西田芽衣の場合
待ちに待ったバレンタイン当日。
芽衣はうきうきして
約束の時間の1時間も前に学校に到着した。
16年間も片思いしていた相手に
思いを告げるとなると浮き足もたつものだ。
美由紀に言われていた
窓は簡単に開き、すんなり校舎に入れた。
しかし、困ったことに
校舎に入った途端、左右の方向感覚が分からなくなった。
暗すぎるのだ。
明かりくらい持ってこれば良かった。
もともと方向音痴であるのと
1年しか通っていないこの高校は
田舎のためか無駄に面積だけはあって
たちまち芽衣は自分がどこにいるのか見失った。
その時だ。
ガラスの割れるような音がしたのは。
考えるよりも先に
足が音の方角に進む。
そして
芽衣は自分の進んでる方向が
職員室に向かってることに気付いた。
4組とは真逆にあるが
せっかくなら音の原因くらい確かめときたい。
と芽衣は感じて
そのまま職員室に足を進めた。
案の定、割れていたのは
職員室の窓だった。
誰がこんなことしたんだろう。
と不思議に思いつつ
中の様子をそおっと覗く。
すると
職員室の中は真っ暗だったが
一点だけ明かりが見えた。
誰かがライトを持ってるのだ。
しかも、それだけでなく
職員室を漁ってるのが分かる。
「あの、そこにいるの誰?」
芽衣の声は
ライトを持っている主に聞こえたのか
明かりが消える。
何で消しちゃうのよ、何も見えないじゃない。
と文句が喉まで出かかったが止めた。
美由紀かな、
と思ったのだ。
教室の鍵を開けようとしたけど
職員室の鍵は開いていない。
そのことに気付いた
美由紀は迷ったがこう思ったのだろう。
大事な親友の
告白のためどうにかしないと!
そして
強引ではあるが窓ガラスを割ってしまった。
そこまで考えると
芽衣は涙が出てきそうだった。
私のために
美由紀は罪を犯してまで・・・。
それなのに私は
それに気付きもせずに無神経にも
声を掛けてしまった。
ライトを消したのは
美由紀がきっと見て見ぬふりを
してほしいからに決まってる。
芽衣は
そう考えると職員室を後にし
逆方向にある4組に戻った。
しばらくしてから
「芽衣っ!」
と呼ぶ声があった。
直人にいちゃんだ。
と芽衣は思った。
「待ってたよ!」
と芽衣が声を掛けるが
何だか様子がおかしい。
そして驚くことに
強引におんぶされたのだ。
よく理由が
分からないけど
なにか焦っているようだ。
芽衣をおんぶして
そのまま走りだした。
芽衣は焦ってる理由を考え
先程の美由紀のことを思い出した。
きっと
直人にいちゃんもあれを見て
美由紀が職員室の窓を割るという
罪に驚いて逃げてきたのだろう。
それをフォローするように
芽衣は何かしらの言葉を掛けるが
直人にいちゃんは芽衣をおぶって走っているのに
必死で何も聞こえていないようだった。
そして
校舎に入ってきたときの窓につく。
直人にいちゃんは
芽衣を背中から降ろすと
しんどそうに
肩を揺らしていた。
「きゃあああああああっ!」
美由紀の叫び声だ。
何があったんだろう!
芽衣がそう思っていると
直人にいちゃんは
「先に帰ってろ!」
と芽衣に言う。
相変わらず暗闇で
直人にいちゃんの表情は分からないが
美由紀を心配してくるのは伝わった。
状況はいちまち掴めないままだっだが
告白する状況でないことは分かったので
素直に頷く。
走る直人にいちゃんを見送ると
芽衣は窓から校舎の外に出た。
月が雲で完全に隠れてる。
今日の直人にいちゃんは
ちょっと強引だったけど
カッコ良かった。
と思いつつ
校門に向かう。
すると
誰か校門から人が出て行くのが見えた。
もしかして、大和?
「おーいっ!」
芽衣がその人に向かって
叫ぶと慌てたように逃げて行った。
相変わらず
大和はよく分からないな。




