神様の意地悪-8.
中間試験が明けるのを待って、第二回の委員会が招集された。
相変わらず席はクラスの順で決められており、円香は一言二言、陽太に当たり障りのない挨拶をしてから席についた。時間ぎりぎりを狙って移動してきたおかげで、振り返った陽太がそれ以上話しかけてくる前に、委員長が教壇の前に立った。
今日は役割決めをすると宣言すると委員長は黒板に班の名前と作業内容を列記していく。
学園祭実行委員の仕事は裏方仕事の運営管理に、飾りつけ、さらに表舞台に立ってオープニングアクトの司会に後夜祭の司会、学園祭期間中の外来受付など多岐に渡る。委員が60名は多いように見えるが、全員に容赦なく割り振れるくらいの分量の仕事がある。黒板を埋め尽くす程に書きこまれた班の数をみると渋々委員を引き受けた円香などはげんなりしてしまう程だ。
やっと班ごとの作業の説明が終ると、人の割り振りが始まる。鈴鳥高校は進学校であるから夏休みが受験に向けての勝負時の三年生は優先的に当日以外の負荷が軽い仕事に回される。一度も学園祭を経験したことのない一年生に企画の切り盛りは荷が重い。準備の中核や当日の大きなイベントを取り仕切るのは自然と二年生になる。
「部活などがあって放課後あまり時間の割けない人は先に言ってください。」
委員長はてきぱきと、暇人をあぶり出す。帰宅部の二年生委員はたったの五人で役付きではないのは円香を含めて二人だった。
これはまずい。
円香は思わず顰め面をしたが、状況は変わらない。せめて少しでも楽な役を引き取れないかともう一人の帰宅部の二年生を確認し、これはいけるかもしれないと希望を抱いた。なぜなら彼が首席で入学し、その後も成績トップを常に争っている有名人だったからだ。付け加えるならば、黒江龍一というその男子生徒が飛び抜けて有名である理由はその成績よりも外見に理由がある。彼を語る時について回る言葉はクールビューティー。例え中身が鬼畜系と言われてもなお人気は衰えないであろう怜悧な美貌の持ち主だ。艶やかな黒髪、涼しげな目元、綺麗な歯並び。そしてモデルかと思う程に均整のとれたスタイル。美しいだけでなく鋭さを備えた冴え冴えとした美貌。しかも不思議と入学以来彼女がいるという噂がないので、女子生徒の絶好の攻略ターゲットともなっている。初回の委員会では黒江を発見した一年から三年までの女子生徒がそれぞれに顔を見合わせて隠しきれない笑みを浮かべたものだった。
良い方にも悪い方にも円香の予想は当たり、大変そうな班の中で地味な方を円香が、人前に出る必要がある方を黒江が引き受けることになった。外部の生徒も多く訪れる学園祭のステージの司会は学校の顔。人前に出ることが得意ではない円香はあからさまに優秀で顔の良い人がいてくれて良かったと胸をなで下ろした。
円香が担当するのは案内班。当日は外来の客を案内するだけだが、ついでのように当日配布する構内図の作成から印刷手配、迷子の案内の用意や応急救護のための保健室との連絡までいわゆる裏方を一手に取り仕切る班だ。
主要な役職を割り振ると後は適当な頭数合わせになる。陽太が円香の班に割り振られてしまったのは円香にとって不幸な偶然だった。ここまで離れられないなんて運命だわと思いこめる心の強さがあれば、去年のうちに告白だってできていただろうが生憎と円香にはそれだけの根性はない。よろしくな、と振り返って笑う陽太に頷き返しながら円香は心の中で「神様、恨みます」と嘆いた。
「では今日はそれぞれの班で名簿を作ってください。細かいことは次回以降進めましょう。あと、班長だけ少し残ってください。」
委員長の指示で生徒達は班ごとに教室の隅に集まる。
「案内班はこっち集まって―。」
明るい声を上げたのは陽太だ。人見知りの円香にとって知らない人がたくさんいる教室で大声を出すのはかなりの勇気がいる。本来ならば班長の自分がやらないといけないところを先に声をかけてくれた陽太に礼を言うと、彼はにっこり笑った。
「苦手だろ?」
仰る通り、と頷きながら顔を俯ける。こんな風に気を遣ってもらったら、忘れるどころの話ではない。今年こそは恋を忘れて心穏やかに過ごそうと思っていたのに、どうしてこんなことになってしまうのか。
神様は意地悪だ。