竹内大和の場合
やべぇ、やっぱ怖い。
校門の前でこうして30分以上は
ぐるぐると動物園の熊のように歩いているだろう。
こうなることは予測出来てたから
あらかじめ早めに来ておいて良かった・・・。
いや、良かったじゃねぇ。
早く入らないと。
自分にノリツッコミをいれつつ
そうやって悩んでいたが
向こう側から誰かが歩いてくるのが分かる。
目を凝らすと美由紀だった。
安堵でため息が出る。
大和は偶然を装って
美由紀に声を掛ける。
美由紀のほうも
特に気にするわけでもなく
一緒に行きましょう、と言ってくれた。
そこから
美由紀が用意してくれた
窓から校舎に侵入をするが
「じゃあ、職員室に行くから
大和は4組に先に行ってて」
と言われたときは
俺も着いていく、と言いそうになった。
でもそれを言うと笑われそうなので
ぐっ、とこらえてお守り代わりの
ペンライトを右手でしっかり握る。
「お、おう」
しばらく
茫然と職員室に向かう美由紀を
見つめていたがやがてそれも消えた。
よく明りもなしで
こんな暗いとこ歩けるよな、あいつ。
とか思いながら
覚悟を決めてペンライトを握ると
大和も4組に重い足取りを進めた。
異変に気付いたのは
音楽室の隣にある教室に差し掛かったところだ。
物音がする。
耳を澄ますほどそれは鮮明に聞こえた。
すぐにこの高校に伝わる
音楽室にまつわる怪談話を思い出し
背筋が凍る思いをする。
しかし、ここを通らないことには
4組には辿りつけない。
周り道をして
逆方向から行くのもいいが
そこには理科室があってそれも嫌だ。
まだ、音楽室の幽霊のが
何倍もマシだ。
ペンライトをぐっと
握ると音楽室の方に明かりを向ける。
「・・・っ!!!」
声にならない叫び声が
喉の奥で鳴る。
大和が見た光景は
楽器が一人で歩いているのだ。
吹奏楽部でない大和には
それがなんの楽器か検討もつかなかったが
すごく大きい楽器がのしのしと行進している。
そして
確実にこちらに向かってきている。
逃げなきゃ・・・。
そう考えたが
腰が抜けたようで
思うように足が動かない。
音楽室の扉が開き
いよいよ大きい楽器が迫ってくる。
大和は右手で握っていたペンライトを
大きい楽器に向かって投げつけた。
鈍い音がする。
大きい楽器は怯んだように
動かなくなった。
その隙をついて
大和はダッシュで掛けだした。
芽衣を守らないと。
その一心で4組に走る。
4組の前には芽衣がいた。
走ってくる大和に気付く様子がない。
「芽衣っ!」
叫ぶとこちらを見た。
暗闇で表情は見えない。
そこでやっと
ペンライトを置いてきたことに気付くが
取りに帰るなんて考えたくもなかった。
芽衣を無理やりおんぶすると
音楽室とは逆方向の理科室に向かって走る。
そこから下に降りて
校舎に入ってきた窓に向かおうと考えた。
背中で
芽衣が何か言ってるが
相手にしてる暇はない。
とにかく走りまくって
ようやく窓に着いたときは
安堵感で倒れてしまいそうだった。
大和の背中から芽衣を降ろす。
芽衣が何か言いたげに
大和のほうを見ているが
息切れで大和は肩を揺らすだけだった。
「きゃあああああああっ!」
悲鳴が聞こえたのはその直後だ。
その声は
美由紀だ・・・っ!
きっとあの
大きな楽器に追われてるに違いない。
大和はそう確信すると
「早く家に帰れ」と芽衣に伝え
悲鳴のした方向に走り出した。
美由紀は音楽室の前で失神していた。
大きな楽器はいない。
何があったか分からないけど
とりあえず芽衣と同様におんぶして
窓に向かう。
早く家に帰って寝たい。
大和は疲れ切った頭でそう考えていた。




