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二話

「はぁ~」

「どうした、あれだけ息巻いていたのに元気がないな」


ある日の昼食中、ルーキーが声をかけてくる


「そりゃ元気もなくなるさ、今何月だと思ってんだよ」

「7月に入ったところだな」


そう、俺が息巻いて意気込んでいた日からもう三ヶ月近く経つのだ


「まさか、今の今まで実戦の授業が無いとは思わなかったよ」


あれから直ぐに判明したことだが、どうやら実戦授業は夏と秋のみらしい

お陰でブロンズから一向に昇格する気配が無い


「実戦授業は危険が付きまとうからな、今は体作りの期間という事だろう」

「危険ってもな~、別に本物使って戦うわけじゃないんだからさ~」


机に突っ伏す、モチベーションは下がりっぱなしだ


「どちらにせよ体は鍛えておいて損は無いだろう、女だってたるんだ体なんか見たくあるまい」

「ほー」

「……何だ?」

「いや、ルーキーの口からそんな気の利いた台詞が出てくるとは思わなかったからさ」


ただの朴念仁だと思っていたら中々気の使える男らしい


「ま、そうだわな。それに実戦授業もそろそろ始まるし」


そう、ようやく始まるのだ。がんがん功績を稼いで昇格してやるぜ!


「よっしゃ、気合いれていきますか!」











「うへぇ、重てぇ……」

「朝の気合はどこに行ったんだ」

「これさぁ、各自で運べば良くない?」

「ジャンケンで決めたんだ、文句なら負けた自分に言え」


ルーキーに愚痴りながら生徒数人で授業で使う防具一式を運んでいる最中なのだが

全員分だけあってさすがに重たい


「ふぅ、良い準備運動になったわ」


指定の場所へと荷物を降ろすと、丁度教師がグラウンドへと現れる


「おお、準備が良いな。よーしお前たち、今日から実戦授業を開始するぞ!

 とりあえず防具からだな、各自順番に取りに来て防具を装着しろ」


教師の指示の元、列を作り箱から防具を取り出し身に着けていく


「実戦授業の際は名前ではなく番号で呼ぶので、自分の鎧に書いてある番号を忘れないようにな」


持っていた鎧に視線を落とすとでかでかと10と書いてあった


「思ったより軽いな」


防具を持ってみると想像していたよりも軽い

さすがに防具の素材まで興味は無いが、内側には衝撃を吸収させるような素材もついていて

安全面には気を使っているようで安心感はある、程良い重さで軽すぎて心許無いということもなさそうだ


「よーし、全員防具は装着できたか?」


教師が生徒たちを見回すので釣られて周りを見回す

自分と同じように鎧を身に纏った生徒たちの姿がある、パーツごとの状態だとあまりピンとこなかったが

すべて装着した状態を見ると見た目だけは現代の騎士っぽい雰囲気はある

あくまでも雰囲気だけであり、本物の騎士の鎧に比べると丸みを帯びすぎている感じはあるし

素材のせいか鎧特有の威圧感みたいなものも無い、まぁ鎧を着ているのは素人だから当然かもしれないが


「普段の授業でしっかり聞いていると思うので、簡単に説明するぞ

 今日行うのは一対一の対戦だ、戦い方は各々好きにやるように」


ずいぶん投げやりだが、初回なので生徒たちの戦い方を見るということだろう


「それじゃ今から順番に二人ずつ呼ぶので剣と盾を持って前に出てこい、他の奴は座って見学だ」


呼ばれた生徒が俺たちが運んだ箱の中から剣と盾を取り出して行き

お互い向かい合うようにして武器を構える


「さっきも言ったが細かいことは気にしなくて良いから好きに戦え、開始と終了の合図は俺がやる」


体育の授業中教師の合図が響く、そしてついに実戦授業開始が開始した











「参ったなぁ……」


先ほどからタイマンで戦っている生徒たちを見学しているのだが、意外と様になっている生徒が多い

武家の家系が多いらしいから武術の心得の一つでもあるのだろうか


「はぁ……」


思わずため息が出る、いきなり差があるじゃないか

しかし気落ちしている場合ではない。勝負はやってみないと分からないはずだ


「次、9番と10番!」


ついに自分の出番が回ってきた、剣と盾を持ち前へと出る

正面には鎧を身に纏ったクラスメイト、顔は鎧で分かりにくいが胸にでかでかと9と書かれていた

なるほど確かにこっちの方が識別は簡単そうだ


「二人とも、準備は良いか?」


教師の声に、いよいよ始まるという緊張が走る。

鎧を身に纏っているので表情までは分からないが、多分緊張しているんだろうなと言うのは感じる

それは自分も緊張しているからというものだけど

お互いに頷き武器を構える。これが始めての戦いだ、このデビュー戦は無様でも負けたくは無い!


「始めッ!」


先手必勝、攻撃を警戒しつつ相手の胴へ剣を突き出す

しかし相手も警戒していたのか盾でしっかりと防がれ、おまけに距離まで取られてしまった

互いに様子を伺うようににらみ合う

共に素人ではあるが、こっちはド素人なのでヘタに攻めて良いものか迷う


「ふぅ……」


奇襲は失敗、一旦呼吸をして気持ちを落ち着かせる

少し離れているので互いに剣を突くようにけん制をし合うが

互いに守りを重視しているせいで一向に勝負が決まりそうな気配が無い、どうしたものか

手堅く時間まで粘って負けないと言うのも選択肢としてあるが、功績を稼ぐ必要のある

自分としては躊躇われる。となると勝つ方向で考えないといけないが、焦って攻めても返り討ちに

合いそうではある。


「うおおおおっ!」


あれこれ考えているうちに先に相手が動き出す。向こうの方が痺れを切らすのが早かったようだ

振り下ろされる剣を盾でしっかりと防ぐが、直ぐに二撃、三撃と連続で攻撃を繰り出してくる

どうやら力任せのごり押しで行くことにしたらしい、一瞬脳裏に脳筋と言うフレーズが浮かぶ

攻撃自体は防ぐことの出来る威力とはいえ、力任せに何度も殴られていてはこっちの腕が持たないし

そろそろ時間のはずだ。どうするか今すぐに判断しないといけない――それなら


相手の斬撃を受けると同時、剣を下から上へ振り上げる

相手は体の前に盾を構え、カウンターに備える。かかった

俺が振り上げた剣は相手の右手、剣道で言う篭手の部分へ当たる

そして互いに距離を取り直したところで


「そこまで!」


終了の合図が入り、教師が対戦者の防具を調べていく

気になって先ほど攻撃を当てた右手部分を調べる教師を覗き込んでみると

新品の白い防具に黒い線が真直ぐ走っていた。なるほど、これはまた分かりやすいダメージ痕だ


「9番有効0。10番有効1。よって10番の勝ちだ!」

「ふぅ」


何とか判定勝ちは出来たらしい、デビュー戦を勝利で飾れたのが素直に嬉しい

せこい勝ち方ではあるが、勝ちは勝ちだ

これで個人功績が少しは貰えるだろう、そう思うと自然と頬が緩む

俺は着実に進んでいるということが感じられ、モチベーションも高くなるのを感じる

順番が終わり休憩をしつつ勝利の余韻に浸っているといつの間にか静かなことに気がつく

どうやら全員が戦い終わったらしい


「それじゃ二週目を行う、次はランダムに呼ぶのでそのつもりでな」


先ほどとは違う順番で次々と呼ばれタイマンを消化していく

俺の次の相手は誰になるだろうか、出来れば楽な人と当たりたいものだが


「って、相手ルーキーかよ」


呼ばれて見れば、よりにもよってルーキーが相手らしい。とはいえルーキーだって

プロって訳じゃない、一気に畳み掛ければ何とかなるかもしれない


「それでは始めっ!」

「っらぁああっ!」


合図が鳴ると同時、速攻で踏み込みルーキーへ向けて剣を全力で振り下ろす

しかし俺の全力の一撃は盾であっさりと受け止められ、それと同時に衝撃が手を伝ってくる

一気に畳み掛けるために剣を引こうとするとルーキーがお返しとばかりに剣を振りかぶる

対応が早い、さっきと同じようにカウンターに切り替えるしかないか

ルーキーの一撃をこちらも盾を構えて待ち構える、そして剣が盾にぶつかった瞬間


「うぉおおっ!?」


変な声が出た


衝撃に思わず手が離れ盾が地面へ落ちる。盾を落としてしまったことを気にする間もなく

直ぐにルーキーの放った二撃目ががら空きの胸に当たり、衝撃が走ったかと思ったら

地面に転び空を仰いでいた。一瞬の出来事に何が起こったかわからないままで居ると

教師が判定のため近寄ってくる


「18番の勝利!」


ダメージ痕を確認した教師がルーキーの勝利を高らかに宣言する

意気込んで挑んだは良いものの、終わってみれば手も足も出ず数秒で決着がついていた











「痛ってぇ……」

痛む体を引きずりながら学生寮の部屋に倒れこむ

ブロンズの内は数人部屋なので視線を傾けると周りの生徒たちのうめき声やらシップをはったりして

いる姿が見えた


「ふぅ」


ごろん、と転がり仰向けになる

幸い体を鍛えていたお陰か防具のお陰かケガはしていなかった

これから実戦授業が続くのでケガだけはしないように気をつけないといけない

この数ヶ月ひたすら体を鍛えてきたけど、なるほど納得だ

生半可な体じゃケガは避けられそうに無い


しっかし、散々な結果だった

皆初めてのはずなのに最後はある程度動けていたし

何よりルーキーの奴、あんなに強いのかよと言うのが正直な感想だった

確かにあれだけ強ければルーキーと呼ばれるのも納得だし、シルバーもそう遠くないだろう

ルーキーみたいになる必要は無い、最終的に殆どがシルバーになれるらしいから

最低限他の生徒と同じレベルを維持すれば良いだけのことだ

しかし、となるとシルバーランクになるのはいつになるのか


「はぁ……遠いなぁ」


俺は思わず、そう呟いていた


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