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第4話 二人の勝利

ーーーーー

登場人物紹介


子田賢ねだ・けん - ネズミ。プロジェクトリーダー。

 全体を俯瞰し優れた分析力と観察力を持つ。


牛田継続うしだ・けいぞく - ウシ

 着実に前進する実行力と信念を持つ。

ーーーーー

前半

——エレファントモーター問題発覚から十一週間後。残り時間:一週間。


「最終報告の準備、できていますか?」鯨岡社長が賢を呼び出した。


「はい」賢が資料を広げた。「納期遅延率は、95%改善しました。品質クレーム率は、80%削減しました」


社長の目が輝いた。「本当か……三ヶ月で、そこまで——」


「ただし」賢が続けた。「まだ完璧ではありません。品質クレームはゼロではないし、納期も時々遅れます。改善の余地は、まだあります」


社長が頷いた。「正直でいい。完璧を求めるのではなく、着実な改善を——それが大切だ」


「明日、エレファントモーターに報告に行ってくれ。そして——できれば、契約継続の承諾を得てほしい」


——


その夜、賢と牛田は遅くまでプレゼンテーションの準備をしていた。


「データは完璧です」賢が資料を見直した。「これなら、説得力がある」


牛田が静かに言った。「子田さん、データも大切ですが——明日は、私たちの『心』も伝えましょう」


「心……ですか?」


「はい」牛田が微笑んだ。「この三ヶ月、私たちがどれだけ真剣に取り組んだか。現場の人たちと、どれだけ対話したか。そして——これからも、改善を続ける決意があることを」


賢が頷いた。「分かりました。データと心——両方で、勝負します」


窓の外には、東京の夜景が広がっていた。三ヶ月前、ここで二人は初めて出会った。あの時は——何もかもが不安だった。


でも今は、違う。二人なら——やれる。


後半

翌日、午後2時。エレファントモーター本社の会議室。


象山部長と品質管理責任者の象田守ぞうた・まもるが、険しい表情で座っていた。


「それでは、三ヶ月の改善報告を始めます」賢がプレゼンテーションを開始した。


納期遅延のグラフ——右肩下がりに改善している。品質クレームのグラフ——こちらも大幅に減少している。


象山部長が資料を見つめた。「確かに——数字は改善していますね」


「しかし」象田が口を開いた。「まだゼロではない。本当に信頼していいのか——」


その時、牛田が立ち上がった。


「お二人とも、正直に申し上げます」牛田の声は穏やかだが、力強かった。「完璧ではありません。今でも、時々問題が起きます」


会議室が静まり返った。


「でも」牛田が続けた。「私たちは、諦めません。この三ヶ月、現場の一人一人と向き合いました。設計部門と製造部門の壁を壊しました。検査員たちの声を聞きました」


「そして——分かったんです。問題を『隠す』のではなく、『向き合う』ことの大切さを」


牛田が深く頭を下げた。


「どうか、もう少しだけ——私たちを信じてください。必ず、御社の期待に応えます」


長い、長い沈黙が流れた。


象山部長が、ゆっくりと立ち上がった。


「……分かりました」その声には、わずかな温かさがあった。「契約を、継続します」


「ただし」象山部長が続けた。「これからも、改善を続けてください。今回のような真摯な姿勢を、ずっと保ってください」


「はい!」賢と牛田が同時に答えた。「必ず——」


——


エレファントモーターを出た後、賢と牛田は並んで歩いていた。


「やりました……やったんですね……」賢の声が震えていた。


「はい」牛田が微笑んだ。「二人で、やり遂げました」


賢の目に、涙が浮かんでいた。三ヶ月前、社長から託された期待。エレファントモーターとの約束。そして——一人では絶対に達成できなかった目標。


「牛田さん」賢が言った。「ありがとうございます。あなたがいなければ、私は——」


「いえ」牛田が遮った。「子田さんがいなければ、私も何もできませんでした。二人だから——できたんです」


そして、賢は鯨岡社長に電話をかけた。


「社長、子田です。ご報告があります」


「どうだった?」社長の声には、緊張が滲んでいた。


「エレファントモーター——契約継続が決まりました」


電話の向こうで、深い息をつく音が聞こえた。


「そうか……よくやった、子田くん。本当に、よくやってくれた」


社長の声が震えていた。三ヶ月前、賢に託した期待。会社の存続をかけた賭け。それが、実を結んだ。


「牛田くんと二人で——」賢が言った。「二人だから、できました」


「ああ」社長が言った。「それが、十二支プロジェクトの本質だ。一人ひとりは不完全でも、協力し合えば——どんな困難も乗り越えられる」


「そして、子田くん」社長が続けた。「人事部に言って次のメンバーを手配させる。来週の月曜日、そちらに向かわせるので宜しく頼む。引き続き良いチームを作ってくれ」


賢の心臓が高鳴った。「はい。お待ちしています」


◇ ◇ ◇


電話を切った後、賢と牛田は十二支プロジェクトのオフィスに戻っていた。


「次は——どんな人が、仲間になるんでしょうね」


賢は窓の外を見つめた。夜の街に、明かりが灯り始めていた。


「分かりません。でも——きっと、素晴らしい人たちが集まってくれる」


牛田との出会い。自分の価値観が変わった瞬間。効率や競争だけでは得られない、深い満足感——協力し合うことで、一人では到達できない高みに達することができる。


「新しいメンバーも、それぞれの強みを持っているはず」賢は心の中で呟いた。「私の役割は、その強みを見つけ出し、最大限に活かすこと」


一人ひとりの可能性を信じ、引き出す——それが、牛田から学んだ「本当のチームワーク」。


◇ ◇ ◇


一週間後の月曜日の朝。


オフィスに二人の姿があった。


「牛田さん」賢がコーヒーカップを置いた。「実は……少し緊張しています」


「それは……なぜでしょう?」


「これまでは、人が増えると必ず競争が生まれました。また、あの雰囲気に戻ってしまうのではないか、と」


牛田はゆっくりと頷いた。「子田さん、心配する必要はありませんよ」


「私たちがこの三ヶ月で築いてきたもの——それは、競争ではなく協力でした。どんなことが起こっても、私たちが学んできたことを大切にしましょう」


賢は牛田の目をまっすぐ見つめた。


「牛田さん、私……決めました。これからは、私の持っている分析力も戦略思考も、すべてチームのために使います。リーダーとして、みんなの強みを最大限に引き出せるように」


牛田は微笑んだ。「その気持ちがあれば、きっと大丈夫です」


九時が近づき、廊下に足音が聞こえ始めた。


賢は無意識に身構えた。


しかし牛田の存在が、彼に安心感を与えていた。一人ではない。信頼できるパートナーがいる。どんな困難があっても、二人で乗り越えられる。


「本当のチームとは何か」——その答えを探す準備ができていた。


扉をノックする音が響いた。


新しい物語の始まりだった。


続く

お読みいただきありがとうございました。

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