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五話

「今日は楽しい野外演習の日だぞ」


早朝、眠い目をこする生徒たちを眺めながら楽しそうに話す教師

今日は野外演習、キャンプみたいなものだ


「キャンプって言ったら、結構楽しいイベントだと思うんだけどなぁ」


あまり楽しいという感情が浮かんでこない。理由は簡単だ、この学校が行うキャンプは

素直にキャンプなんかさせてくれないだろうという事と、好みの女の子が居ないからだ


「では、野外演習を共にするパートナーをクジで決める。順番に前に来い」


言われるままぞろぞろとクジを引いていくクラスメイトたち

その中にはルーキーはもちろん、姉山さんの姿も見えた


「クジは全員引いたな?同じ番号同士がペアだからな」


引いたクジの番号を確認する


「ラッキーセブンか」


クラスメイトたちは番号を言い合い、ペアをどんどん組んでいく

ある程度人数が減ったところで俺も相手探しを開始する


「えーっと、七番の人~?」


片手を挙げてヒラヒラさせていると、一人の生徒が近づいてくる


「アタイの相手は巾着か、よろしく頼むよ」

「姉山さんがパートナーか」

「不満かい?」

「いえ、光栄です」


野郎やゴリラ系女子と組むよりかはよほど、というかある意味唯一の当たりを引いたという感じか

こんな所で運を使ってもなぁ


「言い忘れていたが、この野外演習では普段敵として競っている他クラスの生徒とのペアに

 なっている。折角の機会だから親睦を深めると良い」


だそうだ


「事前に説明を受けているとは思うが、改めて今日の野外演習について説明するぞ」


教師の言葉に背筋を伸ばすクラスメイトたち、こういうところはさすがだといつも思う

俺はあくびを堪えるので精一杯だ


「やること事態は簡単だ、朝から夜までキャンプエリアで演習の授業を行いその合い間に休憩を入れる」


一日中演習となると、結構な功績が稼げるかもしれない


「ただ食料は争奪戦だ、探索エリアへ行って頑張って探して来い」


そう言って指差した先には木々で覆われているだけでそれらしいものは見当たらない


「食料と書かれた紙が山の何処かに隠してある、それを見つけるだけだ」


ということはもしかして、食料を手に入れられなかったら食事抜きってことなのか


「それでは早速、朝の食料探しを行う。各自準備をしておくように」


朝食がなかったのはこのためか、ってか眠い。探索よりも仮眠をしたくなる


「はぁ、アタイが食料を探してみるからアンタは寝てな」


よほど俺の姿が情けなかったのか、呆れたような姉山さん


「悪い、お言葉に甘えて少し仮眠させてもらうよ」


近くの木にもたれかかり、目を閉じる

あっという間に睡魔に負け、少しの眠りにつくことにした











「ん……」

少し騒がしい声で目を覚まし回りを見渡すと、鎧を身に纏ったクラスメイトが

探索エリアからぞろぞろと帰ってくるのが見えた、どうやら良いタイミングだったみたいだ

食料カードを持ったクラスメイトは、教師に缶詰と交換してもらっていた

どうやらあれが今日の食料になるみたいだ

こっちに向って歩いてくる姉山さんを見つける、どうやら見つからなかったらしい


「悪いね巾着、食料は見つからなかったよ」

「どんまい、中々競争率高いみたいだね」


見た感じ多くの生徒が食料を確保できなかったみたいだ、食料争奪戦が

一番大変かもしれないな


「休憩が終ったら実戦演習に入るからな、各自準備をしておけよ!」


教師の言葉に慌てて防具を装着し、実戦演習に備える


「呼ばれたペアは演習エリアに来るように」


という事はペア対決ということか、姉山さんなら頼りになりそうだ

その後すぐに呼ばれ敵ペアと対峙する。二人同士なので先に一人つぶしてって感じかな

さて、俺はどうしたものか


「行くよ!」


考える間も無く、姉山さんは一人に狙いを定め踏み込んでいく。動きの早い速攻だ

狙われた相手は攻撃を防ぎ、パートナーは慌ててフォローしようとする


「させるかっ!」


姉山さんに続いて、今まさに姉山さんを攻撃しようとしていた相手へ剣を突き出し邪魔をする

自然と一対一になりそれぞれの戦いが始まったが、寝起きだからか中々上手く動けている気がしない

ヘタに動くとすぐに負けて足を引っ張りそうな感覚がある

となると俺がやるべきことは、姉山さんが勝つのを信じて時間稼ぎだろう

相手の攻撃をひたすら防御して時間をかせいでいると本当に一人片付けた姉山さんが戻ってきて

あっさり勝利してしまった

やっぱり強い、頼りになって目の保養にもなる。ホントラッキーカードを引いたな俺は

その後も実戦演習は続き、俺たちのペアは中々の成績を収めた。まぁ殆ど姉山さんのお陰だが


「休憩が終ったら昼の食材探索だ、準備しておけよ」


木陰で涼みながら教師の声に耳を傾ける


「今度は大丈夫かい?」


冗談めかして聞いてくる姉山さん


「おかげさまでね、張り切らせてもらうよ」


どこを探すかな、とりあえず朝探した場所以外のところを行ってみようか


「姉山さん、朝はどの辺探したか覚えてる?」

「えっと、一から三まで順番に探したね」

「ああ、エリアは番号で区切ってあるんだね。それじゃ四から探してみようか」


探す場所を早々に決めて、探索開始後その場所へ向けて歩き始める


「地図も無いし、迷子になりそうだね」


木々が生い茂る山の中を二人歩く


「朝よりかは、歩きやすくなったと思うけどね」


演習用の剣を振り下ろし道を切り開いていく


「後は木にエリア番号が書いてあるから、多分大丈夫じゃないかい」


言われて周りの木を見てみると、何本かの木に布が巻かれていて、大きく番号が書いてあった

程なくして四と書かれた木を見つけ、お目当てのエリアに到着したのを確認する


「そういや時間制限もあるんだっけか」

「一応時計は持ってるから安心しな」

「さすがだね」


二手に別れエリア内を探していく

しかし探してもそれらしき物は見つけられない、と言うよりどこに紙があるのかも検討がつかない

探してみたが結局見つからず、キャンプエリアへ戻ることにした


キャンプエリアに戻ってみると、一部の生徒が食料の缶詰を確保している中

多くの生徒は休憩をしている様子だった。あの様子じゃ晩飯抜きになるのが何人出ることやら

逆に言えば、食料を手に入れることが出来ればかなり優位に立てるのだが

昼の探索後、朝と同じように実戦演習を行っていく

朝に比べれば良い動きができ、姉山さんの力もあって順調に勝ちを稼いでいく

今日だけで結構な功績を稼げたんじゃないかと思うと空腹も気にならなかった











「ふぅ……」

午後の演習を終えて一息つく、充実感に包まれていて気分が良い

しかし、横に居る姉山さんはぐったりしていた


「燃料が尽きた……」


ちょっと可愛いと思ってしまったのは内緒だ

最後の食材探しを目前に、食事を手に入れたものとそうでないものとで

明暗が分かれていた。さすがにガス欠を起こす生徒が多くなり少しでも体力を温存しようと休んでいる

生徒が多く目に付く一方で、食料を確保した生徒には余裕が感じられる

一日何もしなければ持ったかもしれないが、生憎演習でガンガン体力を削られるので

皆そろそろ限界なのだろう

姉山さんがパートナーなのを考えると戦力的にも非常にラッキーで、この絶好の功績稼ぎチャンスを

みすみす捨てるのは惜しい。何とか食料を確保したいところだけど


「今回は俺一人で行くから体力を温存しておいてくれよ」

「……いいのかい?」

「朝は世話になったからな」


姉山さんを休ませて、一人どうしたものかと考える。こんな状態じゃ夜の演習での功績稼ぎは

期待できないし闇雲に探し回っても結局運任せで見つからない可能性もある

もし本当に運任せだとすれば、俺たちに運が無かったと言うだけのことだけど


「やるだけやってみるか」


考えをまとめ、一人歩いていく


「ちょっと良いかな」


朝食料を確保していたクラスメイトへと声をかける


「何だよ、食料ならやれないぞ?」


あからさまに警戒するクラスメイト、何で警戒しているかは想像がつく


「いや、そうじゃなくてさ。朝食料を手に入れた場所って覚えてる?」

「場所?」

「俺のペアまだ食料にありつけてないから、夜は絶対に食料を手に入れたいんだよね

 だから良ければ参考にしたくてさ」

「ああ、それなら」


俺が食料目当てでないことが分かるとあっさり教えてくれる


「ああ、ちなみに昼に同じ場所に行ったけど食料は無かったぞ」

「そうなんだ、ありがとう」


一通り会話を終えると備蓄していたであろう缶詰を開けて食事をし始めるクラスメイト

俺も用が終ったので、その場を離れ別の場所へと歩き出す


「あの、ちょっと良いかな」


その後も同じように、食料を手に入れた生徒に接触して話を聞いていく

全員が全員親切に教えてくれたわけではなかったが、欲しい情報は集まった

急いで自分の休憩場所へと戻り、地面に一から九までエリア分けした簡易地図を2面書いていく

そこへ先ほど入手した情報を元に、食料があった場所に丸をつけて考える

情報をまとめ、ある考えに至った瞬間思わず笑みが漏れる


「これは、いけるんじゃないか……?」


誰に言うわけでもなく一人呟く


「そろそろ最後の食料探しだ、準備は良いか!?」


丁度タイミング良く号令がかかる、何とか間に合ったみたいだ

教師の合図と同時にふらつきながらも全力走り先ほどの考察を反芻させる

朝も昼も、食料が隠してあったのは九ある内の三エリアだけ

そして場所は被っていなかった、となれば朝と昼に無かった残りの三エリアに食料はあるはず!

他のクラスメイトは大半がふらふらで近くのエリアを捜索をする可能性が高い

なるべく多くの食料を確保する時間も考え、一番遠い隠し場所へと向って走る

朝と昼で大方道を切り開けたのか、スムーズに先に進める。しばらく走り続けると

木に巻かれた布にお目当ての番号を見つけ足を止める、今はここに俺しかいない

今が探すチャンスだ。枯葉の集まっている等めぼしい場所を片っ端から探していく、すると


「あ、あったぁ……」


ついに、ようやく食料カードを手に入れることが出来た

その後もさらに周囲を探し、何枚か集め終わると急いでキャンプエリアへと走っていった……











「ほらよ」


無事手に入れた缶詰を姉山さんへ渡す


「いいのか?」

「良いも何も、今日は俺たちペアだぜ?」

「ははっ、そうだったね。それじゃありがたく貰うよ」


二人で今日最初の食事を始める、食べ物のありがたみを感じながら

隣の姉山さんを見てみると、無言で食事をしていた

中々にワイルドにどんどん缶詰を空けていく、よほどお腹が減っていたらしい


「良かったら、これもどうぞ」


缶詰の一つを姉山さんの方へ置く


「アンタも腹減ってるだろ?」

「姉山さんには夜も頑張ってもらわないとだからね」

「そう言うことなら、もらっとくよ」


食事を終えて一休みすると、いよいよ最後の演習時間がやってくる


「これで今日の演習は終わりか」


対峙する対戦者を見る、これでようやく終わると思うと途端に気が抜けてくる


「アンタは壁になってくれりゃいい、後はアタシがやる」


エネルギーの充填が終ったのか、見るからにやる気満々の姉山さん


「了解、頑張って壁になるよ」


教師の合図に対戦相手は二人とも俺に向って攻撃してくる

体力の関係で速攻個別撃破と言ったところか。盾と剣を構えて相手の剣を受け止めると

俺の後ろから姉山さんが飛び出し、動きの止まった相手へ切りつけていく

空腹で弱体化している相手はまともな反撃も出来ずあっさり姉山さんに倒された

相手は空腹で満足に力を発揮できない相手ばかりで、まさに無双状態


「さぁ、どんどん行くよ」


元気いっぱいの様子の姉山さん、言うまでも無くその後も快進撃が続いたのだった











「はぁ~、終わったぁ~」


演習後、寝袋に入り余韻に浸る。今日は大変な一日だった


「お疲れ、アンタのお陰で助かったよ」


横で同じく寝袋に入った姉山さんが声をかけて来る

今日一日一緒に過ごしたからか、口調もどこか柔らかい


「お互い様だよ、姉山さんのお陰で無事終われたからさ」

「そう言ってもらえると助かるよ」


しばし無言の時間が流れる


「今日一日一緒に居て思ったんだけどさ、アンタ結構良い奴だね」

「そうそう、結構良い奴なのよ俺。惚れちゃった?」

「ははっ、冗談を言う元気はあるみたいだね」

「でもホント、姉山さん強かったよ」


それこそ、シルバーも遠くないほどに


「そう言うアンタも、少しは頭が回るみたいじゃないか。アンタとまた戦うのが楽しみになってきたよ」


その目が若干ぎらついている気がするのは気のせいだろうか


そうして星空を眺めながら雑談しているうちに、気がつくと眠りについていた……



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