第九十五話:お姉様って呼んでください
末っ子に弟妹が出来ると猫可愛がりするよね。
脂肪吸引されてヘロヘロになったフォルテ。さすが女神、なんともないぜ!
「いや、その、もうダメ」
「女神なんだから痛覚遮断したり出来なかったの?」
「うわーん、できたよう。忘れてたあ」
うん、死んでないし、実質的には大丈夫だからこれで良かろう。
「チーフ、ほかの二人の手術も行って構いませんでしょうか?」
「あ、うん、そうだね。お願いするよ」
という訳でパーシーとかいうやつ。右腕があらぬ方向にねじ曲がってる。これが螺旋巻発条拳というやつか? それともはらら様の螺旋?
「では右腕回復手術を始めます。メス」
「アンヌ、また麻酔忘れてる」
「ありがとうございます、チーフ」
「ねえ、もしかしてわざとやってた?」
「ありがとうございます、チーフ」
「それでフォルテの時はあんなに顔を輝かせてたの?」
「ありがとうございます、チーフ」
これは答えが返ってこないと思った方が良さそうだ。まあ麻酔はかけてちゃんと腕は治してたからなあ。
「さすがアリス姉様、ネジ切れて骨が砕けてますね。正直切り離して新しい腕を創った方が早そうな気がします」
「えへへ、褒めても何も出ないよ、アンヌ」
いや、多分褒めてない。……実は褒めてるのか? それをぼくが分かってないだけなのか?
「へえ、新しい腕作れるの?」
「現段階では無理ですね。そのうち作れるようになるとは思いますが、培養にアミタ姉様の手が必要です」
「……アンヌ、もういっぺん言って貰えんか?」
「ええ? ええ、まあ、現段階では」
「そこや、そこやない! ほら、うちの事を呼んでみ?」
「なんでしょうか、アミタ姉様」
「それや、それなんや! 姉様、ええ響きや」
どうやらアミタは姉様と呼ばれたかったらしい。あー、まあ、今までは末っ子だったからなあ。ゴーレムがいるじゃないかって言ったら「あんなごつくて可愛げ無いのは却下や」なんて言われてしまった。
「それで細胞培養機は作っていただけますか?」
「当たり前やないか。うちの可愛い妹の頼みやからな! 期待して待っとり!」
アミタは意気揚々と自分の研究室にこもった。
「姉様、なんと可愛らしい……うふふ」
アンヌが微笑を浮かべたのを見逃さなかったよ。ちなみに外見年齢だとアンヌが一番年長っぽい。次がアインだな。その次がアリス。一番お姉ちゃんなんだけどね。
で、パーシーなんだが、普通に筋肉などの捻れを戻しながら回復呪文を併用して治した。だいぶ時間がかかってもう日が暮れていた。
「アイン、あいつらにもメシを食わせてやってね。捕虜にメシ無しってのはジュネーヴ条約違反だからね」
異世界でジュネーヴ条約なんて言っても受け入れられるか分からないけど、個人的な意見でも歯向かわないなら保護すべきって姿勢は変わらない。ただし、こっちの物資に余裕があるときだけね。
「はい、食べ物です」
「良いのかい? 治療した上に食事もなんて。元気になったら脱走するかもしれんぜ」
「心配せずともその時はアリス姉様が居ますから」
「ちっ、たしかにあの女は化け物じみてる。なんであんなのがこの世に存在してるんだ?」
「姉様はご主人様の愛で生まれましたので」
愛で生まれた訳ではないよ? いや、愛情は注いだけど。ほら、主に注いだのはお金だって。
「ご主人様って、あのヒョロい男か?」
「夜は可愛がって貰えてんだろ? 美人ばかり侍らせて羨ましいこった」
「いえ、ご主人様は童貞ふにゃチン野郎なので夜の御奉仕を命じられたことはありません。まあ私としても業務外なのでごめん蒙りますが」
「お、おう」
アインのセリフがあんまり過ぎる。そりゃあまあ童貞なのは否定しないけど。ふにゃチンとかいつ見たんだよ! いや、見てなくてもそれぐらいは言えるかも。
「主様、大丈夫ですよ」
「アリス?」
「例え、主様が童貞で、ふにゃチンで、短小で、早漏で、包茎で、救いようがないダメチンコでも、私はちっとも気にしませんから!」
どんだけ抉りとって来るんだよ、アリス!
「旦那はん、ふにゃチンなん? よっしゃ、ならずっと勃ったままになる様なんがな」
待て待て、アミタは何をするつもりだ? ぼくを実験材料にでもしたいのか?
「短小や早漏はともかく、包茎はいけません。病気の元になります。仮性か真性かカントンか分かりませんが、先っぽの皮を少し切るだけですので麻酔なしでも大丈夫ですよ、チーフ」
目が血走ってない、アンヌ!? 結局ぼくは自分が短小でも早漏でも包茎でもないとみんなに宣言してそのまま眠りについた。あ、鍵掛けとこ。
翌朝、ぼくの部屋の前に枕を抱いて眠ってるアリスの姿を見つけた時にはどうしようかと思った。ぼくの自室のドアは特別製にしたからそう簡単には破られないよ!




