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第25話 大きな絵を描く

前半

プロジェクト開始から30日。十二支プロジェクトチームの会議室に、十六人が集まった。十二支チーム12人、インペリアルチーム4人——青天澄香、天野翔太、星野達也、空川美咲が参加していた。


賢が重い表情で口火を切った。「皆さん、現状を報告します。1番——インドネシア政府との500億円出資交渉、進捗が芳しくありません」


会議室の空気が重くなった。


「環境アセスメントが完了していない段階では、500億円の出資について何も約束できないと言われました」賢が続けた。「地元住民の合意形成が前提だと」


静香がすかさず尋ねた。「具体的には、どういう条件を?」


賢が資料をめくった。「『地元コミュニティの70%以上の賛成』『環境への悪影響がゼロであること』——かなり厳しい条件です」


勇進が苦い顔をした。「70%……今は30%も賛成してくれてないっすよ」


威風が眉をひそめた。「2番——JOIN(海外交流基金)からの500億円支援獲得も同様です。前例がない案件だと、審議に最低6か月かかると」


鳴子が首を傾げた。「6か月……それでは30か月計画に間に合わないのでは?」


威風が頷いた。「その通りです。だから、何か——政治的な後押しが必要なんです」


理子が分析を加えた。「4番——アジア開発銀行からの3000億円融資も、政府間の合意と出資が前提と言われています。1番と2番が進まなければ、4番も動きません」


天野翔太が驚いた表情を見せた。「つまり、連鎖している……?」


理子が頷いた。「ええ。全てが連動しています」


鳴子が冷静に報告した。「5番——投資保険の取得も同じです。プロジェクトの政府出資が明確でなければ、保険会社は審査すら始めてくれません」


疾駆が呟いた。「まるで……鎖に繋がれているみたいだ」


静香が環境データを示しながら言った。「6番——環境アセスメントの取得には、3番——地元住民の合意が必要です。しかし、地元住民は雇用創出の具体案を先に求めています」


勇進が苦しそうに呟いた。「俺、地元と毎日話してますが、『本当に雇用が生まれるのか』『バリの文化を破壊するんじゃないか』って……信じてもらえないんです」


和奏が優しく尋ねた。「具体的に、どんな不安を?」


勇進が答えた。「『日本人が金儲けして、俺たちは低賃金で働かされるだけだろ』って。特に若者がそう言ってます」


昇天が拳を握った。「それは……悔しいな」


会議室に重い沈黙が流れた。誰もが事態の深刻さを理解していた。


疾駆が困惑した表情で言った。「8番——航空便の増便交渉を進めるには、需要の見込みが必要です。でも需要を生むには7番——広告活動とマーケティングが必要で……」


空川美咲が口を挟んだ。「でも、何を売りにするんですか?コンテンツがないと広告も打てません」


新々が続けた。「その通りです。7番を進めるにはコンテンツが必要。10番——世界的レストランの誘致が鍵ですが、シェフたちは『本当にお客様が来るのか』と不安がっています」


和奏が小さく声を上げた。「でも……レストランを建てるには、まず建物が必要ですよね」


新々が頷いた。「そうなんです。10番を進めるには9番——ホテル建設が先ですが……」


昇天が肩を落とした。「9番を進めるには11番——電力インフラ整備が必要。でも電力計画が確定しないと、建設設計ができません」


星野達也が尋ねた。「電力はどれくらい必要なんですか?」


昇天が資料を示した。「5つ星ホテル5000室規模だと……最低でも30メガワット」


牛田が深いため息をついた。「11番を進めるには6番——環境アセスメントの許可が必要。でもそれには地元合意が……」


勇進が苦笑した。「また地元合意に戻るんすね」


潜在が小さな声で言った。「12番——通信環境整備も同じです。全体の進捗がないと技術者を確保できません。6G網の設計は、ホテル建設と連動しないと意味がありません」


会議室に、絶望的な沈黙が降りた。


天野翔太が頭を抱えた。「これは……」


星野達也も困惑した表情を浮かべた。「技術的には可能なはずなのに……」


空川美咲が不安そうに呟いた。「完全に堂々巡りです」


5000億円プロジェクトが、早くも暗礁に乗り上げている。


その時、青天澄香が静かに立ち上がった。


「みなさん」澄香の声が会議室に響いた。「私たち、何か根本的なことを見落としているかもしれません」


全員が澄香を見た。


澄香がゆっくりと歩きながら続けた。「12の項目……それを一つ一つ、順番に進めようとしている」


賢が頷いた。「はい、それが問題です。どこから手をつければいいのか……」


澄香が首を横に振った。「いいえ、賢さん。問題は『順番』ではないかもしれません」


威風が前のめりになった。「どういう意味ですか?」


澄香が全員を見つめた。「大きな絵——それが必要だと思います」


理子が尋ねた。「大きな絵……?」


澄香が振り返った。「12項目をそれぞれ独立した個別のタスクにせず、全体を貫く大きなストーリー。それが必要です」


静香がハッとした表情を見せた。「つまり……12個のタスクを別々ではなく、繋がるように考えるということ?」


澄香が微笑んだ。「その通りです、静香さん。一つ一つを別々に進めようとするから、こうして行き詰まるんです」


潜在が言った。「なるほど。ストーリーは必ずしも一つではなく、複数あっても良さそうですね。3つか4つのストーリーで手分けして12個のタスクを貫く」


賢が立ち上がった。「では、どうするべきか。全員で考えましょう」


16人が、ホワイトボードを囲んで議論を始めた。


しばらく沈黙が続いた。誰もが考え込んでいた。


和奏が小さく手を挙げた。「あの……一つ、思いついたことがあるんですけど」


全員が和奏を見た。


「食、です」和奏が静かに、しかし確信を持って言った。


疾駆が首を傾げた。「食?」


和奏が言葉を選びながら話した。「私、世界中を旅してきました。そして気づいたんです。人が本当に遠くまで行く理由——それは、その場所でしか食べられないものがあるから」


新々が興味深そうに聞いた。「具体的には?」


和奏が目を輝かせた。「例えば、スペインのサンセバスチャン。人口18万人の小さな街なのに、世界中から観光客が来ます。理由は、ミシュラン星付きレストランが密集しているから」


空川美咲がハッとした表情を見せた。「ガストロノミーツーリズム……!」


和奏が頷いた。「そうです!美味しいものを食べに旅行をする価値がある——それをバリ島の新リゾートで実現するんです」


疾駆が前のめりになった。「でも、それがプロジェクトとどう繋がるんですか?」


新々が突然立ち上がった。「分かった!それなら7番——広告活動と、10番——レストラン誘致が同時に進みます!」


和奏が微笑んだ。「世界的なシェフを招聘する——それ自体がニュースになります」


空川美咲が興奮して言った。「『バリ島に新しい美食の聖地誕生』——これは世界中のメディアが取り上げます!」


疾駆が閃いた表情で拳を打った。「それだ!8番——航空便増便交渉の材料にもなります!『美食を求める富裕層観光客が必ず来る』と航空会社に約束できる!」


賢がホワイトボードに書き始めた。「つまり、ガストロノミーツーリズムキャンペーンが、7番、8番、10番を同時に進める……」


昇天が目を見開いた。「一つのストーリー戦略で、三つのタスクが動き出しますね」


後半

会議室に希望の光が射し始めた。


しかし、静香が冷静に問題を指摘した。「待ってください。美食キャンペーンだけでは、環境の問題があります」


和奏が不安そうに尋ねた。「環境の問題……?」


静香が頷いた。「大規模リゾートは、どうしても環境破壊と見られがちです。6番——環境アセスメントのクリアがさらに難しくなる可能性があります」


威風が頭を掌いた。「たしかに……」


沈黙が流れた。


その時、静香の「環境破壊」という言葉が、牛田の中で何かを呼び覚ました。環境破壊——いや、違う。環境と共生する方法がある。バリ島の地下には、眠っている力がある。


牛田が勢いよく顔を上げた。「待ってください——地熱はどうですか?」


理子が尋ねた。「地熱?」


牛田が説明した。「地熱発電です。バリ島は火山地帯で、地熱エネルギーのポテンシャルが高いんです」


星野達也が前のめりになった。「本当ですか!バリ島に地熱発電の可能性が?」


牛田が頷いた。「ええ。アグン山、バトゥール山——活火山が複数ありますから」


静香がハッとした表情を見せた。「地熱発電……再生可能エネルギーですね?」


牛田が微笑んだ。「そうです。CO2排出がほぼゼロ。環境に優しい」


理子が素早く計算し始めた。「つまり……11番——電力インフラ整備と6番——環境アセスメントが同時に進む!」


威風が頷いた。「環境破壊ではなく、環境保護に貢献するプロジェクトとしてアピールできる!」


昇天が声を上げた。「待ってください。地熱なら……ホテルへ直接電力供給できます」


全員が昇天を見た。


昇天が続けた。「9番——ホテル建設に地熱発電所から専用線で電力供給します。再生可能エネルギー100%のグリーンリゾート。バリ島の自然と一体化した完全エコホテルとして世界に打ち出せそうですね」


和奏が目を輝かせた。「グリーンエネルギーと美食……最高のブランディングです!」


勇進が跳び上がった。「しかも!3番——地元雇用も増える!地熱発電所の建設と運営で、さらに雇用が生まれます!」


賢がホワイトボードに書き加えた。「グリーンエネルギー戦略——3番、6番、9番、11番を同時に加速させる」


新々が驚いた表情で言った。「一つのアイデアで、四つのタスクが動く……!」


会議室に活気が満ちてきた。


賢が言った。「しかし、1番と2番——政府からの1000億円出資が最大の壁です。ここが突破できなければ、他の全てが止まります」


天野翔太が尋ねた。「政府を動かすには、何が必要なんですか?」


威風が深く考えた。「政府を動かすには……錦の御旗だ」


賢が聞き返した。「錦の御旗?」


威風が説明した。「政府は、単なる民間プロジェクトには動かない。でも、国家のメンツがかかっているとなれば……話は別だろう」


澄香が静かに立ち上がった。「その通りですね。日本とインドネシア、両国間の戦略的パートナーシップ締結——それをこのプロジェクトに結びつけるが良いかもしれません」


天野翔太が顔を上げた。「国家プロジェクトとして位置づける……?」


澄香が頷いた。「はい。『日本-インドネシア友好の象徴』『両国経済発展のモデルケース』——そういうストーリーを作るんです」


賢がハッとした表情を見せた。「なるほど!単なる民間事業ではなく、二国間戦略的パートナーシップの象徴として!」


理子が頷いた。「そうすれば、1番と2番がスムーズに進みます。両国政府にとって、面目の立つプロジェクトになる」


潜在が続けた。「そして、両国政府の支援があれば、4番——アジア開発銀行からの3000億円融資も獲得しやすくなります」


鳴子が目を輝かせた。「5番——投資保険も同じですね!」


潜在が頷いた。「ええ。政府支援が明確なら、保険会社は積極的に動きます」


威風が拳を握った。「では、私が両国政府へのロビー活動を主導します。霞ヶ関には通っていたことがあります」


澄香が微笑んだ。「私も支援します。インペリアルのネットワークを総動員しましょう」


賢がホワイトボードを見つめた。「これで、1から11までが繋がった……あとは12番——通信環境整備ですね」


星野達也が小さく手を挙げた。「12番ですが……最新の6G技術が必要です。でも、インペリアルグループだけでは技術が足りません」


潜在が尋ねた。「具体的には、どんな技術がですか?」


星野が説明した。「リゾート全域をカバーする6Gネットワーク、海底ケーブルの敷設、衛星通信のバックアップ……かなり高度な技術です」


理子が何かを思い出したように顔を上げた。「あの……鷹見さんはどうでしょう?」


星野が驚いた表情を見せた。「ファルコングループの?」


理子が頷いた。「ええ。前のプロジェクトで協させて頂いた、通信技術のスペシャリストです」


星野が目を輝かせた。「鷹見透さん!そうですか、あの方なら!」


賢が尋ねた。「鷹見さんなら、可能ですか?」


星野が力強く頷いた。「はい!あの方は最先端技術への情熱が絶大と聞いております。きっと協力してくれます」


理子が微笑んだ。「では、私から鷹見さんに連絡を取ります」


賢が確認した。「12番は、ファルコングループとの提携で進めましょう」


澄香が立ち上がった。「素晴らしい。これで全てが繋がりましたね」


「では、まとめましょう」


賢がホワイトボードに向かい、4つの戦略を書き出し始めた。


【4つの戦略】


ストーリー戦略1:日本-インドネシア両国間パートナーシップ締結(錦の御旗戦略)

・大きな錦の御旗を立てる

・加速するタスク:1番(インドネシア政府交渉)、2番(JOIN支援獲得)、4番(アジ銀融資)、5番(投資保険)

・手段:両国へのロビー活動

・担当:青天澄香、賢、威風、鳴子


ストーリー戦略2:グリーンエネルギー活用(地熱発電開発戦略)

・さらなる雇用創出、グリーンリゾート

・加速するタスク:3番(地元住民理解・雇用創出)、6番(環境アセスメント)、9番(ホテル建設)、11番(電力インフラ整備)

・担当:牛田、星野達也、静香、勇進、昇天


ストーリー戦略3:ガストロノミーツーリズムキャンペーン(美食の旅戦略)

・「美味しいものを食べに旅行をする価値がある」

・加速するタスク:7番(広告活動)、8番(航空便増便交渉)、10番(レストラン誘致)

・担当:和奏、空川美咲、発想、疾駆、天野翔太


ストーリー戦略4:ファルコングループとの提携(最新通信技術戦略)

・鷹見透に接触、最新6G技術を提供

・実現するタスク:12番(通信環境整備)

・担当:理子、潜在、 星野達也


全員がホワイトボードを見つめた。バラバラだった12項目が、4つの戦略で整理されている。


勇進の目に、涙が浮かんだ。7回——7回失敗した。毎回、どこかで行き詰まった。でも今、目の前にある。進むべき道が、はっきりと見える。


「これなら……」勇進の声が震えた。「これなら、8回目は成功できる」


和奏が優しく微笑んだ。「ええ、勇進さん。今度は一人じゃないから」


昇天が頷いた。「この4つのストーリー戦略で実現しよう」


青天澄香が静かに微笑んだ。「さあ、実行に移しましょう。明日から、4つの戦略が動き出します」


続く


ーーーーー

登場人物紹介


子田賢ねだ・けん - ネズミ。プロジェクトリーダー。

 全体を俯瞰し優れた分析力と観察力を持つ。


牛田継続うしだ・けいぞく - ウシ

 着実に前進する実行力と信念を持つ。


虎山威風とらやま・いふう - トラ

 力強い実行力を持つ戦略家。


兎野理子うさぎの・りこ - ウサギ

 慎重なリスク分析の専門家。


龍雲昇天りゅううん・しょうてん - タツ

 圧倒的なカリスマと人を魅了する力を持つスター。


蛇原静香へびはら・しずか - ヘビ

 人の観察に優れ本質を見抜く洞察力の持ち主。


馬場疾駆ばば・しっく - ウマ

 自由を愛し新しい風を吹き込む風雲児。


羊谷和奏ひつじたに・わかな - ヒツジ

 優しく人々を調和させ、団結させる力を持つ。


猿田新々(さるた・しんしん) - サル

 機転と発想力に優れるがあきっぽい。


鶏鳥鳴子けいちょう・めいこ - トリ

 厳格な管理能力を持ち、組織の秩序を守る。


犬塚潜在いぬづか・せんざい - イヌ

 次期リーダー候補と言われた若手エース。


猪野勇進いの・ゆうしん - イノシシ

 愚直でひたむきで真っ直ぐ突進する。

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お読みいただきありがとうございました。

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