分かりやすいように心がける


「そこで俺は、偵察部隊を精鋭で固めたいと思ってる」


ざわつくチームメイトたち


「おいおい、そういうのは相手の拠点をつぶす戦力にするもんじゃないのか?」


たまらずチームメイトの一人が声を上げる


「言いたいことは分かる、偵察は身軽ですぐに逃げられるのが良いってことも分かる

 でも結局のところ、こっちだって偵察部隊を見つけたら倒さないといけないわけで」


困惑気味のチームメイトを説得するために、自分の考えを丁寧に説明していく


「先行して活動する偵察同士がぶつかる可能性も考えると、そういうときに

 偵察ついでに倒せるのは優位じゃないか?」


説明を聞いて徐々に納得したような声がちらほら聞こえる、もう一押しか


「相手だって、まさか偵察に精鋭を投入だなんて思わないだろ。仮に相手も同じように

 考えていたとしてもこっちにはルーキーが居る、負けるわけ無いぜ」


俺の説得に若干渋りながらも皆納得してくれた、ルーキーという存在のお陰かもしれないが


「3チームくらい用意してそのうちの一つはルーキー達な、残りもできるだけ強いメンツで固める

 偵察同士のつぶしあいになっても勝てるようにね。ただ、大群だったら直ぐに引いて連絡に来てくれよ

 残りのメンツは偵察の報告によっていつでも動けるように待機」


最後にまくし立てるように作戦概要を説明すると、クラスメイトたちからは気合の入った

返事が返ってきた


「それじゃ、行動開始!」


俺の合図と共に、チームは動き出した










「さて、どう出てくるかな」


偵察部隊を見送った後、地図を見ながら改めて状況を確認する

エリアはアルファベットで表され、全部で9エリアに分けられている

木に布が巻かれ、そこにアルファベットが記載されているという具合だ

後は偵察部隊がどこに敵が居るか等、エリアを目安に報告をしにくるという流れになっている

何処かのエリアでお互いの偵察部隊同士がぶつかり小競り合いになり、敵の戦力を減らすことが

出来つつ、情報も手に入れることが出来れば上出来。

そのために偵察部隊の9人はクラスの成績上位者で固めてある。行けるはずだ


「待ち遠しいな」


始まったばかりだから当然といえば当然だが、静かなものだ

偵察以外のメンバーは待機なので各々会話をして和んでいる


「なぁリーダー」


ふとクラスメイトの一人が声をかけてくる、落ち着かない様子を見ると

自分と同じく居ても立っても居られない感じなのかもしれない


「ん?トイレ?」

「いや、今どんな感じかなって」

「どうだろうね、まぁルーキーたちに任せておけば大丈夫だと思うけど」


たとえいきなり敵の本隊とぶつかったとしても、無理はせずに引き返してくれるはずだ

ルーキーは脳筋って訳じゃなくて以外と頭も回るからな、つくづく優秀な奴だ


「まぁ、落ち着かないとは思うけど今はのんびりしてていいと思うよ。何かあれば

 アナウンスが流れるみたいだし」


戦いの状況は森に潜んでいる教師やカメラによって確認されており、確定した情報は

随時アナウンスで流れるようになっている。それを元に色々と作戦を変更したりといった感じだ

そんな感じでクラスメイトと会話をして時間をつぶしていると、演習場にアナウンスが響き渡る

どうやら戦況が動いたらしい


「戦況アナウンスです、戦闘により脱落者が出たので報告します。白組の脱落者は8名」

「はぁ!?」


予想外のアナウンスに思わず大声が出てしまう


「おいおい、9人居た偵察部隊が8人脱落って……」


言うまでもなく壊滅だ、脱落した白組の生徒識別番号がアナウンスされ、ルーキーの脱落も確認できた


「あ、ありえねぇ……開始早々に切り札が……」


よろめきながらも何とか踏みとどまる

何でこうなったか知りたい所だ、幸い1人は無事みたいだから上手く逃げ切れたと思うが


「続いて赤組の脱落者は15名」

「えっ」


その放送を聴いてまた声が出る。ルーキーたち、相手チームの半分を倒したのかよ

赤組がルーキーを仕留めるのに苦労する姿が容易に想像できてしまった


「どうやら赤組のやつら、全力でルーキーをつぶしにきたみたいだな」


しかし、その代償は高くついたようだ。さすがに半分もリタイアしたのは痛いだろう

こっちも精鋭部隊が壊滅したのが痛いが、なんとか数的優位を活用したい


「脱落した生徒は演習場より退去してください、繰り返します……」


アナウンスに耳を傾けていると、生徒が1人拠点へと帰ってくる。

どうやら偵察部隊の生き残りが無事戻ってきてくれたみたいだ


「お疲れ、悪いけど状況の説明を頼める?」


早速偵察してきてもらった状況を聞きだし、戦況を分析していく

話によると、どうやら敵は待ち伏せをしていて不意を突かれる形で戦いになったようだ

無事だったのはルーキーたちのチームの1人で、ルーキーが敵を凌いでくれたお陰で

逃げ切れたとのこと。驚いたのは、スコアの殆どがルーキーと言う所だ

さすがとしか言いようがない


「しかし、偵察のつもりが乱戦とは」


各チームの兵士は30人、先ほどの報告で敵チームは15人、半分が脱落した

とはいえ、こっちもルーキー率いる精鋭9人のうち8人やられてしまって壊滅状態だが

精鋭は残り1人、敵の偵察に対抗するための防衛部隊は既に準備済み

こちらは精鋭の大半を失ったが、相手もかなりの被害を受けた上に敵の拠点が大体絞れたのは大きい


「どうするリーダー」


敵の数は15人、人数ではこっちが上だ。このまま全員で攻め込めばいけそうだが

いや、人数に余裕があるんだ。防御に裂く人数だって要る

先ほどの偵察部隊と同じように3ルートで敵を倒しながら進むか


「うーん……ちょっと考えさせてくれ」


俺が敵チームだったらどう攻める?

赤組にとって厄介であろうルーキーは脱落した、しかし精鋭を壊滅させたことまでは知らないはず

それなら単純に、人数が少ないから不利と考えるはずだ

対してこっちは人数的に余裕がある上、偵察が戻ってきたから敵の待ち伏せポイントや拠点が

かなり絞り込めた。赤組に比べると余裕がある。


時間はまだある、この状況で慌てないといけないのは人数の少ない赤組のはずだ


「……少し、様子見をしようか」


精鋭を壊滅させるほどの待ち伏せが出来るとすると、自分たちでは警戒していても

人数的優位をひっくり返されてしまうかもしれない、それなら安全策を取り確実に

勝ちにいくため、防衛しつつ様子見という事でペアを組み交代で偵察をすることに決定した

相手の出方次第ではあるが、しばらくは休憩タイムになりそうだ


「ふぅ……」

先ほどまでの雑談ムードと違って、今は緊張感に包まれている。


「このままじっとしているのもあれだし、作戦会議をしようか」


一声かけて拠点に居るチームメイトを集める、そして拠点での戦いを想定した作戦を考え

伝えていく


「……こんな感じで、拠点に引きこもって戦おうと思う」


こちらの提案に反対するチームメイトは居なかった、どうやら精鋭部隊が壊滅したショックが

大きいのかもしれない


「戦いが始まったら部隊の指揮は生き残りの精鋭に頼むよ」


指揮の確認を終えたところで、各自持ち場で待機をすることになった

本拠地から近い3エリアに配置された偵察から入る情報を元に臨機応変に動く

頭では分かっていてもちゃんとそのとおりに動けるかは分からない、しかし

とにかくやるしかない。

戦況報告のアナウンスは精鋭が壊滅したときの一回だけで、あれからアナウンスは一度もない

偵察からの報告も特にないのでにらみ合いと言ったところだろうか

時間だけが過ぎて行き、残り時間は20分ほどになっていた


「このまま時間切れで勝てないかな」


そうなることはないと分かっていても、ある程度優位を築けているとそんな甘い言葉がついて出る


「た、大変だ!!」


そんな思考をさえぎるように、本拠地に声が響く。偵察に向かっていたと思われる生徒が

慌てた様子で駆け込んでくる


「て、敵がすぐそこまで来ました!」

「相方は?」

「時間を稼ぐと言って足止めに、おそらく倒されてしまったかと……」


なるほど、奇襲か。アナウンスが流れればおのずと近くに居ることがバレる

偵察に逃げられている以上一気に攻勢に出るしかない、ここで引くようなら

時間切れで俺たちの勝ちだ。だからこそアナウンスが流れるまでに奇襲をかけようという魂胆か

他エリアの偵察と連絡を取っているヒマは無さそうだが、残りの人数でも十分対応は出来そうだ


「全員迎撃準備!奇襲がくるぞ!」


本拠地に残っている生徒が、残った精鋭の元体勢を整える

そしてさほど時間をおかずに本拠地へなだれ込むように敵が現れた


「偵察を倒し損ねたのが敗因だな」


こちらは万全ではないが十分迎撃体勢は取れている、人数の優位もある

奇襲は失敗だ。後は個別に倒して俺たちの勝ちだ

しかし敵は驚く様子もなく、密集隊形のまま足を止めずに本拠地の中を突っ切る。その先には……


「チッ、最初から一点突破のつもりかッ!」


偵察に逃げられた時点でプランを変更したのか、あるいは最初からそのつもりだったか

これでは奇襲ではなくもはや特攻だ

当然気がついたのは俺だけじゃない、気がついた味方が止めようと一斉に攻撃を開始し

本拠地は一気に混戦状態になる。敵の特攻を止められれば勝ち、止められなければ負けだ


「まずいな」


体勢を整えた味方の合い間を強引に突破していく敵チーム。多少攻撃を受けようが

判定にはラグがあるため構わずに強行してくる。体を使って止めにいくしか無さそうだ

敵がこちらの防衛網を突破すると判断し、すぐにフラッグへ向けて走り出す

フラッグの正面に立って守るのは危険だ、勢いに押されてフラッグごと押し倒される危険がある

難しいがタイミングを見計らって横から止めた方が良さそうだ


「大丈夫、今の俺はラガーマンだからな」


こんな状況でもふざけた台詞が出てくるあたり楽観的だなと思いながらも

敵の突破ペースに合わせてスピードを調整していく


フラッグ奪取担当と思わしき敵が、倒れた生徒を踏み台にして飛ぶ


「あの身のこなしは姉山さんかッ!」


これではタイミングがずれる


「くそッ」


手持ちの剣と盾を捨て一気に加速する、目指すはフラッグを狙う姉山さんの横っ腹


「届けッ!!」


思い切り跳躍した直後、体に衝撃が走り地面へと倒れる感覚


「捕まえたぁ!!」

「その声は巾着か!?やってくれたね」

「悪ぃな、こっちも負けられないんでね」


捕まった姉山さんは抵抗するが、単純な力比べになればこっちのものだ


「くッ、巾着のクセにやるじゃないか」

「俺も男の子なんでね」


しばらく互いに力比べをしているとアナウンスが響く

思わずフラッグを見るが、どうやら無事らしい

失格判定が開始され、次々と脱落者が発表されていく

その発表を俺は勝者の気分で、姉山さんは悔しげな表情で聞いていた

そして終わってみれば、残った敵は姉山さん一人だけになった


「どうする、まだ続けるか?」


その問いかけに姉山さんは一息はくと


「……参ったよ、降参だ」


以外にも素直に負けを認めてくれた

その後チームは勝利の余韻に満たされ、皆それぞれ雑談をして終了時間までの時間を過ごしていた

姉山さんたちはすぐに本拠地から出て行ったので残ったのは白組のチームメイトだけだ


「まさか散々練習したタックルが役に立つなんてな」


もはや騎士道もなにもあったもんじゃないが、混戦状態じゃこんなものだろう

なにはともあれ、俺たちは勝ったのだ


「これで、ここともおさらばか」


少し寂しくはあるが、俺はこんな所で燻っているわけにはいかない

可愛い女の子たちが、甘酸っぱい青春が俺を待っているのだ


「よっしゃ!最後に一盛り上がりしますか!」


そう高らかに叫び、喜びに沸く仲間たちへと近づいていった











「はぁ~~~」


いつもの事ながら俺は机に突っ伏していた


「お前は何かあるたびに、机に突っ伏している気がするな」


そしていつものようにツッコミを入れるルーキー、いつもの光景だ


「そうなのか~自分では自覚ねぇなぁ~」

「そういえば、もう編入試験は受けたのか?」

「……落ちた」

「え?」


ルーキーの拍子抜けしたような顔は初めて見たかもしれない


「もう受けたし、結果も帰ってきた。んで落ちてた」

「……ふぅ、そうか」


それだけ言って口を閉ざすルーキー、意外と気が使えるらしい


「何がダメだったんだろう、どこで運使っちまったのかなぁ」


胸に輝くシルバーバッジを眺めながら嘆く、条件は満たしたのに

まさか編入試験に落ちるとは予想していなかった

言い訳になってしまうが、この学校は学力に関してはさほどレベルは高くなかった


「運なら、キャンプでアタイとペア組んだ時に使い切ったんじゃないかい?」


からかうように、急に姉山さんが現れる。前の演習で俺たちが勝利して以来

こうしてちょこちょこ顔を出してくるようになった。ある意味では認められたのかもしれない

だが……しかし!


「そ、そんな……貴重な運をそんな所で消費していたなんて」

「いくらアタイが女らしくないからってそこまで言われるとイラっとくるね」


言うが早いか胸元を掴まれる、姉山さんは見た目の通り手が早い


「俺の青春が、可愛い女の子たちがぁ……ちくしょぉおおおおおおおおッ!!」


教室内に俺の情けない声が響き渡る、そんな俺の気持ちなど知らないと言わんばかりに


外は穏やかな晴れ空で、春がまた、近づいていた




終わり


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ