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ルテミシカに最初の質問をする


 私はアーティファクトを盗んだけれど、誰ひとりとして罪に問いかけてくることはなかった。


 アーティファクトは、暴走したAIコアにとっての『オタカラ』である。

 それをダンジョンの外に持ち出し、ルテミシカに食べさせることでAIコアの暴走を停止させることができる。

 オタカラを取り込んだルテミシカが、暴走したAIコアを内面から支配して取り込んでしまうからだ。


『昨日はぐっすり眠れたか』


 ルテミシカの本体となるAIコアが、気安く声を掛けてきた。


「朝早くから私の机にいますけど、何かやりましたか?」

『放課後になったら話そう。聞きたいことがあるのだろう』

「それはありますけど……ルテミシカとお喋りしてると、準備が進まない気がして」

『教師としての仕事の動きが止まるのか』

「ちゃんとわかっているのですけど」


 実際問題、私の手は止まっていた。


 次の授業で教える範囲の資料に目を通して、魔法学園の生徒に基礎から教える。

 これが本来の私のお仕事となっているはずなのに、ルテミシカが私のことをじまじま見ているだけで、どうも気が散ってしまう。


「ルテミシカ、この場でひとつだけ質問しても良いですか?」

『遠慮はしなくて良いぞ』

「わかりました……では」


 私は深呼吸する。


 私が盗みをする上で一番気になったのは、街中に放たれたモンスターのことだ。

 昨日の夜は、ベヒューモスが街中で暴れていた。


 ベヒューモスは本来、高難易度ダンジョンの奥深くにしか出現しない。

 それが街中に出てきたとしたなら、たとえ王立魔法学園があるこの街でも大騒動になるはずだ。


 だけど、大きな騒ぎは起きていない。


 翌街の様子は至って静かだった。

 まるで、昨日の出来事が夢だったかのようにも思えた。


「あのモンスターは、本物なのですか?」


『昨日のベヒューモスのことか。あれはデータだ』


 ルテミシカはそう答えた。



 データ、ですか……。


 ルテミシカは、盗んだアーティファクトのこともデータと言っていた。


 この『データ』というのは、どういう意味なのだろうか。

 これは話題に触れると、深く考えこんでしまいそうだ。



「さてと、準備を進めますか」


 私の手が動き始めた。

 ルテミシカが離れていったのもあるけど、ひとつ質問したことで頭の中にあった何かの引っ掛かりがほどけたのが大きいと思う。


「本日最初の授業内容は、炎魔法の基礎になるわね……」


「おはよう。新人さんはテキパキしていて早いね」


「おはようございます!」


 気がつくと、他の教師が次々と入ってきていた。

 まだ授業開始までは時間に余裕がある。準備を入念に行って、本日の仕事をやり切る気持ちを高める。



 王立クリーエズ魔法学園は、魔法に何かしらの適正を持つ者が八歳から入学することの出来る学校である。


 教育内容は魔法の基礎から応用までを行い、時にはダンジョンの探索を行う。各地のギルドとも提携しており、授業の一環として生徒が低難易度クエストの依頼のサポートをすることもある。


 そして、法律という世界共通のルールで魔法学園の生徒は三段階に分けられていた。

 初等部、中等部、高等部だ。


 初等部は、魔法の基礎を積み上げる段階。八歳から十二歳が多い。

 中等部では、魔法の応用を学び始める段階。基本的に十二歳にならないと中等部に進級できない。

 高等部になると、より実践向きの内容を学べる。基本的に十六歳にならないと高等部へ進級できない。


 魔法学園へ入学する年齢がバラバラになる関係上、進級するには三年間若しくは四年となる場合が多いが、僅か一年で進級する者もいたりする。


 一方で、高等部に入ってから卒業までの授業は二年間と決まっており、成人式が十八歳で行われる。


 成人すると、教師をはじめとした資格が必要な仕事となる試験を受けられるようになり、それに合格すると教師などの仕事に就くことができる。



 また、世界各地に存在するダンジョンの攻略を行う冒険者には、別の教育制度が導入されており、各地のギルドに雇われながら冒険の心得を学んでいって一人前を目指していく方針となっていた。



 私はまだ十六歳だが、王立クリーエズ魔法学園とは別の魔法学園の高等部を卒業している。

 それに加えて、教師の仕事に就くことができる資格を所持していた。


「私が、天才以外の何者でもないのだけどね」 


 独り言を小声で呟いた私は、授業で使用する資料を両手で持つと、生徒が待機している場所へと移動した。


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