第27-2話 ファルコングループとの提携(後半)
後半
——その夜、潜在と理子と星野達也が集まった。
理子が考え込んだ。「600億円の初期投資を、リゾート側が全額負担するのは、財務リスクが大きすぎます」
潜在が頷いた。「確かに。……そして財務リスクの問題だけじゃない。リゾート側にとって、通信インフラは本業じゃない。専門外の設備を600億円もの規模で抱え込むリスクもある」
星野達也が技術的な観点から補足した。「その通りです。通信インフラは長期的な運用が重要です。設備の保守、システムのアップデート、トラブル対応——これらを誰が責任を持って管理するかが、成功の鍵になります」
星野が勢いのまま続けた。「本来技術は、『開発者が一貫して管理する』ことで最大の効果を発揮します。従ってシステムの安定性を考えると、開発者のファルコンが所有・運営するのが最適なのですがね」
潜在が目を輝かせた。「それだ!所有権をファルコンに移せばいいんだ!」
「なるほど」と星野と理子が目を見開いた。「つまり、初期投資をファルコンが負担し、インフラの所有権もファルコンが保持する。リゾート側は、通信サービス料を支払う形にするんですね」理子の口調が早まる。
星野達也が分析した。「ファルコンが『建設』し、『所有』し、『運営』する。システム統合の観点からも、これが最適です」
潜在がホワイトボードに書き出した。
【新しいビジネスモデルの基本構造】
1. ファルコンが600億円を投資し、6G網を構築
2. インフラの所有権はファルコンが保持
3. リゾートは年間30億円の通信サービス料を支払う
4. 20年間で初期投資を回収
理子が分析した。「このモデルなら、リゾート側の初期投資リスクはゼロになります。ファルコン側も、20年間で確実に回収できます」
しかし、潜在が慎重に言った。「でも——ファルコンにとって、本当にメリットがあるでしょうか?600億円を投資して、20年間で回収するだけでは、魅力が薄いかもしれません」
星野達也が考え込んだ。「確かに……ファルコンを説得するには、もっと大きなメリットが必要です」
そこから3人での議論がしばらく続いた——
——星野達也が言った。「他に…このリゾートの特徴と言えば…世界中から年間20万人以上の観光客が訪れる予定です。それが何かメリットになりますかね?」
潜在の目が輝いた。「そうだ!データの独占分析権です!」
潜在が立ち上がった。「リゾートで収集される通信データ——匿名化された顧客の行動パターン、利用状況——これをファルコンが独占的に分析できる権利を提供します。AI時代において、リアルな顧客データは何よりも価値があります」
理子が分析した。「観光客の通信パターンから、新しいサービスニーズを発見できます。AIによる予測モデル、パーソナライズされた通信サービス——これらの開発により、ファルコンは次世代通信市場で優位に立てます」
星野達也が試算を始めた。「20万人以上だとデータ価値は、少なくとも300億円以上かと……。さらに、インペリアルグループの世界中の20以上のホテル・リゾートへの展開優先権も付与すれば、総額2000億円規模の市場にアクセスできます」
理子が頷いた。「初期投資600億円に対して、300億円の市場価値と2000億円の市場へのアクセス。これなら、ファルコンにとってもリスクを超える十分なメリットがあります」
潜在が微笑んだ。「ファルコンもインペリアルも、両方にメリットがあります。Win-Winです」
星野達也が慎重に言った。「この案で良いか、澄香さんに相談してみます」
翌日、星野達也の携帯電話が鳴った。
達也が確認すると、青天澄香からのメッセージだった。「澄香さんから返信が来ました」
潜在が尋ねた。「OKですか?」
達也が少し難しい顔をして答える。「条件付きのようです」
達也がメッセージを読み上げた。「『6G施設の所有権をファルコングループに移すことについて、アジア開発銀行と協議しました。彼らとしては担保価値としてみていた資産の一つが無くなることになるため、難色を示しましたが、なんとか受け入れてもらいました。但し、絶対条件として、通信機器はアジア製の製品を使用すること。アジア製品を使うのであれば、アジアの国益にもなるのでアジア開発銀行としても政府機関への説明がつくとのことです。その他、金利スプレッド上昇等の諸条件を突き付けられていますが、それはこちらでマネージします」
潜在が頷いた。「分かりました。澄香さんに後でお礼を言わねばですね。この条件で、ファルコングループと交渉しましょう」
—— 数日後。東京・六本木のファルコングループ本社。
潜在、理子、星野達也の3人が、鷹見透のオフィスに招かれた。
潜在が提案書を差し出した。「鷹見さん、所有権移転モデルを提案します」
鷹見が資料を開いた。バリ島6Gネットワーク構築——初期投資600億円、年間サービス料30億円、20年間で回収——。
鷹見が顔を上げた。「潜在さん……600億円の初期投資を、ファルコンが全額負担する、と?」
「はい」
鷹見が首を横に振った。「申し訳ありませんが、それは難しいです。確かに、リゾート側の財務リスクは軽減されます。しかし、ファルコンにとっては、リスクが大きすぎます」
鷹見は続ける「いわゆるBTOからBOOへの変更だと思いますが、600億円を投資して、20年かけて回収——。その間に技術革新が起きれば、設備が陳腐化するリスクもあります。申し訳ありませんが、この条件では受けられません」
潜在が理子に目で合図した。
理子が静かに口を開いた。「鷹見さん、もう一つ、提案があります」
鷹見が理子を見た。
理子が資料を示した。「データ独占分析権です。バリ島の6Gネットワークから得られる全てのデータ——年間20万人の観光客の行動パターン、通信利用の傾向、リゾート施設の稼働状況——これらのデータを、ファルコンが独占的に分析できる権利を提供します」
「期間は10年間。このデータの価値は、少なくとも300億円以上です」
鷹見の目が輝いた。心の中で叫ぶ。(300億円?いやそれ以上だ!今の時代のデータの価値を分かっているのか——)
潜在が続けた。「そして、もう一つ。インペリアルグループ全体への展開優先権です」
「バリ島のプロジェクトが成功すれば、インペリアルグループは世界中の全てのリゾート施設に同様のシステムを導入する可能性があります。その際、ファルコンに優先交渉権を提供します」
「インペリアルグループの全世界展開——その市場規模は、2000億円を超えます」
鷹見が深く息を吸った。
「データ独占分析権……そして、インペリアルグループ全体への展開優先権……」
鷹見が資料を見直した。長い沈黙の後、鷹見が顔を上げた。そして心の中で確信する。(リスクは高い。しかし、これはファルコングループが次の未来を切り開くチャンスになる)
「分かりました。この条件なら、ファルコンとして受けられます。取締役会を説得しましょう。但し20年間の年間サービス料にインフレ調整条項は入れてください」
潜在と理子が顔を見合わせた。
星野達也が慎重に口を開いた。「分かりました。ありがとうございます、鷹見さん。実はもう一つ、条件があります」
鷹見が尋ねた。「条件……ですか?」
星野が資料を示した。「アジア開発銀行が担保から外す条件として、通信機器にアジア製の製品を使用することが絶対条件となっています」
会議室に重い沈黙が落ちた。 これがダメならまた白紙に戻る。
理子は胸の奥で心臓が激しく打つのを感じた。
潜在は机の下で拳を握りしめた。
星野達也は鷹見の表情を注視していた。
理子、潜在、星野、三人とも息を飲んで鷹見を言葉を待った。
——鷹見が微笑んだ。
「アジア製の製品……それは問題ありません」
「実は、私自身、アジア製の通信機器を高く評価しています。品質、コストパフォーマンス、メンテナンス体制——どれをとっても優れています。むしろ、歓迎します」
鷹見が立ち上がった。「ファルコングループとして、この契約を受けましょう。いや——戦略的パートナーになります」
潜在、理子、星野達也が顔を見合わせた。
やった——ファルコンとの契約——成功した。
鷹見が言った。「素晴らしい提案をありがとうございました。必ずこのリゾート、実現させましょう」
翌週、ファルコングループは正式に発表した。所有権移転モデルによる戦略的パートナーシップ——バリ島6G構想への全面参画。そして、調印式で四人が力強く手を合わせた様子が経済誌に投稿された。
遥か東京から青い空を駆け抜けてファルコンが今、バリ島に舞い降りた。
続く
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登場人物紹介
子田賢 - ネズミ。プロジェクトリーダー。
全体を俯瞰し優れた分析力と観察力を持つ。
牛田継続 - ウシ
着実に前進する実行力と信念を持つ。
虎山威風 - トラ
力強い実行力を持つ戦略家。
兎野理子 - ウサギ
慎重なリスク分析の専門家。
龍雲昇天 - タツ
圧倒的なカリスマと人を魅了する力を持つスター。
蛇原静香 - ヘビ
人の観察に優れ本質を見抜く洞察力の持ち主。
馬場疾駆 - ウマ
自由を愛し新しい風を吹き込む風雲児。
羊谷和奏 - ヒツジ
優しく人々を調和させ、団結させる力を持つ。
猿田新々(さるた・しんしん) - サル
機転と発想力に優れるがあきっぽい。
鶏鳥鳴子 - トリ
厳格な管理能力を持ち、組織の秩序を守る。
犬塚潜在 - イヌ
次期リーダー候補と言われた若手エース。
猪野勇進 - イノシシ
愚直でひたむきで真っ直ぐ突進する。
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