表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロンド  作者: 青砥緑
本編
39/64

学園祭-2.

 学園祭初日は午後から一般公開が始まる。

 加奈はパンと牛乳だけのお昼を急いで飲み込んで、料理部のお店にケーキを運び込んで開店準備を手伝った。午後の真ん中の時間に受付横の特等席での販売枠をもらっている。そこまで加奈はずっとお店の後方支援で調理室からのケーキの運搬や、売り子シフトの部員がドタキャンした場合の補充要員になる。他の部員と一緒に綺麗にラッピングされたケーキを並べながら、空き時間にどのクラスの出しものを見に行くか、午前中のステージではどのバンドの誰がかっこよかったかと口も手も忙しく動かし続けた。

 13時になって、ちらほらと見慣れた制服ではない来場者が廊下に現れ出した。高校見学にくる中学生。子供の学校を見に来た保護者や家族。鈴鳥高生の友達に誘われたのだろう他校の生徒。

「料理部の手づくりカップケーキ、いかがですかー?」

「お持ち帰りもできますよー。」

 廊下に面した窓をカウンターに見立ててケーキを並べた奥から部員たちは声をかける。特に顔見知りの級友が来ると名指しで呼びとめては、売りこんだ。その活気につられるようにちらほらと外来の客たちも立ちよってくれる。やはり特に女子生徒と、夫婦で訪れる保護者のお母さん達の人気が強い。

「あら、可愛いわね。」

 にこにことケーキを手にとって家で待っている弟妹の分までと買ってくれるお母様には全員で最敬礼だ。

「ありがとうございました!」

 元気っぱいに見送られた夫婦は、おかしそうに笑いながら仲良く並んで手を振ってくれた。

「うわあ、いいなあ。誰の御両親だろう。仲良さそう。素敵ー。」

「ねえ。うちの親父なんて私の学校行事きたことないわ。今更来られても気持ち悪いっていうか。」

 女子高生のおしゃべりが終ることは無い。


「みんな、そろそろ出番だよー。」

 調理室に声をかけにきたのは部長と副部長だ。15時から本日の外来終了まで。外来受付横のベストポジションでケーキ販売をする。今年の料理部最大の勝負の時間帯だ。

「一分たりとも無駄にせずに完売させるからー。なんなら明日の分のケーキ出しちゃってもいいからね。」

 常にどこか気だるい雰囲気の副部長は、まったりした口調ながら部長同様に過去最高益を出したいらしい。目が本気だ。

「じゃあ、移動開始!」

 一番乗りの一番いい時間でベストポジションを勝ち取れなかったのは残念だったけれど、持ち帰りできるケーキは来場者が帰るときにお土産にしてもいいから敢えて夕方に回されたらしい。場所交代のために校門の入ってすぐに並べられたテントに向かえば、そこを陣取っているのは腕相撲&クレープ販売という不思議な取り合わせのイベントを行っているレスリング部だった。

「あー、まあ、腕相撲もクレープも持ち帰りはちょっと無理だよねえ。」

 部長は苦笑いで、白熱する腕相撲大会をみやった。男子生徒は完全な力比べとして盛り上がっているが、女子部員が相手になる入門編~中級編のコースには女の子と手を繋ぎたいだけの男性がちらほらと混じって見える。

「女子高生と腕相撲とは、あざといな。レスリング部。」

「でも、大丈夫なのかな。みてよ、あの人とか。絶対女の子狙いでしょ。」

 ぶつぶつ言いながら、見ているといかにも怪しげな男性が出てくると、それまで女子部員が担当していたコースの対戦相手が唐突に一年生の男子部員にすり替えられた。なるほど、そうやってちゃんと配慮がなされているんだね、と料理部員たちは囁き交わした。

「男同士でも、知らないおじさんと腕相撲って微妙だろうけどね。ファイト、一年坊主!」


 そうこうしている内に、交代の時間がくる。

「よっしゃ、行きますか!」

 立ち去るレスリング部員たちに「お疲れ様」と愛想よく手を振りながら、部長はてきぱきと指示を出し料理部員たちは素早く売り場を整えて行く。加奈もテントに入って横を見れば外来受付には円香の姿があった。目があったので軽く手を振れば、にこりとして手をあげかえしてくる。見る限り、受付はきちんと捌かれている。毎年一人や二人は酔っ払いや、ひどく柄の悪い他校生がやってきて教師の手を借りることになるのだが、今のところそういう手合いの来場者はみかけない。円香が一緒に受付を担当している生徒と何事か話して小さく笑いながら作業しているのを見て、ほっとしながら加奈は少し離れたところに積んでおいたケーキのトレーをテントに移すべく、テントを離れた。


 苛められてないみたいで良かった。けど、そろそろ、こういう心配するの過保護なのかなあ。


 自分の心配性について考えながらせっせと看板やケーキを運ぶ。数回往復すれば終わる作業だが、好天のおかげで暑い屋外での力仕事に一度は引いていたはずの汗がすぐに噴き出した。首から下げたタオルはもう随分湿っている。制服のシャツは背中はべったり貼りついて気持ち悪い。最後の一つだ、よっこいしょ、と声をかけてケーキの入ったトレーを持ちあげたところで声をかけられた。

「おお、やってるね。次は料理部か。」

 ひょいと顔を覗かせたのは、今日一番忙しいであろう向井だった。

「あれ、向井君。おつかれさま。」

「うわあ、汗だくだね。」

 加奈の顔を見て向井は噴き出して両手のふさがっている加奈の代わりに、その首にかかっているタオルを掴むとおでこから流れ落ちていた汗を拭ってくれた。

「あ、ありがと。」


 ああ、そのタオル私の汗で既に超湿ってるのに。触らないで欲しかったあ・・・。


 心で泣きながら、加奈はひきつった笑顔でお礼を言う。向井はそれに気づかない様子で料理部のテントに入って行くと「いいねえ!」などと商品のケーキを見てひとしきり部員を盛り上げている。部長は得意満面に胸を張って「誰が監督してると思ってんの。向井君。」と軽口を叩いている。すかさず「面倒なことはぜーんぶ加奈ちゃんと私に押し付けたくせにね、監督。」と副部長が突っ込むのはお定まりのパターンだ。向井は「いいチームワークですね」などと笑っている。

「じゃあ、初日の締めまで一つよろしくお願いします!」

 向井はテントを一歩でたところで真顔に戻ると腰を追って部員たちに頭を下げた。

「どーんと任せなさい!」

 真面目な向井に対して、一向にゆるさの抜けない部長は小さな体を逸らせて胸を叩いてから、テントに戻るタイミングを失ってトレーを抱えたまま向井の後ろにつったっていた加奈にウィンクした。

「ね、加奈ちゃん。」

 突然、指名された加奈は目を何度か瞬かせてから「はい!」と元気よく返事をした。こういうときはノリだ。

 頭を上げた向井もニカっと笑うと「頼むぞー。」とバンダナを巻いた加奈の頭をぐいと押さえた。


 ああ、頭もきっと汗で湿ってるのに。だから触らないで欲しかったのに・・・。


 加奈の少し困った顔をどう思ったのか、向井は「ごめん、ごめん」と片手をひらひら振る。続けて何か言いかけたところで遠くから向井を呼ぶ声がした。

「おおい、実行委員長。ちょっと顔貸せ!」

「なんかあったかー?」

「どっかの馬鹿がガラス割ったぞー。」

「マジか!その馬鹿吊るす!」

 向井は大声で怒鳴り返しながらそのまま駆けだして行く。実行委員長はやはり多忙なようだ。呆気にとられて見送っていると、彼は一度くるりと振り返って両手を目一杯に振った。

「料理部、頑張ってねー。」

 そう叫ぶと、呼びに来た男子生徒に連れられて人混みに紛れてしまう。


「いやあ、慌ただしいねえ。」

 部長はもういない向井に手を振り返して笑っている。

「でも、忙しい実行委員長直々の激励も貰ったことだし、頑張っちゃいますか?」

 おどけた調子で部員の一人が声をかけると、料理部員たちは「おー!」と大きな声をあげた。


 加奈も輪に加わろうとテントに向井って一歩踏み出したところで嫌に耳につく笑い声が背中から聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=757023255&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ