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ロンド  作者: 青砥緑
番外
61/64

あなたの本音

 果たして恋人からの期待値が上げられ過ぎて困るのと、何も期待されないのと、どちらが辛いのだろうか。




 以前に戯れに円香が森野の手帳に落書きした内容が、彼女の誕生日だったことが森野の幸せな悩みのきっかけだった。当日どうやって過ごそうかと希望を聞いてみると、拍子抜けする答えが返ってきた。

「別に特別なことしないで良いよ。」

 そう言って円香はにこにこしている。悪気がないのは分かっているけれど、こうまで期待されないとちょっとがっくりしてしまう。声にまでその気分が出てしまったのは仕方ないことだと思う。


「俺にも彼女の前で良い格好したいっていうくらいの甲斐性はあるんだけどな。」


 格好つけても格好つかないタイプなのは分かっている。黒江や陽太のようにデートを演出して格好をつけたら様になるタイプと、森野のようにどうも決まらないタイプがいるのだ。僅かに17年の人生でもそれを思い知らされる機会は十分にあった。さらに森野は高校デビューすれば自分が別人のようになれると思うほど、夢見がちな少年ではなかった。

 だからと言って、好きな女子にくらいは、まして相手が彼女であれば、良く思われたいという気持ちが湧かないほど枯れてもいない。どんなに落ち着いてみえてもそこはまだ17歳だ。


 森野は格好いいよ。

 少女漫画なら、ヒロインの台詞はこの一択だ。しかし円香の目から見ても森野は格好いい男子生徒という括りではない。何より格好つけたいとか甲斐性とかいう単語が、あまりに彼の達観したようなキャラクターにそぐわなくて、驚いて、ただまじまじと彼を見つめ返してしまった。


 あ、しまった。


 恥ずかしそうに視線を落とされて、最初の反応を間違えたと思ったけれど過ぎた時は戻らない。

「今のままで、格好いいよ。」

 とってつけたような言葉に森野は「はは」と力なく笑った。そんな情けない顔をさせたのは円香自身のくせに、気にいらなくてむっとする。

「格好いいったら。」

 少し強く繰り返せば森野は気を遣われたと思ったのか眉尻を下げる。

「うん、ありがと。」

「あ、信じてないでしょ。」

「信じてるってば。」

 円香はじっとりと森野を見上げた。格好いいとか、悪いとかじゃないのだ。円香にとって森野はそういうのではなくて。

「尊敬、してる。」

 思い浮かんだ言葉を口にすると、森野はちょっと驚いたように円香を見つめ返した。

「優しいところとか、素直なところとか、私には真似できないから。そういうの格好いいっていうか、むしろ尊敬してる。」

 もう一度言葉を継ぎ足せば、森野は珍しく嬉しそうに頬を上気させた。それから、はっとしたように目を見開くと急に項垂れてしまう。

「何。嫌だった?」

 円香の問いかけに森野はふるふると首を横に振る。

「いやさ。」

 そういって顔を上げた森野は相変わらず頬が赤いまま、難しげに眉を寄せている。

「そういうの言えちゃう八坂の方が、よっぽど潔くて、男らしくて、格好いいなと思って。」

 俺、格好悪いね。そう言って森野はごつんと机におでこを落とした。落ち込む理由が何だか可愛く思えて笑ってしまう。目の前に晒されている後頭部に手をおいてわしわしと乱暴にまぜてやった。

「かっこ悪かったらいけないの?」

 笑いを含んだ声で円香は問う。森野がこんな風に無防備に感情を見せるのは珍しい。だからもっと彼を驚かせて、もっと色々な表情を見てみたいと思った。


「それでも、好きなのに。」


 ぽつりと、確信犯でこぼすと突っ伏したままの森野の肩がびくりと震えた。円香の表情を確かめるようにそうっと顔を上げた森野はもう頬どころか眦も赤みを帯びていて妙に色っぽい。

「そういうの反則だからやめて。」

 苦しげに懇願する森野を見て、円香は笑う。



 ときには反則技でも使わなければあなたの本音が見えないじゃない。




反転-2. で円香がやっていたイタズラの答えは「勝手に手帳に自分の誕生日を書き込む」でした。

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