第20話 逆転の72時間
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登場人物紹介
子田賢 - ネズミ。プロジェクトリーダー。
全体を俯瞰し優れた分析力と観察力を持つ。
牛田継続 - ウシ
着実に前進する実行力と信念を持つ。
虎山威風 - トラ
力強い実行力を持つ戦略家。
兎野理子 - ウサギ
慎重なリスク分析の専門家。
龍雲昇天 - タツ
圧倒的なカリスマと人を魅了する力を持つスター。
蛇原静香 - ヘビ
人の観察に優れ本質を見抜く洞察力の持ち主。
馬場疾駆 - ウマ
自由を愛し新しい風を吹き込む風雲児。
羊谷和奏 - ヒツジ
優しく人々を調和させ、団結させる力を持つ。
猿田新々(さるた・しんしん) - サル
機転と発想力に優れるがあきっぽい。
鶏鳥鳴子 - トリ
厳格な管理能力を持ち、組織の秩序を守る。
犬塚潜在 - イヌ
次期リーダー候補と言われた若手エース。
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前半
翌朝、賢が十二支チーム全員を集めた。
そして潜在が皆の前に立ち堂々と話しをする。皆が驚いた表情で潜在を見る—— その姿は、かつての若きエースそのものだった。
「皆さん、ご説明した通り、この炎上を、最大のチャンスに変えます。逆転プランはこれです」
潜在がホワイトボードに戦略を書き出していく。手の震えは、もうない。
【72時間逆転プラン】
Phase 1(24時間):誠実な謝罪動画リリース
Phase 2(48時間):改善版動画制作
Phase 3(72時間):全チャネル同時展開
目標:株価回復 + 信用回復 + 新規契約獲得50社
威風が声を上げた。「50社!?そんなの無理だ!」
潜在が冷静に答えた。「無理ではありません。炎上で100万回再生されました。通常の50倍の注目を集めています。この注目を、正しい方向に向ければ、十分可能です」
「たった72時間でですか」昇天が言った。潜在が答える「人の噂は75日と言いますが、ネットの噂はそれより短い72時間。この72時間で勝負をかけます」
静香がデータを確認した。「確かに……視聴者の12%が『アイデア自体は良い』と評価しています。これは12万人。そのうち1%でも顧客化すれば——」
「1200社」理子が続けた。「目標50社は、決して無謀ではありません」
潜在が頷いた。「昨晩、賢さんと新々さん、鳴子さんと4人で話しました。役割分担は以下で行きます」
潜在が新々と鳴子を見る。
「新々さん、あなたは動画の核となるアイデアを再構築してください。今度は、最後まで責任を持って。また独断はしないように」
新々が力強く頷いた。「はい!」
「鳴子さん、あなたは全てのコンプライアンスチェックと、実行計画の策定をお願いします。計画に柔軟性を持たせるようにしてください」
鳴子が微笑んだ。「任せてください」
「そして私は新々さんと鳴子さんと共に動画作成の責任者として役割を果たします。それでは賢さん、チーム全体の役割分担をお願いします」潜在がバトンを賢に渡す。
賢が言う。「皆さん、潜在さんが見つけてくれたこのチャンスをチーム全体でしっかりと活かしていきたいと思います。これまで通り、全力で取り組みましょう」そして一人一人の目を見て話す。
「昇天さん、取引先への事前説明と根回しを」
「牛田さん、製造現場との調整と品質管理、実行サポートを」
「和奏さん、SNS対応とコミュニティマネジメントを」
「疾駆さん、新々をサポートしつつ、社内調整と広報・法務との連携を」
「威風さん、営業戦略とターゲット企業リストの作成を」
「静香さん、データ分析とリアルタイムモニタリングを」
「理子さん、財務計画とリスク管理を」
賢が全員を見渡した。「今から72時間、全力で走ります。皆で、ゴールに辿り着きます」
「よろしくお願いします!」全員が声を揃えた。
Phase 1スタート。最初の24時間。
潜在は新々と鳴子を呼んだ。「二人とも、まず謝罪動画を作ります。でも、ただの謝罪ではありません」
新々が聞いた。「どういうことですか?」
「謝罪しながら、未来を見せる。反省しながら、希望を語る。そういう動画です」
鳴子が理解した。「謝罪だけでは、ネガティブなイメージが残る。でも、その先にある改善を示せば——」
「信頼回復だけでなく、期待を生み出せる」潜在が続けた。
三人で脚本を練った。新々がアイデアを出し、鳴子が適切な表現に整え、潜在が全体の流れを調整する。
完璧なチームワークだった。
12時間後、謝罪動画が完成した。
内容:
- 冒頭:社長と賢が並んで、深く頭を下げる
- 中盤:具体的な問題点の説明と、改善策の提示
- 終盤:「72時間後、新しい動画をお届けします。必ず、信頼を回復します」
広報部、法務部、社長——全ての承認を得て、動画を公開した。
SNSの反応は、即座に変わり始めた。
「この謝罪、本気だ」「72時間後の動画、楽しみ」「ちゃんと対応してる。見直した」
和奏が興奮して報告した。「ポジティブなコメントが、50%を超えました!」
潜在が頷いた。「Phase 1成功。次、Phase 2に入ります」
後半
Phase 2。次の48時間で、改善版動画を作る。
潜在は再び新々と鳴子、そして疾駆を呼んだ。「完璧かつ更に良い動画を作ります。ここにいる4人の力を、最大限に引き出していきましょう」
新々がアイデアを次々と出す。
「このシーンは、もっと工場の職人さんの手元をクローズアップしたい」
「社員インタビューは、女性だけじゃなく、多様な年齢層を」
「ナレーションは、他社批判にならないよう、自社の強みだけを語る」
疾駆も続いた。「BGMは、もっと落ち着いたトーンに変えましょう。前回は少し派手すぎた」
「それと、最後のロゴ表示の前に、一呼吸置くといい。余韻が残る」
鳴子がそれぞれをチェックし、問題点を指摘する。しかし、頭ごなしに否定しない。改善案を一緒に考える。
「この表現、もう少し柔らかくしましょう」
「このデータ、出典を明記すれば説得力が増します」
「法務部のチェックと広報部の承認を取りながら進めましょう。出来上がってから纏めてではなく、コンセプト段階から少しずつ。そうすることでチェック完了や承認までの時間を短縮できます」
潜在が全体を調整する。発想と疾駆のアイデアと鳴子の正確性を、完璧にバランスさせる。
「新々さん、そのアイデア素晴らしい。でも、鳴子さんの指摘も正しい。両方を活かす方法は——」
潜在の調整力が、三人の力を最大化させる。
他のメンバーも、奔走する。
牛田が工場に行き、職人たちを説得した。「もう一度、撮影させてください。今度こそ、あなたたちの技術を正しく伝えます」
昇天が取引先を回り、事前説明と根回しを行った。「今回の件、ご心配をおかけしました。改めて誠意をもって対応させていただきます。現在そのプランを策定中で2日以内にお示しすることを約束します」
和奏が社員インタビューをコーディネートした。「多様性を表現したいんです。様々な年齢、性別、役職の方に協力していただけませんか?」
疾駆が広報部と法務部を馬車馬のように何度も往復した。「ご指摘の点、修正完了!チェックをお願いします!」
威風が営業戦略を練った。「この動画を武器に、攻めの営業をかける。顧客別に力強い具体策を…」
静香がリアルタイムでデータを分析した。「SNSの反応、謝罪動画への好意的なコメントが増え続けています」
理子が財務計画を更新した。「新規契約50社が達成できれば、年間利益は——」
チーム全体が、一つの目標に向かって動いていた。
48時間後、動画が完成し、法務部、広報部、社長の承認も取り付けた。
2分50秒の動画。全てが完璧だった。
- 工場の職人たちの真剣な表情、細かな手仕事
- 多様な社員たちの笑顔と想い
- 正確なデータと出典
- 他社を批判せず、自社の強みを語るナレーション
- ジェンダーバイアスのない構成
全員で試写会を開いた。
動画が終わると、静寂が流れた。そして——拍手が起こった。
疾駆が涙を拭った。「これだ……これが、俺たちが作りたかったものだ……」
和奏が泣きながら笑った。「素晴らしい……本当に素晴らしい……」
賢が潜在を見つめた。「潜在さん、あなたは本当に復活しましたね」
潜在が微笑んだ。「皆のおかげです。一人では、何もできませんでした」
Phase 3。動画の公開へ。
動画を全チャネルで同時展開する。
- 公式サイト
- YouTube
- Twitter、Facebook、Instagram
- LinkedIn(ビジネス層向け)
- 業界専門メディア
さらに、威風の営業戦略が発動した。
ターゲット企業200社に、動画リンクと共に営業メールを送信。「炎上から学んだ、私たちの決意をご覧ください」
昇天が直接訪問営業を開始。「約束通り、動画を作成しました。私たちのこれからの誓いと皆様への約束を是非ご覧ください」
効果は、即座に現れた。
公開から1時間で、再生回数10万回突破。
3時間で、50万回突破——炎上動画と同じ数字。しかし、今回は全て好意的な反応。
SNSが、称賛の声で溢れた。
「この会社、本気だ」「炎上から学んで、こんな素晴らしい動画を作るなんて」「応援したくなる」「取引したい」 「だから言ったろう。表現をちょっと間違えただけで、本当は素晴らしい会社なんだ」
さらに、メディアが取り上げ始めた。
「炎上から逆転——ズートポスの72時間の奇跡」
「失敗を成功に変えた、プロジェクトチームの物語」
12時間後、問い合わせが殺到し始めた。
「御社の製品について、詳しく聞きたい」「取引を検討したい」「工場見学は可能か?」
威風が興奮して報告した。「問い合わせ、すでに80件!」
24時間後、新規契約の申し込みが——
「申し込み、57社!」理子が叫んだ。「目標50社を超えました!」
株価も回復した。
炎上時:1,050円
現在:1,350円——炎上前の1,250円を超えた
オフィス中が歓声に包まれた。
疾駆が潜在を抱きしめた。「やった!潜在さん、あんた最高だよ!」
和奏が泣きながら笑った。「信じられない……本当に逆転した……」
威風が拳を天に突き上げた。「これが俺たちの力だ!」
賢が全員を見渡した。「皆さん、本当によくやってくれました。ありがとうございます」
新々が涙を拭った。「俺……初めて、最後までやり遂げた。初めて、成功した……」
鳴子も涙を浮かべていた。「私も……初めて、本当のチームを経験した……」
潜在が微笑んだ。「僕も……過去の恐怖を乗り越えた……」
三人が抱き合った。
かつての問題児——猿(新々)、鶏(鳴子)、犬(潜在)。
それぞれが傷を抱え、それぞれが失敗を重ねてきた。
しかし今、三人はチームに必要不可欠な一員となり、奇跡を起こした。
全員が三人を囲み、拍手をした。涙と笑顔が混じり合う。
1ヶ月後、理子が最新の業績レポートを発表した。
「新規契約57社の効果で、年間利益見込みが大幅に増加しました」
スクリーンに数字が映し出される。
現在の年間利益見込み:150億円
目標:200億円
残り必要額:50億円
賢がスクリーンを見つめた。「残り時間は?」
「残り90日」静香が答えた。
180日の期限まで、あと3ヶ月。目標まで、あと50億円。
威風が拳を握った。「行けるぞ。絶対に行ける」
賢が静かに言った。「十二支チーム、ここからがまだ正念場です。残り90日、あと50億円——必ず、やり遂げましょう」
「はい!」全員が声を揃えた。
まだ道半ば。倒産の危機は依然として去っていない。チーム全員、喜びも束の間、気を引き締めていた。
——鯨岡社長はそのチームの様子を遠くから眺めていた。
新々は、かつての独断専行の面影はない。鳴子の意見を丁寧に聞き、潜在の提案に真剣に耳を傾けている。その姿は、5つのプロジェクトを失敗させた「問題児」ではなかった。
鳴子は社内規則を脇に置いている。完璧なスケジュールより、仲間の顔を見ることを選んでいる。「歩く規則」と呼ばれた彼女が、今は笑顔でチームを支えている。
そして潜在——18ヶ月の沈黙を破り、今は自分の言葉で語っている。その瞳には、失われていた光が戻っており、周りを引っ張ってく姿勢が見て取れ、遠目からも頼もしさが伝わってきた。
「3人とも、殻を破ってくれたな」ふと微笑んだ。
社長の背中が、廊下の光の中に消えていく。その表情には、確信があった。
——この十二支チームは、想像以上のものになる。
窓の外では、9月末の秋の日差しが穏やかに降り注いでいた。
お読みいただきありがとうございました。
残り50億円に向けてまだ奮闘は続きます。
コメント、応援等、よろしくお願いいたします!




