1話
—ピチョン
水滴が顔にかかった。
「ピピっ」
ブラックアウトしていた視界に映像が出力される。
—回転する音
周りの風景を見て頭のCPUが音を立てて動き出した。
視界の両端に見える壁。
その壁の前に説明書きが浮かび上がる。
【建物】 【建物】
この説明から自分は今、建物の間、つまり路地裏にいることがわかった。
しかし、それ以外のことはわからない。
周りに落ちているモノをみても【???】と表示されている。
転送装置に入ったとこで記憶が途切れていた。
道の情報が多い。
別世界への転送は成功したのだろう。
突然、脳裏にアナウンスが流れる。
「情報不足です。データをインプットしてください」
起き上がって路地裏を抜ける。
目の前に広がったのは元いた世界とは程遠い、薄暗く、雨が打ちつけるネオン街だった。
—濡れた地面を歩く音
夜中の街には生物の信号は感じられない。
徐々にネオンが消え、辺りは真っ暗になる。
しばらく歩くと遠くから怒号が聞こえた。
「いたぞ!! 見つけた! こっちだ!!」
3体ほどの人間たちがこちらに向かってくる。
右の人間は腕が機械化され、その腕からワイヤーを建物に向かって射出し、ものすごいスピードで空中を駆け抜け向かってくる。
また左の人間は脚が機械化されている。その脚を踏み込んだかと思ったら、到底人間とは思えぬ初速で接近してくる。
最後の1人は奥で腕を組み、こちらの様子を伺っている。
ロボットには「抵抗」というデータが未だなかった。
接近してきた2体の人間にされるがまま、無抵抗なロボットをこれでもかというほどワイヤーでキツく縛り上げられた。
ぐるぐる巻きにされたロボットは問いただされる。
「やーっと捕まえたぞガキンチョ! お前だな新入生なのに問題児というのは!」
「おい、無視すんなよクソガキ」
ポカンとした顔のまま、微動だにしないロボット。
ロボットにはこちらの世界の言語が理解できない。
この人間が何を話しているのかがわからないのだ。
奥で腕組みした人間が近づいてくる。
「まぁいい、夜も遅い。とりあえず寮に連れて行ってあげなさい。彼にも理由があるのでしょう」
「ですが!」
ロボットを縛っていた2人は彼の指示に従ってワイヤーを解いた。
「自分で歩けよ、おまえ」
「次抜け出したら壊すぞクソガキ」
ロボットはそのまま人間に連れて行かれた。