夜の街に発生する脅威
『表現が悪かったか。ならばもう一度、伝えるまでだ』
ルテミシカが一方的に語りかけてくる様子で気が引けるが、ここは我慢する。
まずは夜の街に忍び込み、ダンジョンを探すこと。
それからダンジョンに潜入して、『オタカラ』をダンジョンの外に持ち出すこと。
その『オタカラ』が外に出れば、あとはルテミシカの力によって暴走したAIを止められるらしい。
これだけ把握しておけば十分とまで言われ、ルテミシカとの会話が一旦途切れた。
一応だけど質問を投げかけたら、追加で答えてくれそうだけど……。
その必要はないようにも思えた。
学園を出て右方向だ。
商店街の方から悲鳴が聞こえてきた。
それだけに留まらず、好戦的な熱い魔力の気配を察知した。
街の防衛騎士によるものだろうか。防御結界も発動している。
ドロボウはこれまでに一度もやったことないしやりたくもないけれど、魔法の扱いに関して超一流な私は、魔力の流れや属性で遠くの状況把握くらいはできる。
いま現在、モンスターとの交戦が街中で発生していると見て取るべきだろう。
普通なら身の安全を確保するために離れるべき。だが、今はドロボウとして動かないといけない。
四方八方へ逃げていく気づかれないようにするためには、上の服装だけ脱いでおくか。魔法で収納するので両手が塞がることはない。
「えっと……」
小声を漏らしたが、街中で逃げ惑う人々は私の存在に気づかない様子。
黒いロリータ服は思ったより目立たなさそうだ。日が暮れているので、尚更である。
これなら裏地の陰に隠れながら、目的の場所まで淡々と進むことができそうだ。
夜の冒険というよりかは、本当に街に忍び込むような形になっちゃったけど、ここまで進んでしまったのなら私が出来る範囲内でやるしかないだろう。
とはいえ、戦闘面のイメージとしての心細さはあったりする。
ドロボウらしく何か別の武器が欲しいと思ったり思わなかったり。
少し歩きながら考えることによって、暇を持て余すことはなかった。
『グゥオオオオオオオッ!』
「ぐっ、やるなっ……。非難のほうは順調か?」
街の防衛騎士たちとモンスターが戦っている声、はっきりと聞こえてきていた。
数分歩いたら、これか。
建物の裏手からちらっと覗き込むと、私は息を吞む。
「あれは、炎の獅子……ベヒューモス」
私の瞳に移り込んだのは、灼熱の炎をまき散らすとされる大型のモンスターだ。
通常であれば、ダンジョンの深層部にしか生息していないのだが、どうしてここにいる?
もし私だけがこのモンスターを真っ先に目撃していたら、ひとりで立ち向かっていただろうけど状況が違いすぎる。
応戦している街の防衛騎士は六名なので、流石に私が手を貸す必要はないと思う。
六名のうちひとりかふたりくらいが、魔法学園の先生であることも確認出来た。
「学園が空っぽに思えたのは、先生方が防衛騎士も勤めているからなのか」
『その通りだ。暴走したAIコアによってこのような事態が引き起こされているのだから、ドロボウには一刻も早くダンジョンの入り口を探してもらいたいところだ』
「ルテミシカ、わかってます」
私は戦闘に入らずこの場を立ち去る。
探しているのはダンジョンだ。もっと危険なモンスターが潜んでいるかもしれないので、心づもりだけしておく。
「あの、すみません。……ダンジョンどこですか?」
暫く周辺をうろつきまわったが、まだダンジョンの入り口が見つからない。
そもそも目印とやらがあると思うのだけど、なにも掴めずにいた。
「ルテミシカ、聞いてますか? 新人教師が困っているのですけど」
『ドロボウ、そこで立ち止まれ。一歩も動かず、空を見上げよ』
「はい……?」
私は、言われたとおりに動いた。
すると、上空に一本の剣が出現した。
魔法で作られた氷の剣といったところだ。それが私の頭部よりやや上に目掛けて、真っ直ぐ飛んできた。
避ける必要がないのは分かっていたけれど、簡単な説明くらいはしてほしい。
そう思った矢先、私が背を向けていた壁に『何か』が現れていた。
これまでの人生で一度たりとも感じたことのない、凍てついた魔力。
私が慌てて振り向いたら、壁に転送用の魔法陣が浮かび上がっていた。
「あの、これって……触れたらワープしますよね? 今夜、私が歩き回った意味はあったのですか?」
「ドロボウよ、説明しよう。暴走したAIコアが作成するダンジョンの正規の入り口が見つからなくとも、穴となる特定の座標さえ発見すれば無理やりこじ開けることが可能だ。覚えておくが良い』
「ダンジョンの出入口がなかったら、ルミテシカが侵入口を作っちゃうのね。理解したから、さっさと行きましょう」
私は、何の躊躇もなく壁に手を触れた。
でも……ワープ系は少し慣れないところがあって。
肩の力を抜くと意識が少しずつ遠のいていき、何処かへ導かれるように肉体が吸い込まれていく。




