アーティファクトを盗み出せ
『この壁の模様、よく気づいたな』
「ろうそくのマークですから、炎の魔法ですかね……」
ルテミシカにべた褒めされたが、私はなりふり構わず魔法を使おうとする。
指先に少量の魔力を集めて、手のひらで隠せる程度の火の玉を壁の模様に向かって解き放った。
バチッと音がすると、霧が立ち立ちこんできた。
「ルテミシカ、視界が悪くなってきたけど、どうかな?」
『ふむ、この先だ。アーティファクトを感知できる』
「進めるのですよね?」
『勿論だ』
壁に激突するのではないかと、ひやひやしながら前に進んでいく。
何があるか分からないので、足音を立てないように慎重に、前方の警戒をした。
「ふぅ……」
歩けば歩くほど、霧は薄く視界がよくなってくる。
「台座と斧のシルエット……」
『あれが、今回の目的となるアーティファクトだ』
「ふーん」
ルテミシカからの言葉で、私の緊張感が少しだけほぐれた。
「見た目は黒い斧って感じですけど、このアーティファクトってどんな名前なの?」
『魔斧ブラッドギニョルスターだ』
「なんか、かっこ良い名前ですね……!」
私は息を吞む。
これを持っていくのが今夜のお仕事となるわけか。
「ところで、これ重たそうだけど、両手で持てるかな……」
私がアーティファクトに触れると、背中から魔力の気配が流れ込んでくる。
「あっ、これは……」
先程まで微動だに感じることのなかった熱い殺気。
『早いとこ、逃げるしかないな』
「そ、そうですね……」
アーティファクトを両手でで持ち上げた瞬間、私は台座から離れた。
『グゥオオオオオオオッ!』
背後には、ベヒューモスが二匹。
私の後を追いかけていたのか知らないけど、興奮状態にあった。
「やっぱり見つかってるじゃないですかああああ!」
『とにかく逃げるが良い』
「……なんで命令口調なんですか?」
『これがデフォルトだからだ』
ルテミシカの冷静なボケに頭を少し冷やそうとするも、ベヒューモスが全力で追いかけてくるので心の余裕なんで生まれるはずがなかった。
とにかく通路。他のモンスターと遭遇しないでとお祈りしつつ、魔法で地図も描いていく。
「右に、左で、次は左で……あああっ……!」
ヤバいかも。私に出来る情報の許容範囲を軽く超えてきている。
「壁、壁があります……!」
『行き止まりだが?』
「そんなの分かっています!」
アーティファクトを抱えたまま、私は壁にまで到達した。
振り返ると、ベヒューモスが二匹。
逃げ道を完全にふさいでいる形になってしまった。
「ルテミシカ、盗ったアーティファクトって地面に置いて大丈夫でしょうか?」
『少しくらいなら大丈夫だ』
「わかりました。ありがとうございます」
私はアーティファクトを地面に置くと、普段から愛用する緑の表紙の魔導書を手に持った。
すぐに赤い魔法陣を展開していく。
地面から著しい速度で広げっていき、それがベヒューモスの上を通過するとベヒューモスがもだえ苦しんだ。
『これがドロボウの上位魔法か。ベヒューモスが燃えているぞ!』
「いえ……。これはただの詠唱の準備です」
『ドロボウ、本当なのか?』
「本当です」
嘘は言っていない。
私はまだ魔法を使っていなかった。
使うのは、これからだ。
「聖なる星の煌めきよ、我が未来に導く球となりて地上に降り注げ。――アストラル・フレア!」
詠唱を終えると、私の手先から、青白い球体が四つ現れた。
それがベヒューモスに向かって飛んでいくと、青白い爆発が発生した。
『威力が凄まじい、素晴らしい魔法だ』
ルテミシカは褒めたが、それ以上の言葉は出てこないだろう。
白い炎で根こそぎ燃やし尽くしてしまい、ベヒューモスの悲鳴すら聞こえてこなかった。
戦闘の終了を確認をした私は、地面に置いたアーティファクトを拾い上げて、来た道を引き返す。
『ところで、さっきまでモンスターから逃げていた理由について聞きたいのだが』
「逃げというな!」
『ドロボウはあの強さにして、どうしてモンスターから逃げる?』
「そう言われましても……SSS+ランクの用心棒だったかな……。なんでもないですよっ!」
私は誤魔化した。いま語りたくないだけかもしれない。
モンスターを倒すだけなら、別に大したことない。
ただ別の目的があると、頭がそっちに向いてしまって状況を疎かにしがちというか……。
「やっと着いた。とりあえず、出口です!」
私は、ルテミシカが作成したダンジョンの出口の壁にもたれ掛かる。
すぐさまワープして、夜の街に戻って来れた。
「アーティファクトの回収、上手くいきましたね」
『そうだな』
「それで、この後はどうするのですか? 学園に戻ったら良いのですか?」
『いや……アーティファクトの処理は、この場でやろう』
ルテミシカの水晶が、夜空に浮かび上がった。
『さぁ、アーティファクトを我に捧げたまえ』
「こうですか?」
私はアーティファクトを空高くに届ける感覚で両手を伸ばした。
そしたら、水晶から牙が生えてきて口のように開いた。
『では……いただきます!』
「えっ、食べるんですか?」
『ムシャムシャ。アーティファクトといっても、所詮はデータなのだ。そして、オタカラをこうやって賢い個体が食べることにより、暴走したAIコアを内面から支配するのだ』
「弱肉強食のような……共食い……」
ルテミシカには、いろいろと聞きたいことが増えたような気がした。




