第18-2話 炎上(後半)
ーーーーー
登場人物紹介
子田賢 - ネズミ。プロジェクトリーダー。
全体を俯瞰し優れた分析力と観察力を持つ。
牛田継続 - ウシ
着実に前進する実行力と信念を持つ。
虎山威風 - トラ
力強い実行力を持つ戦略家。
兎野理子 - ウサギ
慎重なリスク分析の専門家。
龍雲昇天 - タツ
圧倒的なカリスマと人を魅了する力を持つスター。
蛇原静香 - ヘビ
人の観察に優れ本質を見抜く洞察力の持ち主。
馬場疾駆 - ウマ
自由を愛し新しい風を吹き込む風雲児。
羊谷和奏 - ヒツジ
優しく人々を調和させ、団結させる力を持つ。
猿田新々(さるた・しんしん) - サル
機転と発想力に優れるがあきっぽい。
鶏鳥鳴子 - トリ
厳格な管理能力を持ち、組織の秩序を守る。
犬塚潜在 - イヌ
次期リーダー候補と言われた若手エース。
ーーーーー
後半
午後5時、賢が社長室から戻ってきた。疲れ切った表情。
会議室に残っていた全員が、息を呑んで賢を見つめた。
「社長は……何と?」威風が聞いた。
賢はゆっくりと椅子に座った。「一週間以内に、完全な事後対応策を提出しろ、と」
静香が深く息を吐いた。「プロジェクト解散ではない……ということですか」
「ええ。しかし、社長は厳しい表情でこう言いました。『次はない』と。再発防止策の内容次第では解散もあり得る状況です。今の100億円のミッションも引き継げるチームの選定に入るとのことです」賢の声が重い。
沈黙が流れる。
新々は顔を上げられないまま、小さく呟いた。「すみません……本当に、すみません……」
鳴子が口を開こうとした瞬間、和奏が立ち上がった。
「今は、責任を追及する時間はありません」和奏の声は、いつになく強かった。「一週間しかない。今やるべきことは、この炎上を鎮めることです」
昇天が頷いた。「和奏の言う通りだ。過去を責めても、何も変わらない」
疾駆が明るく言った。「そうですよ!俺たち、チームでしょう!一人がミスしたら、皆でカバーする!それがチームってもんです!誰も見捨ててはいけない!」
威風が拳を握った。「やるしかない。もう、後退はできない」
賢が全員を見渡した。「では、始めましょう。炎上対応、事後処理——全てを、一週間で」
その瞬間、十二支チームは一つになった。
静香がタブレットを開いた。「まず、現状分析から。炎上の原因は三つ——他社批判と受け取られる表現、ジェンダーバイアス、そして不適切なインフルエンサーとの提携」
理子がデータを示した。「株価は現在1,050円。取引先からのクレームは27件。メディアからの取材依頼は15件」
疾駆が明るく手を挙げた。「俺は広報部と法務部に謝罪に行きます!」
牛田が続けた。「俺は取引先への説明と謝罪を担当する。一社ずつ、直接訪問しよう」
和奏が言った。「私はSNS対応を担当します。一つ一つのコメントに、丁寧に返信していきます」
潜在が小さく言った。「僕は……資料作成を手伝います」
昇天が力強く言った。「牛田さんと共に取引先との信頼回復、任せてくれ」
鳴子が観念したように言った。「私は疾駆さんと共に広報部・法務部との調整を担当します」
静香が冷静に言った。「私はメディア対応を。記者会見の準備と、報道機関への説明を行います」
理子が頷いた。「私は炎上状況をリアルタイムで追跡し、数値で状況を把握します」
威風が力強く言った。「俺は顧客サポート対応とクレーム処理を担当する」
賢が頷いた。「私は全体統括と、社長への報告を担当します」
新々は震える声で言った。「俺は……何をすれば……」
賢が真っ直ぐ発想を見つめた。「新々さん、あなたは動画の削除手続きと、インフルエンサーへの説明を担当してください。あなたが始めたことは、あなたが終わらせる責任があります」
新々が頷いた。「わかりました……」
賢が全員を見渡して言った。「一週間、寝る時間もないかもしれません。でも、やり遂げましょう」
「はい!」全員が声を揃えた。
その夜から、十二支チームの戦いが始まった。
牛田と昇天は翌朝から、取引先を一社ずつ訪問した。
「この度は、誠に申し訳ございませんでした」二人が深々と頭を下げる。
取引先の部長が厳しく言った。「龍雲さん、牛田さん、御社のコンプライアンス体制は、どうなっているんですか?」
昇天は真っ直ぐ相手を見つめた。「今回の件、完全に我々の落ち度です。しかし、必ず信頼を回復します」
牛田が続けた。「もう一度、チャンスをいただけませんか。長年築いてきた信頼関係を、必ず取り戻します」
誠意が伝わったのか、部長は少しだけ表情を和らげた。「……次は、ありませんよ」
「はい。肝に銘じます」二人が声を揃えた。
和奏はSNSで、一つ一つのコメントに返信していった。
批判的なコメント。「こんな会社、信用できない」
和奏は丁寧に返信した。「この度は、不適切な表現で皆様に不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ございません。動画は削除し、再発防止に努めます」
何百件、何千件と続く作業。目が痛い。指が痛い。でも、止められない。
疾駆と鳴子は広報部と法務部を何度も訪れ、謝罪と調整を続けた。
「本当にすみません!でも、俺たち、絶対に立て直しますから!」疾駆が明るく言う。
「今後はご迷惑をお掛けしないよう、私からも確りと丁寧にご説明させて頂きます。公式な謝罪文をドラフトアップしました」鳴子が冷静に資料を提示する。
疾駆の直向きさと鳴子の真摯さが、少しずつ理解を得ていった。
潜在は深夜、一人で資料を作成していた。再発防止策、コンプライアンスチェックリスト、プロジェクト管理フロー——全てを文書化していく。
静香は記者会見の準備を進めていた。想定質問のリスト、メディア各社の傾向分析、最適な回答案——全てを心理学の観点から組み立てていく。
理子はモニタリング室で、炎上状況をリアルタイムで追跡していた。SNSのメンション数、株価の推移、メディア報道件数——全てをダッシュボードで可視化し、チームに共有する。
威風は顧客サポートセンターに詰めていた。クレームの電話が鳴り響く中、一件一件、誠実に対応していく。「申し訳ございません。必ず改善いたします」その力強い声が、少しずつお客様の怒りを鎮めていった。
賢は全体を統括しながら、社長への報告資料をまとめていた。現状分析、対応策の進捗、今後の見通し——全てを正確に把握し、次の一手を考え続ける。
新々は、インフルエンサーたちに連絡を取り続けた。
「動画を削除してください。そして、謝罪文を投稿してほしいんです」
しかし、何人かは無視した。炎上したコンテンツは、彼らにとって「稼げる素材」だったからだ。
新々は何度も連絡を取り、時には直接会いに行った。「お願いします。これは、俺の責任なんです」
三日目、ついに全てのインフルエンサーが動画を削除した。
四日目、取引先27社全てに謝罪を終えた。牛田と昇天の足は、棒のようになっていた。
五日目、SNSの炎上は徐々に鎮静化し始めた。和奏の地道な対応が、少しずつ評価され始めた。
「この会社、ちゃんと対応してるじゃん」「一つ一つ返信してる。誠実だな」
その夜、深夜のオフィスで潜在が一人、SNSのコメントを分析していた。炎上の嵐の中、あるパターンに気づいた。
タブレットを操作しながら、彼は特定のコメント群を抽出していく。手が震えているが、集中すると震えは止まる。
「待って、動画の内容自体は素晴らしいと思う」「技術力の紹介部分、めっちゃ良かった」「社員の笑顔が印象的。ただ、表現が問題だっただけ」「編集のクオリティ高い。もったいない」
潜在の目が見開かれた。炎上の批判の中に、動画の本質的な価値を評価する声が、確かに存在していた。
「これは……もしかしたら……」
彼の脳内で、かつてのリーダーとしての直感が目覚め始めた。この炎上は、確かに危機だ。しかし、同時に——チャンスでもあるのではないか?
動画の本質的な内容は評価されている。問題は表現方法とプロセスだった。ならば、それを修正して再発信すれば——
潜在は立ち上がり、会議室に向かおうとした。賢や他のメンバーに、この発見を報告しなければ。戦略を立て直せるかもしれない。
しかし、会議室のドアに手をかけた瞬間——脳裏に、あの声が響いた。
「黙れ。お前の意見など聞いていない」
手が激しく震え始めた。呼吸が浅くなる。動悸が激しくなる。
「みんなが一生懸命にやっているときに僕なんかが邪魔していいのか……。もし、僕の提案が間違っていたら……皆に迷惑をかけることになる……。」
潜在は、ドアノブから手を離した。そして、自分の席に戻り、静かに座った。
タブレットの画面には、希望の光が見えるコメントが並んでいる。しかし、彼はそれを誰にも言えなかった。
「僕には……無理だ……」
深夜の静寂の中、潜在は一人、データを見つめ続けていた。チャンスは目の前にあるのに、それを掴むことができない。
六日目、広報部と法務部の承認を得た謝罪文が、公式サイトに掲載された。
鳴子が作成した文章は、真摯かつ誠実で、そして前向きだった。
七日目——賢は、全ての対応をまとめた報告書を持って、社長室に向かった。
鯨岡社長は、報告書を読み終えると、賢を見つめた。
「よくやった」
その一言に、賢は深く頭を下げた。「ありがとうございます」
社長は続けた。「失敗は誰にでもある。しかし、その後の対応で、人は評価される。君たちは、一週間でやり遂げた」
「はい」
「ただし」社長の目が厳しくなった。「次はない。そして会社に悪影響が出て、200億円の目標はより厳しくなった。全社員は更に苦しんでいる。その分、君たちには責任を持って奮闘して欲しい」
「もちろん、その覚悟です」
会議室に戻ると、チーム全員が鶴首していた。
賢が力強く頷くと、全員が安堵の表情を浮かべた。
疾駆が叫んだ。「やったあ!」
和奏が泣きながら笑った。「良かった……本当に良かった……」
威風がガッツポーズをした。「これで、前に進めるな」
しかし、新々だけは笑えなかった。
彼は立ち上がり、全員に深く頭を下げた。「本当に、すみませんでした。俺のせいで、皆さんに迷惑をかけた」
疾駆が明るく言った「誰にでも失敗はある、気にするな!」
昇天が続けた。「今回、私たちは失敗した。でも、立ち直った。それが大事です」
静香がデータを示した。「株価は1,150円まで回復しました。まだ元には戻っていませんが、確実に信頼は戻りつつあります」
理子が頷いた。「取引先も、ほぼ全てが契約継続を約束してくれました」
疾駆が明るく言った。「さあ、次行こう!まだ、残り150日もあるんだから!」
全員が笑った。疲れているのに、目には希望が宿っていた。
スクリーンに映し出される数字——「残り150日」
十二支チームは、炎上という試練を乗り越え、より一層固い絆で結ばれた。
しかし、残り150日で100億円……。状況は全く変わっておらず、時間だけが過ぎていた。
お読みいただきありがとうございました。
果てして潜在はチャンスをチームに伝えられるのか、新々と鳴子の関係はどうなるのか。
コメント、感想等、お待ちしております。




