第八十九話:軍を持ってると万能感を錯覚しちゃうよね。
軍部の暴走って怖いよね。シビリアンコントロールバンザイ。
グランプル公が挙兵した。目標は森のぼくの家らしい。その数五万……えっ、五万!? 五千とかじゃなくて? そんなの戦争じゃない。
「我が散々脅したからのう」
「なんてことしてるんですか!」
「いや、まさか脅しまくっとれば侵攻しようとか考えんじゃろう?」
「あー、まあ、普通はそうですね」
普通ならそういう考えにもなるかもしれない。だが、軍を握ってるものからすると「腰抜けが!」ってなって「ならばこのワシが攻め落としてやる!」みたいな根拠レスな自信に満ち溢れちゃうもんなんだよ。
ましてや帝国はこれまで大陸最強。王国を攻めなかったのも森が間にあって効率が悪いから。ならばある程度森が切り開かれている今ならそこまでかからないのでは無いかと思っても不思議では無い。
恐らくグランプル公は一気呵成にぼくの家を攻め落とし、そこを橋頭堡として王国を攻め滅ぼし、その功績をもってアーニャさんを娶りたいなどと言ってのけるのではないだろうか。
と、ここまで説明したら皇帝陛下が感心した顔をしていた。
「息子よ、お主は頭もキレるのじゃなあ。良いぞ良いぞ」
「だから息子じゃないですって」
「概ね、マモォールが言ったことで間違いはなかろう。恐らく出しておるのは帝国の兵ではなくてあやつの精兵だろうからな。我には止める事も出来ん。どうするかな?」
「ええと、どうするかな、とは? 普通に撃退しますけど?」
「今からでは間に合わんのではないか? もう既に奴らは森の入口に到達しとるみたいだが」
あー、そういえばこの皇帝陛下には転移の事は伏せていたんだったかな。いやバラしても良いけどその場合、良いように使われそうだもんなあ。ビールの比じゃなく。
「そこは秘密ですよ、陛下。ではぼくたちは防衛の準備がありますので」
ビールを取上げたら皇帝陛下が騒ぎ出したので缶ビール六缶セットを渡してヒルダさんに持って帰ってもらった。ついでにフレデリカさんも持って帰って貰った。狙われてるのはアーニャさんだけだからね。
「それでどうやるんですか?」
「アヤさん、あなたも帰ってください」
「ええ? そりゃないですよ。私と護さんの仲じゃないですか」
「だからそんな誤解を生むような表現はやめてくださいってば」
「アヤ、あなたはこのマモォール様に手篭めにされていたんですか?!」
「はい、アーニャ様。私が嫌というのに無理矢理」
ヨヨヨと泣き崩れるマネをするアヤさん。涙も流れてない猿芝居だ。
「なんということでしょう。そんな方だったなんて。もしや私も……いえ、それでもあのグランプル公よりはマシですわ!」
そしてすっかり騙されてる様子のアーニャさん。いや単純すぎるだろ!
「主様、そんな事をしていらっしゃったんですか?」
そしてそこで怒気を発生させてるアリスは落ち着こうか。単純だから騙されやすいのか?
「アリス姉様、ご主人様はきっとアリス姉様も愛でてくれますよ。なんせ色ボケですから」
「そうだよね、アイン。私、頑張る!」
うぉい! アインも適当な事言ってんじゃない! そもそも三次元は怖いって言ってんだろうがよ。多分アインは確信犯だな。
「ええと、アヤさん、アーニャさん、これからぼくたちは防衛の準備をしなければなりませんので避難していただけると」
「守っては、いただけないのでしょうか?」
上目遣いでアーニャさんがうるうると訴えかけてくる。やめてくれ、その顔は女が自分の意見を力づくで通そうとする時の表情だ。何度この顔を見た事か。そしてそれが効かなくなると今度は泣き落としで周りを味方につけるんだ。嫌だ嫌だ嫌だ。
「ご主人様、アーニャさんは守られた方が良いかと思います」
「アイン?」
「例のグランプル公とやらの主目的はアーニャさんですからご主人様にやられて敗走した時に攫って逃げるくらいのことはしそうですし。かと言って戦場になる森の家に連れていく訳にもいきませんから」
多分戦場になっても家が一番安全だとは思うけど、連れていきたくないからアーニャさんに納得してもらうために言ってんだろうな。
「わかった。じゃあデリバリーカレー屋の方にしよう。あそこならゴーレムも居るしな」
「そうですね。ご納得いただけますか?」
「私は美味しいものがあればどこでもいいよ!」
「アヤ、なんであなたが答えるんですか? ですが、まあ戦場に帯同する訳にもいきませんし、そのカレーとやらも食べてみたいですから構いません」
という訳でアリスとアスカに護衛してもらって移動。街中だし一応警戒はしないとだね。
「アインとアミタはアスカとアリスが戻り次第家に転移して。ぼくはゴーレムと防衛の準備をしとくから。あ、ついでにぼくの分身体を三階に置いといてくれる?」
「かしこまりました」
そしてぼくは意識を家に戻した。フォルテがポテチ食いながらゲームしてるのが目に入った。




