酔いどれる君に恋敵がいる。
性欲がわからず、色恋もわからないままの俺、鶯原冬李は、今日も今日とて大学時代からの友達、鳥居夏目と缶ビール片手に談笑していた。…が、ある日の夜、彼女は ”酔って”何やら俺に色恋というものを教えるらしい。──
──社会人になって、仕事に追われる生活にも慣れてきた。戻れるならさっさとあの楽しかった大学時代に戻りたいが、それはそれでしんどかったので今はもう戻りたいとは思わない。──今が満足だから。
──私は、夢から覚めた。
ある朝、私はいつも通り上裸で、頭がズキズキとして身体がだるい。今このベッドに、彼はもういなかった。…ついでに、染みはもう拭かれた後のようだった。──
7月某日、金曜日の午後七時。
「ガチャ──」という部屋の鍵を外から開ける音がする。
「お邪魔しまーす!」と空元気な声で当然のように俺の家に上がり込んでくる茶髪の、セミロングの女がいた。
名を夏目という。
夏目はコンビニ袋から2本の缶ビールを出して俺に一本、自分に一本開けて一口、また一口と一気に半分ぐらいまで立ったまま飲んでから床に座る。俺もベッドから床に腰を下ろした。
…なお、テーブルに置かれた袋には当然のごとくまだもう2本はある。
そして、飲み始めてからの第一声が、、、
「…ねえ、頭掻いて。」だった。そして缶ビール片手に俺の胸元に頭を預ける。いつも通りのだらけだった。
俺は言われた通り頭を掻いてやりながら彼女の前髪をいじる。最初は気持ちよさそうな表情から不満げな目がジトッとした表情に移り変わる。まあ恒例行事である。
「…あんた、相変わらず人の前髪いじるの好きよねー。」といつものように呟きながら頭をブンブンとして軽く前髪を整える。正直、あれで何が整っているのか俺には分からない。
「そうだなー。手持ち無沙汰なんでな。」…と、もう何度この会話をしただろうか。そう呟きながら、いつも通りに適当につまみを食べながら、テレビを流し見する。
その間、夏目は「今日さー、あの先輩がまた私を怒鳴ってきてさー、。」とか、「まじであの服可愛かったからつい買っちゃったにょねー、。」とか。そういうどうでもいいような話をする。
俺はあまり言葉を発することなく、手を動かして返事代わりにする。それを彼女も甘んじて受け入れるいつも通りの時間。それが二時間ほど過ぎて、気づけば彼女は2本目を飲み終えて3本目に差し掛かっていた。
そして俺に背中を預けたまま、
「…プシュ──」というブルタブの気持ちのいい音がする。──ついでに、彼女の足はブルブルと震えていた。
「……はやいとこトイレ行っとけよー。」と軽く言うと、
「はあ?んなことわかってるし!
てかまだ行かなくていいから!!」と罵声を浴びせられる。
「はいはい、何でもいいけど。
…また漏らすんじゃねーぞ、。」
「──っ。
…ほんと、デリカシーがないね、。」
「お前にはプライバシーがないがな。」
「…うっさい、。!」と、理不尽な暴言を吐きつつも、素直にトイレに足を運んだ。
「…行ってきたよ。……これでいい?変態。」
「誰が変態だ。いつも失禁して裸になってるお前の方が何倍も変態だろーが。」
彼女は赤面しながら、「……うっさい。合法的に女の醜態見られるんだから感謝しなさい、。」
「俺にそんな趣味はないからとっととその癖を直せ。」
「ほんと…、。あんたって私のこと女として見てないよねー、。」
「…何言ってる。お前は女だろ?
それともなんだ、お前の心は男だったのか?
別に俺はそれで構わんが。」
「心も女ですけどー?! てかそうじゃなくて、。!──
……ほんと何回目よこの会話、。」
「さあな。いちいち数えてなんかないからわからんな。」
「数えてたらそれこそ変態よ。恥を知りなさい!」
「事実じゃないことに恐喝を入れるな。」
「…フッ。そうね。」と彼女は鼻で笑い返す。
すると彼女は手に持っている缶ビールを大事そうに指でさすりながら
「…ほんと、あんたってよく好意もたれてる女にそんなことできるねー、。」
「そりゃあ、前から言ってるだろ?俺に色恋なんてわからん。」
「フッ。──知ってる。」と、またもや鼻で笑いながら返す。
「それはそれで寂しいけどねー、。」
「…ハッ、そうかよ。勝手に寂しくなってろ。」
「…はあーあ。そろそろ帰るねー。」と言って今手に持っている3本目をそのまま残していった。
静かになった部屋で一人、俺は物思いにふける。──
いつも、”色恋がわからない”と言ってるが、あれは半分本当で半分嘘だ。
正確には”恋しない”である。
学生時代、何人かの女性と付き合ったが、長くても1年が限界だった。
デートをしても、キスをしても、その先に踏み込んでも何も感じない。…いや綺麗な姿形をしているなどとは感じるが、所謂性欲というものを未だに味わったことがない。
そしてそこで彼女側が冷めて別れるというのがお決まりの流れだった。…一応、寄り添っている人を失うと喪失感は感じるわけだが、引きずったりするわけもなく俺からしたら失恋と呼ぶには程遠い何かがいつもそこをえぐっていた。
そして俺はテーブルに残された缶などを片付ける。
あいつが飲んでいた3本目を手に取ると、まだ中が入っていた。それを俺はそのまま口につけて飲み干す。所謂間接キスというやつだが、相も変わらず特に感じない。ただのビールの味がする。されどどこか、えぐられていた何かを埋めてくれているかのように心を温めてくれる。
そうして俺は片付けを終えてさっとシャワーを浴びベッドに倒れ込むように眠る。
そして翌日、土曜日の午後六時頃。
彼女は2日連続でやってきた。基本週一だが、こうやって稀に2日連続で来ることもある。そのときは大抵泊まりに来るときである。
泊まるといっても俺の部屋には彼女の服やら何やらが置かれているので手荷物は特に変わらない。…が、今日は少し珍しい光景だった。
いつも通り缶ビール片手で飲んでいるが、「暑いからー、」と言ってなぜか、酔って寝る前からすでに上半身下着姿である。当の本人は、まるで”今更でしょ?”と言わんばかりの顔をしてこちらを見ている。…いったい何が目的なんだか。
彼女は口だけの笑みを浮かべながら
「…何見てんの?ついに性欲でも湧いた?」と言ってケラケラと笑っている。目はジト目といったところだろうか。見る人によってはそれは誘惑で、また見る人によってはそれはただただ不気味な空間を展開しているのが彼女だった。
「自分で服脱いだんだろうが。
……はあー、。」とため息をつきながら
「…襲えばいいのか?」と言って夏目を冷たい床に押し倒した。すると彼女は笑みを浮かべていた口をもとに戻して冷ややかな目で俺に
「やだ。 触んないで変態。」といつも以上に無愛想な顔で言った。
俺は笑みを浮かべながら「悪かったな。」と言って彼女から手を離して再びベッドに腰かける。
……違う。あれは、私の本心じゃない。いや、本心でもある。──半々の気持ちだ。
冷たいひんやりとした床に押し倒されたとき、心臓が飛び出すかと思った。この酒のせいではない熱が、身体を蝕んでいる。
…もっともっと、、触って欲しかった。けれど、それは無理だ。”私が”無理なのだ。
色恋がわからず、興奮しない彼に、そんなことをさせたくない。
「……なんで、押し倒したの。」
「そうして欲しかったのかと思ったからだ。」
「…なんで。」
「今までの女がそうだったから。」
「…そう」…と、あまりにも冷たい、けれど凛としていて、ちゃんと受け取ってくれる。そんなやり取りのキャッチボールがあった。
「…じゃあもう一個質問。
あんたは、私がいなくなったらどうなる?」
「……。
また、喪失感で穴が空くんじゃないか?
…それでまた、普通に戻るんじゃないか?
たとえお前が神隠しにでも遭っても、それは別れた女として処理するだけだろうな。」
夏目は明らかな怒りを露わにしながら目の前にあった缶ビールを一気に飲み干して黙っている。
「…けど、少なくても、俺はお前を人として好きだ。これをお前が恋だって言うならそういうことにする。
だから、お前がこれでいいなら付き合ってもいい。……お前は、今までの女とは違う。
ただえぐるだけの心をお前は温めてくれたりもした。
今までの女の最初は夏目と同じだった。
付き合っても最初のうちはただ遊びに行くだけ。ただキスとかするだけ。…けど、時間が経てば変わった。次第に欲求不満になって、性行為を求めて、でも俺は興奮しないから、あいつらは冷めて、それで別れて、それで思った。
お前は身体も求めてるんだろうけど、それよりも、いつものあの時間を欲してる。それは俺もそうだ。別にお前じゃなくてもいいかもしれない。けど、、今はお前しかそんな人はいない。だから、これに屈するなら付き合う。…どうだ?」
──しばらくの沈黙のあと、
「…最低だね。」と彼女は目も口も笑いながら言う。
「わかった。いいよ。そんな”都合のいい女”は私しかいないわけだ。なってあげる。
けど一つ言わせて、。
私は”あの時間と同じくらい身体も欲してる”そこの憶測が間違ってるから訂正。」
「…そうか。わかった。
だが、応えられるかわからんぞ。」
すると彼女はある人から見れば不気味な笑顔を浮かべながら「いいよ、その方が燃えるってもんよ。」と言った。その発言に俺は恐怖のようで違う、何か分からない感情が、俺の心の底しれず落ちていくものを、ふと幻に描いていた。
──こうやって交際をスタートさせたはいいものの、私は悲しかった。
彼は男なのに、まるで性欲がない。しかも彼は全く顔が赤くない。酒にすら酔っていないから恐らくシラフで言っている。どこかの誰かとやって満ち足りているのか?それとも…。いや、考えるだけ無駄だ。そんなことよりも、できるだけ早く、彼を興奮させなければ。私はお腹よりも心が満たされたい。…けど、今の彼は、お腹を十分に満たす方が優位である。
──そして私は目を覚ました。
翌朝、私はいつも通り上裸で、頭がズキズキとして身体がだるい。今このベッドに、彼は私の横ですやすやと眠っている。…ついでに、染みが私の下半身にかけて広がっていた。
ふと彼のスマホが通知を知らせた。
除いてみると、”小春”という名の彼の元カノからのLINEだった。…内容は、
”冬李先輩っ! 久しぶりに二人で食事でもどうっすか?♡”
──ここからはじまるのは、恋か。喧嘩か。
酔いどれ知らずの恋人関係が幕を開ける。──
読んでくださった方、ありがとうございますっ!
とりあえず付き合うことにした二人、最後に出てきた元カノがどのように恋人関係を動かしていくのか見ものですね。
次回は書きたくなったら書きます!
それではまた!!




