二話
――『轟け!秘術!髭伯爵!!!』
瞬間――恐らく彼女の声だろう。妙な声が響いた。
途端――
――つか、髭伯爵って……
魔力を乗せた拳を受け止められる。
「――なっ!?」
障壁展開はない。防御壁を発動させずに魔力を乗せた拳を受け止める?
馬鹿な。冗談じゃない。
隊長タイツは少し驚く。
何せ――さっきまで魔力をまるで感じない一般人だったのだ。
挙げ句、先ほどの一撃――『トリアエズマヒール』で身体は動かないはず!
障壁は展開されていなかったのだから、防げたはずもない。
わけがわからない。
――引き剥がそうとするが、まるで右腕が動かない。
まさか……まさかまさかあの馬鹿――
「うまじっ!?」
「すんません、隊長!素早いんすもん!なんか詠唱されちゃいました!」
と、声が聞こえてくる。
ちっ、と舌打ちしながら引き剥がしにかかる。相変わらず微動だにしない。
仕方ない――腕はそのままに身体を捻り、回し蹴りをかます。
がつん!と盛大に音が弾ける。ガードされたが――腕は引き剥がせた。
となれば――
「うまじ!フォーメーションA!」
が、聞こえてきたのは、
「うわぁああ、隊長、たすけて~」
部下の情けない声だった。振り返るとうまじが雷の獣に襲われているのが見える。
くそっ、と思いつつ、仕方なく、目の前の相手は放って置いて助けに入る。
「ナニやってんだ!」
火球を放ち――相手の魔法を潰す。
「だって隊長~」
泣きついてくる部下を庇う。そこへ――
――――「むふふふ、この愛と殺戮の魔法少女!真霧妙子に敵うわけがないじゃないですかぁ!」
ポーズを決めて――立つあの女が言う。
「あぁ、そうだろうよ、ったく、うまじ、撤退だ!」
今日こそ上手く行くかと思ったが――思わぬ一般人の性で失敗した。くそっ。
「マジスか!?」
「としかげを拾え!」
となるとここで悪戯に消耗するわけにはいかない。
――チャンスはまだある。
「イエス!」
「おっと――逃がしませんよ!?――って、わっ!?」
隊長が火球を放つ。
極大呪文。
一応――天界に弓引く組織の一員だ。そして――全身タイツなんて馬鹿みたいな魔法物を着させられているが――隊長格は隊長格。「まんかいっ!」なんて事は出来ないが(だぶるみーみんぐ)極大呪文の一つや二つ――放つくらいの技量は
――ある。
「ちょっ、周りに燃え移ったら――」
恐らく水魔法の詠唱だろう。しかし、それ以上に速く彼女に到達するはずだ。極大呪文とは言え相手が相手だ。精々、結界程度しか壊せないだろうが、それでもナニもしないより余程マシだ。
が、予想を裏切り攻撃は当たらなかった。その火球が彼女に当たる寸前――先ほどの一般人のパンチでかき消されるのが見える。
「――んなっ!?」
「マジスか!?」
「馬鹿な!極大呪文の一つだぞ!?」
思わず叫ぶ。
パンチ一発で消せるような軽い威力ではない。使い方次第では半径五〇メートルを一瞬で焼失させる事が出来るほどの魔法なのだ。
電車の二両くらい一瞬でなかった事に出来る火力なんだぞ!?
「隊長!としかげ拾いました!」
「――ちっ、仕方ない!逃げるぞ!」
「イエス!」
ボン、と投げつけた球が猛烈な煙を吹き出し――一瞬で彼らの姿を見えなくする。
「覚えとけ!真霧!次こそ――オマエを封印するからな!」
……内心……これって負け犬の台詞だよな……と思ったが、隊長は一応言ってみた。
案外悪くないものである。