第一部分
ヒーロー視点
「あ〜、かったりぃ」
俺、藤多邦仁(ふじたくにひと)の、家についてまず一言目がこれだ。
俺は高校生で、大学生やら専修学校生やらではない。
さらに、それほど高レベルというわけではないので、別段、授業がハードだったわけでもない。だが、何故か、胸騒ぎというか、とにかく何もしたくない気分なのだ。
だが、そうは言っても、宿題というものはある。
特に、数学Aはテストの平均点が少なかったということで、自分は高得点を取ったのだが、こと多く宿題が出されたので、早々に終わらせないとまずいのである。
「さぁて、まずは何を終わらせ……いや、まずは整理だな」
鞄の中を見てみると、ごく最近テストが終わったので、いろいろとテスト関連のプリントが貯まっている。これらの要らないプリントを整理しないと、後でいらない手間をかけてしまいそうだ。
「えっと、国語のテスト問題はまだ結果が返ってきてないからとっといて……おっと、数学IとAは返されたから捨てて大丈夫だな。それから……」
そうやって、学校で配られたプリントを整理していると、見覚えの無い紙を見つけた。
「なんだ? こんな紙、持ってたっけ?」
記憶をさかのぼってみるが、こんなオカルティックな図形、つまるところ、魔法円が描かれている紙、見たことも無い。
俺は結構整理整頓はいい加減に行うほうだが、それでもこんな紙を見た覚えは無い。それほどまでに印象的な紙だった。
不思議な感覚がした。
見ていると、なんだか落ち着くようで、先ほどまで感じていただるさが吹き飛ぶようだった。一方で、早く手放したほうがいいという、変な焦燥感が感じられる。
(何なんだ、この気持ちは……)
早く手放したいと思いながらも何故かそれを手放すことができない。手放したくないと思う。そんな、複雑な心境に迷っていると。
ある、言葉が浮かんだ。
「『わが身に宿りし力を解放す』?」
まったく意味不明だった。自分で言ってて、わけがわからなくなった。
は? わが身に宿る力? 解放?
俺に何の力があるんだ? ってかそもそもこんな落書きに何の意味があるんだろう。そうとまで思えてくる。
と、その時だった。魔法円が光を放ち、その光が俺を包んだのは。
驚いて、紙を手放したが、すでに時は遅かったようである。
「え? えええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
自分の中に、何かとてつもないものが満ち溢れている。それが、どんどん浸透してきて、長い間失っていたものを取り戻したかのようで、すごく心地よかったのだが、理性がそれを味わうことを許さない。
意味がわからなかった。何が、どうして、どうなったのか。
俺に今、何が起きていて、これからどうなるのか。
そんなことが、頭の中を、駆け巡った。
――数ヶ月前、フジタの十六の歳誕生日
ヒロイン視点
やっと。
やっと、彼が覚醒した。
長かった……。
奴らとの戦いで、彼が力を失って、その力を取り戻すまで、何回彼は転生を繰り返したんだろう。
あぁ、彼がいない間、私が本来つかさどるべき『奇跡』の他、彼がつかさどるべき『運命』をもつかさどらなければならなかった。
『運命』と『奇跡』。
二つともそろって、やっとすべてが元に戻る。
『あぁ、そうだな……久々にお前の恐怖に歪む顔が見れると思うと、思わず笑ってしまうよ。くっくっく……こちらの復活もあと少し。せいぜい祈っておくんだな、安らかに無へ還れるように』
……!?
何て、ことでしょう。
やっと、われわれの、グループに平和が戻ってきたと、思っていたら。敵対グループも復活が目前だったとは……。
あぁ、『Destino[運命]』……早く戻ってきて!
それから数ヶ月後。とうとう敵方の運命神が復活してしまった。ただし。私と『Destino[運命]』が倒したときと比較して五割弱しかない。
これなら仮に攻められても私一人でも何とかなる。
そう思いながら、神界からとある人界に転移した。定期的な様子見のためである。
今日はDestinoのいる地球で言う、正月らしかった。
もっとも、この世界と地球とがそうであるように、ひとつの世界がそうだからといって、別の世界でも季節や日にちが一緒とは限らない。
世界というのはそういうものだ。
ある世界の北半球がで夏だったとして、別のある世界では南半球が夏だったりする。
久々に、食事がしたくなってきた。
基本、私たち神は食事をしなくても生きていけるが、やはり嗜好品としては最適だ。だから、こういうときには欠かさず食べている。
ふと、懐かしい気配を感じた。
おかしいな。彼は私の『奇跡神』としての力を使って、いつ、何処で、どのようにしてという所まで指定して力の復帰を促したはず……。
『神界に移動すると同時に』という条件があるはずだから、彼がこの世界で復活することはないのだが……。
気配の方に行ってみよう。
凄く嫌な予感がするから。