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運び屋ヨン  作者: SPICE5
第5章 <日常編>
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5-2.少女達は祭りに繰り出す





 結局、あたし達は押しやるのに近い形でルビちゃんを正直の前に立たせた。


「江ノ原……」


 正直の日に焼けた顔がダラダラと汗をかいている。ルビちゃんは顔を真っ赤にして俯き、バッグを持つ手はふるふると揺れていた。


「あ、歩くか。一緒に」

「……うん」


 ルビちゃんの消えそうな返事に、正直はギクシャクしつつ歩き出した。

 あーあ、同じ側の手足が同時に出てら。


 二人並んで歩くその姿を、少し離れた後ろからあたしと七村と與野木君がついていく。


「武田ぁ、少しは話しかけてやれよ……」

「二人とも、すっごく緊張してるね」

「武田君は片思い歴が長いから。仕方ないよ」

「え、それ本当なの、與野木君」

「うん、小学生の時から好きだったんだって」

「ひえぇ、全っ然気付かなかった……」

「アンタが鈍いだけだから」


 ひそひそと話をしている間も、正直はルビちゃんと反対側ばっかり見て歩いている。ルビちゃんはルビちゃんでずっと足元を見たままだ。


「うーあー、えーとえーと……あ、ねえねえ、甘いもの、食べよう!」


 何とかしなければ、とあたしは皆をわたあめの露店に誘った。ちょうど数人の子ども達が出来立てのわたあめを受け取ったところで、ほわほわと甘い匂いが漂っている。


「すいませーん、わたあめ二つください」

「はいよ」


 使い込まれた円柱型の機械の中央にざらざらとグラニュー糖が入る。ぶぶぶぶ、と震えだした円柱の周りに白い雲が生まれていく。観光協会のハッピを着たおじさんがすいすいとそれを巻き付けていき、あっという間に真っ白なわたあめが完成した。

正直とルビちゃんとで一本、あたしと七村と與野木君で一本。


「あんまーい、出来立てだからあったかい」

「こういうお菓子久しぶりに食べたなぁ」


 剥がすようにして三人で食べながら前の二人を観察する。背の高い正直がわたあめを手にルビちゃんが食べやすいように下げてやり、ルビちゃんははにかんだ笑顔で正直に何か話しかけている。緊張がようやく解けてきたらしく、穏やかで甘い空気がこちらにまで伝わってきた。


「ツキツキ、よかったじゃん」

「へへ。あ、そういえば與野木君が見たいって言ってたイベント、どの辺り?」

「ちょっと待ってて」


 ガサゴソと地図を広げる間、あたし達はそのまま立って待っていた。そんなこちらには気付かないまま、正直とルビちゃんはどんどん先を歩いていき、やがて人混みに紛れて見えなくなった。おそらくはこのまま二人とはお別れだ。


「えっと、城跡に中学校が建っていて、そこの校庭や体育館のスペースを使ってメインの催し物をやっているみたい」

 

 與野木君がチラシを広げながら教えてくれた。


「今あっているのは伝統舞踊かな。あと10分で抜刀術の実演が始まるよ。あ、武将行列もあるんだ、これも見ておきたいなあ」

「はー、歴オタの與野木の為にあるようなお祭りじゃん。展示系充実しているみたいだし、行きたい所あったら遠慮なく言いなよ。今日はとことん付き合うからさ!」


 明るく茶化す七村の言葉に與野木君は嬉しそうに頷いた。


「このイベント、吉備北先生が教えてくれたんだ」

「そうそう、先生の友達が出ているんだってー」

「ふぅん」


 七村の返事は素っ気なかった。好きな人と先生じゃ、こうも反応が違うものか。


「ねぇ、あと10分で開始って、あまり時間ないんじゃない?」


 七村の指摘に、あたし達は慌てて早足になった。人混みを潜り抜け露店の誘惑を振り切り、ようやく石垣を取り囲むお堀が見えた頃には開始時間ぎりぎりになっていた。


 中学校の門を潜り坂道を登れば、石垣の上にある校舎が見える。二階建て校舎が木製なのは歴史ある観光地という土地柄のためだろう。

 校庭の中央には大きなステージや白線を引いた枠が見えた。抜刀術イベントの準備をしている最中らしく、数人のスタッフがばたばたと動き、着物姿の男の人の背中がちらりと見えた。

 見学者が立ち並ぶ中、あたし達は後ろから首を伸ばして校庭の方を覗いた。背が低いとこんな時に損だ。

 もっと見えやすい場所はないかと辺りをうろついていると、突然身体が両脇から持ち上げられた。


「ひゃあぁっ!」

「よーし上村、ちゃんと来てたか。ちょこまかしてたからすぐ分かったぞ」


 あたしはまるで子供のように吉備北先生の右肩に座らされていた。


「先生、やめて!」

「ぅおい! こら暴れるな、危ないっての! 俺は見えやすいようにと思ってだなあ!」


 人混みの中、子供みたいに扱われるのが恥ずかしくて、あたしはもがきながら先生をぽかぽか叩いた。「痛い」だの「やめろ」だの言いながら吉備北先生はあたしを降ろそうと屈みかけ――、そうしてそのまま動きを止めた。


「先生?」


 視線の先をつられて見る。

 與野木君と七村があたし達を見ていた。

 

「あ、そうそう。二人も一緒に来ているんです」


 返事がない。


「先生?」

「――あ。いや、うん」


 吉備北先生はそっとあたしを降ろすと咳払いをした。


「あー、お前達、ちょっとこっち来い。見えやすい場所があるから」


 手招きをされ付いていくと、スタッフテントの方に案内された。


「律、こいつら俺の生徒だ」

「ああ、言ってたな。じゃ、君達これぶら下げといて」


 リツと呼ばれた人はおそらく先生の友人なのだろう。首から下げるタイプのプレートはイベント関係者が付けておくものらしい。


「いいんですか、こんな所にいて」


 ステージ真横の特等席だ。パイプ椅子に座りながらひそひそ声で尋ねるあたしに、


「いいんだよ、前々からお前達が来るかもと話はつけていたから」


 と吉備北先生はが隣に座りながら答えてくれた。


「始まったぞ」



 ステージの上では二人の男性が立っていた。一人は白髪が少し混じった短髪で初老の人、もう一人はまだかなり若い。20代後半くらいだろうか。二人とも頭に白い布を巻いていて、時代劇で見るような着物の袖にはたすきがけがしてあった。手は腰にある本物の刀のつかにかかり、真剣な顔で茣蓙ござを丸めたようなつくりの棒を見据えている。

 と、


「イヤ―――ッ!」


 迫力のあるかけ声と共に白髪の男性が目にも見えぬ早業で抜刀して切りつけた。

 ずるり。丸まったござが綺麗な切り口を見せながらゆっくりと崩れ落ちる。


「イエ―――ッ!!」


 続いて若い男性も瞬時に抜刀し、スパン! と一瞬で切り倒す。

 その凄まじい迫力に、会場の誰もが息を呑んで見守っていた。


(カッ……コイイ) 


 痺れる、とはこういうことなのだろう。

 美しい怖さというものをあたしは初めて実感した。


 その後もいくつかのパフォーマンスを終えた後、拍手喝采の中で抜刀術のイベントは終了した。


『ありがとうございました、畑中昇さんと藤岡隆二さんでしたー』


 アナウンスが入り着物姿の男性二人は礼をしてステージ裏に戻っていった。




「どうだった」


 吉備北先生の言葉に「かっこ良かったです!」とあたしは手に拳をつくって勢いよく答えた。與野木君も興奮した瞳をきらきらさせて頷いている。


「はは、それは良かった。後で隆二にも伝えておくよ」

「先生のお知り合いなんですか?」

「言ったろ、友人がイベントに出るって。抜刀術の若い方、あいつがそうだ。

 そこにいるスタッフの律もそうだが、この学校は元々俺の母校なんだ。祭りの実行委員には卒業生が結構な数関わっていてな、俺も呼ばれて手伝いしていた」

「へえ……」


 どうりで、普通のお祭りに比べて手作り感あるなと思ったわけだ。


「ああ與野木、ちょうど武者行列があっている頃だ、見てくるといい。あれもなかなか面白いぞ、参加者が寄付金を出して当時の鎧を着て練り歩くんだが」

「えっ、参加するのにお金取るの?」

「そうだ。だが好きな者とってはたまらん機会だからな、本物の鎧兜を身に着けて行列に参加するなんてのは。元々鎧というものはメンテナンスがいるんだよ。結構手間がかかるからその為の寄付金を募るという意味合いもある」

「へぇー」

「あ、じゃあ僕、見てこようかな……」


 與野木君がそわそわしだしたので、慌ててあたし達も行列に向かうことにした。吉備北先生も誘ってみたが本部の手伝いが残っているらしい。

 礼を告げ、急ぎ足で武者行列の会場である大通りに向かった。


 と。ここであたしは、あることを思い付いた。


「あーっと! しまった、テントに忘れ物しちゃったあ! 二人で先行っててくれない? 行列が終わってから連絡するから!」

「えっ、じゃあ一旦一緒に戻って」

「あたしはともかく與野木君は絶対見なくちゃ駄目でしょ! 早く行かないと終わっちゃうよ? 七村、あたしの分までしっかり見て、後でどんなだったか教えて!」

「……分かった」


 あたしは與野木君達と別れると、再び先生のいるテントの方へと戻った。


 よし、これで與野木君と七村は二人きり。

 やったね作戦大成功♡



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