九話
来客である。
時計を見ると十時を少し回ったところだ。
「ちょっと出てくる――なんか荷物来たみたいだ」
「……?」「……」
何故か二人が後ろからついてくる。
……嫌な予感がする。
扉を開けるとそこにいるのはお姫様……みたいな!
しかもそのお姫様は実は秘術の元々の持ち主であり、秘術が使われた事を感知し、ここまで来たのだ!
……まぁあり得ないよな……ていうかどういう妄想だよ、脈絡がなさ過ぎる。戦闘描写が一頁もないようなラノベみたいな話じゃないか!
気を取り直して玄関を開ける(ちなみに修理は魔法で妙子が直してくれた)。
「姫です(ぺこり)」
「……マジか!?」
其処には確かに『お姫様』風の服を着込んだ女の子が立っていた。そして――
「ナニが?(ずずいっ)」
「ち、近い!姫様近いよ!?」
ぐぐいっとくる。
「やはり姫と言えばメインヒロイン!サービスシーンはこうちょっとめくりあげ――」
「ちょ!ストップ!ストップです!なんです!この展開!?ていうかなんで全開!?このラノベにまともな常識人はいないのか!?そのアングルはらめぇ!アウト!――ってか姫様!?なんで履いてな――」
「(ぽっ)履いてる!履いているぞ!?ぴっちりピッタリ面積的な意味合い的なモノが細いだけだ!誰が露出狂だ!」
「言ってない!言ってないですよ!お姫様!?どう見直しても言ってない!ていうか自分から言うって事は自覚症状が――ってうわぁ!?」
「この平木の成実――私を小馬鹿にするとは――挙げ句、エロ魔神だの紐パンフェチだの見せパン野郎だの……!!!――身体のラインも問題なんですぅ!」
「言ってない!言ってないですよ!お姫様!?それ完全に自己評価ですよね!?ナニをどう考えても自分でもそう思っちゃっていますよね!?ていうか妙子!いいから助けて!お姫様に首を(ぎゅうう!)とされているんだ!なにゆえ!?ていうか僕はそんなにいじりやすいの!?」
「それでも止められない乙女心……」
「ナニを同情しているの!?妙子さん!?」
「おぉ!真霧の!居たのか!」
「ずっと……」
「そんなネタはいいから早くどうしかにて!」
「もみじさん、もみじさん」
「ナニ?出来れば手短に今しも(ぎゅうう!)が(ぐぎゅるるるぅ!!!)ってなっちゃってんだから!」
「彼女――てかもみじさん、彼女は別にお姫様でもなんでもないですよ?そういう服を着ているだけで私の同僚です。あと、エロイ下着大好きなんですけど、それに触れられるのは超苦手なんで気をつけてくださいね?」
「貴様ぁ!楽しんでるな!?楽しんでるだろ!?」
「いやいや、今のうちに脱がそうとか画策していないですよ?ちなみに香苗さんはとうさ――げふんげふん、もとい芸術鑑賞器具のお手入れを――」
「ていうか彼奴完全に住み着いてるよな」
「困ったモノですね?」
「………………」
「なんですか!?そのジト目は!まるで私が居候みたいな!」
「違うの!?」
「え!?将来を誓い合った仲じゃないですか!」
「初耳だ!」
「あたしんだ!(かちゃかちゃと音を立てながら機材と共に香苗が走ってくる)」
「ナニが!?」
「ていうかさりげなく脱がすな!見るな!――ってお姫様がハァハァしてる!?」
「お、おことのこのはらか(ボタボタ……)……」
「危険人物!?」
「ほらほらもみじさん、ちゃっちゃと脱いじゃって下さいな、ほらほら」
「違う!てか(ぐぎゅるるるう)がさらに強くぅ!?――うわぁっ!?――げほっ」
「もみじさんは頂きましたよ!平木成実!」
「な!?(ボタボタ……)なにをしゅるぅ!これから――これからが良いところだったのに!」
「あんたもソッチ系かぁ!」
「いや、てかナニしに来たんです?成実ちゃん」
「あぁ……ごめん、また煩悩に負けちゃって忘れてた。アレアレ……なんだっけ?アレよ、アレ……そう!秘術使ったでしょ!?」
「え?なんのことです?」
「「「なんてリアクション!?」」」
思わず三人の心が一つになった。
「封印が解けた?」
「そう、あいつの封印が解けた。まぁ秘術が直接の原因じゃないんだけど、まぁ副次的な関係があって」
「……話についていけないんだけど」
「もみじに同じく」
「えっとですね……かつて天魔大戦という如何にもな天界と魔界の戦争があった時に一人の変態が世界に生まれたんです」
「……変態……」
「そのもの――髭を纏いし――」
「待った!ちょっと待った!その話――格好いい話になるの!?ダイジョウブなの!?」
「そんなことよりもみじさん、珈琲を所望します」
「……あいあい」
とりあえず珈琲をいれに立つ。
「全裸魔王?」
「そう――彼のモノの名は『全裸魔王』――裸一貫で戦場に飛び込み――全ての天使もとい悪魔――全てをひれ伏せた御大に勝るとも劣らん聖人!」
「……それ中原の王子とかいう話ではないよね?むしろもしくはブルーメタル?」
「ちょっと、もみじさん、ラノベとラノベを混同しないでください」
「……あぁ、そうだよな、わりぃ……じゃない!しっかり意識してんじゃん!メタじゃん!」
「誰が天才ですって?」
「ごめん……なんでもない」
「でも、そのもみじも勝るとも劣らないその裸聖人ともみじになんの関係が?」
「さりげなく混ぜ込むな!ていうか僕は『変態』なのか!?もうしっかりカテゴライズされちゃってるのか!?そんなアブノーマルなのか!?」
「アブノーマル(ボタボタ……)……」
「ちょっともみじさん!成実ちゃんは妄想力が豊かなのであまり刺激的な言葉を投げないように気をつけて下さい!!!」
「変態か!」
「変態……」
「さっき自分で言ってたじゃん!」
「当然ですよ!他人から言われるのと自分で言うのじゃ天と地の差があるじゃないですか!……まぁAVとか笑っちゃうような台詞ありますけどね?」
「いやそんな特殊性癖談義よりその変態の人が――」
「聖人です!聖人!もみじさん!間違えないで下さい!」
「特殊性癖……変態の人……やかん(ボッタンボタン……)……」
「なんでもありじゃないですか!しかもやかんてどこから出てきたの!?」
「……ふんっ!……正気に戻りました。もうダイジョウブ。モーマンタイ、もといもう満タン――充電完了です。そう、その変態の人――名を『彰』と言います」
「またさらっと戻ったなぁ」
タメをいれろ、タメを。ぱっと見でいいから重みを取り繕え。
「で、長らく封印されていたんですが――」
「なんでまた?普通英雄とかになるんじゃないの?戦争を終わらせた張本人なんでしょ?」
「えぇ――以来天界と魔界は元のように表裏一体――部署違いのような形で運営されています。かく言う私も今は魔界の方の管理ですからね」
「はぁ」
「たえちゃんこそ魔界の方でガンガン働いて欲しいんだけど、どうもこっちに気になる事が出来ちゃったみたいで。まぁ珍しい話じゃないし、それは。いいんだけどね」
「……アダルトヴィデオにしか興味ありませんていうのは実はオマエなのか妙子さん?」
「……もみじさんは色んな意味で観察眼を磨くべきです」
妙な反応である。なんか拗ねてる。
「で――封印されている、ということは――ナニをしたんです」
「単純な話よ」
「もみじさんは絵画とかはよく見る方ですか?」
「まぁ……見ないわけじゃないけど、いわゆる美術館のスゴイ絵画はそんなに詳しくないなぁ」
基本二次元なので。
「でも……天使というともみじさんはナニを思い浮かべます?」
「天使の羽と赤ちゃん」
「ザッツライト!普遍性の話ですね……ただまぁこれはもみじさんと香苗ならもういいだろうと言うことでいいますが、私は?」
「「天使なんでしょ?」」
「そうです、ついでに悪魔と言っても差し支えないです。一口に天使、悪魔と言っても、それはあくまで捉える対象の問題です。両方天使ですし、両方悪魔なのが現実です。当たれば嬉しい宝くじ、外れればちぎり飛ばす宝くじ――まぁそういうことです。表裏一体――それが世界の理であり、単純な真実と言えます」
「じゃあ……ナニ?もしかして――」
「そうです。かの彰はその普遍性を作り出した人物と言えます。哲学的捉え方をするならイデア――プラトンのような感じです。白に抱くイメージと黒に抱くイメージはそれぞれ別であるように……ただまぁ個人的感覚はまた別ですのでそこについては注意ですが。とにかく――一時期天界と魔界はある意味で、その『イデア』に則った生活をしていました。いわゆる有名な絵画にああいう絵があるのはそういうことです。『そういう』イメージを抱かせる姿を身に纏わせ手を出すこと――
――しかし!今はそんな古い感性の時代ではないのです!」
「――へ?」
一瞬――昨今の若者主張が紛れ込んだような――
「着たい服を着る!自分の美貌を磨く――衝動にも従いたい!そんな我々――」
「待った!待って!?どゆこと!?」
気の性じゃないのか!?
「我々――日常の自由を求めし天使軍団――というわけで彼を封印したんですよ」
「「……………」」
思わず香苗と僕は固まった。
これがアレか?四十代で『私はまだまだ青春時代を謳歌したいのよ!四十代女子なのよ!』と言われた子供の気持ちか?もしくは逆に『五十代からの青春時代……それが俺の青春だ!』と言われた気持ちか!?
「そ、そんな理由で?」
思わずもみじは尋ねる。
「じゃあ聞きますが、もみじさんは四六時中裸を要求される職場をどう思います?いや、確かに相手に見せてるのは変化して見せてるのであって、ホンモノでは無いですが。とは言え――裸を強制されるのはマジです」
「……勤めたくない。とりあえず僕は裸族じゃない」
なんか一瞬、メラッと心が揺れたがなんだったのか。
「ていうかあのままでしたら、こうやって来る時もマッパで翼を生やしてきたでしょうね。まぁ今もケースバイケースで人によってはちゃんと御姿形態も使いますがね。主にガッチガチの宗教方面で」
「……どちらにせよ、確かにそれで妙子のキャラだと困るな……」
ありとあらゆる意味で。
「でしょう!?そういうことですよ。――ってだいぶ失礼な発言ですね!?まぁいいです。まぁ例えるなら組合が企業を牛耳った――まぁあり得ない話ですが、そういう感じです」
「……いや、前にあった気がするけど」
「で、まぁその彼の封印が解けた――と……マズイですね……確実に歴史消してきませんか?ていうか私とかそこの成実とか首謀者的なメンバーは確実に『消される』気がしないでもないですね?」
「……消される?」
「あの御仁は――まぁただの全裸というわけではないんですよ、当然」
「まぁそりゃそうだろうね」
「圧倒的な防御呪文――それに、咥えて防ぎようのない――脳に直接見せるタイプの視覚魔法が使えます」
「……視覚魔法?」
「映像は目を通して脳みそがそれを『映像』と認識しているんですよ」
「ふむ」
「かの――変態の人は、『目を通して』をなしに『映像』を見せることが出来ます……まぁいわゆる幻覚とかの方が近いでしょうかね?ただまぁ、『幻覚』ほど強力ではないですけど」
「幻覚の方が強力なの?」
「そりゃぁ強力ですよ――五感を全て『騙す』んですから……ただまぁだからこそ変態の人の視覚魔法はある意味最強なんですけどね」
「どういうこと?」
「さっき言ったようにわざわざ感覚器官の眼球――『目を通して』をする必要がないので、効果範囲全域に『映像』をひたすら見せることが出来るんですよ……私はたまたまその場にいなかったので助かったのですが……そこの成実ちゃんは……」
「ひたすらおちんちんが写る面白味のない映像が目を瞑っても見えるの」
「伏せ字にしろぉ!!!!!」
「あら?ごめんごめん、▲ちんちんが――」
「間違ってるよ平木さん!?使い方が完全に間違ってる!どこかのニイナガチコさんでもあるまいし!お▲んちんが正しい!隠すべき場所が間違ってるんです!」
「もう!もみじ君たら……――成実って呼んで?(しなっ)」
「――だから違う!なんか間違ってる!リアクションするべき箇所はそこじゃない!」
「ていうかもみじさん、いいかげんぽ※ちん▲の話題から離れて下さい」
「オマエの性だろうがぃ!?」
「そ、そんな!オマエ……なんて……奥さんみたいな……――でもあんまり気に入らないんで妙子にしてください。そういうモテナイダメンズ的呼び方は嫌いです」
「ご――ごめん……じゃなくて!違う!そこ!?そこじゃないよね!?指摘してもらいたいのは――」
「男の子がお●んちんて叫ぶのもまたオツですね」
「妙子さん!?ダイジョウブですか――ってか香苗!?どうした!?鼻血が垂れすぎて気を失ってる!?……どこの盗撮魔ですか!?」
「下ネタ……最高……(ぐっ←サムズアップ)」
「……香苗……オマエ、ホントに女の子か?」
「話を戻していいですか?もみじさん?」
「……あぁ、ごめんごめん、つい――」
「▲こちんの話題を再開しますよ?」
「しなくていいよ!いいから話を進めてよ!残念そうな顔をするなよ!……いや、確かに好きだよ!下ネタ!大好物さ!ウソじゃねえよ!マジだよ!あぁ――一番好きだ!女の子の下ネタ……いやまぁ……ちょっと聞けない時もあるけどね?絶望と書いて……リアルと読む……でも――あぁ!大好きさ!だから話を進めよう!これ以上僕の少年心を刺激しないために!」
「「うわぁ……」」
「そこで平木さんに妙子までひくの!?泣きそうだよ!」
「だ・か・ら!……成実って呼んで?(しなっ)」
「色っぽい!」
「つまり――そういうあまり見たくもなく面白くもない『映像』しか見れなくなっちゃうんですよ……だから正確には『眼球機能遮断』とでも言った方がいいんでしょうかね?」
「……碌でもない魔法……」
「でしょう?任意の相手にも使えるし、かなりの広範囲にも使える――攻防一体の技と言えます」
「……どうやって封印したの?」
「それは……たえちゃん言ってもいい?」
「もちろん」
「たえちゃんが普通じゃないことには多分気付いていると思うけど……まぁ簡単に言うならたえちゃんの狙撃の腕を使って『超強烈麻酔封印弾』を撃ち込んで貰ったの」
「また面白味のまるでない銃弾名だ!」
まんまだよ。
「まぁ、私にかかれば地球の裏側にいようと命中させられますからね?かのウェーバーさんのように緊張感溢れる――アレは痺れた――幽霊のような『神業』を使いはしないので絵的にはいまいちですが」
「いや、特にそういった効果は望んでねえよ?」
「なのでまぁその辺りの緊張感溢れる天使軍団対全裸魔王の戦いの説明は省くとして、同じ技はきっと通用しないんですよね、これが……まぁ正直言っちゃえばあん時だって裏技的な部分を使わないとどうしようもなかったんですがね」
「……それが例の『防御』?」
「もみじさんはなかなか核心をついて話を運んでくれますね?どうしたんですか?ナニか良いことでも……あったのかい?」
「止めて!僕結構アレ好きなんだ!小説もDVDも全部持ってるんだ!のせないで!ファンなんだ!」
「……仕方ないですね、まぁもみじさんが私にトれているのは知っているのでスルーしておくとして、そう――『絶対防御領域十五センチ』が発動する限りは攻略は不可能なんです。あの時は――勿論、さっき言った裏技的な部分とまだ私の『タエゴ13』を周りに知らしめてなかったという事実があったので」
「ただまぁ、たえちゃんが彼奴から奪い取った『髭伯爵』――それを使えばかなり良い線いけるはず――」
「というわけで、やりましょうか?もみじさん?」
「へ?」