腿太郎
むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。
おじいさんは山へ芝かりに、おばあさんは川へ洗濯をしにいきました。
おばあさんが洗濯をしていると、川上のほうから大きな大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。
とてもおいしそうだったので、おばあさんはその桃を家にもってかえることにしました。
家についておじいさんにそのことを知らせると、よし、さっそく食べてみよう、と言いました。
おじいさんは納家から斧をもってきて、桃めがけてふりおろしました。
がつん、と音がしました。
なにかかたいものに当たったようです。
おじいさんは、これは種だなと思いながらもう一度斧をふりおろしました。
桃は、ぱっくりと二つに割れました。
おじいさんとおばあさんは中を見て驚きました。
そこには何と、たまのような男のこが入っていたのです。
男のこはとてもいたそうなかおをしていました。
そうです、さっきおじいさんが種だと思ってたたき切ったのは、男のこの右足だったのです。
男のこは、右足の太ももより下をなくしてしまいました。
それをみて、おじいさんは男のこに名前をつけてあげました。
腿太郎。おまえのなまえは、腿太郎じゃ。
男のこは、わんわんと泣いてよろこびました。
それから何年かがたって、男のこはりっぱな青年になりました。
でも、あいかわらず右足は、太ももより下がありません。
ある日、おばあさんが腿太郎に言いました。
腿太郎や。お前は本当にたくましくなったねえ。じつは今日は、お前にお願いがある。この村にはときどき鬼がきて、いろいろなわるさをはたらくんじゃ。腿太郎。鬼が島へいって、鬼をやっつけてきておくれ。
おばあさんは、なんどもなんども頭をさげてお願いしました。
腿太郎はそんなおばあさんをみて、鬼をやっつけにいく約束をしました。
次の日、さっそく腿太郎はじゅんびをして、でかけようとしました。
武器は、腿太郎から右足をうばった斧です。
げんかんをあけて、いってきます、とおじいさんとおばあさんにいいました。
おばあさんはそんな腿太郎に、せいをこめて作ったきびだんごをわたしていいました。
お腹がすくとおもうからむこうについてから食べなさい。
腿太郎はそれをこしにつけると、意気揚々と鬼が島へむかいました。
腿太郎が鬼が島をめざしてあるいていると、むこうから一匹の犬がやってきて、いいました。
腿太郎さん、腿太郎さん。鬼たいじをてつだってあげるから、お腰につけたきびだんごを、ひとつぼくにちょうだい。
腿太郎はふくろからきびだんごをとりだして、犬にあげました。
おばあさんとの約束はおぼえていませんでした。
犬はおいしそうにきびだんごをたいらげました。
約束どおり、鬼たいじにつきあってね。
腿太郎がそういいました。
へんじがありません。
どうしたんだろう、ととなりを見ると、犬は血をはいてしんでいました。
腿太郎は、約束をやぶられたので腹がたちました。
またしばらくあるいていると、こんどは猿がやってきて、腿太郎にきびだんごをせがみました。
腿太郎は猿にきびだんごをあげました。
猿はきびだんごをたべおえて、しにました。
腿太郎はいかりくるいました。
これできびだんごはなくなってしまったのです。
これでは、お腹がすいてたたかえません。
ちょうどそのとき、向こうからキジがとんできました。
鬼たいじを手伝うから、きびだんごをちょうだい。
キジはいいました。
腿太郎はキジの首をおると、やいて、食べてしまいました。
腿太郎は空腹がおさまったので、元気がでてきました。
ふねにのって海をわたりました。
鬼が島は、すぐそこです。
腿太郎は鬼が島につきました。
思ったより、おおぜいの鬼がいました。
ごうけい6人もいました。
しかも、どれもつよそうです。
勇気をだして腿太郎は鬼におそいかかりました。
斧をふりかぶりました。
しかし、こうげきが鬼にとどくことはありませんでした。
腿太郎は、左の足しかないので、けんけんをしないとすすめないのです。
なかまもいない腿太郎は、ついに鬼につかまってしまいました。
鬼は腿太郎のみぐるみをはぎました。
ふくに、ふくろがついているのに気がつきました。
きびだんごをいれていたふくろです。
さらに鬼は、そのふくろの下に手紙がついていることに気がつきました。
ひらいてみると、こう書いてありました。
『鬼さんへ
いつもおそってきて、村をあらされるのでこまっています。
ですから、もうおそわないでください。
ただでとはいいません。
いけにえをよういしてあります。
このおとこをどんなひどい殺しかたをしてもかまいません。
だから、もうおそわないでください。
おねがいします。』
鬼はにやりと笑うと、腿太郎がもってきた斧をにぎりました。
腿太郎は叫びましたが、鬼に右手と左手と左足と首をたたき切られてしまいました。
腿太郎はぴくんぴくんと動いてから、しんでしまいました。
腿太郎は、腹、右手、左手、左足、首の5つになっています。
鬼のボスである赤鬼は、腿太郎の腹を食べるようにしました。
あとのぶぶんは、5人の鬼でわけあいます。
ここで鬼は大変なことに気がきました。
いつもとちがって、今日のえものは部品がひとつ足りないのです。
5人の鬼は、えものをめぐって、争いをしました。
おたがいを殺しあいました。
こうして、5人の鬼はぜんいんしんでしまいました。
残ったボスの赤鬼は、一人では、いたずらも狩りもままなりませんでした。
そして、赤鬼も、鬼が島で一人こどくにしんでしまいました。
こうして、鬼が島はほろびました。
腿太郎がうまれた村には、もう、鬼はあらわれません。
おじいさんとおばあさんは、じゃまものもなく、のこりの人生を幸せにすごしました。
腿太郎や、ありがとう。
おじいさんとおばあさんは、空をみあげてそうつぶやくのでした。