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妄想部的 迷作劇場

*かさこ地蔵* koru.編

作者: koru.

 むかし、むかしのことじゃったー



 貧乏だが心根の優しい爺様と婆様が仲良く暮らしておりました。


 ある年の大晦日

 とても貧乏で正月の御餅を買うお金もなかった爺様と婆様は、かさみのを作りました。

 爺様はその笠と蓑を持って町へ売りに行きました。

 でも、大晦日でありましたので、町の人たちは暮れの買出しに忙しく、爺様の売る笠と蓑に見向きもしません。


「はぁ、仕方あるまいなぁ、このまま手ぶらで帰ったら、幸子さん(婆様(仮名))は悲しむだろうか。 あぁ、幸子さんの哀しむ顔もそそられるな……ふ、想像するだけで……(以下自主規制)」

 少々性格に難のある爺様ですが、心根は優しいのです、えぇ、優しいのです。

 売れ残った笠と蓑を背負い直し雪の降り出した家路を急ぐ途中、道端に並ぶお地蔵様の前まできました。


「はてこんな所にお地蔵様などあったかの。 幸子さんとしっぽりしている間に、誰か建てたんじゃろうかの」

 ここ数日、家に引きこもり笠と蓑を作りつつ婆様と乳繰り合っていたのを思い出し、頬を緩めた爺様は端のお地蔵様から順に手を合わせていきます。


「地蔵様、今年もなんとか1年を終えることができそうです、ありがとうございます、ありがとうございます」

 純粋に手を合わせる爺様でしたが……実はそのお地蔵様は宇宙人だったのです。




 遡ること数日。



 地球の上に1隊の宇宙船の部隊が展開しておりました。

 美しい流線を描く白銀に輝く母艦を中心に、360度に美しく展開した船隊は、青く輝く地球を攻略すべく調査員を秘密裏に地球上に派遣していた。

 地球上のありとあらゆる大陸に送り込まれた調査員は、有象無象に変化しそこに住む生物…特に人間を観察調査していた。

 

 その中の1小隊がこのお地蔵様だったのです。



『寒いな…』

『は? 何お前、防寒シールド持ってこなかったの?』

『いや、シールドは展開してるけど、俺、寒がりだし』

『……未開地に来る前に、身体強化してこなかったのか?』

『え? 身体、強化? なにそれ』

『馬鹿だ! 馬鹿が居るwww』

『え? え? 俺、未開地探索初めてだったんだけど! 誰も教えてくれなかったんだけど!!』

『あれじゃね? お前、嫌われ――――』

『ふがぁぁぁ!! 嫌われてないもんっ!!』

『というか、一番最初の研修の時に教わったと思うが…』

『え?』

『お前、研修中寝てただろ?』

『……あ』


 しんしんと降る雪の中、どこと無く肩を落としたお地蔵様が1体…。



 爺様は手を合わせ終わると、お地蔵様に乗った雪を払い、売れることの無かった笠を蓑をしっかりと結わえてあげた。


『じじー馬鹿じゃねww 俺等石っすよー! 雪なんか屁でもねぇってのーww』

『……石にあって、石にあらず…(ガクガクブルブル)』

『身体強化忘れる貴様が悪い』

『副長、酷い……(プルプルプル)』

『そういや、小隊長は?』

『大分前に転がってったぜ?』

『あぁ、器用に上体揺すって、回転しながら移動してたなw』

『まじ!? 見逃した!!』

『で、隊長何処行ったんですか』

『知らん、それ以上、奴の話題を口にするな』

『……飽きて逃げたんすね…了解しました』


 地蔵達が念話でわいわいしている内に、爺様は手持ちの笠と蓑を全部お地蔵様に被せてしまいました。


 だけど最後に2体のお地蔵様が残っております。


 爺様は自分のつけていた笠と蓑を1体のお地蔵様に着せると、最後の1体…なんだか寒そうに身を縮めているような雰囲気のする地蔵様の前に来ました。

 爺様は深く思案するように目を伏せました。



『ひゃはー! 残念っ! お前の分は無理だってよー』

『う る さ い』

『まぁ、諦めろ、もう爺の何処を叩いても笠も蓑も出てこぬよ。 あぁ、そういえば、ここいらの人間はふんどしという下着を使用しているんだったな…もしかしたら……』

『ひぃぃぃ!! ふ、副長!? 何言ってんすか!? ふんどしって、あの、長い布巻き付けて使うパンツのことっすよね!?』

『ああ、この信心深い爺なら、…もしかするぞ』

『!?!?!?』

 

 地蔵達が念話で阿鼻叫喚している間も、深く思案していた爺様でしたが。


 決意したように顔を上げると、おもむろに黒々とした頭髪に手をやり、ぱちんぱちん・・・と。


 手にしたフサフサのそれを少しの間見つめ、何かを吹っ切るように一度強く抱きしめ。


 最後に一体残ったお地蔵様に乗った雪を丁寧に払い、その丸い頭上に丁寧に……久しく苦楽を共にした盟友と呼ぶべきカツラをのせて髪型を整え一歩下がると、両手を胸の前で合せ深く…深く頭を下げ踵を返すと決して振り返らず愛する妻の待つ我が家へと向かった。




『…………温かい』

『wwwwww(腹筋が死ぬ)』

『マジか…マジなのか! ぶほぁ!!』

『信じられぬ、自己犠牲!! この星の人間は、なんというっwwww』


 爺様が視界から消えた途端、がたがたと震えだす地蔵達だった。




 ぽしょぽしょの頭髪を雪に濡らし帰宅した爺様を迎えた婆様は、束の間掛ける言葉を見つけることが出来ず案ずる視線を爺様に送りました。

 爺様はその視線に気付き、申し訳なさそうな苦笑をしわだらけの顔に浮かべ。

「すまんな、カサは売れなかったよ。 餅も買うことができなんだ」

「何が、あったの?」

 濡れそぼった爺様に手ぬぐいを渡し、そっと訪ねる婆様。

 心配そうな様子を見せる婆様に、爺様は何かを吹っ切ったような笑顔を見せます。

「幸子さん…これからは自分を偽らず生きることにするよ」

「あなた―――――」

 婆様は微笑みを浮かべると、座り込む爺様の頭をそっと抱きしめました。





 その日の夜更け。


『ひー! はー! マジィィ! 止まんねーぇぇぇ!!』

『あのバラックにぶつかるのだけはやめろ! 何とか回避するんだ!』

『ちょww 副長、これ、超おもしれーっす!』


 上体をぐるんぐるん回しながら、ごろごろ転がってくる地蔵達。


『移動方法これしかねぇって! 誰っすか、こんなもんに化けて現地調査しようなんて言ったの!』

『隊長に決まってるだろう!!』

『縛りが多すぎっす! 手も足も出ないっす!』


 それでも何とかかんとか、爺様の家の前までたどり着いた地蔵達。


『召喚範囲も1メートルて、不便ー。 今度もうちょい良いやつにしましょうや、副長ー』

『予算が回って来んのだ、うちの小隊は弱小だからな』

『とりあえず、何にします?』

『倍返しが小隊長の信条だからな、とりあえず、適当に主食とか置いておけば良いんじゃないか?』

『何やっても喜びそうっすもんね、このバラックの主』

『バラックて…何気に酷い』

『じゃ、これと、これと……あ、これは外せないな』

『ちょっww 副長っwww』

『wwww(腹筋壊れる)』

『素晴らしいと思います!』


 そうして、またごろごろと上体を回しながら、どこぞへ移動してゆく地蔵達だった。






 翌朝、玄関を開けた爺様の前には。

 米俵や野菜等のほかに……。


「こ、これは……っ!?」



 腰を抜かした爺様の前にはスカルプ○の各種製品及びマ○プ・リ○ブの無料施術チケットが豪奢な箱の中に詰められていましたとさ、めでたし、めでたし―――――




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