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運び屋ヨン  作者: SPICE5
第9章 <日常編>
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9-1.少女は青年の罪を知る





 藤岡さんから話を聞きつつ、あたしは自分に置き換えてみてゾッとした。

 


 小さな頃から二つの世界で暮らしていたため、本来いた筈の日本ではノイローゼになっていたという、藤岡さん。


「――子供だった私には、周りが見えていなかったのです」



 聞いたことの無い言葉をブツブツと喋り、空想の世界を本当にあるのだと必死になって主張する。眠る前にはいろんなものをぐるぐると手に巻き、終いには、自分の本当の居場所はあちら側なのだと泣き崩れ始め。

 そうして一度心を壊して入院してしまうと、噂が尾ひれを付けて駆け巡っていったらしい。



 落ち着いている彼ですらそんな目に遭ったのだ。いつも騒いでいるあたしなんて、教室の壇上でスピーチをしそうな勢いでベラベラ喋ってドン引きされていたに違いない。

 

(……先に聞いておいて良かった)


 経験者の話って、大事だ。

 


 藤岡さんは、小・中学時代、いつも一人でいたそうだ。

 武道家でもあった祖父と修行をし、異世界でも連日ヨンに鍛えられていたため、いじめに屈することはなかった。中学の時に呼び出しを受け、数人がかりで襲われても返り討ちにしてみせたため、いじめられることは無くなった。その代り、遠巻きにされていたらしい。眠たげな目にくっきりと浮かぶクマ、背高で世離れした雰囲気という見た目も噂に拍車をかけた。

「人を殺したことがあるんだって」

 終いにはヒソヒソとそんな噂までされたらしい。



「あながち嘘ではありませんでしたが」

「えっ?」

「その頃の私は、あちらの世界で人を殺していましたからね」


 さらりととんでもないことを藤岡さんは言ってのけた。



「私は軍に入隊し、いつも隊長であるヨジェリアンと共にいました。街での小競り合いは勿論、組織的な犯罪にも介入しましたし、他国との争いにも駆り出されていました」


 つまり、藤岡さんはあたしより年下の頃から戦いに出ていたということになる。

 映画やドラマの世界じゃなく、本物の戦いにだ。


「だからでしょうか、私にとって生きていると実感するのは、断然あちら側の世界だったのです。

 刀は祖父が持ち出すことを大変に嫌いましたから一振り、しかも一度きりしか持っていきませんでした。ですからそれは必然的に私専用の武器となりました。

 銃のように直接人を殺す武器などとても用意はできません。私は野営時に便利なそうなものを考えては、毎夜せっせと運びました」



 カラン、とグラスの氷が崩れた。


 藤岡さんは立ち上がると、冷蔵庫から麦茶を入れたボトルを取り出し、並べた湯呑茶碗に注いだ。この茶碗も藤岡さんの作品なのだろう。とろりとした藍色の中に、白い波飛沫のような模様が点々と散っている。


 少しの間、二人並んで麦茶を飲んだ。



「――日本製品を使った戦争は、おかしな言い方ではありますが快適でした。

 それまで、こんな時にあれがあれば……ともどかしく思っていたものを、堂々と異世界でも使えるのです。一つ一つは小さなものではありますが、全てが積み重なれば成果へと繋がりました。

 戦争に勝利して帰還した私は、自分が役に立つ人間なのだとすっかり自信がついていました。ヨジェリア王国にとって価値ある人間なのだと。

 ですから、ヨジェリアンに告白をし、想いを受け入れてもらえなかったのはショックでした。つきかけていた自信が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていきました。

 彼女に嫁がれてしまう前に何とか自分のものにせねば、と焦りだした私は、あることを思い付いたのです」


 藤岡さんの語る声に、苦いものが混じりだす。

 

「ヨルダムのデペ将軍と同じか、もしくはそれ以上の身分になればいいのだと、その時の私はそう思い込んでいました。

 大将軍を父に持ちながらも直接血が繋がっていない私では、絶対にヨジェリアンよりも上の位にいくことはできません。

 早急に階級をあげるためにはどうしたらいいか。調べるうちに、莫大な金を寄付して名誉職を得ればいい事を知りました。国益に関わる事を成せば身分が上がるわけです。

 私はどうすれば大金を手に入れることができるかを考えました。何しろ国から名誉職を与えられるほどの金です。

 酒場で一人酒を飲みながら、ああでもない、こうでもないと資金繰りを考えていると、一人の男が話しかけてきました。

 お悩みですかい? と尋ねられ、早急に大金が必要なのだと私は答えました。

 すると、男がこう言ったのです。

『兄さん、あっしは知ってますぜ。兄さんしか持っていないお宝があるじゃねえですか。それを売っちまえばいいんですよ』

 と」


「それって、もしかして――」


「はい。

 私にはすぐ、彼が指した言葉の先にあるものが日本製品だ分かりました。

 驚き身をひいて睨みつけた私を、男はへらへらと笑いながら尚も誘ってきたのです。

『兄さん、よければあっしが案内しましょうかい? 高く買ってくれる商人を』

 私は断ろうとしました。けれど熱心な説得を受けるうちにだんだんと考えが変わりました。どうせ大したものは持ってこれないんだ、少しだけなら構わないだろう、と。

『何が高く売れるんだ?』

 そう聞いた私に

『そうさねえ、やぱり武器が一番高いでさあね』

 と男は揉み手をしながら言いました。

『武器なんて何も持っていないよ』

『兄さん、そのお腰につけてるのは一体何なんですかねえ?』

 ――ええ。私は日本刀を帯刀していたのです」



 歴史イベントの日の藤岡さんを思い出す。彼が抜刀術を披露した際の、その動きと刀の軌跡。

 確かに、あの美しい武器はとても高く売れるのに違いない。

 美術品や工芸品に疎いあたしでもそれくらい想像がつく。



「私は彼に新しい刀を持っていきました」


 藤岡さんの表情が固くなっていく。


「私は目先のことしか考えていませんでした。

 祖父が刀を補完している倉庫の鍵を何処にしまっているのかを探り出し、皆が寝静まってからこっそり鍵を取って倉庫に向かいました。そうしてそこから一振りの日本刀を持ち出すと、それを抱えて眠りについたのです。

 城下町の裏路地の一角にある店で、彼と私は再び向かい会いました。

 差し出した私の日本刀を見て、男は目を輝かせて喜びました。祖父が持っている刀はどれも素晴らしいものばかりでしたから。当時あの国で流通していた刃物と比べ物にならないくらい、鋭利で恐ろしい程の切れ味を持っていたのです。

 私は大金を手に入れました。実にあっさりと事が運んでしまったため、これを続けていけばすぐに寄付金分を貯めてしまえるのでは、と思い始めていました。

 そうしてその考えこそ、相手の思うつぼだったわけです」




 毎晩毎晩、藤岡さんは日本刀を持ち出していたそうだ。


 一振りずつでは飽き足らず、数本抱えて眠る事もあったという。持ち込む品が現実で無くなることはない。だから、何度でも同じものを持ち込むことができたのだ。


 売りつける相手の正体の事など深く考えようとせず、ただ寄付金可能な額になるまで売って、売って売り続けて。

 やがて、所持金が目標金額に到達した頃。



 ――内部革命と侵略戦争が同時に起こり、ヨジェリア王国は崩壊した。

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