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第23話 バリ島のマリーナベイサンズ

ーーーーー

登場人物紹介


子田賢ねだ・けん - ネズミ。プロジェクトリーダー。

 全体を俯瞰し優れた分析力と観察力を持つ。


牛田継続うしだ・けいぞく - ウシ

 着実に前進する実行力と信念を持つ。


虎山威風とらやま・いふう - トラ

 力強い実行力を持つ戦略家。


兎野理子うさぎの・りこ - ウサギ

 慎重なリスク分析の専門家。


龍雲昇天りゅううん・しょうてん - タツ

 圧倒的なカリスマと人を魅了する力を持つスター。


蛇原静香へびはら・しずか - ヘビ

 人の観察に優れ本質を見抜く洞察力の持ち主。


馬場疾駆ばば・しっく - ウマ

 自由を愛し新しい風を吹き込む風雲児。


羊谷和奏ひつじたに・わかな - ヒツジ

 優しく人々を調和させ、団結させる力を持つ。


猿田新々(さるた・しんしん) - サル

 機転と発想力に優れるがあきっぽい。


鶏鳥鳴子けいちょう・めいこ - トリ

 厳格な管理能力を持ち、組織の秩序を守る。


犬塚潜在いぬづか・せんざい - イヌ

 次期リーダー候補と言われた若手エース。


猪野勇進いの・ゆうしん - イノシシ

 愚直でひたむきで真っ直ぐ突進する。

ーーーーー

前半

新年早々の仕事始め 。窓の外には初日の出が東京の街を柔らかく照らし、新しい年の始まりを告げていた。 オフィスには門松が飾られ、祝賀ムードが漂っている。


新年の挨拶を一通り終えると、早速、作戦会議のため、会議室に十一人が集まった。


会議室の壁には、鯨岡社長から届いた特別な年賀状が飾られている。そこには十二支の動物たちが円を描いて並び、中央に「One for all, All for beyond」の文字が輝いていた。


年明けの初仕事——それは、アジアのリゾート開発という新たな挑戦だった。


賢がホワイトボードに地図を広げた。「インペリアルスカイとのJV、アジアのリゾート開発。先ずどの市場にするか」


静香がデータを示した。「プーケット、セブ、ダナン、ボラカイ……既に開発が進んでいます。後発組が入り込む余地は限られています」


昇天が言った。「ホテル建設だけでは勝てません。独自の価値、未開拓の市場が必要です」


理子が疑問を口にした。「でも、未開発の良い土地なんて、もう残っていないのでは?」


会議室が重い空気に包まれた。その時、ドアが勢いよく開いた——まるで、突進するイノシシのように。


「遅れてすみません!猪野勇進いの・ゆうしんです!」筋肉質な体格の男性が、汗だくで入ってきた。三十五歳、エネルギーに溢れた表情だが、目の下にはクマがあり、どこか疲れも見えた。


賢が紹介した。「年末に社長から話のあった十二人目のメンバー、猪野勇進さんです。わが社のアジアリゾート開拓の専任者です。今回合流してもらいました」


勇進が自己紹介を始めた。「俺は、10年間アジアを回ってきました。バリ、プーケット、セブ、ダナン……現地の人たちと一緒に汗を流して、泥まみれになって、何度も何度も挑戦してきました」


疾駆が聞いた。「10年間……成功したプロジェクトは?」


勇進は苦笑した。「正直に言います。7回挑戦して、7回失敗しました」


会議室に緊張が走った。しかし、勇進は続けた。


「1回目のバリ島——25歳の俺は、イノシシそのものでした。何の準備もせず、いきなり現地に突進。文化の違いを理解せず、信頼を失いました。バリの人たちは『時間』の概念が違うんです。『明日やる』が『来週』になる。俺は焦って怒鳴って……パートナーが去っていきました」


「2回目のプーケット——今度は慎重になりすぎて、何も決断できない。チャンスを逃しました。失敗が怖くて、会議ばかりして、現地調査ばかりして……気づいたら競合に先を越されていました」


「3回目のセブ島——価格勝負に出て、質が悪くてクレームの嵐。お客様に怒鳴られて……電話で泣きました。30歳の男が、ホテルの部屋で一人、受話器を握りしめて泣いたんです」


「4回目のダナン——現地パートナーに裏切られて、契約金500万円を持ち逃げされました。警察も動いてくれなかった。信じていた相手に裏切られる痛み……それは、金額以上に俺の心を傷つけました」


「5回目のボラカイ——環境問題が起きて、抗議されました。現地の人を幸せにしたかったのに、逆に傷つけてしまった。子供たちが『海が汚れた』って泣いていて……俺、何のためにやってるんだろうって思いました」


「6回目のランカウイ——マーケティングに失敗。誰も来ない。立派な施設を作ったのに、ガラガラでした。オープン初日、受付に一人も来なくて……現地スタッフの悲しそうな顔が、今でも忘れられません」


「7回目のモルディブ——全てを賭けました。でも、コロナが来た。全てが止まりました。年末年始も休まず、『今度こそ』って……でも、誰にも止められない外部要因が、全てを奪っていきました」


「でも今回8回目の挑戦が出来ると聞いております。まさに七転び八起き。まさに勝負の8回目。成功目指して突き進みます!」


そして、勇進が会議室を見回した時、目が止まった。ホワイトボードに貼られた資料——「インペリアルスカイグループとのジョイントベンチャー」


勇進の表情が変わった。「ちょっと待ってください……インペリアルスカイって、あの年商3兆円の?」


賢が頷いた。「はい。雲居社長と、正式にJVを組むことになりました」


勇進は息を呑んだ。「マジですか……それなら、話が変わります。全く違う」


後半

勇進が立ち上がり、ホワイトボードに向かった。その目には、今まで見たことのない輝きがあった。


「皆さん、聞いてください。インペリアルスカイとのJVなら——バリ島が狙えます」


全員が注目した。勇進は地図を指差した。


「バリ島の南東部、プチャトゥ地区です。まだ開発されていない、素晴らしい立地の土地が売りに出ているんです。俺、3年前に現地で見ました。朝日に染まる白い砂浜。波の音が耳を撫で、潮風がフランジパニの花の香りを運ぶ。背後には緑の丘陵が守るように佇んでいる——奇跡のような場所です」


疾駆が聞いた。「3年前……それは、何回目のプロジェクトの時ですか?」


勇進が答えた。「6回目のランカウイの後です。俺、失敗してもただでは起きないんです。毎回、現地に通い続けて、コネクションを築いてきました」


「プチャトゥの土地所有者、バリ州政府の観光局長、地元コミュニティのリーダー、ホテル協会の会長——全員、俺の顔を知ってます。10年間、何度も何度も通って、現地の祭りに参加して、彼らと食事をして、信頼を築いてきました」


理子が感心した。「7回失敗したけど、その度に人脈を広げていたんですね」


勇進が力強く頷いた。「イノシシは真っ直ぐ突進する。でも、その突進の軌跡に、確かな足跡が残っているんです」


静香が聞いた。「なぜ、今まで開発されなかったんですか?」


勇進が答えた。「規模です。その土地を活かすには、マリーナベイサンズ級のプロジェクトが必要なんです。総事業費は——5000億円」


会議室に衝撃が走った。


疾駆が驚いた。「5000億円……それは、我が社の年商の2倍です」


鳴子が冷静に言った。「ズートポスだけでは、到底無理な規模ですね」


勇進が頷いた。「だから、今まで誰も手を出せなかったんです。でも——インペリアルスカイが入るなら、話は別です」


賢が全員を見渡した。「5000億円のプロジェクト……インペリアルスカイと組むならそれくらいのプロジェクトこそ相応しいのかもしれない。可能性を検討してみましょう。ストラクチャーを考えます」


理子がホワイトボードに数字を書き始めた。「まず、出資構造を整理しましょう」


昇天が言った。「インペリアルスカイグループが500億円出資すると仮定します」


鳴子が続けた。「ズートポスも、同額の500億円を出せれば対等なパートナーになれます」


しかし、理子が首を振った。「待ってください。ズートポスで500億円——それは現実的ですか?」


会議室に緊張が走った。静香がデータを示した。「我が社の年商は2500億円。純資産は1000億円。500億円の出資は——」


鳴子が冷静に分析した。「資本市場からの調達は難しいですね。ズートポスの規模では、500億円の増資は市場が受け入れません。既に限界です」


理子が続けた。「金融機関からの借入も担保不足です。5億円ならまだしも500億円は難しい」


会議室が重い空気に包まれた。せっかくバリ島に奇跡の土地を見つけたのに、資金が足りない。


その時、潜在が静かに思い出したように言った。その声には——確信があった。「一つだけ、方法があります」


全員が潜在を見た。


「投資保険です」潜在の言葉が、静かに、しかし力強く響いた。「海外投資保険——これは、海外プロジェクトに対する投資をカバーする保険です」


賢が聞いた。「どういう仕組みですか?」


潜在が説明した。「ズートポスが500億円を出資します。そして、その500億円全額に対して投資保険をかけます。もしプロジェクトが失敗しても、損失の9割——450億円が保険でカバーされます」


理子が計算した。「つまり、実質的なリスクは50億円……それなら、我が社でも出せます」


静香が分析した。「投資保険のコストは?」


潜在が答えた。「500億円の投資に対して、保険料は年間2〜3%。年間10〜15億円程度です。しかし、450億円のリスクをカバーできるなら——十分ペイします」


昇天が頷いた。「リスクを抑えながら、インペリアルスカイと対等なパートナーになれる。これが唯一の解のようにみえますね」


賢が全員を見渡した。「出資構造が見えてきました。インペリアルスカイ500億円、ズートポス500億円を投資保険付きで、そして——」


威風が加えた。「日本政府の海外交通・都市開発事業支援機構——JOINからの出資、500億円」


勇進が言った。「インドネシア政府も、地域開発として500億円出す可能性があります。俺、現地の人脈で交渉できます」


理子が計算した。「これで2000億円。残りは——融資です。アジア開発銀行などから3000億円」


潜在が纏める「民間共同出資で計1000億円、政府出資で計1000億円、融資で計3000億円。合計5000億円。DER1.5倍。これなら現実的でしょうね」


和奏が提案した。「ホテル、レストラン、ショッピングモール……マリーナベイサンズのように、複合リゾートにした方がいいですね」


牛田が言った。「電力、水道、通信——インフラも全て整備します」


新々が言った。「これはワクワクが止まらないな……」


賢が全員を見渡した。「ストラクチャーの案は固まりました。次は、鯨岡社長とインペリアルスカイグループに提案しましょう」


勇進が力強く言った。「あの白い砂浜、あの透き通った海——世界中の人を幸せにできる場所です。俺の10年間の集大成としても、実現したい」


全員が頷いた。すでに夜はふけて、一番星が静かに輝いていた。


バリ島での巨大リゾート開発プロジェクト。それは、十二支プロジェクトチームの新たな旅の始まりだった。

お読みいただきありがとうございました。

次章、インペリアルスカイのメンバーとチーム組成します。

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