一話
――「むぎゃんだるぅ!?」
ナニかにぶつかった(蹴っ飛ばした)感覚と誰かの悲鳴――弱冠、くぐもった悲鳴だったが――
……納得した。
というか驚愕。
全身タイツが三人――一人の女の子を囲んでいた。
まぁ今蹴り飛ばしたので普通に立っているのは二人なのだけれど――
「「な、何やつぅ!?」」
くぐもった声でタイツが反応する。
「だ、誰!?」
女の子の表情は見えないが――こんな林の中で襲われているくらいだ。
かなり危ない状態だったに違いない。
これは――
もしかしてもしかしてもしかすると――
「とりあえず――王子様です!」
――なんだかよく分からないけれど、頑張るしかあるまい。
僕の取り柄はとりあえず頷く、とりあえず返事する、とりあえず空気読んどく、と言った処世術だ。流行り物に弱い高校生である。これ以上ないってくらい自分がないと言ってもいいかも。
「王子様!?」
とりあえず彼女がノリがいいのはわかった。そんな状況でもないと思うのだけれど。
普通のらねえよ。王子様って……。
「き、貴様!どこの王子だ!」
敵まで……。こんな反応されるとどう言えばいいのかわからなくなるから困る。
仕方ないので、
「――いやまぁその辺の……」
「その辺に王子がいるかぁ!」
もっともだ。僕も納得。そんな状況で――
タイツ達が動いた。
「隊長!としかげのヤツ――」
……としかげ?あぁ、……多分僕が蹴っ飛ばしちゃったヤツのことだろう。
――「今は目の前のヤツをやっつける算段をしろ!」
と、隊長格らしきタイツが言う。
ざざっ!と全身タイツが独特の構えをする。
両手を――
さてさて――このタイツ……
――おべしっ!?
瞬く間に地面に殴りつけられた。
――速い。
――無茶苦茶速い。
てか顔面から地面にめり込んでまだ意識がある自分に驚き。土の臭いが鼻から突き抜けてくる。……痛い。てか……なにこれ?
何を言う暇もなく、まぁ一介のたかが高校生の限界はこれくらいだろう。と、自分でも思う。
やれやれ。
ぐいっと髪を掴まれ、無理矢理に起き上がらせられる。
正直、……もう辛い。帰りたいぜ……ママン。
「おいっ――オマエどこの王子だ?」
……続くのかよ。
「……まぁその辺の?」
どこの王子でもないけどな。
「うまじ!あいつをやれ!こいつはただの一般人だ!眠らせたらそっちへ行く」
「イエス!隊長!」
もう一人のタイツが女の子の方へと動き出す。
あぁ、くそ。自分の身体能力のしょぼさに泣きたくなる。ゲームの世界とかだとねぇ?めちゃめちゃ強かったりするんだけどな?てかぴくりとも手は動かないし、足もダメだ。
思わず泣きたくなる。腕をあげて殴り掛かろうと思うが、全身に力が入らない。
正直、「まだ」ちびってない事に驚くくらいだ。
大声と暴力。
ただその二つの要素で簡単に人間は動けなくなる。あぁ、手は震えて足に力が入らない。
しょっぱいぜ。自分。
「これで――眠っちまいな!くそ王子!」
ぐいっと引き寄せられ、タイツの拳が目の前に迫る。
ちくしょうっ……
その時――ゆとり教育もゆとりな僕にしては珍しく感情が滾った。
それでどうにかなるわけもないけど。