第29-3話 インドネシア国会 リゾート開発 参考人招致-ストーリー戦略1
【賢——インドネシア国会での意見陳述】
ジャカルタの国会議事堂。円形に配置された議員席が、中央の参考人席を囲んでいる。天井から垂れ下がる照明が、議場を白々と照らし出している。議員たちの視線が、一点に集中している。
テレビカメラの赤いランプが点灯し、国全体に生中継されている。記者たちが、息を殺してノートを構えている。
傍聴席の最前列。威風と鳴子が、緊張した面持ちで座っていた。二人とも、賢を見守ることしかできない。
賢が、深呼吸をして、参考人席に着席した。マイクが彼の前に置かれ、その小さな音が議場全体に響き渡る。手の平が、微かに湿っている。
議長が木槌を叩いた。その音が、議場に重く響き渡る。「それでは、バリ島グランドリゾート開発プロジェクトについて、参考人子田賢氏への質疑を開始します」議場全体が、静まり返った。
最初の質問は、穏やかだった。
与党議員が立ち上がった。「参考人、このプロジェクトの意義を、国民の皆様に分かりやすく説明してください」
賢が冷静に答えた。「はい。このプロジェクトは、バリ島に世界最高水準のリゾートを建設するものですが、それは単なる観光施設ではありません」
賢が資料を示した。「バリの食材を活かして世界のトップシェフ四人でサンセバスチャンのような地域づくりにも取り組んでいきます。 また現地の方の主導でバリの文化を世界に体感していくプログラムも多数準備。地熱発電は確定埋蔵量ベースで900メガワットの拡張余地があり一般家庭30万世帯への電力供給も視野に入れてます。 6G通信インフラを構築し、インドネシアを技術先進国に押し上げます。これらにより、直接雇用5,000名、間接雇用10万人規模を創出します 」
「これは、インドネシアの経済発展、エネルギー安全保障、技術力向上——つまり、国益にも直結する戦略的プロジェクトとも言えると存じます」
与党議員たちが頷いた。「素晴らしい」「国家の将来に資する」賛同の声が上がる。
しかし——。
野党議員Aが立ち上がった。
「参考人、環境への影響はどうなのか。バリの自然を破壊するのではないか?」
賢が即座に答えた。「環境アセスメントは、インドネシア環境省の基準を全てクリアしています。CO2排出を75%削減し、森林保全も契約に明記されています」
賢が資料を示した。「こちらが、環境省の承認証です」
野党議員Aが、資料を一瞥しただけで言った。
「しかし、長期的な影響は分からないではないか!」
野党議員Bが立ち上がった。
「雇用は本当に生まれるのか。数字だけではないか?」
賢が答えた。「直接雇用5,000名、間接雇用10万人。契約書に明記し、インドネシア労働省と合意済みです。こちらが証明書類です」
野党議員Bが鼻で笑った。
「机上の空論だ! 実現する保証があるのか!」
野党議員Cが立ち上がった。
「地元住民の同意は得ているのか!」
賢が答えた。「地元コミュニティとの協議を重ね、95%の住民が賛成しています」
野党議員Cが反論した。
「残りの5%は無視するのか! 少数派の声を踏みにじるのか!」
質問が、次々と続く。
賢がそれらに確りと答える。
すると——別の野党議員が、また別の角度から難癖をつける。
傍聴席の威風が、眉をひそめた。
鳴子が小声でつぶやいた。「これは……質問ではありません」
威風が頷いた。「そうだ。どれだけ完璧に答えても、彼らは次の難癖を探している」
鳴子が続けた。「つまり——」
威風が静かに言った。「野党は、最初から賛成する気がない。これは政策論ではなく——」
「与党の政策は、何があっても通さないという政治的方針だ」
そして——。
野党のベテラン議員——元大臣——が、ゆっくりと立ち上がった。
会場が一瞬で静まり返った。このベテラン議員は野党の代表であり、今後の政局次第では次期大統領の有力候補でもある。
ベテラン議員が、冷たい視線を賢に向けた。
「参考人、我々の同僚が、様々な角度から質問してきた。あなたは、一つ一つ、丁寧に答えた。その努力は認めよう」
しかし——議員の表情が、冷たく変わった。
「だが、残念ながら、中長期的な観点での継続性やプロジェクトの細部においては十分に納得がいくものではない」
ベテラン議員が周囲の野党議員を見渡し、力強く宣言した。
「我々は、このプロジェクトに反対する」
会場がざわめいた。与党議員たちが立ち上がり、抗議の声を上げる。「理由になっていない!」「政策を議論しろ!」
議長が木槌を叩く。「静粛に!」
ベテラン議員が、落ち着いた声で続けた。
「なぜ反対するのか。それは明白だ」
「これは、与党が提案した政策だからだ」
会場が——凍りついた。
ベテラン議員が続けた。「与党は、これまで数々の政策で失敗してきた。国民の信頼を失ってきた」
「その与党が推し進める巨大プロジェクトを、我々野党が簡単に承認できるわけがない」
「国民の代表として、我々は徹底的に反対する」
他の野党議員も次々と立ち上がった。
「その通りだ!」「与党の政策は信用できない!」「これは国民を騙す罠だ!」
会場が騒然となった。議長が何度も木槌を叩くが、騒ぎは収まらない。
傍聴席の威風と鳴子が、顔を見合わせた。
やはり——。
これは、政策の議論ではない。
与党の政策は、内容に関わらず、絶対に通さない。
それが、野党の政治的方針だったのだ。
威風が悔しがる「最後にこんな反対が待っているんだったら、今まで、これまで、一生懸命に頑張ってきた俺たちはなんだったんだ」
鳴子も泣きそうになる「私たちインドネシアのためにも頑張っているのに。それなのに……」
賢は、証言台で立ち尽くして俯いていた。
どれだけ論理的に説明しても、どれだけデータを示しても、どれだけ完璧に答えても——。
野党は、最初から聞く耳を持っていなかった。
もうだめだ。どうしようもない——。
議場全体が、諦めのため息に包まれた。
残念ながらこのパートナーシップは廃案になるだろうと。
そして野次が落ち着きをみせた。
議長が諦めの様子で閉会に入ろうとした。
木槌に手を伸ばした。
——その時、賢が、ゆっくりと顔を上げた。
続く
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登場人物紹介
子田賢 - ネズミ。プロジェクトリーダー。
全体を俯瞰し優れた分析力と観察力を持つ。
牛田継続 - ウシ
着実に前進する実行力と信念を持つ。
虎山威風 - トラ
力強い実行力を持つ戦略家。
兎野理子 - ウサギ
慎重なリスク分析の専門家。
龍雲昇天 - タツ
圧倒的なカリスマと人を魅了する力を持つスター。
蛇原静香 - ヘビ
人の観察に優れ本質を見抜く洞察力の持ち主。
馬場疾駆 - ウマ
自由を愛し新しい風を吹き込む風雲児。
羊谷和奏 - ヒツジ
優しく人々を調和させ、団結させる力を持つ。
猿田新々(さるた・しんしん) - サル
機転と発想力に優れるがあきっぽい。
鶏鳥鳴子 - トリ
厳格な管理能力を持ち、組織の秩序を守る。
犬塚潜在 - イヌ
次期リーダー候補と言われた若手エース。
猪野勇進 - イノシシ
愚直でひたむきで真っ直ぐ突進する。
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