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第15話 馬と羊の共走

ーーーーー

登場人物紹介


子田賢ねだ・けん - ネズミ。プロジェクトリーダー。

 全体を俯瞰し優れた分析力と観察力を持つ。


牛田継続うしだ・けいぞく - ウシ

 着実に前進する実行力と信念を持つ。


虎山威風とらやま・いふう - トラ

 力強い実行力を持つ戦略家。


兎野理子うさぎの・りこ - ウサギ

 慎重なリスク分析の専門家。


龍雲昇天りゅううん・しょうてん - タツ

 圧倒的なカリスマと人を魅了する力を持つスター。


蛇原静香へびはら・しずか - ヘビ

 人の観察に優れ本質を見抜く洞察力の持ち主。


馬場疾駆ばば・しっく - ウマ

 自由を愛し新しい風を吹き込む風雲児。


羊谷和奏ひつじたに・わかな - ヒツジ

 優しく人々を調和させ、団結させる力を持つ。

ーーーーー

前半

午前十時三十分。東京のオフィス、会議室。八人のメンバーが、二つの危機を前に立ちすくんでいた。


疾駆の資料:まだ四十パーセント未完成。和奏のクライアント問題:解決策が見えない。


そして、両方の期限は正午。残り時間は一時間三十分。


賢が冷静に指示を出した。「チームを二つに分けます。チームAは疾駆さんの資料を完成させる。チームBは和奏さんのクライアント問題に対応する」


その時、疾駆が画面越しに言った。「和奏さん、その問題、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」


和奏は困惑しながらも説明した。「人事制度の導入プロジェクトです。我々が提案した新しい評価制度と勤怠管理システムを豹崎商事に導入しました。しかし、現場の社員から猛烈な反発が……『現場の実態を無視している』『余計な管理が増えただけ』と……」


「具体的には?」疾駆が尋ねる。


和奏が続ける。「評価制度が細かすぎて、現場の柔軟な働き方を阻害している。勤怠管理も厳格すぎて、社員のモチベーションが下がっている。経営陣は効率化を期待していたのに、逆に生産性が落ちてしまって……」


「それで、今日の14時に説明会を開くことになっているんです。その時までに修正案ができるようにとは思いました。でも、一週間かけて考えた修正案は、どれも根本的な解決にならなくて……。今回の説明会では一旦修正していくという方向性だけを示せば十分かと思っていました。しかし、具体策がなければ契約を打ち切ると」和奏の声が震える。


疾駆はしばらく考えていた。そして、目を輝かせた。


「和奏さん、待ってください。これ、発想を変えれば解決できるかもしれません」


和奏が驚いて顔を上げた。「えっ?」


疾駆が興奮気味に言った。「クライアントの社員が怒っているのは、『押し付けられた』と感じているからですよね?自分たちの意見が反映されていない、と」


和奏が頷く。「はい……まあ、そうですね……」


疾駆が続ける。「だったら、問題を修正するんじゃなくて、社員を巻き込んで一緒に作り直せばいい」


和奏が戸惑う。「でも……それは……時間が……」


疾駆が説明する。「いや、今日の説明会を『一方的な説明』じゃなくて、『社員参加型ワークショップ』に変えるんです。『あなたたちの意見を聞かせてください。一緒に最高の制度を作りましょう』と提案する」


疾駆の声が熱を帯びる。「問題を修正するんじゃない。問題を新しい価値創造のチャンスに変えるんです。『失敗』を『社員参加型の改革プロジェクト』に転換する」


昇天が分析した。「興味深いですね。問題解決型ではなく、価値創造型のアプローチ。社員の不満を、参加意欲に変えるというわけですね。魅力的だと思います」


静香も頷いた。「心理学的にも効果的です。人は自分が関わったものには愛着を持つ。押し付けられた制度ではなく、自分たちが作った制度なら受け入れやすい」


しかし、和奏は不安そうに言った。「でも……それは……ルール違反では……通常の手順では……」


疾駆が力強く言った。「ルールにとらわれない。馬は果てのない草原を駆けるもの。型にはまった解決策じゃなく、自由な発想で新しい道を開く。それが今、必要なんです」


賢が言った。「確かに、理にかなっている。社員の反発を、協力に転換する。これなら、時間内に実現可能かもしれない」


和奏はまだ迷っていた。自分は今まで、堅実に、真面目に、ルールに従って仕事をしてきた。型破りな提案は、和奏の性格に合わない。「でも……」和奏が呟く。


その時、疾駆が言った。「でも、和奏さん、僕一人では無理です。僕のアイデアは自由すぎて、暴走することがある。それを実現可能な形に組織に調和させることができるのは、和奏さんだけです」


和奏が顔を上げた。「私が……?」


疾駆が頷いた。「そうです。僕は発想は得意だけど、クライアントとの関係性や、現実的な調整は苦手です。和奏さんの調和力がなければ、僕のアイデアは絵に描いた餅になる」


静香が言った。「馬の自由な発想と、羊の調和力。完璧な補完関係ですね」


和奏の目に、わずかに光が戻った。「……やってみます」


賢が時計を見た。「午前十時五十分。残り一時間十分。二つのチームに分かれて、同時並行で進めます」


そして、最後の戦いが始まった。


後半

午前十時五十分。残り一時間十分。八人のチームが、二つの危機に挑む。


チームAは疾駆の資料を完成させる。牛田、理子、威風が中心となり、疾駆が沖縄から画面越しで内容を伝える。


チームBは和奏のクライアント問題に対応する。和奏、疾駆、静香、昇天が中心となり、新しい提案書を作る。


そして賢は、全体を統括する。


疾駆がチームBに提案する。「ワークショップの構成は、三段階がいい。まず社員の不満を聞く。次に、理想の制度を一緒に考える。最後に、実現可能な改善案をまとめる」


和奏がそれを受けて調整する。「でも、経営陣の期待も考慮しなければ。効率化という目標は維持しつつ、社員の柔軟性も尊重する。そのバランスを……」


静香が分析する。「社員の心理としては、『自分たちの声が届いた』という実感が重要です。ワークショップの冒頭で、これまでの反省を明確に示すべきです」


昇天が構成を組み立てる。「説得力のあるストーリーが必要ですね。『失敗から学び、共に成長する』というテーマで進めましょう」


一方、チームAでは、牛田が数字を整理し、理子がデザインを仕上げ、威風が品質をチェックする。疾駆の記憶と、チーム全員の知識が結集して、資料が形になっていく。


午前十一時十五分。資料は順調に進み、八十パーセントが完成した。


その時、疾駆が画面越しに顔を曇らせた。「……あれ?」


牛田が尋ねる。「どうしました?」


疾駆が焦り始めた。「重要なスライドが……新技術の導入効果についてのページ……確かにあったはずなんですが……内容が……思い出せない……」


威風が資料の構成を確認する。「確かに、ここに『導入効果分析』というセクションがある。でも、具体的な内容は?」


疾駆が頭を抱えた。「わからない……ページがあったことは覚えているのに……数字も、グラフも……頭の中が真っ白で……」


理子が不安そうに言った。「このページ、資料の核心部分ですよね。これがないと、提案の説得力が……」


疾駆の声が震えた。「ごめん……僕が……リゾートで浮かれていたせいで……ちゃんと集中していれば……もっとしっかり記憶していれば……」


疾駆がパニック状態になりかけた。自責の念と焦りで、呼吸が荒くなる。


その時、和奏が静かに、しかし確固とした声で言った。「疾駆さん。落ち着いてください」


疾駆が顔を上げた。


和奏が続けた。「あなた一人で思い出す必要はありません。私たちがいます」


賢が頷いた。「そうです。疾駆さん、あなたは以前、この資料をチーム会議でプレゼンしましたよね。私たちはその時、聞いていました」


疾駆が戸惑う。「でも……みんなも詳しくは覚えて……」


賢が提案した。「一人一人の記憶は断片的でも、みんなで集めれば完全なものになるはずです。疾駆さんが以前プレゼンした時の記憶を、チーム全員で掘り起こしましょう」


静香が目を閉じて記憶を辿った。「……確か、コスト削減効果を強調していましたね。新技術の導入で、年間の運用コストが削減される、と」


昇天が続けた。「そうです!AIの活用で業務効率が三十パーセント向上すると言っていましたね。私、その数字にインパクトがあると感じました」


牛田が思い出す。「導入期間は六ヶ月でしたよね。段階的に導入していくスケジュールの説明がありました」


理子が興奮気味に言った。「グラフ!グラフの色が青とオレンジでした。左側が導入前、右側が導入後で、棒グラフが上がっていく感じ」


威風も記憶を辿る。「投資回収期間は二年。ROIが十五パーセントという試算だな」


疾駆が驚いた表情で聞いていた。一つ一つの断片的な記憶が、パズルのように組み合わさっていく。


和奏が優しく言った。「疾駆さん、みんなちゃんと聞いていましたよ。あなたのプレゼンを」


疾駆の目が潤んだ。「みんな……」


牛田が素早く数字を整理し始める。「では、これらの情報を基に、ページを再構築します。疾駆さん、細かい部分で思い出したことがあれば教えてください」


理子がデザインを起こす。「青とオレンジの棒グラフですね。任せてください」


チーム全員の記憶の断片が一つに繋がり、消失したページが蘇っていく。


疾駆が声を震わせて言った。「ありがとう……みんな……僕は一人で走っているつもりだった……でも、みんながちゃんと見ていてくれたんだ……」


午前十一時三十分。残り三十分。


疾駆の資料:九十パーセント完成。和奏の新提案:八十パーセント完成。


しかし、和奏の提案書に、まだ重要な部分が欠けていた。ワークショップの具体的な進め方。どうやって社員の心を開くのか。


和奏が焦る。「時間が……もう時間が……」


疾駆が言った。「和奏さん、落ち着いて。あなたは調和のプロです。社員の心を開くのは、あなたの得意分野でしょう」


和奏が戸惑う。「でも……私は今まで、表面的になだめることしか……」


疾駆が優しく言った。「いや、違います。あなたは群れを守る羊です。一匹一匹を大切にする。その心があれば、必ず伝わります」


和奏の手が動き始めた。ワークショップの冒頭で言う言葉を書く。「皆さんの声を、聞かせてください。私たちは、皆さんと一緒に働く仲間です。押し付けるのではなく、一緒に作りたい。一人一人の意見を、大切にしたい」


疾駆が微笑んだ。「それです。それが、和奏さんにしか書けない言葉です」


午前十一時五十分。残り十分。


全員が最後の追い込みに入る。キーボードを叩く音。マウスをクリックする音。息を整える音。


午前十一時五十五分。


理子が叫んだ。「疾駆さんの資料、完成しました!」


疾駆がすぐに送信ボタンを押す。「クライアントに送りました!」


午前十一時五十七分。


和奏が最後の文字を打ち込む。手が震えている。でも、確かな文字が画面に並ぶ。


「完成しました……」和奏の声が震える。


賢が確認する。「送信してください!」


和奏が送信ボタンを押す。


午前十一時五十八分。


「豹崎商事に送りました……」


全員が、息を止めて時計を見つめる。


正午。


期限ちょうど。いや、二分前に間に合った。


しばらくの沈黙の後、理子が小さく叫んだ。「やった……やりました!」


牛田が深く息を吐いた。「信じられない……二つの仕事をたったこれだけの時間で……」


威風が実感を込めて言った。「これが、チームの力か。控えめに言って最高だな」


30分後、疾駆のクライアントから返信が来た。「資料、拝見しました。素晴らしい内容です。ぜひ次のステップに進みましょう」


35分後、豹崎商事の豹沢部長から電話が来た。和奏が震える手で電話に出る。


「羊谷さん、提案書を拝見しました」豹沢部長の声は、先ほどまでの怒りが消えていた。「社員参加型ワークショップ……これは、素晴らしいアイデアです」


和奏が信じられない表情で聞いている。


「正直、私たちも困っていたんです。どうやって社員の心を開くか。あなたの提案なら、できるかもしれない。契約解除は撤回します。それどころか、このワークショップを他部署にも展開したい」


和奏の目から涙があふれた。「ありがとうございます……ありがとうございます……」


電話を切った後、和奏はその場に座り込んだ。


「疾駆さん……」和奏が画面越しに疾駆を見る。「あなたの自由な発想がなかったら、私は解決策を見つけられなかった……」


疾駆が微笑んだ。「和奏さんがあの時、『誰も見捨ててはいけません』と言ってくれなかったら、私は助かってませんでした。和奏さんがみんなをまとめてくれたから、私のクライアントにも迷惑を掛けずにすんだ。和奏さんの調和の力のお陰です」



疾駆が言った。「僕は一人で走れると思っていました。でも、仲間がいるから遠くまで走れる。それを学びました」


和奏が答えた。「私は群れを守ることや、なだめることしか考えていませんでした。でも、時には自由な発想で、新しい道を見つける勇気も必要だった。疾駆さんが、それを教えてくれました」


賢が言った。「馬の自由な発想と、羊の調和する力。このチームに素晴らしい二つの個性が加わりましたね。そして皆の力で二つの危機を同時に乗り越えることができました」


疾駆が画面越しに深く頭を下げた。「みんな、本当にありがとう」


和奏も、涙を流しながら頭を下げた。「みんな……ありがとうございます……」




その日の午後、疾駆は沖縄から東京への飛行機を予約した。リゾートは素晴らしい。でも、本当に大切なものは、チームと一緒にいることだと気づいた。


その夜、疾駆のパソコンに、チャットが届いた。和奏からだった。


和奏:「疾駆さん、今日は本当にありがとうございました。助けてくださって。これからも、このチームのために頑張ります」


疾駆は沖縄のホテルの部屋で、窓の外の夜の海を眺めながら返信した。


疾駆:「こちらこそ、ありがとう。和奏さんがいてくれたから、今日の危機を乗り越えられた。明日から東京に戻る。これからは、チームと近い距離で一緒に働きたい」


和奏:「はい。待っています。これからも、チームのために力を合わせましょう」


疾駆:「約束だ。おやすみ、和奏さん」


和奏:「おやすみなさい、疾駆さん」


チャットを閉じた後、疾駆は窓の外を見た。その瞬間——夜空に、大きな流れ星が現れた。


青白い光の尾を引きながら、流れ星は広大な夜空を静かに駆け抜けていく。その軌跡は、まるで無数の星々を優しく繋いでいくように見えた。


疾駆は息を呑んだ。「あれは……和奏さんだ。バラバラに輝いていた星々が、その光によって結ばれていく。」


一方、東京のアパートで、和奏もまた窓の外を見ていた。そして、同じ流れ星を見つけた。


「あ……」


流れ星は、自由に、力強く、夜空を駆け抜けていく。誰にも縛られず、新しい道を切り開いていく。


和奏は思った。「疾駆さんは、あの流れ星だ。新しい可能性を照らして、原動力を与えてくれる。」


沖縄と東京。遠く離れた場所で、二人は同じ流れ星を見上げていた。そして流れ星が消えた後も、二人ともしばらく夜空を眺め続けていた —— 。




—— その夜、オフィスを出ようとした賢の耳に、廊下の会話が聞こえてきた。


「第二四半期の数字、見たか?かなり厳しいぞ」「本社の雰囲気、最近おかしいよな。何か隠してる気がする」「リストラとか、ないよな……?」


賢は足を止めた。十二支チームのプロジェクトは順調だ。でも、会社全体は——?


牛田が帰り際に呟いた言葉が、頭をよぎる。「大手クライアントが何社か、契約を見送ったらしいですよ。業界全体が厳しいんでしょうね」


小さな成功に喜んでいる場合ではないのかもしれない。もっと大きな、もっと厳しい波が——この会社全体を襲おうとしているのかもしれない。

お読みいただきありがとうございました。

次回は8人になったチーム全員でキャンプにいきます。

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