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第18-1話 炎上(前半)

ーーーーー

登場人物紹介


子田賢ねだ・けん - ネズミ。プロジェクトリーダー。

 全体を俯瞰し優れた分析力と観察力を持つ。


牛田継続うしだ・けいぞく - ウシ

 着実に前進する実行力と信念を持つ。


虎山威風とらやま・いふう - トラ

 力強い実行力を持つ戦略家。


兎野理子うさぎの・りこ - ウサギ

 慎重なリスク分析の専門家。


龍雲昇天りゅううん・しょうてん - タツ

 圧倒的なカリスマと人を魅了する力を持つスター。


蛇原静香へびはら・しずか - ヘビ

 人の観察に優れ本質を見抜く洞察力の持ち主。


馬場疾駆ばば・しっく - ウマ

 自由を愛し新しい風を吹き込む風雲児。


羊谷和奏ひつじたに・わかな - ヒツジ

 優しく人々を調和させ、団結させる力を持つ。


猿田新々(さるた・しんしん) - サル

 機転と発想力に優れるがあきっぽい。


鶏鳥鳴子けいちょう・めいこ - トリ

 厳格な管理能力を持ち、組織の秩序を守る。


犬塚潜在いぬづか・せんざい - イヌ

 次期リーダー候補と言われた若手エース。

ーーーーー

前半

六月から七月への変わり目。季節外れの猛暑が続いていた。オフィスの窓から見える青空は眩しいほど明るく、アスファルトから立ち上る陽炎が揺れている。エアコンをフル稼働させても、社内の熱気——いや、緊張の熱——は冷めることがなかった。


プロジェクト開始から一週間。


会議室に集まった十一人——しかし、その空気は重苦しかった。新々と鳴子は、あの衝突以来、直接目を合わせようとしない。二人の間には、見えない壁が立ちはだかっていた。


賢がそっと咳払いをして、場の空気を和らげようとした。「さて、皆さん……現実を見ていきましょうか。我々の会社は、世間からどう見られているか」


静香が素早く立ち上がり、新々と鳴子の間に立つような位置でスクリーンを操作した。SNSでの書き込みが映し出される。


「ズートポス?知らない会社だな」「古臭い企業イメージ」「若者には全く響かない」


「社名認知度調査では、20代の認知率は僅か8%です」静香は淡々と続けた。「競合他社と比較して、圧倒的に低い数値ですね」


理子が補足するように財務データを示した。「さらに問題なのは、新規顧客獲得率です。過去三年間、年々減少しています。このままでは、既存顧客が離れた時、会社は持ちません」


新々が口を開きかけたが、鳴子の視線を感じて言葉を飲み込んだ。鳴子もまた、何か言いたげな表情を浮かべたが、結局何も言わなかった。


その沈黙を破ったのは、昇天だった。「つまり、我々は認知されていない。知られていないものは、選ばれない」


和奏が続けた。「180日で100億円の追加利益——それを達成するには、新規顧客を大幅に増やす必要があります。でも、知られていない会社に、誰が注目するでしょうか?」


威風が大きく頷いた。「だったら、認知させればいい。この会社の本当の価値を、世間に知らしめる」


疾駆が明るく場を盛り上げようと提案した。「認知度を上げる方法……色々ありますよね!広告とか、SNSとか……」


「予算と時間を考えると……」理子が電卓を叩きながら呟いた。


賢が全員を見回した。「皆さん、アイデアを出し合いましょう。今、この状況で、何ができるか」


その時、隣に座っていた昇天が、ふと潜在の画面に目を留めた。


「潜在さん……それ、動画コンテンツの資料ですか?」


潜在がビクッと体を震わせた。顔を上げられない。ただ、小さく頷いた。


昇天が画面を覗き込んだ。「なるほど……動画マーケティングの成功事例……」そして、全員に向かって言った。「皆さん、動画コンテンツはどうでしょう?」


「動画?」疾駆が興味を示した。


静香がすぐにデータを引き出した。「動画コンテンツの視聴時間は年々増加しています。特に若年層へのリーチには効果的ですね」


威風が力強く言った。「我々の技術力を見せるには、動画が一番わかりやすい」


和奏が社員データベースを開いた。「社員の顔も見せれば、親近感も生まれます」


疾駆が目を輝かせた。「今の時代、動画での発信は必須ですよ!」


理子が計算を続けながら言った。「制作コストも、テレビCMに比べれば抑えられます」


賢が全員の意見をまとめるように言った。「つまり、皆さんの考えは——プロモーション動画を作る、ということですね?」


昇天が頷いた。「我々の技術力、実績、それを動画で伝える」


和奏が続けた。「社員の想いも込めて」


静香がデータを示した。「効果的に拡散できれば、印象は大きく変わる可能性があります」


一人、また一人と頷いていく。そして——新々と鳴子も、別々のタイミングで、小さく頷いた。


賢が気合を込めて言った。「では、プロモーション動画の制作——これを、チームの最初のプロジェクトとして進めましょう」


その瞬間から、チームは動き始めた。全員が同じ目標に向かって——会社のプロモーション動画を作る。たとえ、新々と鳴子の間に溝があったとしても。


—— 翌日から、チームは会議室に籠もった。ホワイトボードには、アイデアが次々と書き出されていく。


昇天が提案した。「技術力をアピールするなら、工場の様子を撮影しましょう。職人たちの手仕事、精密な機械——それが我々の強みです」


静香がデータを示した。「視聴者の85%は、最初の3秒で動画を見続けるか判断します。冒頭のインパクトが重要です」


和奏がデザインを描きながら言った。「社員インタビューも入れましょう。人の顔が見えると、親近感が湧きます」


疾駆が興奮気味に言った。「BGMも大事ですよ!明るくて、前向きで、記憶に残る曲を!」


三日間、チームは寝る間を惜しんで動画の企画を練った。工場での撮影、社員インタビュー、ナレーション原稿——全てを一から作り上げていった。


新々は編集作業を買って出た。「俺、動画編集は得意なんです!任せてください!」


鳴子も手慣れた様子で全体のスケジュール管理を行った。


深夜まで続く作業。コーヒーカップが山積みになり、目の下にクマができても、誰も諦めなかった。


ついに、動画が完成した。


会議室で全員が集まり、試写会が始まった。スクリーンに映し出される映像——工場の職人たちの真剣な表情、最新技術を駆使した製品、笑顔で語る社員たち。


2分30秒の動画が終わると、静かな拍手が起こった。


威風が言った。「いい動画だ。これなら、伝わる」


理子が頷いた。「技術力と人の温かさ、両方が表現されています」


しかし、ここで新々が新たな提案をした。


「皆さん、素晴らしい動画ができました!でも——このまま公式サイトにアップするだけじゃ、誰も見ません!」新々の目が輝いていた。


「どういうことだ?」威風が聞いた。


新々が熱く語り始めた。「今の時代、SNSです!特に、インフルエンサーとコラボすれば、一気に拡散できる!俺には繋がりがあるんです。フォロワー50万人のインフルエンサーが何人も!」


疾駆が身を乗り出した。「それ、いいじゃないですか!バズれば、何万人、何十万人もの人に届きますよ!」


昇天も頷いた。「確かに、認知度を上げるには効果的だ」


しかし鳴子が立ち上がった。「待ってください。インフルエンサーとのコラボレーションは、企業として慎重に進めるべきです」


彼女はタブレットを操作し、資料を映し出した。「過去の事例を見てください。不適切なインフルエンサーと組んだことで、企業イメージが損なわれたケースが多数あります」


新々が反論した。「でも、鳴子さん!慎重にやってたら、180日なんてあっという間ですよ!今必要なのは、スピードとインパクトです!」


鳴子が冷静に言い返した。「スピードは重要です。しかし、コンプライアンスチェックは絶対に必要です。広報部の承認、法務部の確認——これらは企業として当然の手続きです」


新々の声が大きくなった。「そんなことしてたら、何週間もかかるじゃないですか!その間に、競合に先を越されます!」


「それでも、ルールは守らなければなりません」鳴子も一歩も引かない。


チームは、推進派と慎重派に分かれ始めた。


疾駆が新々の側についた。「俺も新々さんに賛成です。今回のプロジェクト、普通のやり方じゃ間に合わないって、皆わかってるはずです」


威風も頷いた。「スピードは武器だ。会社の中で往復する時間があるのであれば、まず動くべきだ」


一方で、静香が慎重な意見を述べた。「しかし、データによれば、炎上リスクは無視できません。一度炎上すれば、信用回復には膨大な時間とコストがかかります」


理子も鳴子の側についた。「財務的観点からも、リスク管理は必須です。炎上すれば、株価への影響も避けられません。築城三年落城一日という言葉をしっていますか?せっかく長年かけて築き上げた信頼もコンプライアンスを踏み外せば一日で崩壊します」


和奏が困った表情で言った。「でも、どちらの気持ちもわかります……スピードも大事だし、慎重さも必要で……」


潜在は何も言えず、ただ黙って座っていた。二つの意見の間で、発言することが怖かった。


賢が間に入ろうとした。「皆さん、落ち着いてください。両方のバランスを——」


しかし新々が立ち上がった。「賢さん、俺は待てません。この動画を、今すぐ世に出したい。そうしないと、意味がないんです」


鳴子が強い口調で言った。「猿田さん、あなたの過去の失敗を忘れたんですか?五つのプロジェクト、全て失敗した理由——それは、準備不足と独断専行でしょう」


新々の顔が紅潮した。「それは……!」


「今回も同じ轍を踏もうとしています」鳴子は容赦なく続けた。「あなたは学んでいない」


会議室の空気が凍りついた。


新々は静かに「もういい」と言い残して、会議室を出て行った。


賢が呼び止めようとしたが、ドアは激しく閉まった。




その夜、新々はオフィスに一人残っていた。


「俺は……間違ってない。ちくしょう。あそこまで馬鹿にされて黙ってられるか。無理だ。皆をあっと言わせて見返してやる、見てろよ」


彼はインフルエンサーに連絡を取った。「明日、この動画を一斉に投稿してくれ。絶対にバズらせる」


広報部の承認?法務部のチェック?そんなものは後回しだ。今は、スピードが全てだ。


深夜2時、新々は最終調整を終えた。動画には、キャッチーなタイトルとハッシュタグをつけた。「#未来を創る #次世代へ #変革の時」


そして、午前6時——新々は、複数のインフルエンサーと同時に動画を公開した。


「さあ、始まれ。俺の逆転劇が」




午前9時、オフィスに出社したチームメンバーたちは、異変に気づいた。


疾駆がスマホを見て叫んだ。「え!?動画が公開されてる!再生回数、もう10万回超えてます!」


静香が慌ててタブレットを確認した。「本当だ……インフルエンサー複数が、同時に投稿している……」


鳴子の顔が青ざめた。「広報部の承認は?法務部のチェックは?」


賢が新々に電話をかけた。「新々さん、これはどういうことですか!」


電話の向こうで、新々は興奮していた。「賢さん、見てください!バズってます!コメントも続々と!このままいけば、100万回再生も夢じゃない!」


「しかし、承認プロセスを——」


「結果が全てです。俺は正しかった!」新々は電話を切った。


最初の1時間、SNSの反応は上々だった。


「この会社、初めて知った!」「動画、すごくいい!」「応援したくなる!」


新々は会社に戻り、勝ち誇った表情でチームに報告した。「見ましたか?もう15万回再生ですよ!俺のやり方は間違ってなかった!」


しかし、鳴子は険しい表情で言った。「猿田さん、あなたは重大な規則違反を犯しました」


「規則より結果でしょう!」新々は意気揚々としていた。


その時だった。静香のタブレットが鳴った。通知が次々と表示される。


静香の顔色が変わった。「これは……」


午前10時30分——風向きが変わり始めた。


視聴者が指摘した。「待って、この動画の1分38秒のところ、問題じゃない?」


静香が該当箇所を再生した。工場での撮影シーン。そこには、競合他社の製品を意図せず批判するようなナレーションが入っていた。


「他社とは違い、当社は真の品質を追求しています」


この一文が、問題だった。


さらに、別の視聴者が指摘した。「2分10秒の部分、女性社員だけがお茶を出してる。これ、ジェンダーバイアスじゃない?」


そして決定的だったのは、インフルエンサーの一人が過去に炎上した経歴を持っていたことだった。


「このインフルエンサー、半年前に差別的発言で炎上してたよね?なんでこんな人と組むの?」


SNSは急速に批判モードに変わっていった。


「企業としてのコンプライアンス意識ゼロ」「他社批判とか、ありえない」「こんな会社の製品、買いたくない」


午前11時、完全に炎上した。


ハッシュタグ「#ズートポス炎上」がトレンド入り。再生回数は50万回を超えたが、その大半は批判的な視点からのアクセスだった。


批判系インフルエンサーが動画を取り上げた。「これは酷い。企業PRの失敗事例として教科書に載るレベル」


ニュースサイトも記事にし始めた。「老舗企業、不適切プロモーションで炎上」


オフィスの電話が鳴り止まなくなった。


取引先からのクレーム。「御社の動画、我が社の製品を批判していると受け取られかねない内容です。契約の見直しを検討させていただきます」


マスコミからの取材依頼。「炎上について、コメントをいただけますか?」


広報部が慌てて走ってきた。「十二支プロジェクト!一体何をしたんですか!承認なしで動画を公開するなんて!」


法務部も駆けつけた。「他社批判と受け取られる表現、ジェンダーバイアス——これは重大な問題です!」


正午、株価が表示されるスクリーンを、チーム全員が凍りついたように見つめていた。


朝9時:1,250円

10時:1,200円

11時:1,120円

12時:1,050円


たった3時間で、200円も下落していた。


新々は会議室で、頭を抱えていた。スマホの画面には、容赦ない新着メッセージが並ぶ。


「こいつのせいで会社が終わる」「無能すぎる」「クビにしろ」「何やってんだ、このバカ」


手が震えて、スマホを落とした。


「俺が……俺のせいで……」


午後2時、鯨岡社長から緊急召集がかかった。


社長室に向かう賢の背中を、チーム全員が見送った。誰も言葉を発することができなかった。


廊下ですれ違う社員たちの視線が、冷たく突き刺さる。


「十二支プロジェクトのせいで……」「せっかくみんで頑張っているのに……」


会議室に戻ると、新々は一人、深く椅子に沈み込んでいた。両手で顔を覆い、肩が震えている。


「俺は……何をやってるんだ……」


鳴子は別の席で、腕を組んで黙っていた。


潜在は窓際に立ち、外を見つめていた。また、誰かが責められている。あの時の悪夢が、蘇ってくる。


午後3時、SNSでは炎上がさらに加速していた。動画の再生回数は100万回を突破——しかし、それは決して喜ばしい数字ではなかった。



お読みいただきありがとうございました。

次回は炎上の後半となります。

コメントや感想等、よろしくお願いいたします。

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