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第28-3話 地域住民との合意-ストーリー戦略2

【勇進の戦い】


勇進は、地域住民との対話を続けていた。しかし、状況は厳しかった。


アグン山麓の村、ティルタガンガ。美しい温泉が湧き出るこの村は、観光と温泉で生計を立てていた。


村の集会所。住民たちが集まり、勇進を取り囲んでいる。


村長のワヤンが険しい表情で言った。「勇進さん、私たちは地熱発電に反対です」


「温泉が枯れたら、村の生活はどうなる?スマトラの例を知っているでしょう?」


別の住民が叫んだ。「アグン山は神聖な山だ!掘削なんて許せない!」


「グルメツアー?6G施設?そんなの、よそ者の金儲けの道具じゃないか!」


怒号が飛び交い、説明会は紛糾した。


勇進は必死に説明しようとしたが、誰も聞いてくれなかった。


「よそ者には、俺たちの土地のことは分からない!帰れ!」


勇進は、激しい拒絶に打ちのめされた。


しかし——諦めなかった。10年間、俺はずっとこうだった。そういうプライドもあった。


翌日も、その翌日も、勇進は村に通い続けた。


住民たちは冷たい視線を向けたが、勇進は構わなかった。


彼は、村の祭りに参加した。全く踊り方は知らないが見様見真似で踊った。そして片づけを手伝ったり、進んで写真を撮ったりした。


——そうこうしているうちに、次第に話しかけてくれる人が増えてきた。


ある朝、勇進は農家の若者アグンと共に、ライステラス(棚田)へ向かった。


階段状に連なる美しい棚田。朝日が水面に反射し、まるで天国の階段のように見えた。


勇進が息を呑んだ。「なんて……美しいんだ」


アグンが誇らしげに言った。「この田んぼは、何百年もかけて作られたんだ。ご先祖様が、一段一段、手で作り上げた。これは、俺たちの芸術なんだよ」


勇進は田植えを手伝った。泥に足を取られながら、一本一本、丁寧に苗を植えていく。


腰が痛くなり、汗が止まらない。しかし、その作業の中に——美しさがあった。


勇進がふと思った。「アグンさん、この景色……世界中の人に見てもらいたいな」


アグンが笑った。「そうか?でも、どうやって?」


勇進が目を輝かせた。「田植えや収穫を、観光客と一緒にやるんです。ただ見るんじゃなくて、体験してもらう。そうすれば、この農作業の美しさが分かる!」


アグンの目が輝いた。「本当か?俺たちの仕事を、世界の人が体験してくれるのか?」


別の日、勇進は伝統料理を作る女性、デウィの家を訪ねた。


デウィがラワール(バリ風野菜と肉の混ぜ物)を作る様子を見せてくれた。細かく刻んだ野菜、ココナッツ、香辛料——それらを絶妙なバランスで混ぜ合わせていく。手際よく、しかし丁寧に。スパイスの配合、混ぜ方、火加減——一つひとつの動作に、意味があった。


「この料理の作り方は、母から娘へ、代々受け継がれてきたの。このスパイスの配合も、混ぜる順番も、全部意味がある。この味は、私たちのアイデンティティなのよ」


勇進が料理を味わった。温かく、優しく、そして深い味わい。複雑なスパイスの香りが口の中で広がる。


勇進がぽつりと言った。「デウィさん、この料理を作る過程……すごく美しいです。この技を、世界の人に見てもらいたい」


デウィが驚いた。「料理を作るところを?」


勇進が頷いた。「はい!一緒に作ってもらうんです。そうすれば、この料理がどうやって母から娘へ受け継がれてきたか——そのストーリーも伝わります」


デウィの目に涙が浮かんだ。「それは……素敵ね」


そして、ある夜、勇進は村の寺院で行われるオダラン(寺院祭礼)に参加した。


ガムランの音色が響き、人々が祈りを捧げる。香の煙が立ち上り、神聖な雰囲気に包まれる。


村の司祭、プトゥが勇進に作法を教えてくれた。額に白米を貼り、花びらを手に持ち、神々に祈りを捧げる。一つひとつの動作に、深い意味が込められている。


勇進は見よう見まねで作法に従い、その荘厳さに圧倒された。


儀式の後、勇進がプトゥに言った。「プトゥさん、この儀式……本当に素晴らしかったです。これが、バリ島の精神なんですね」


プトゥが静かに頷いた。「ええ。でも、若い世代はだんだん関心を失っています。伝統が、消えつつある……」


勇進が真剣な目で言った。「だったら、世界の人にも参加してもらいましょう!作法を学んで、一緒に祈りを捧げる。そうすれば、世界中の人が、バリ島の本当の姿を知ることができます」


「そして、世界の人が認めてくれれば——若い世代も、自分たちの文化に誇りを持てるんじゃないでしょうか」


プトゥが驚いた表情を見せた。「それは……伝統を残すことにもなりますね」


1ヶ月が経った頃、勇進は、気づいていた。


この村には、お金では決して測れない「宝」がある。ライステラスの美しさ、伝統料理の技、寺院の儀式——それらは、何百年もかけて育まれてきたものだ。


そして、勇進の心が、完全に変わっていた。


——俺は、これを世界に届けたい。単なるビジネスじゃない——この村の素晴らしさを、世界中の人に知ってもらいたい。


勇進と村人たちの交流を通じて、村人たち自身の心にも変化が生まれていた。


アグンは田んぼで作業しながら考えていた。「勇進さんが言ってくれた言葉——世界中の人に、このライステラスの美しさを見てもらいたいって……俺も、本当にそう思い始めた」


デウィは料理を作りながら娘に語った。「お母さんから受け継いだこの技を、世界の人に伝えられたら素敵ね。この味——消えてしまうのは、もったいない」


プトゥは寺院で祈りながら思った。「若者たちが伝統に無関心になっている。でも、世界の人が認めてくれれば——もう一度、この文化の価値に気づいてくれるかもしれない」


ある夜、アグン、デウィ、プトゥが集会所に村長のワヤン、村人たちと勇進を集めた。


ワヤンが驚いた表情で若者たちを見た。「お前たち……一体なぜだ?」


ワヤンの声に、困惑が滲んだ。「このプロジェクトには反対と決まったはずではないのか。よそ者の企業に、俺たちの土地を荒らされると——お前たちも、そう言っていたではないか」


アグンが一歩前に出た。「村長、俺は……間違っていました」


デウィも頷いた。「私たちも。勇進さんと一緒に過ごして、分かったんです」


プトゥが静かに言った。「このプロジェクトが、何なのか——本当の意味を、知りたいんです」


ワヤンが勇進を見た。その目には、疑念と期待が混じっていた。


「勇進さん……改めて聞かせてくれ。このプロジェクトは一体何なんだ?」


勇進が深く息を吸い、立ち上がった。勇進が真っ直ぐに村長を見て言った。


「このプロジェクトは——金儲けではありません」


勇進の声に、熱がこもった。


「私もしばらくこの村に通わせて頂く中で分かりました。この村の素晴らしさを。そしてこの素晴らしさを世界に届けたい。それがこのプロジェクトを通じて実現したいことです」


「アグンさんのライステラスは、何百年もかけて作り上げられた芸術です。デウィさんの伝統料理は、母から娘へ何代にも渡って受け継がれてきた技です。プトゥさんの寺院の儀式は、バリ島の精神そのものです」


「これを、世界の人に体験してもらう。一緒に田植えをし、一緒に料理を作り、一緒に祈りを捧げる」


勇進が住民たちを見渡した。


「そして——このプロジェクトの主役は、企業ではありません」


勇進が力強く言った。


「主役は、皆さんです。皆さんが、自分たちの文化を世界に伝える。俺たち企業は、ただそのお手伝いをするだけです」


アグンが興奮して言った。「そうだ!俺たちの田んぼを、世界に認めてもらうんだ!」


デウィの目が輝いた。「母から受け継いだ技が、消えずに残せる!」


プトゥが頷いた。「若者たちが、もう一度文化に誇りを持てる」


若い住民たちが口々に言った。「これなら、俺たちも村に残れる!」「誇りを持って生きていける!」


住民たちが熱気を帯びていた。そしてその目は輝いていた。


このような光景、これまで見たことがあっただろうか。


ワヤンはその様子をしばらく眺めた。


そして、ワヤンがゆっくりと笑顔を浮かべ、勇進を見た。


ワヤンも勇進がこの一か月、一生懸命に村に溶け込んでいる姿を見て嬉しかった。


そして村人たちにを見て言った。


「——分かった。この村の新しい未来を我々の手で創っていこう」


ワヤンが村人たち全員に向かって言った。「私たちが主役だ。私たち自身が、この村の魅力を世界に発信していこう」


「私たちの農業、私たちの料理、私たちの伝統儀式——これらは、私たちの誇りだ。それを、世界中の人たちに見てもらう。知ってもらう。感じてもらう」


「この村の文化を守るのも、発展させるのも、世界に届けるのも——全て、私たち自身の手でやるんだ」


そして、ワヤンが勇進を見て、笑顔で言った。「もちろん、勇進さんにも一生懸命働いてもらわんといかんな」


会場が笑いに包まれた。勇進も笑いながら、深く頭を下げた。


村人たちが拍手した。子供も、大人も、年配者も——みんなが笑顔で、拍手していた。村人たちの心が一つになった。


プロジェクトは、もはや「企業のプロジェクト」ではなくなっていた。


「村人全員が未来を創るプロジェクト」——村人たち自身のプロジェクトになっていた。


勇進の目から、涙が溢れた。「ありがとうございます……」


最初は「よそ者」として拒絶された勇進。しかし、諦めずに村の生活に溶け込み、村人たちと心を通わせた。


その結果、村人たち自身が目覚め、自分たちの文化の価値を再発見し、村長を説得した。


勇進の絶対に諦めない精神、そして愚直なまでの素直さとひたむきさ——それがなければ、決して開かれなかった未来だった。


続く


ーーーーー

登場人物紹介


子田賢ねだ・けん - ネズミ。プロジェクトリーダー。

 全体を俯瞰し優れた分析力と観察力を持つ。


牛田継続うしだ・けいぞく - ウシ

 着実に前進する実行力と信念を持つ。


虎山威風とらやま・いふう - トラ

 力強い実行力を持つ戦略家。


兎野理子うさぎの・りこ - ウサギ

 慎重なリスク分析の専門家。


龍雲昇天りゅううん・しょうてん - タツ

 圧倒的なカリスマと人を魅了する力を持つスター。


蛇原静香へびはら・しずか - ヘビ

 人の観察に優れ本質を見抜く洞察力の持ち主。


馬場疾駆ばば・しっく - ウマ

 自由を愛し新しい風を吹き込む風雲児。


羊谷和奏ひつじたに・わかな - ヒツジ

 優しく人々を調和させ、団結させる力を持つ。


猿田新々(さるた・しんしん) - サル

 機転と発想力に優れるがあきっぽい。


鶏鳥鳴子けいちょう・めいこ - トリ

 厳格な管理能力を持ち、組織の秩序を守る。


犬塚潜在いぬづか・せんざい - イヌ

 次期リーダー候補と言われた若手エース。


猪野勇進いの・ゆうしん - イノシシ

 愚直でひたむきで真っ直ぐ突進する。

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お読みいただきありがとうございました。

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