第22-2話 インペリアルスカイグループへの挑戦②(後半)
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登場人物紹介
子田賢 - ネズミ。プロジェクトリーダー。
全体を俯瞰し優れた分析力と観察力を持つ。
牛田継続 - ウシ
着実に前進する実行力と信念を持つ。
虎山威風 - トラ
力強い実行力を持つ戦略家。
兎野理子 - ウサギ
慎重なリスク分析の専門家。
龍雲昇天 - タツ
圧倒的なカリスマと人を魅了する力を持つスター。
蛇原静香 - ヘビ
人の観察に優れ本質を見抜く洞察力の持ち主。
馬場疾駆 - ウマ
自由を愛し新しい風を吹き込む風雲児。
羊谷和奏 - ヒツジ
優しく人々を調和させ、団結させる力を持つ。
猿田新々(さるた・しんしん) - サル
機転と発想力に優れるがあきっぽい。
鶏鳥鳴子 - トリ
厳格な管理能力を持ち、組織の秩序を守る。
犬塚潜在 - イヌ
次期リーダー候補と言われた若手エース。
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後半
インペリアルスカイグループ本社。
役員会議室。
賢たちが会議室に入った瞬間——空気が変わった。
天野翔太、青天澄香、そして——インペリアルスカイグループ社長、雲居天が着席していた。
ニュースで何度か見たことのあるその顔。本人である。静かに座っているだけなのに、部屋全体を支配するような存在感。まるで、会議室という空間そのものが、この人物を中心に構成されているかのようだ。
和奏が息を呑んだ。新々の手が震えた。疾駆が思わず姿勢を正した。
これが——年商3兆円、業界シェア35%を誇る、インペリアルスカイグループの頂点。
雲居天社長がゆっくりと口を開いた。
「皆さん、初めまして。社長の雲居です」
その声は、穏やかなのに圧倒的だった。低く、深く——まるで大地が語りかけてくるような響き。
「たまたまこの時間に予定されていた会議がキャンセルになってね。青天から、興味深い提案があると聞いて——同席させてもらうことにした」
賢が一礼した。「光栄です」
雲居社長が微笑んだ。だが、その微笑みには、全てを見通すような鋭さがあった。
賢がプレゼンを開始した。
「本日は、前回の面談を踏まえまして、新たな提案を持参しました。それは、ただの『サプライヤー契約』ではなく、『成長のパートナーシップ』です」
雲居社長は静かに聞いている。表情一つ変えない。だが、その静けさが、逆に威圧感を生み出していた。
「三つの柱があります」賢が言った。
そして、威風が立ち上がった。雲居社長の視線が、威風に向けられる。百戦錬磨を自負する威風が一瞬、言葉に詰まった——だが、すぐに気持ちを立て直した。
「第一に、SNSマーケティング。会社紹介で築いたSNS基盤を、マーケティング戦略に活用します。顧客とオンラインでタイムリーに対話し、市場の変化にもいち早く対応できます。また……」
少し早口になったが、雲居社長が、わずかに頷いた。それだけで、威風の緊張が少し和らいだ。
牛田が立ち上がった。雲居社長の視線が移る。牛田の喉が、乾いた。
「第二に、社員参加型ワークショップ」
牛田の声が、わずかに震えた。だが、すぐに深呼吸をして、言葉を続けた。
「豹崎商事で実施したワークショップの枠組みを、両社合同に拡大します。現場が合同でビジョンや協業のアイデアを作ることで、トップダウンでシナジーを押し付けるのではなく、ボトムアップで創造していきます。実績もあります——社員満足度95%、プロジェクト完遂率100%です。具体的には……」
無事に終わった。雲居社長の目が、わずかに輝いた。興味を示している——牛田がそれを感じ取り、安堵の息を漏らした。
理子が最後に立ち上がった。手に持った資料が、わずかに震えている。
雲居社長の視線が、 理子に向けられた。その瞬間、 理子は自分の存在が、まるで透かされているような感覚を覚えた。
「第三に——」
理子が一瞬、言葉を失いかけた。だが、静香と鳴子、潜在の視線を背中で感じて、勇気を振り絞った。
「ジョイントベンチャー。アジアリゾート市場への共同進出です」
雲居社長が、ゆっくりと眉を上げた。鳴子の首筋に、冷や汗が流れた。
「両社が50:50で出資。リスクを二人で背負えば半分に。でも、チャンスは倍増します。わが社にはこの分野に専任者がおり、お役に立てると存じます。先ずは最初のステップとして……」
理子が最後まで言い切ると、雲居社長が深く息を吸った。まるで、提案の本質を、全身で吸収しているかのようだった。
賢が最後に言った。賢は驚くほどに落ち着いていた。
「私たちは、インペリアルスカイ様の『サプライヤー』になりたいのではありません。『成長を共にするパートナー』になりたいのです」
「私たちの提案は、三つの約束です」
「SNSで顧客と対話し、市場の変化を掴む——攻めのマーケティング」
「ワークショップで現場から価値観を共有し、真のパートナーシップを築く——共創の文化」
「ジョイントベンチャーでリスクを分かち合い、未踏の市場に挑む——挑戦の覚悟」
賢が全員を見渡した。
「これは、共に成長する——成長のパートナーシップ。それが、私たちの提案です」
その口調は心地良かった。
パートナーとして、相手に媚びず、かといって尊敬の心を持ち、成長する仲間として共に歩む、そういう意思が込められているのが、誰にも分った。
会議室が静まり返った。
雲居社長が、ゆっくりと手を組んだ。その動作一つ一つに、重みがある。
青天が微笑んだ。「素晴らしい提案です。アジアのリゾート開発は我々も苦戦しておりパートナーが欲しかった」
天野も頷いた。「SNSマーケティング、社員参加型ワークショップ——実績に裏打ちされた、説得力のある内容です」
そして——雲居社長が、口を開いた。
「一つ、質問してもいいですか?」
全員が息を呑む中で、賢が落ち着いた表情で答えた。
「宜しくお願いします」
「この提案——前回のプレゼンから、わずか三日で作られたと聞きました。しかも、内容が全く違う。どうやって、この短期間で、これほど完成度の高い提案を作ったのですか?」
賢が素直に答えた。
「正直に申し上げます。前回のプレゼンが終わった後、私は焦っていました。『どうすればいいんだ』と。でも——」
賢が全員を見渡した。
「チームに聞いたんです。『今回のプレゼンで足りなかったものは何か』と。そして、担当パートごとに分かれて、自由に話し合ってもらった」
「威風たちは、『一方的ではなく双方向にする方法』を考えた。牛田たちは、『パートナーシップを深める方法』を考えた。理子たちは、『リスクを分散する方法』を考えた」
「そして、三日後に集まって——みんなのアイデアを統合したんです」
雲居社長が目を輝かせた。
「つまり、あなた一人で作ったんじゃない。チーム全員で、対話を通じて作り上げた」
賢が頷いた。「はい。私一人では、この提案は生まれませんでした。みんなの力です」
雲居社長が立ち上がった。
「それが、答えです」
全員が驚いた。
「私たちが求めていたのは、まさにそれです。対話を通じて、チームで問題を解決する力。一人の天才ではなく、皆で成長する組織。それこそが私の考える組織の理想形です」
「そしてあなた方の提案は、言葉だけじゃない。実際にあなた方がそれを『体現』している。先のSNS炎上をチャンスに変えたこともそう。あなた方と一緒に働けば、これから直面するであろうピンチもチャンスに変えて、共に成長ができるという信頼がある」
雲居社長が宣言した。
「契約しましょう。既存事業での取引契約で年間80億円、そしてジョイントベンチャーで出資50億円のパートナーシップです」
「年間80億円!」疾駆が思わず叫んだ。
「既存事業では50億円から30億円上乗せしました。この30億円は私の十二支プロジェクトチームへの出資と考えてもらって結構です」
「おおお―!」感極まった新々が立ち上がり、猛烈に拍手をし始めた。
和奏が涙を流しながら拍手した。静香が笑顔で拍手した。
全員が立ち上がり、拍手が会議室を満たした。
賢が深く頭を下げた。「ありがとうございます」
【三日後:祝賀会】
会社の大会議室が、華やかに飾られていた。プロジェクトメンバー全員が集まり、笑顔と歓声が溢れていた。 会議室の隅には、華やかなクリスマスツリーが飾られていた。金色と銀色のオーナメントが、LEDライトの光を受けてきらきらと輝いている。
社長が乾杯の音頭を取った。
「180日プロジェクト、最終日に達成した利益増——230億円!目標の200億円を超えました!」
歓声が上がった。
社長が続けた。
「皆さん、本当にありがとう。振り返れば——180日前、私たちは崖っぷちに立っていました」
会場が静まり返った。
「合計200億円の利益増。100億円の全社目標、そして100億円の十二支プロジェクトチームの目標——不可能だと断言してもおかしくなかった」
「でも、今日ここに立って言えます。社債の借り換えは無事完了しました」
大きな拍手が湧き起こった。
「この成果はここにいる皆さんのお陰です。全社で一丸となり、血の滲むようなコスト改善をし、既存事業を繋ぎ止め、収益性を大きく改善させた。また売却案件も確実に実行し、成功を収めた」
「そして、十二支プロジェクトチームは——危機をチャンスに変えて我が社ズートポスのSNSネットワークを構築した。そして不可能と思われたインペリアルスカイグループとの契約を実現してくれた」
「社員全員の頑張りと、十二支チームが活躍が一体となった——それが、この奇跡を生み出したんです」
「そして180日前のあの日の誓いが現実になりました。ここでまた笑い合うという誓い。我々は実現しました。今日は、大いに楽しんでください!180日間の苦労を、全部笑い飛ばしてください!」
「乾杯!」
グラスが高く掲げられた。乾杯の声が、会場を揺らした。
その瞬間——長い180日間の緊張が、一気に解き放たれた。
笑い声が響き、涙が流れ、抱き合う姿があちこちに見えた。疾駆と昇天が肩を組んでクリスマスソング歌い出した。和奏と静香が、嬉しそうにクリスマスケーキを食べている。新々が鳴子にシャンパンを注ぎ、鳴子が珍しく笑顔を見せた。
サンタクロースの髭をつけた威風とトナカイの角をつけた潜在がスコッチを入れて乾杯している。理子と牛田が、大きなソリに座って今後のJV計画について熱く語り合っている。和奏が、一人ひとりに丁寧にクリスマスの小包を渡しながら礼を言って回っている。
窓の外には、夕日が沈んでいた。オレンジ色の光が、会場を柔らかく包み込んでいる。
賢が風に当たりにベランダに出た。
180日前——社長から「100億円を十二支プロジェクトに託したい」と言われた日。あの時は、不安しかなかった。
50億円で停滞した時——「もうダメかもしれない」と思った。
インペリアルスカイに断られた時——「諦めるべきか」と悩んだ。
でも、諦めなかった。チームを信じた。
そして——今、ここにいる。
気づけば、賢の周りに十二支チームの11人全員が自然と集まっていた。
疾駆が賢の肩を叩いた。「なあ、賢さん——俺たち、必死に走り回ってよかったな。」
和奏が涙を拭った。「私……この180日間、みんなと一丸となって過ごせて本当に幸せでした」
威風が静かに言った。「一人で頑張るのではなく、みんなで頑張った結果だな」
牛田が感慨深げに言った。「これからも多くの絆を大切にしていこう」
鳴子が笑みを浮かべた。「アジアリゾート、楽しみですね。時差を考慮してスケジュールしないと」
理子が自信に満ちた声で言った。「JVの立ち上げ、リスク分析は進行中です」
新々が笑顔で言った。「次のアイデアなら、もう頭の中でいくつか温めてまっすよ!」
潜在が明るい声で言った。「次のプロジェクトでも私にできることを精一杯やります」
静香が優しく微笑んだ。「本当に、本当に心が温まるチームですね」
昇天が力強く頷いた。「ああ。そして、これからも皆と輝いていきたい」
賢が全員を見渡した。
「みんなありがとう。180日プロジェクトは終わりました。でも、私たちの挑戦は、まだ始まったばかりです」
賢が力強く言った。「ここで一つ、この十二支プロジェクトチームの掛け声を考えました」
皆がおっと驚く。
「掛け声とはいいですね、何ですか?」牛田が聞いた。
「One for all, All for beyondです」
賢が続ける。
「我々は個性豊かなチームです。でもOne for all, 一人一人が皆の為に働く。そしてAll for beyond, 皆で力を合わせれば、きっと何事も乗り越えて更なる高みにいける。そういう意味を込めてます」
「おおー!」と歓声が上がった。
威風が深く頷いた。「素晴らしい掛け声ですね」
疾駆が笑顔で拳を突き上げた。「よし、みんなで言おうぜ!」
賢が中央に立って声をかけた。
「せーの!」
全員の声が一つになった。
「One for all, All for beyond! 」
クリスマスツリーの星が、まるで彼らを照らし出すように輝き続けていた。
お読みいただきありがとうございました。
次回からイノシシを加えたフルメンバーです。
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