第28-4話 世界最高級ホテルの誘致-ストーリー戦略2
【昇天のプレゼンテーション】
バリ島のプロジェクト本部。鯨岡社長が報告書を見ながら言った。
「発電所は目途が立った。牛田のおかげで、タービンメーカーと掘削企業の提携も成功した」
星野が頷いた。「技術面も問題ありません。還元井戸システム、バイナリー発電、AIモニタリング——全て設計完了です」
静香が報告を追加した。「政府の許可も下りました。ラフマット部長も、最終承認にサインしてくれました」
勇進が笑顔で言った。「地元住民も納得——いや、寧ろ積極的に推進してくれています。アグンさんたちは、もう世界の人を迎える準備を始めてるくらいです」
鯨岡社長が深く息を吸った。「全てのピースが揃った……残るは——」
昇天が静かに言った。「ホテルの誘致です」
一同が昇天を見た。
昇天が続けた。「地熱発電がある。現地政府の許可がある。住民の協力がある。でも、それを世界に届ける『舞台』がない」
「世界最高級のホテルチェーン——彼らを、ここに呼ぶ。それが、私の仕事です」
鯨岡社長が頷いた。「昇天、頼んだ。お前のカリスマで、世界を動かせ」
——二週間後。東京、丸の内。インペリアルスカイグループ本社ビル、最上階にあるインペリアルスカイラウンジ。
大きな窓からは、皇居の緑が一望できる。見晴らしの良い景色が、格調高い雰囲気を添えていた。
この日、3つの世界最高級ホテルチェーンの代表が招待されていた。
リス・カールトン(栗鼠)——伝統と格式を誇るラグジュアリーホテルの代表格。
フォー・シシズ(獅子たち)——世界中のVIPに愛される最高級ホテルチェーン。
ブル・ガルーダ(神鳥)——ラグジュアリーとアジアの精神性が融合する新世代ホテルブランド。
彼らは世界中から無数のリゾート提案を受けている。その99%は、最初の5分で却下される。
彼らの目は、厳しく研ぎ澄まされている。表面的な美辞麗句では動かない。彼らが求めるのは——本物だけだ。
重厚なドアが開き、青天澄香が凛とした姿で入ってきた。彼女の後ろに、昇天が静かに続く。
澄香が司会台の前に立ち、穏やかに微笑んだ。
「皆様、本日はお忙しい中、お集まりいただき誠にありがとうございます。私、インペリアルスカイグループ海外プロジェクト統括の青天澄香と申します」
彼女の声は、柔らかく、しかし力強かった。
「本日は、私たちが進めているバリ島でのリゾート開発プロジェクトについて、ご説明させていただきます」
「このプロジェクトは、単なるリゾート開発ではありません。地熱発電、6G技術、ガストロノミーツーリズム、そして地域文化の体験——全てが統合された、世界初の試みです」
澄香が昇天に視線を向けた。
澄香は正直戸惑っていた。
——こんな世界のトップ3とも言えるホテルが我々のリゾート開発に興味を持ってくれるのか。この男が必ず惹き込むというから、セッティングしたが……。しかし、もう託すしかない。一社でも興味を持ってくれたら大成功だろう——
そういう気持ちだった。
「本日のプレゼンテーションは、チーフビジョナリーの龍雲昇天が担当いたします」
昇天が軽く会釈をした。
——そして突然、照明が落ちた。
静寂が場を支配した。
何が起こるんだ?会場が期待と緊張を震わせている。
次の瞬間——心地の良い二つの音色が、会場を包み込んだ。
竹の楽器——ガムバンが奏でる、温かく、柔らかな音色。それは木の温もりを感じさせる、優しい響きだった。
そこに重なる、金属製のゴングの清澄な音。キーン、と空気を震わせる高音が、心の奥深くまで浸透していく。
リズムは神秘的だった。規則的でありながら、どこか予測できない。まるで波のように、寄せては返す。
そして——会場に、かすかな香りが漂い始めた。
バリの花、フランジパニ(プルメリア)の甘く、優雅な香り。バリ島の寺院で焚かれる線香の、落ち着いた煙の香り。
リス・カールトンの代表が、わずかに鼻を動かした。この香り——本物だ。
そして昇天がスポットライトを浴び、姿を現した。鋭い眼差し。会場の空気が変わる。
「みなさま本日はお越し頂きありがとうございます。龍雲昇天です」
少し微笑んだかに見えた瞬間、彼のカリスマが輝いたかのように見えた。
「これからお見せするのは——バリの未来です」
そして、これまで真っ暗だったスクリーンに緑色が飛び込んできた。
参加者たちの視線が、釘付けになる。
——朝日に輝くライステラス。階段状に連なる水田が、天国の階段のように美しく輝いている。朝日が水面に反射し、まるで鏡のように天と地を繋いでいる。
参加者たちが、息を呑んだ。
フォー・シシズ の代表が、わずかに身を乗り出した。興味を示し始めている。
昇天が語りかけた。
「ライステラスの階段——それは千年の時を経て築いた人類の農業の営み」
「朝日に輝く水面——それは古来より天と地を繋ぐ鏡」
スクリーンに次々と映像が流れる。農家の人々が田植えをする様子。一本一本、丁寧に苗を植えていく。その動作の美しさ。
リス・カールトンの代表が、腕を組んだまま画面を見つめている。表情は硬いが、目は離せない。
昇天が続けた。「これは、ただの農業ではない。これは、人間の歴史と伝統が、このバリの土地に融合した姿」
スクリーンが切り替わる。
——村の女性が伝統料理を作る姿。細かく刻まれた野菜。丁寧に混ぜ合わせる手の動き。
「母から娘へ、千年受け継がれた味」
そして次のスクリーン。
——バリ島の寺院。ガムランの音色が静かに響く。青い海と空に溶け込みながら。
「寺院で捧げる祈り、額に白米を貼る、その瞬間——祈りは天に届く」
昇天の声が、力強くなった。
「これは観光ではない——一人一人がバリの神髄に触れる体験」
澄香は会場の空気が変わっていくのを感じた。代表たちの視線が、昇天に吸い寄せられている。
——スクリーンが暗くなり、地下深くの映像が映し出された。マグマが沸騰し、蒸気が噴き出す様子。
昇天が語りかける。
「地下2000メートル」
「マグマが沸騰し、地球が呼吸している。その鼓動を——電力に変える」
スクリーンに地熱発電システムの映像が流れる。蒸気タービンが回転し、電力が生み出される。美しく、力強い。
昇天が続けた。
「CO2ゼロ、化石燃料ゼロ」
「あなたが眠る部屋の灯り——全て地球からの贈り物。自然を汚すのではなく、自然と共に」
参加者たちが、頷き始めた。
リス・カールトンの代表が、隣の同僚と小声で何かを話している。表情が柔らかくなっている。
澄香は驚いていた。これほどの大物たちが、昇天のプレゼンに引き込まれている。彼女自身も、気づけば昇天の声に耳を傾けていた。
——綺麗な厨房が映し出される。その中で一流シェフたちが慌ただしく料理をしている。
昇天が語りかける。
「世界のトップシェフ4人が、ここに集まる」
「アンドニ、ピエール、小林、マッシモ——」
ブル・ガルーダの代表が、メモを取り始めた。彼の目が真剣になっている。
「彼らが提供するもの。それはバリで生まれる、世界で初めての料理」
スクリーンに映る、美しい料理の数々。そして昇天が語る。
「朝、漁師が獲った地元の魚」
「塩田で取れた塩」
「ライステラスからのお米」
「母から娘へ受け継がれた香辛料」
昇天が力強く言った。「4人の世界最高の技術を束ねて、地元の食材を活かし、創造する。バリの新しい食文化を」
フォー・ シシズの代表が、深く頷いた。彼の目には、期待の光が宿っている。
——遠くから鷹の鳴き声が聞こえた。
そして大きなスクリーンに、鷹が大空を飛ぶ映像が流れる。力強く、優雅に。
昇天が言った。
「見てください——鷹が、バリの空へ舞い降りてきます」
昇天が語りかける。
「鷹の眼は、全てを見通す」
「ファルコングループとの提携により——リゾート全体が、一つの生命体に」
スクリーンに、6G技術の映像が流れる。全てのホテル、レストラン、インフラがリアルタイムで繋がる様子。
昇天が続けた。
「全ての部屋、全てのレストラン、全てのインフラ」
「リアルタイムで繋がり、呼吸する。誰もが同時にオンラインで把握する」
「安全と安心。そして——最高のサービスを提供する準備が、整っている」
昇天が穏やかに微笑んだ。
「これが、世界最先端の技術」
ブル・ガルーダの代表が、完全に前のめりになっている。
澄香は心の中で呟いた。この男は——本物だ。
照明が静かに落ち、スクリーンが少し暗くなった。これまでの映像がハイライトされて流れている。
昇天が静かに語りかけた。
「私たちが皆さまにこの地にお願いしたいもの。それは、単なるホテルではありません」
「バリの新しい未来、それを育てる舞台です」
長い沈黙。
昇天が最後の言葉を紡ぐ。
「美しい景色の中で」
「文化と共に呼吸し」
「地球と共に生き」
「美食の物語を聞く」
「そして技術が、全てを見守る」
昇天が参加者たち一人ひとりの目を見つめた。
そして、静かに——しかし力強く——言った。
「今まさに新しい未来が生まれようとしています」
「その未来を共に育みませんか?そして、訪れるお客様に、まだ誰も見たことのない新しい世界をご案内していきましょう」
代表たちは、昇天の言葉を噛みしめている。誰も動かない。誰も声を出さない。
澄香は、自分の胸が高鳴っているのを感じた。昇天の描く未来が——見えた気がした。
そして——。
リス・カールトンの代表が立ち上がった。彼の目には、確信の光がある。そして、拍手を始めた。
次に、フォー・シシズの代表が立ち上がり、拍手に加わった。
そして、ブル・ガルーダの代表も立ち上がり、拍手が会場を満たした。
スタンディングオベーション——全員が、昇天のプレゼンテーションに心を動かされていた。
澄香も、気づけば立ち上がっていた。拍手をしながら、彼女は昇天を見つめた。
リス・カールトンの代表が前に進み出た。
「昇天さん——私たちリス・カールトンは、この未来を選びます」
フォー・シシズの代表も頷いた。「私たちフォー・シシズも、是非参画させていただきたい」
ブル・ガルーダの代表が力強く言った。「ブル・ガルーダも、この未来を共に作っていきたい」
青天澄香が、感動で目を潤ませながら微笑んだ。この男は——世界を動かした。そう、確信した。
昇天が深く頭を下げた。「ありがとうございます。共に新しい未来を創れること、楽しみにしております」
——プレゼンテーションから一週間後。
三社全てから、正式なリゾートホテルの提案が届いた。
リス・カールトン——伝統と格式を活かした、クラシックラグジュアリーの提案。
フォー・シシズ——世界のVIPが認める、洗練された最先端のサービスの提案。
ブル・ガルーダ——バリの精神性とラグジュアリーが融合する、新しい時代の提案。
澄香は、昇天、牛田、星野、静香、勇進と共に、慎重に検討を重ねた。
それぞれが素晴らしい提案だった。どれを選んでも、世界最高のリゾートになるだろう。
しかし、最終的に——チームは一つの結論に達した。
「ブル・ガルーダです」
昇天が静かに言った。「バリの精神性を最も理解し、未来を見据えている。彼らと共に、新しい時代を創りたい」
澄香は頷いた。そして、心の中で思った。
——この三社を比較検討するなんていう贅沢、二度とないだろう。
その夜、澄香は昇天に尋ねた。
「昇天さん、一つ聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
澄香は真剣な目で見つめた。「プレゼンテーションのコツは、何ですか?」
昇天は快く答えた。
「一人で輝くのではなく、皆を輝かせることです」
澄香はその言葉に感心した「——素敵な言葉ですね」
そして昇天が続けた。
「——澄香さん、あの3社を呼ぶのは大変だったと思います。私を信じてくれてありがとうございました」
昇天のその完璧なまでの微笑みに、澄香は不覚にも顔を赤らませた。
続く
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登場人物紹介
子田賢 - ネズミ。プロジェクトリーダー。
全体を俯瞰し優れた分析力と観察力を持つ。
牛田継続 - ウシ
着実に前進する実行力と信念を持つ。
虎山威風 - トラ
力強い実行力を持つ戦略家。
兎野理子 - ウサギ
慎重なリスク分析の専門家。
龍雲昇天 - タツ
圧倒的なカリスマと人を魅了する力を持つスター。
蛇原静香 - ヘビ
人の観察に優れ本質を見抜く洞察力の持ち主。
馬場疾駆 - ウマ
自由を愛し新しい風を吹き込む風雲児。
羊谷和奏 - ヒツジ
優しく人々を調和させ、団結させる力を持つ。
猿田新々(さるた・しんしん) - サル
機転と発想力に優れるがあきっぽい。
鶏鳥鳴子 - トリ
厳格な管理能力を持ち、組織の秩序を守る。
犬塚潜在 - イヌ
次期リーダー候補と言われた若手エース。
猪野勇進 - イノシシ
愚直でひたむきで真っ直ぐ突進する。
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お読みいただきありがとうございました。
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