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四話


 翌日。


「あ、もみじさん、遅いデスよぅ、なにしてたんです?」


 ずだん!と思わず昔懐かしなリアクション(心の中で、またはアニメ的表現のみで)をとった僕はとりあえず、自分の席に座り、隣に座っている彼女に話し掛ける。


「なんで!?」


「いやいや、またあとでー、と言ったじゃないですか」

 今朝の話である。

 もみじが学校に行く時間、確かに彼女は起き抜けで――

 もみじが作った朝食を食べ――

「ひってらっひゃーい……」

 と送り出してくれたのだった。あれは、悪くないね、と二五のオッサン的発想を心の中でしてしまったのはちょっと恥ずかしい記憶である。

 ……実際そういうので落ちるんだよなぁ……恋の道。

「速過ぎない!?ちゃんと化粧も施してあるし!?」

 寝起きのすっぴんからバッチリナチュラルメイクが施されている。

「まぁまぁ、それくらい時間短縮の秘儀を使えばあっという間ですよ。高次元魔法はこういう時にこそ使わなくちゃ!……ていうかよく見てますね。嬉しいです」

 なんか違う!と思ったが、もみじは黙ることにした。


「恋する乙女は戦わねばならんのです!」


「一体どこに向けての発言……ていうか!なんで妙子が此処にいるの!?てか制服!?うちのクラス!?え、どういうこと!?」

 まるでそんな話は聞いてない。つか戸籍とかどうしたんだよ。

「やだなぁ、そりゃもうあれですよ、もみじさん。裏口入学っていうか、賄賂の駆使っていうか?まぁそういう裏技はけっこうあるもんなんですよぉ」

 それくらいよゆーでちゃんちゃんこですよ、と続ける。

 ……

「あまり知りたくない事実だなぁ……」

「まぁ言わずに……どうです?」

「……ナニが?」

 机の上で足を組んでしなを作って……魅惑のデルタゾーンが!


「ガン見じゃないですか!?」


「馬鹿な!?この清廉潔白エロ心は虚栄心です魅惑のデルタゾーンってなに?のこの僕が!?見ていない!見ていないってば!見ていないぞぉおおおお!」

「いやいや、その台詞だけだとそう聞こえますが、私が話している最中ずっとガン見ですよ!?どこぞの変態熊男君よりヤバイですよ!?齧り付きじゃないですか!?」


「いやいや、そんなみずた――まぐるばぁーーーーーーーーす」


 突然――顔面に衝撃が走り、座っていた椅子事ごろんごろんと身体が吹っ飛ぶ。


「見てんじゃないの!」


 ……的確な突っ込みと言えるだろう……。

「いちちちち……アレ?香苗じゃん、おはよう」

「そうよ!あたしが水守香苗!幼なじみよ!?誰よ!この彼女!いつの間に彼女作ったのよ!?なんで一緒に住んでんの!?(ざわわっと教室がざわめく)てかなんでもみじはさっきから魔の三角地帯をガン見!?そんなに痴態が見たいならあたしのちた――っ!?」

 と、彼女の台詞の途中で見えるか見えないかギリギリのカメラワークで妙子がドロップキックをかます。

「ちぃ、外しましたか!ももじさんは私のですよ!あげません!(さらにざわわとなる教室)」

 勿論、僕の背後の襟を掴み、香苗がさっと避ける。

「ナニよ!あたしはお隣って時から運命を感じてこれまでいろいろな記録を――ってこらぁ!?ちょっともみじ!?なんで下半身が(どよよとどよめく教室)――ってこらぁ!?ちょ――えっと、妙子さん?なんでもみじの下半身からズボンを脱がそうと――」

「ふふん、こうなったら仕方ありません!ももじさんには社会的に抹殺して貰い、私の庇護によってのみ、生きながらえるナイチンゲーロ症候群にかかって頂くんです!私が食品を買わなければ――そう!生活することもままならない!私がトイレに連れてってあげなければ、用さえも一人で足せないダメ人間に!」

「脱がすなぁ!やめれぇ!?てかゲロじゃない!ゲロじゃないよ、妙子さん!ゲールですよ!ゲール!使い方間違ってる――って僕の――え!?なんでパンツまで!?うわぁ―っ!?てか、香苗!なんで『その手があったか』みたいな舌打ちと表情してるんだよ!鼻息荒いよ!?どうして!?てか脱がすな!二人して脱が――上半身も!?変態だ!変態がいるぅうう!?クラスの皆――クラスの皆はどうして……って誰一人こっち見ていない!逆に不自然だよね!?オカシイよ!皆ぁ!」


「いや、頑張れよ?そういう性癖も……大変だよな?」


「岡島ぁ!?小学校からの友情は!?何処に行っちゃったの!?」

 何故かこっちを見てくれない友人達と僕の服を脱がして愉快な公務員の前に引き立てようとする阿呆な同居人(ちなみにナイチンゲール症候群は看護をしている人が罹患する病名である)と幼なじみという異様な状況の中――


「(がらっ←教室のドアが開く音)……教室を間違えました」


「先生!?せんせーっ!?どうして見て見ぬ振りを!?」

 僕と目が合ったにも関わらずすぐさま出て行こうとする担任に叫ぶ。てか後ろに居る業者(なんか色々と抱えている)が困ってるだろ?

一瞬立ち止まり(めんどくせぇな)という声が聞こえた気がしたがまぁ聖職者たる学校の教師だ――そんなことがあるわけが――


「(じゃあ朝のホームルームはじめようか)リア充爆発しろ」


「あったよ!ちょっと!無茶苦茶だよ!え?こんなクラスだったっけ!?てかせんせーっ!?本音と建て前が絶対逆ですよ!?それ!」


「(ふふふっ、今日も元気に学校生活を送りましょう)先生もそういう特殊性癖があってな……どうして俺の嫁はディスプレイの外に出てこれないんだろうな?」


「だから逆ですって!?先生!?」

 あんまりのわけのわからなさに先生も頭が爆発(ショート)したらしい。


「(皆元気か?ナニか相談があればすぐ俺の所に来い)どうも生まれてくる次元を間違えたようなんだ、オカシイよな、ははははは」


「可笑しくないです!可笑しくないですから!先生!間違っているのは認識です!」


「(ダイジョウブか?門司間?保健室にでも行った方がいいんじゃないか?)馬鹿野郎!オマエ!俺の嫁をバカにするのか!?そこで目を食いしばれぇぇええ!」


「あんたホントに教師か!?てか――え?マジ?真面目に!?うそっ!?あれ?妙子……さん?ちょっと――って、あれ香苗?どこ行った!?……って普通に二人ともクラスメイトと会話してる!?そして僕は半脱ぎ(過小表現)のまま放置!?え?なんで来るんです!?先生!え?目?目を……食いしばれ?……マジスか?いやいや、歯でしょ、歯。普通歯ですよ……じゃあそれでいい?――ちょっとマジスか!?――だぶら――」


「……………………ヒドイ目にあった」


 あれはもみじが悪いって、と言いながら岡島が僕の弁当をつまんでいく。

 昼休みである。いや、それはない、と言いながらご飯を食べる。

「そうですよ。全く。大事なもみじさんの顔面をグーパンチなんて……もみじさんがあんなパンチに耐えられるわけないじゃないですか!貧弱なんですよ!どこまでも!もみじというよりもやしですよ!……ナニ泣いているんです?もみじさん?え?フォローになっていない?いやいやそんな馬鹿な!……じゃあこれからフォローしますから!……昨日だって箪笥の角に小指をぶつけて『この角を壊すためなら……僕は!』なんて一人芝居をやっちゃうんですから!」

「やってない!やってないよ!?そんな阿保なこと!?しかもマジでフォローじゃねえし!ナニそれ!?何ですか!?それ!ビックリですよ!僕!てかそれをまるで見てきたかのように表現するの止めてくれない!?完全に思い込まれてるよね!?」


「いやいや、そんな馬鹿な……ダイジョウブですよ、皆ももじさんがそういう人だって、ばっちり思ってます」


「……そうだよね、それなら――ぜんっっっぜんダイジョウブじゃないよね!?かんっっっっっぜんに思い込まれてると言って過言ではないよね!?ね!?」


「……まぁ学校に行く途中にも『これが電柱?……笑わせる!はっ――俺のスパニッシュ・ハムカツを――舐めるなよぉおおおお!ずどーん!どどどどびゅーん!』なんて誇大妄想してましたもんね?」

「してない!していないと思いたい!ていうか再現率高過ぎじゃない!?なんかやっていないのにやったような気になるような動きしないでよ!中途半端に僕の動きの真似が上手い!?どうして!?」

「そ、そんな事言ったらアレだもん!あたしだって見たモン!『こ、これが電柱!この肌触り、そして質感――グレーのテクスチャアが僕の心を惑わせる――おいでよ、君の心をそれこそ溶かしてあげよう――ボトルナックのように!』って電柱を口説いてるもみじが――」

「なんなの!?この会話!ひたすら無駄でしょ!?ていうか香苗まで!しかも上手いし!エロイし!ていうかそんな僕は阿呆なことを――」

「「こんなキメ顔で」」

「………………………(似てる!)」

「「さらに角度はこう」」

「………………………(何故それを知っている!僕の二段階キメ顔を!)

 しかも、二人して再現率が半端無かった。

 どういうこっちゃ。

「てかももじさん、ももじさん」

「それ完全にわざとでしょ!?妙子!狙ってやってるよね?」

「え?なんのことです?もみじさん?」

「小学生、か!」

「……古くないですか?」

「それを言われると……対応しようがないというか……」

「……と、ところでもみじさぁ……」

「なに?」

「お、お弁当食べない?」

 見れば彼女が広げるお弁当は美味しそうに拡がった桃源郷――過去の体験談によると火照ったり、なんか気合いが入っちゃったり、かの天使のアニメでびっくんびくんするような、こうヤバイ感じになったような記憶があるがまぁ今日はダイジョウブに違いない。何せ――


 旨そうなのだ!


「いいの!?」


「勿論!男を掴むならまず胃袋を狙えってね……」


 なんか呟いてたが……まぁ目線は完全に鳥天(鶏肉の天ぷら)、と皆大好き唐揚げ――それにチキチキボーンが入った僕の好み満載のお弁当に夢中だった僕には耳に入らなかった。チョロい男である。

「じゃ、じゃあ一つずつ――?あれ?なんで香苗が――」

「あーん」

「え!?ナニそれ!?いきなり!?いやまぁ小学生とかの時はよくやってたような気がしないでもないけれど――高校生だぜ!?つい昨日までそんなことをしたこともなかったのに――ってちょ、押しつけすぎ!押しつけすぎだよ!?いや、食べる!食べるってば!あ――んぐらっぷるぅ!?」

「あぁ、もみじぃ!」


「ちょっとなんです!手作り弁当って!そのスキル羨ましいんですけど!」


「オマエさり気なくパンチか!そしてスルーか!」


「あら?妙子は料理下手?」

「さらにスルー!?泣いていい!?泣いて良いよね!?これ!」

「そ、そんなわけないじゃないですか!私が作ったお弁当はそろこそ一口食べた瞬間、怪光線が発射され、キャノン砲もかくやと言われる威力に加えて、しかも無茶苦茶旨くってホッペタが溶解して妖怪みたいになるっていうくらい――」

「……なぁ、妙子、それってまず―――らぐんでっしゅ!?」

「やだなぁ、ももじさん、そんな、う・ま・い、だなんて、えへっ、照れちゃいますよ?」

「いだだだだ、いだい!『…………ぐれいと?』――じゃねえよ!偉大じゃない!誰がそんなしょうもない駄洒落を――っていだだだだ!てか偉大なお弁当ってなんだ!のり弁か!痛い!ってか痛い!なんだその照れ隠し!おかしいだろ!それに僕はま――ずるふぉばー!」

「どうしたんです?ももじさん?さっきから一人で転げ回ってバカみたいですよ?」

「(いかん!これではなんとなく嫌な予感しかしない!素直にウソをつけ!)確かに昨日妙子が作った料理を食べたけど、旨かったよ」


「……あーん」

 なんかすげえホッペタをぴくぴくさせながら……笑顔なのに恐怖を感じると言う……

 なんだろう……。此処で食べないと何かが始まってしまうような……

 でもまぁ――って、


「ちょ、香苗さん!?なんでいきなりそんな近くにぃ!?いや、わかった……食べる!食べるよ!だから回り込もうとしないで!?うん、はぐっ……旨い!凄く旨いよ!?」


「でしょう?ふっふーん」


「てか確かにぱない!なんだこれ!身体の震えが止まらない!(がくがくがくがく)というかなんか身体が火照ってきた(ごごごごごごごご)!熱い!熱いぞ!これはぁああああ!(にゅぼろぼろろろろろろ)なんだ!?力がわき上がってくる!学業にまるで関係ない部分が元気だ!(どっぎゃーーーーん!!!)人生には必要だけれど!なんだこのご飯!ダメだ!止まらない!食べないと止まらない!食べたら止まらない!――海賊王に俺は――これはあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――」



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