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第26-1話 ガストロノミーツーリズム(前半)

前半

翌日、十二支プロジェクトルームに、ストーリー戦略3(ガストロノミーツーリズムキャンペーン)チームの5人が集まっていた。


和奏、空川美咲、発想、疾駆、天野翔太——それぞれが異なる個性と専門性を持つメンバーたち。


和奏が穏やかに、しかし真剣な表情で口を開いた。「皆さん、戦略3を成功させるには、世界中のトップシェフ、広告メディア、航空会社——全てを一つに繋がなければなりません」


「これは、誰か一人では絶対に実現できない。でも、私たち5人の力を合わせれば、必ず道が開けると信じています」


和奏の言葉は心に響くものだった。静かな信念と、チームへの深い信頼があった。


空川美咲が頷いた。「和奏さん、具体的にどう進めますか?」


和奏が資料を広げた。「まず、世界のトップシェフ4人を招聘します。魅力的なシェフを呼ぶことが出来なければそもそもこのストーリーは始まりません。ただ、単に『来てください』と頼むのではありません。彼らの情熱、哲学、夢——それを理解し、このプロジェクトが彼らにとっても意味のあるものだと伝えるんです」


新々が目を輝かせた。「それだ!シェフたちは、お金だけで動くんじゃない。新しい挑戦、文化の創造——そういうビジョンに心を動かされるんだ!」


疾駆が興奮して言った。「そして、そのビジョンを世界中に発信する。SNS、メディア、インフルエンサー——ありとあらゆるチャネルを使って、バリ島を『美食の聖地』にする!」


空川美咲が力強く言った。「インペリアルも支援します。資金、ネットワーク、物流網——このプロジェクトに動員させます」


天野翔太が冷静に補足した。「そのためには、完璧な準備が必要です。契約書、スケジュール、物流、予算管理——これらは私が引き受けます」


和奏が微笑んだ。「ありがとう、みんな。では、心当たりのあるシェフがいますので、早速シェフの勧誘から始めます」


【和奏の旅——世界中のシェフを一つに】


—— 和奏はスペインのサンセバスチャンへ飛んだ。空川美咲も同行した。


「和奏さん、アンドニ・ルイス・アドゥリスですね——彼はここ3年で、世界のベストレストラン50に何度もランクインしている伝説的なシェフ。確かに彼を説得できれば、他のシェフも動く可能性がありますね」


和奏が頷いた。「5年前、私が広報部にいたとき、取材で彼のレストランを訪れて料理の哲学について何時間も語り合いました。『食は文化だ。新しい土地で新しい食文化を創造することが、シェフの使命だ』——彼の言葉を、今でも覚えています」


二人がサンセバスチャンに到着した時、潮風が頬を撫でた。バスクの小さな港町には、焼きたてのピンチョスの香りが満ちている。石畳の路地、バルから聞こえる笑い声——ここは、美食が生活に溶け込んでいる街だった。


アンドニ・ルイス・アドゥリスは真剣な表情で料理に向き合っていた。彼の手元には、繊細で芸術的な一皿が生まれようとしていた。


「和奏、久しぶりだね」アンドニが微笑んだ。「君の連絡を受けた時、驚いたよ。バリ島で新しいプロジェクト?しかし、君のあの時のインタビューのお陰で私のレストランも大忙しさ」


和奏は静かに微笑み、アンドニの隣に座った。「アンドニさん、あなたが5年前に言った言葉を覚えています。『新しい土地で新しい食文化を創造する』——それを、バリ島で実現したいんです。あなたはこの地でそれを実現した。そろそろ次の土地に移っても良い頃かと」


アンドニが真剣な表情で聞いた。「具体的には?」


和奏が語り始めた。「バリ島には、独特の食材と文化があります。でも、それを世界に発信する機会がなかった。私たちは、世界のトップシェフたちと地元の料理人たちを繋ぎたいんです」


「これは、単なる高級レストランのプロジェクトではありません。文化の融合、新しい創造、そして——世界中の人々に、食を通じて新しい体験を届けること」


空川美咲が資料を広げた。「バリ島の豊かな食材——新鮮な海産物、トロピカルフルーツ、希少なスパイス。そして世界最高水準のリゾート施設という舞台。またインペリアルの物流網を使って、世界中の食材も48時間以内に届けるよう手配します」


アンドニが目を輝かせた。「興味深い……でも、和奏、これは非常に難しいプロジェクトだ」


和奏が尋ねた。「どんな点が?」


「私一人では、このプロジェクトは成立しない。ガストロノミーツーリズムを成功させるには、多様性が必要だ。フレンチ、イタリアン、日本料理、——世界中のトップシェフが集まらなければ」


和奏が深く頷いた。「その通りです。だからこそ、アンドニさんにお願いがあります」


「あなたが参加してくれれば、他のシェフたちも動くはずです。でも、それだけではありません。あなたには、このプロジェクトの『心』になってほしいんです」


「世界中のシェフたちを繋ぎ、バリ島の食文化を尊重しながら、まだ世界にない新しい一皿を生み出す——それを、あなたと一緒にやりたいんです」


和奏の言葉には、押し付けがましさが一切なかった。ただ、静かな信念と、相手への深い敬意、そして——共に創造する喜びへの誘いがあった。


アンドニがゆっくりと厨房を見回した。彼のレストラン、彼の創造の場。そして、彼が長年追い求めてきた、食を通じた文化の創造。


長い沈黙の後、アンドニが微笑んだ。「和奏、君は変わっていないね。5年前と同じように、食への純粋な情熱を持っている」


「分かった。参加しよう。そして、私の仲間たちにも声をかける。ピエール・ガニェール、マッシモ・ボットゥーラ、小林武志——彼らも、きっと興味を持つはずだ」


和奏と空川美咲は、思わず抱き合って喜んだ。世界トップのシェフの心を動かした——。


アンドニの協力を得て和奏は、世界中を飛び回り始めた。パリ、ミラノ、東京——次々と世界のトップシェフに会いに行った。


—— パリのレストラン。セーヌ川沿いの窓からエッフェル塔が見える。バターとワインの香り、フランス語の会話の音楽性——ここは、料理が芸術である街だった。フランスのトップシェフ、ピエール・ガニェールが和奏を迎えた。


「アンドニから聞いたよ。バリ島のプロジェクト。素晴らしいアイデアだ」ピエールが言った。「でも、実現するには膨大なコストがかかる。移動費用、設備投資、スタッフの確保——私一人で5000万円は必要になる」


和奏は静かに頷いた。「ピエールさん、お金の話は後で詰めましょう。その前に、聞きたいことがあります」


「あなたは、なぜシェフになったんですか?」


ピエールが驚いた表情を見せた。そして、ゆっくりと語り始めた。「私は……料理を通じて、人々に新しい体験を届けたかった。ただ美味しいだけじゃない、心を動かす何かを」


和奏が微笑んだ。「それが、このプロジェクトの本質です。バリ島で、世界中の美食文化が融合する。あなたのフレンチ、アンドニのバスク料理、そして地元の伝統料理——それが一つになって、新しい体験を生み出すんです」


ピエールの目が輝いた。「和奏、君は面白い人だ。お金の話じゃなく、情熱の話をする。それが、本物のシェフだ」


「分かった。参加しよう。アンドニが信じるプロジェクトなら、私も信じる」


—— ミラノのレストラン。ドゥオーモ広場の喧騒が遠くに聞こえる。厨房からは、オリーブオイルとトマトの香りが漂う。イタリア人の情熱的な身振り手振り——ここは、食が家族であり、愛である街だった。イタリアのマッシモ・ボットゥーラが和奏を迎えた。


「バリ島に3か月?」マッシモが眉をひそめた。「私のレストランを3か月閉めることになる。予約は半年先まで埋まっている。その損失は大きい」


和奏は頷いた。でも、ここで引き下がるわけにはいかない。


「マッシモさん」和奏が静かに言った。「世界4人のトップシェフで、新しい食文化を創造する。これは単なるコラボレーションではありません。四つの国の食文化が、バリという舞台で融合する。歴史的な瞬間です」


マッシモが腕を組んだ。


和奏が続けた。「バリ島でのプロジェクトは、あなたのレストランの価値も、さらに高めるはずです。このレストランも再開したとき、予約はさらに殺到するでしょう。半年先どころか、1年先まで埋まるかもしれません」


和奏が続ける「勿論、3か月分の損失補填は、全額お約束します。でも、それ以上に大切なこと——」和奏が目を輝かせた。「マッシモさん、あなたは食を通じて、世界を幸せにしたいと思っているはずです。それは、単にミラノだけではなく、世界中で実現できる夢です」


マッシモが笑った。深く、心の底から。「和奏さん、あなたは食への情熱を持っている。それが伝わってくる。あなたは、数字だけで話していない。夢を語っている」


「分かった。参加します」マッシモが手を差し出した。「これは、私のキャリアにとっても、新しい挑戦になる。そして——もしかしたら、私の人生で最も意味のある3か月になるかもしれない」


和奏がマッシモの手を握った。温かい、力強い握手だった。


——


東京のレストラン。築地市場の朝の活気がまだ残る時間帯。小林の厨房は静寂に包まれ、包丁の音だけが響く。一つ一つの動作に、研ぎ澄まされた集中力——ここは、四季が移ろう中で食材の味を最大限に活かそうとする国だった。日本の小林武志シェフが和奏を迎えた。


「和奏さん」小林が真剣な表情で言った。「バリ島に日本食の食材を安定供給できるんですか?魚の鮮度、米の品質、醤油や味噌——日本料理は、食材の質が命です」


「小林さん」和奏が資料を開いた。「インペリアルの物流網を使えば、大丈夫です。築地から48時間以内にバリ島へ。専用のコールドチェーン輸送で、鮮度を保ちます。バリ島の空港から直接、厨房へ。中間業者を通さないので、時間のロスがありません」


和奏が続けた。「そして、バリ島でも日本の米を栽培する実験をします。地元の農家と協力して、バリ島の気候に合った栽培方法を開発するんです。もしかしたら、バリ島で育った日本米——それは、新しい可能性を開くかもしれません」


小林の目が輝いた。「バリ島の気候で、日本米……それは面白い。赤道直下の強い日差し、豊富な水——もしかしたら、日本では実現できない味が生まれるかもしれない」


和奏が微笑んだ。小林の心が動き始めている。


「またバリには素晴らしい塩田があります。海水を天日で乾燥させた、ミネラル豊富な塩。それを日本料理に使ったら——」


「そして、バリの海で獲れる魚。日本とは違う種類ですが、新鮮で美味しい。それを日本料理の技法で調理したら、どんな味になるでしょうか」


小林が深く息を吸った。「和奏さん、あなたは本気だ。単なるイベントじゃなく、本当に食文化を創造しようとしている」


和奏が真剣な眼差しをして頷いた。


「分かりました。参加します。これは——日本の食文化を、世界に発信する絶好の機会だ」


「そして、私自身にとっても、新しい挑戦です。60歳を過ぎて、まだ学ぶことがある。それは、料理人として幸せなことです」


一人、また一人——和奏の調和する力が、世界中のトップシェフたちの心を繋ぎ、無事に参加表明を取り付けた。


【空川美咲の実行力——インペリアルの決断】


和奏が世界中のシェフたちの心を繋いでいる間、空川美咲は先に東京に帰国しインペリアル本社で動いていた。


マーケティング部長として、雲居社長からバリ島プロジェクトの権限委任を受けた彼女は、巨大な組織を動かす力を持っていた。


「物流部門、全面協力を要請します。世界中から食材を48時間以内にバリ島へ届けるコールドチェーン輸送網の構築準備をしてください」


物流部門の責任者が驚いた。「空川部長、それは膨大なコストがかかります。専用機の手配、現地での冷蔵施設の建設——」


空川美咲が遮った。「承知してます。先ずは実現可能なのか、どのくらいコストがかかるのか、その分析を初めてください。対応策やコスト改善は次のステップで行います。世界中のほぼすべての食材が対象です。漏れが無いよう。天野さんを中心に検討願います」


彼女の決断は明確だった。迷いがなかった。目標を定めたら、全ての資源を投入して実現する——それがインペリアルの、そして空川美咲の実行力だった。


「財務部門、世界4人のシェフの移動費用と設備投資等々、総額10億円を予算計上してください。レストランの収益が出始めたら、段階的に回収する形で」


財務部門の責任者が慎重に尋ねた。「空川部長、10億円の初期投資——回収リスクは?」


空川美咲が資料を示した。「世界のトップシェフ4人が集まるリゾート——これは世界初です。レストランの売上だけで年間20億円超。10%の2億円を毎年回収すれば5年。さらにスポンサーもつけば、もっと早く回収できます」


「さらに、インペリアルのブランド価値が向上します。『世界の美食文化を繋ぐ企業』——それは、金額では測れない価値です」


「人事部門、各シェフの移住手続きとビザ申請を最優先で進めてください。家族の帯同支援も含めて、全面的なサポート体制を構築します」


「設備調達部門、各シェフの専門厨房設備リストを確認次第、発注準備してください。納期は3か月以内。遅れは許されません」


空川美咲は、一つ一つの部門に指示を出していった。物流、財務、マーケティング、人事、設備調達——インペリアルの全部門が、バリ島プロジェクトのために動き出した。


世界4人のトップシェフの参加が決まり、プロジェクトは実行フェーズへ移行した。バリ島に、世界最高峰の美食文化が集結する——その未来が、確実に近づいていた。


——そして一週間後


十二支プロジェクトルーム。天野翔太が深刻な表情で資料を広げていた。


「みんな、大問題です」天野が資料を広げた。「インペリアルの調達網を総動員しても、届けられない食材があります」


疾駆が驚いた。「届けられない?インペリアルほどの物流網を持ってしても?」


天野が資料を示した。「はい。ロシア産のキャビア、イタリアの白トリュフ、スペイン産イベリコ豚の最高級品——これらは、特定の輸送ルートと温度管理が必要です」


「インペリアルの航空便は、主要都市間の定期便です。でも、これらの食材の産地は、インペリアルの路線にない。他の航空会社の調達網を借りようとしましたが——」


疾駆が尋ねた。「断られた?」


天野が頷いた。「はい。競合他社は、自社の顧客優先です。そして、自前で輸送ルートを確保しようとしたら——」天野が電卓を叩いた。「空港の発着枠を新規に取得し、専用便を運航するコストは、年間100億円以上です」


天野が資料を閉じた。「特にキャビア、白トリュフ、イベリコ豚——この3つは、シェフたちの料理の核心です。これがないと、本来の実力を発揮できません」


「100億円……」和奏が呟いた瞬間——


ドアが勢いよく開いた。


空川美咲が駆け込んでくる。息を切らしている。髪が乱れ、顔が紅潮している——彼女がこんな表情を見せるのは、初めてだった。


「みんな……大変です……」


新々が驚いた。「美咲さん、どうしたんですか?」


美咲がタブレットを皆に見せた。「4人のトップシェフの参加が、SNSで漏れました。世界中のメディアが報道を始めています!」


画面には、Twitter、Instagram、各国のニュースサイト——全てが、バリ島プロジェクトを報じていた。


「『世界4人のトップシェフがバリ島へ』『前代未聞の美食プロジェクト』『インペリアルスカイグループか?』——」


美咲が続けた。「期待値が爆発的に上がっています。でも、プロジェクトはまだ準備段階。詳細も未定。このままでは、期待だけが一人歩きして——」


新々が頷いた。「期待が高すぎると、『期待外れ』と言われる。それが一番怖いですね」


部屋に重い沈黙が流れた。二つの危機——食材調達問題と情報漏洩問題——が、同時にプロジェクトを襲った。


続く

お読みいただきありがとうございました。

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