始まり
バナナには気をつけろ!
あの日、僕は爺ちゃんが言っていた台詞をまさか思い返すとは、思いもしなかった。
――はじまり
運とは恐ろしいモノである。
どれくらい恐ろしいかと言えば、隕石が当たってバナナの皮で滑って死ぬくらい恐ろしい。直接的な被害より、間接的なバナナの皮、という単語の間抜けさが恐ろしい。
それによって運命の出会いを演出するのもまたオツなのかも知れないが。
まぁ実際僕はまだ死んでいない。
高校からの帰り道――うちの高校は坂道の上にあり、当然、坂道は壁面がある。ころがり落ちても、まぁダイジョウブだろう、という壁面だが、それはあくまで
『まぁダイジョウブだろう』
というレベルなので、実際落ちてみると
『ちょっと不味いかな』
という感じで想像して貰えると大変喜ばしい。つまり、実際に降りるとなると、それなりに勇気が要るような坂だ。
友人が「でよ――」と言いながら食べていたバナナの皮が落ちてしまい「おい、落ちたぞ」と言って拾おうとしたら、「もみじぃ!おーつっかれっ!」と幼なじみから押され、
――つるっ
である。
――ガードレールのその先へ!
――バナナで!
……歌詞にもならない。
まぁ馬鹿な高校生がよく降りたりしている坂の壁面だから落ち着いて下れば大丈夫な『壁面』なのだけれど、ことはそう簡単ではない。とりあえず、僕は頭からいった体勢を立て直すべく、ぐいっと足を壁面におくべく身体をひねるが、空中である。上手くいくはずもなく、そのまま身体が壁面にぶつかり、回転し、足が絶妙なわけのわからない角度で壁面に当たり、身体がさらに回転する。運が良いのか、悪いのか――ハンドスプリング(前方倒立回転とび)のような形でぐるんぐるんと回転し、あ、地面――と思ったが勢いが殺せずそのまま道路も回転しながら進む。顔面着陸と行かなかったのは幸運である。すげえ運動能力だ。神の見えざる手が働いているに違いない。普通はそのままダーイブ!だろう。すでに鞄はおっことし、このままでは大きい道路まで回転したまま行くことになる。頭の中を新聞の三面記事事件がよぎる。なんの!ままよ!と気合いをいれて、また地面に足がつきそうな瞬間、がっと思いっ切り踏む――が、またもタイミングがずれたのか、それとも足元に何かがあったのか。
隣の林に突っ込んでしまう。
――ガードレールのその先へ!
最早ナニがなんだかわからない。
そして――木にぶつかり、さらにぶつかり、枝に胴体が引っ掛かり、勢いがつき―飛んでいったその先で――
ぐにゅっ!と、誰かを蹴っ飛ばした音がした。
とりあえず思う。
前置きなげえよ。