坂口美由紀の場合
物事を客観的に捉えるというのは
美由紀にとって得意だった。
年の割に大人びいた発言は
無意識に客観視するとこがあるからかもしれない。
だから
直人に「大和が好きなんでしょ」という
安い挑発のようなものにも
動揺するなんてことはなかった。
大和が可愛いと思うのは
鈍感な芽衣に振りまわさているところだ。
だから
芽衣がいなかったら
大和なんて何の価値もないだろう。
芽衣があってこその大和だ。
そう考えた。
うん、間違ってない。
それなのに
なんでこんなに心臓がうるさいのか。
「あのね、バレンタインかなって!」
目の前にいる鈍感女が
急に高い声をあげた。
我に返る。
「美由紀、聞いてなかったでしょ」
「あぁ、ごめん」
「もう、だからね。
やっぱ告白するならベタだけど
バレンタインかなーてさ」
カレンダーを見る。
あと2週間後くらいか。
「ねぇ、やっぱ本気で告白すんの?」
「当たり前じゃん」
芽衣は決めたら
けっこう頑固なところあるからなぁ。
「ていうかさ、
直人くんて彼女いないの?」
「ふぇっ?」
「だって見てくれだけは
けっこうイケてるじゃん」
「見てくれだけ、て何よそれ!」
芽衣が怒ったようなふりをする。
あぁ、本当に鈍感なんだ。
直人が優しいのはきっと大和が絡んでるから。
つまり
あんな腹黒いブラコンはいない。
性質の悪いエグい性格してるからな、あいつ。
「どうだろう、確かに。
考えたことなかったかも」
「でしょ、いたらヤバいじゃん」
「でも、絶対、私の方が好きだけどね」
芽衣は胸を張る。
胸を張って言うことなんだろうか
と美由紀は苦笑いする。
というか
何でこんなこと言うんだろう。
直人が重度のブラコンすぎて
彼女がいないのなんて知ってる。
わざわざ
何で芽衣の気持ちが揺らぐような発言するのか
自分でも理解不能だった。
芽衣が告白するのをやめたら
この関係が壊れることはない。
「美由紀ちゃんて、大和のこと好きでしょ」
直人の言葉が浮かぶ。
慌てて頭を振る。
違う、絶対に違う。
「当たって砕けろ、バレンタイン作戦!だよ」
芽衣は
こっちの気も知らないで
意気揚々と告白に向けての意気込みを語っていた。