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第28-1話 地熱発電設備-ストーリー戦略2

前半

バリ島のプロジェクト本部会議室。牛田、星野達也、静香、勇進、昇天——5人が集まっていた。


牛田が資料を広げた。「地熱発電を実現するには、多くの専門企業との連携が必要です。私と星野さんで、設備関連企業とのコンソーシアム構築を担当します」


静香が続けた。「私は政府からの開発許可取得を担当します。環境アセスメントのクリアが最大の課題です」


勇進が力強く言った。「俺は地域住民の説得を担当します。彼らの理解と協力なしには、何も始まらない」


昇天が静かに言った。「私はホテルの誘致を担当します。プレゼンテーションの内容を考えます」


5人は顔を見合わせた。それぞれが、これから直面する困難を予感していた。


しかし、誰も怯まなかった。


【牛田の戦い】


牛田と星野は、地熱発電設備に必要な専門企業——タービンメーカー、掘削企業、配管企業など——との調整を開始した。


しかし、最初の会合から暗雲が立ち込めた。


会議室には、各企業の代表者が集まっている。牛田が説明を始めようとした瞬間、老舗のタービンメーカー、スラバヤ重工の社長・アディが立ち上がった。


「牛田さん、申し訳ないが、私はこのプロジェクトに参加できない」


会議室が静まり返った。


牛田が驚いた。「アディさん、どうしてですか?」


アディが苦い表情で言った。「この中に、ジャワ掘削社の代表がいる。あの会社とは、二度と仕事をしないと決めたんだ」


掘削企業ジャワ掘削社の責任者・ブディが立ち上がった。「何を言っている!あの時の責任は、そちらにもあったはずだ!」


アディが怒りを露わにした。「冗談じゃない!お前たちの掘削ミスで、タービンが損傷したんだ。賠償もまともにされていない!」


ブディも負けじと反論する。「掘削ミス?タービンの設計に問題があったからだろう!俺たちは責任を押し付けられ、会社の信用を失った!」


両者の対立は激しく、会議は完全に紛糾した。


牛田が必死に仲裁しようとしたが、両者は聞く耳を持たなかった。


「あの会社が参加するなら、俺たちは降りる」


「こちらこそだ。あんたたちとは二度と組まない」


会議は決裂した。両社とも技術的に不可欠な企業だった。どちらが欠けても、プロジェクトは成立しない。


牛田は途方に暮れた。


その夜、牛田は星野に相談した。


「星野さん、どうすればいいでしょうか……両社とも頑なで、話し合いにすらなりません」


星野が冷静に答えた。「なんとかして過去のトラブルの詳細を聞き出せませんか。技術的な観点から、真因を明らかにすれば、突破口が見えるかもしれません」


牛田は頷いた。「分かりました。彼らの元へ足を運びます」


翌朝から、牛田の粘り強い戦いが始まった。


まず、スラバヤ重工のアディの元へ。受付で名前を告げても、「社長は多忙です」と門前払いされた。


牛田は諦めなかった。翌日も、その翌日も、通い続けた。


5日目、受付の担当者が根負けした。「......少しだけなら、お会いできるかもしれません」


社長室に通された牛田に、アディは冷たい視線を向けた。


「牛田さん、何度来ても無駄だ。ジャワ掘削とは組めない」


牛田は深々と頭を下げた。「アディさん、お話を聞かせてください。あの時、何が起きたのか——」


アディが苦い表情で語り始めた。


「5年前のジャカルタの地熱発電プロジェクトだ。ジャワ掘削が地熱井戸を掘削するので、うちがタービンを作って貸した。しかし、稼働開始から3ヶ月でタービンが故障した」


「原因は地熱流体に含まれる不純物だった。掘削の際に、余計な成分が混入したんだ。それでタービンの羽根が腐食した」


「俺たちは賠償を求めたが、ジャワ掘削は『タービンの設計が悪い』と責任を認めなかった。結局、貸してたタービンは返却されずに、うちが損失を被った。300万ドルだ」


牛田はじっと耳を傾けた。そして、何も疑わず、ただ受け止めた。


「アディさん、それは本当に辛い経験でしたね」


アディが少し驚いた表情を見せた。「……ああ」


牛田は続けた。「是非もっと詳しくお話を聞かせてもらえませんか?毎日とはいいませんが、週に3回、通わせてください」


アディは渋々了承した。


牛田は、同様にジャワ掘削のブディの元へも通い始めた。最初は会ってもらえなかったが、1週間通い続けた結果、ようやく面会が叶った。


ブディもまた、苦い過去を語った。


「あの時、俺たちは最善を尽くした。掘削の技術基準も守った。だが、タービンが故障した途端、全ての責任を押し付けられた」


「『掘削が悪い』『不純物が混入した』——一方的にそう決めつけられた。採掘の基本技術がないと。うちの会社の評判は地に落ちた。それから仕事が激減して、家族にまで影響が及んだ」


「俺は、あいつらを許せない」


牛田はブディの怒りと悲しみを、ただ静かに受け止めた。


そして、星野と共に、両社から貰った過去のプロジェクトの技術資料を徹底的に分析し始めた。


夜が更けても、データを精査する。地質調査報告書、掘削記録、タービンの仕様書、故障分析レポート——全てを読み込んだ。


プロジェクト本部の会議室。深夜22時を回っていた。


テーブルの上には、200枚を超える技術資料が散乱している。冷めたコーヒーカップが3つ。蛍光灯の白い光が、二人の疲れた顔を照らしていた。


牛田の目は赤く充血していた。星野も、何度も目を擦りながら、データシートを一枚一枚めくっていく。


「……おかしい」


星野が、47枚目のデータシートで手を止めた。


牛田が顔を上げた。「何かありましたか?」


星野が別の資料を引っ張り出す。タービンの仕様書。そして、掘削記録。三つを並べて、じっと見比べる。


「牛田さん……この数値、矛盾しています」


星野の指が、フィルタリングシステムの流量計算を指し示した。


「地熱流体の流量が毎時120トン。しかし、フィルターの処理能力は毎時80トンしかない。これでは、不純物が完全に除去できない……」


牛田が資料を覗き込んだ。「本当だ……さらに、圧力損失の計算も間違っている」


二人の間に、緊張した沈黙が流れた。


そして、二人で資料を漁っていく中で、発見をした。


「牛田さん、見てください。問題はタービンでも掘削でもなかった。システム設計全体に欠陥があったんです」


星野が資料を指し示す。「地熱流体のフィルタリングシステムが不十分だった。これは、プロジェクト全体の設計ミスです。タービンメーカーも掘削企業も、悪くなかった」


牛田の手が震えた。5年間、二つの企業が憎しみ合ってきた原因——それは、どちらのせいでもなかった。


牛田の目が輝いた。「これだ……!」


牛田は、アディとブディの元へ、それぞれ足を運んだ。


そして、技術資料を丁寧に説明した。星野も同行し、専門的な観点から解説を加えた。


「アディさん、実は——」


「ブディさん、この資料を見てください——」


アディもブディもにわかに信じられず、他の可能性を指摘したり、追加の証拠を要求したりした。牛田はそれらに嫌な顔を一切せずに真正面から受け止めた。


そして牛田は小さな約束を一つひとつ守り続けた。「次回は火曜日に伺います」と言えば、必ず火曜日に訪問した。「この資料を用意します」と言えば、必ず翌日には持参した。そして嘘をつかず、できないことはできないと正直に伝えた。


1ヶ月が経った。


アディが、ある日ぽつりと言った。「牛田さん、あんたは……他の連中とは違うな」


ブディもまた、心を開き始めた。「あんたの粘り強さには、本当に参ったよ」


そして、牛田は決断した。両社を、再び同じテーブルにつかせる時が来た。


会議室。アディとブディが、険しい表情で向かい合っている。


牛田が静かに口を開いた。「お二人とも、今日は来てくださってありがとうございます」


「私と星野さんで、5年前のプロジェクトを徹底的に検証しました。そして、真実が分かりました」


星野が技術資料を提示した。「問題の本質は、システム設計の欠陥でした。過去のプロジェクトの使い回しだったようですが、この地層では地熱流体のフィルタリングシステムが不十分だったことが原因です」


「タービンの設計も、掘削の技術も、どちらも基準を満たしていました。つまり——」


星野が力強く言った。「お二人とも、悪くなかったんです」


アディとブディが、資料に目を通す。資料の総ページ数は200枚を超えていた。長い沈黙が流れた。


牛田が続けた。「今回のプロジェクトでは、その教訓を活かします。星野さんが設計した統合監視システムは、国際標準規格に準拠しています」


「IoTセンサーネットワークとクラウド基盤でリアルタイム監視を行い、AI予測保全システムで異常の予兆を事前に検知します。多重バックアップ体制と段階的稼働計画で、リスクを最小化します」


「さらに、将来的には6G施設との連携で、監視精度が飛躍的に向上する設計になっています」


牛田が深々と頭を下げた。「お二人が安心して仕事ができる環境を、私が責任を持って作ります。どうか——もう一度、力を貸してください」


長い、長い沈黙。


やがて、アディが口を開いた。


「……ブディ」


ブディが顔を上げた。


アディが続けた。「あの時、俺は……お前を責めすぎた。本当は、お前も被害者だった」


ブディの目に涙が浮かんだ。「……俺も、頑なになりすぎていた。アディさんの会社が苦しんでいたこと、分かっていたのに」


二人が、ゆっくりと手を差し出した。


そして、固い握手を交わした。


アディが牛田を見た。「牛田さん、あんたがそこまで言うなら……信じてみる」


ブディも頷いた。「あんたの粘り強さには本当に参った。やってみるよ」


牛田の目から、涙がこぼれた。


その後、他の企業も次々と参加を表明した。牛田の誠実さと粘り強さが、業界内で評判になっていたのだ。


「牛田さんが仲介するなら、安心だ」


「あの人は、約束を必ず守る」


強固なコンソーシアムが形成された。


牛田の粘り強い信頼関係構築——それがなければ、決して実現しなかったコンソーシアムだった。


続く




ーーーーー

登場人物紹介


子田賢ねだ・けん - ネズミ。プロジェクトリーダー。

 全体を俯瞰し優れた分析力と観察力を持つ。


牛田継続うしだ・けいぞく - ウシ

 着実に前進する実行力と信念を持つ。


虎山威風とらやま・いふう - トラ

 力強い実行力を持つ戦略家。


兎野理子うさぎの・りこ - ウサギ

 慎重なリスク分析の専門家。


龍雲昇天りゅううん・しょうてん - タツ

 圧倒的なカリスマと人を魅了する力を持つスター。


蛇原静香へびはら・しずか - ヘビ

 人の観察に優れ本質を見抜く洞察力の持ち主。


馬場疾駆ばば・しっく - ウマ

 自由を愛し新しい風を吹き込む風雲児。


羊谷和奏ひつじたに・わかな - ヒツジ

 優しく人々を調和させ、団結させる力を持つ。


猿田新々(さるた・しんしん) - サル

 機転と発想力に優れるがあきっぽい。


鶏鳥鳴子けいちょう・めいこ - トリ

 厳格な管理能力を持ち、組織の秩序を守る。


犬塚潜在いぬづか・せんざい - イヌ

 次期リーダー候補と言われた若手エース。


猪野勇進いの・ゆうしん - イノシシ

 愚直でひたむきで真っ直ぐ突進する。

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お読みいただきありがとうございました。

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