第九十六話:これは敵の目を欺くための陽動!
どこまでグランプル公が考えてたかは秘密
そうそう、残り一人の人、リーンは閉じ込められただけなので手術する場所はありませんでした。「一応、念の為、切り刻ま……もとい、念入りに診断させてください」などというアンヌを押し止め、三人には拘束具をつけさせてもらった。
ちなみにこの拘束具はダミー。奴隷の首輪を模したものだ。ぼくが買った時には要らないって言ったんだけど念の為にと奴隷商から押し付けられたんだよね、人数分。それをアミタが面白そうって持ってってそのままにしといたんだけど。
で、能力の研究が終わってガラクタになったのをぼくが再利用してるって訳。見た目だけはそのまま奴隷の首輪だからなあ。
「ええと、君たちの自由はある程度保証しよう。ぼくに逆らわないならそのままの状態で帝都に帰ってもらっても構わない。だが、帝都に帰る前にグランプル公の関与を証言してもらう」
「証言するのは構わんが、後になって前言を翻したらどうするんで?」
「その時はその時だ。諦めるよ」
もちろん諦めるなんてのは嘘だ。一部始終を録画して後から見られるようにする。いや、いつのまに買ったのか覚えてなかったんだけどビデオカメラがあってちょうど良かった。
まあぼくは使い方よく分からないから説明書を……えっ、アリスが使い方知ってるの? アミタじゃなくて? うーん、それならアリスに教えて貰って……なかなか手際がいいね。アリスは器用だなあ。ん? なんでアインは苦笑いしてるの?
「なんでもありません、ご主人様」
なんだろう、そんな風に笑うのやめてもらっていいですか? 傷つきます。まあカメラは設置出来てるので話してもらおう。
「さすがにこんだけ良くしてもらって殺される所を無傷にまでしてもらったんだ。話さなきゃ申し訳がない。俺は金よりも恩義をとるぜ」
「俺もだ。腕を治してもらった恩は忘れん」
「私は恩とかはないんですけど、理性的に考えてグランプル公の戦力で勝てる相手だと思いませんからね」
三人とも素直に応じてくれるようだ。
「とりあえず俺たちはグランプル公にここを攻めるように依頼された」
「依頼は勝っても負けても構わんから引き付けておけ、とな。あいつ、きっと俺たちを捨て駒にする気だったんだぜ」
「長くなってあんたらが帝都を離れたらそれでいいとか言ってたな」
ん? という事はグランプル公の狙いはぼくらを帝都から引き離すこと?
「そのまま攻め落とせるならそれでよし。その時は王国への橋頭堡を築ける。攻め落とせなくてもぼくの目を家に向けられる。そうすれば帝都は疎かに。ぼくは一人しか居ないから」
まあ、実際は分身体とか居るから帝都に今でもちょっかいは出せるんだけど。
「そういうこった。てなわけで奴は恐らく帝都で何か起こす気だぜ?」
帝都で起こす。それはクーデター? いや、クーデターならこんなに軍をぼくの方に差し向けるわけが無い。という事は軍隊という攻撃装置が必要のない戦い、いや、戦いですらないだろう。
「あいつの狙いはアーニャの誘拐か!」
「ええ、まあそうなんじゃないでしょうか」
「なんでそんな悠々としてんだ、アイン?」
「いえ、だって私たちにはそんなに関係ありませんから」
いやまあそうだけど、人としてほっとけないってのが……そういやこいつらパペットだっけか。
「いきなり押しかけてきて主様と結婚しようだなんて別にどうなってもいいんじゃないかな?」
「アリス、思ってても言うんじゃない」
「ええ、だって主様も迷惑だったでしょ?」
「それでも袖すりあうも他生の縁だからなあ。それにこのままグランプル公にしてやられたら後味が悪い」
そういうとなるほど、という顔をしながらアリスが言った。
「そうだね、それだと何も知らない人からしたら主様が負けたって事に成りそうだしダメだよね! 分かった、私頑張る!」
「たしかに私たちの遂行能力を疑われるのはちょっと我慢なりませんね」
「ちゃんと後片付けは必要」
「せやなあ。このまま終われまへんわ」
「まだ切り刻む相手が増えるならそれに越したことはないありません」
みんなもわかってくれたようだ。最後の一人のアンヌ! お前はちょっとステイな。切り刻むのが目的じゃないから。お前の役目は治療な治療。
という訳で帝都のカレー屋にドアで移動。ん? なんか少し静かだな。とりあえずアーニャたちのいるところに行ってみるか。
階段のところでうずくまってるトーマスを発見。これは……出血が酷いな。このままだともたないかも。アンヌ、頼む。
「切り刻みますか?」
「治癒魔法でいいから早くかけて。それで意識回復したら事情を聞いて」
「ちっ、分かりました」
パペットのくせに舌打ちするな! 待機部屋に行ったらゴーレムが破壊されていた。嘘だろ、また作り直しかよ。そしてアーニャさんはいない。ついでにアヤさんもいない。




